審美性への意識の高まりから、むし歯治療・根管治療をはじめとする歯科治療でセラミックを選択する患者さんが増えています。
とはいえセラミックの歯には複数の種類があり、形状・材質によって治療方法ならびに使用感に違いがあると知らない方もいるでしょう。
この記事ではセラミックの歯の種類を取りあげます。治療期間および寿命などセラミック治療に関わる情報をまとめているので、参考にしてみてください。
セラミックの歯の治療の種類と違い
セラミックを用いた歯科治療は、患者さんの歯の状態に応じて異なる治療方法が選ばれます。また、治療に応じてセラミックの歯の形状を変えるのも重要です。
まず、セラミックの歯を用いて行われる3種類の治療方法を紹介します。それぞれの治療にどのような違いがあるのか確認してください。
セラミッククラウン
クラウンは歯肉より上に出ている歯冠部全体を覆う形状の被せ物(補綴物)です。むし歯や歯周病で侵された範囲が広い場合に用いられます。
歯を一回り小さく削るか、金属あるいはアクリルレジンなどの素材でできたコアと呼ばれる土台を入れ、その上からクラウンを被せます。
セラミッククラウンは透明度が高く天然歯に近い色合いのため、隣の歯と違和感なくなじむでしょう。さらに、表面が滑らかで汚れが付きにくいです。
神経を除去して変色を起こした歯でも自然な色合いを再現しやすく、金属クラウンによる歯茎の黒ずみ・アレルギーの心配がない点も魅力です。
しかし、陶器と同様に衝撃に弱く、欠けて再治療が必要になる場合があります。1本あたりの費用相場は約70,000〜120,000円(税込)と高額です。
セラミックインレー
インレーはむし歯や歯周病に侵された範囲が狭い場合に、歯冠部の空洞を埋めて修復するために用いられる局所的な詰め物を指します。
アクリルレジンや金属はやわらかい材質のため、噛む力や摩耗で経年劣化し隙間が生まれてインレーが外れる恐れがあります。
一方でセラミックインレーは陶材特有の硬さがあり、歯の穴にぴったりはまる形で形成しやすく、経年劣化がしにくいのがメリットです。
歯本来の色となじみ、口腔内が見えても治療箇所が目立ちにくい点も優れています。むし歯の二次感染もしにくくなり、お口の健康を守れるでしょう。
ただし、施術者の技術によって仕上がりに差が生じやすいデメリットがあります。1本あたりの費用相場は約33,000〜58,000円(税込)です。
ラミネートべニア
ラミネートべニアとは治療歯のエナメル質を薄層切削し、薄板状のセラミックで表面を覆い合着させる治療法です。
歯の変色や軽微な歯並びの改善などの幅広い審美治療に用いられています。歯を大きく削る必要がないため、治療中の痛みは少ないです。
しかし少量とはいえ健康な歯でも治療のために削らなくてはならないため、一過性の知覚過敏を引き起こす恐れがあります。
また、あくまで審美治療で歯列矯正のような効果はなく、噛み合わせの問題は解消できません。1本あたりの費用相場は約60,000〜70,000円(税込)です。
セラミックの歯に用いられる材質ごとの種類と特徴
セラミックといえば陶器のイメージがあるでしょう。しかし広義的な意味では陶器だけでなく、金属以外の無機質固体材料全体を指します。
そのため、歯科治療に用いられるセラミックの材質にもさまざまな種類があります。材質は仕上がりや使用感に影響する重要なポイントです。
ここからはセラミック治療で主に用いられている5種類の材質を紹介します。種類ごとの特徴と費用の情報をまとめました。
ポーセレン
歯科用セラミックの代表的な材質はポーセレンです。セラミックによる歯科治療が1960年代頃から広まり、長い間使われてきました。
ポーセレンは本来ガラス(磁器)で光透過率が高く、金属酸化物を混和させて着色し患者さん自身の歯冠色を再現しやすい材質だと注目されました。
ただし、ガラス特有の脆性があり、歯科治療に用いられるセラミックのなかでは咬合負荷に特に弱く破折が起こりやすい傾向にあります。
インレーでの費用相場は1本あたり約55,000円(税込)です。オールセラミック治療の場合は約120,000円(税込)の費用がかかるでしょう。
ニケイ酸リチウムガラスセラミック
ポーセレンの脆性を改善するために開発されたのがガラスセラミックです。高温でガラスを溶解し鋳型に流し込む製法から、プレスセラミックスと呼ばれます。
ガラスセラミックにはいくつか種類があり、なかでもニケイ酸リチウムガラスセラミック(e-max)は平均値400MPaの曲げ強度を有しています。
強固に接着でき、硬すぎないため、噛み合う対合歯に悪影響を及ぼしにくいところも利点でしょう。ただし、透明度がやや損なわれるという難点があります。
1本あたりの費用相場はインレーの場合は約44,000円(税込)、クラウンの場合は約120,000円(税込)かかる見込みです。
ジルコニア
審美性と強度を兼ね備えた材質を追求し、1990年代末より使用され始めた材質がジルコニアです。日本国内では2005年に初めて認可されました。
歯冠修復で用いられているのは、イットリアを少量固溶させたイットリア部分安定化ジルコニアで、室温でも安定し亀裂の進展を防止できる特性があります。
ガラスセラミック程の光透過率はありませんが、変色しにくく適度な審美性を有しています。デメリットは強度の高さから対合歯の摩耗が懸念される点です。
1本あたりの費用相場はインレーでは約120,000円(税込)、クラウンでは約120,000〜150,000円(税込)と高額です。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックは、実際にはセラミックとは異なります。レジンにセラミックス粒子を分散させて強化したコンポジットレジンと呼ばれる材質です。
アクリルレジン単独では摩耗しやすいもののセラミックでは硬すぎて費用も高くなるため、両方の短所を補い長所を活かすために開発されました。
設計から製作までを機械で行うCAD/CAM冠に多く使用され、2023年12月の法改正によりすべての歯に対して保険適用となりました。
メタルボンド
メタルボンドは金属焼き付けポーセレンとも呼ばれ、金属のフレームにポーセレンを盛り上げて焼き付けるクラウンを指します。
金属の粘り強さならびにセラミックの審美性をかけ合わせていて、ほとんどの歯に使用できます。前歯部も自然な印象で修復可能です。
しかし金属を用いている点に注意が必要です。金合金をはじめ身体に優しい貴金属が中心ではあるものの、金属アレルギーを引き起こす恐れがあります。
費用は治療歯の箇所・状態によって異なり、約71,000〜151,000円(税込)と相場に幅があります。治療前に前もって確認しておくとよいでしょう。
セラミックの歯はどの歯にも適応できる?
セラミックによる歯科治療はほとんどが自由診療であり、基本的にほとんどの歯に適応します。しかし症例によっては選択できない場合もあります。
代表的な例として、強い咬合力が加わりやすい臼歯はセラミックの歯および対合歯への負担を考慮して、使用を避ける傾向があるでしょう。
また歯並びの悪さが原因で噛み合わせに異常があり、セラミックの歯に負担がかかりやすいと判断される箇所も使用できない確率が高いです。
主に見た目の印象が気になる前歯部、または咬合力が強すぎない患者さんの臼歯の治療に対する適応が中心と考えましょう。
ただし、施術者の技術が高く治療器具が充実している歯科医院では難しい症例でも対応できる可能性があるため、よく相談してみてください。
セラミックの歯を用いる治療期間・通院回数
どのような歯科治療を受けるにしても、治療期間は気になります。なるべく短期間で終えたいものの、治療の質を落としたくはないでしょう。
ここからは、セラミックの歯を用いた歯科治療の治療期間・通院回数の目安を解説します。治療を検討する際の参考にしてみてください。
治療期間
セラミックによる治療期間は、治療内容や本数に応じて変動します。そのため、患者さんによって治療期間は変わると覚えておきましょう。
治療期間の目安は、一般的に1本につき約2〜3週間です。複数本の治療になると、治療完了までに約1〜3ヵ月かかるでしょう。
患者さんは治療に入る前に歯科医師によるカウンセリングや検査を受け、口腔内の状態および仕上がりの希望から使用するセラミックを検討します。
治療計画や費用について十分な説明を受け、納得したら治療が開始されます。治療の流れは以下のとおりです。
- 歯を切削
- 仮歯の作製・装着
- 型取り
- セラミックの作製・装着
治療期間中は仮歯を装着し、日常生活に支障がないかを確認します。実際にセラミックを装着した際のトラブルを回避するために欠かせない工程です。
仮歯の使用に問題がなければ歯型を採取し、セラミックの形や色を確認し決定します。これらの情報から歯科技工士がセラミックの作製を行います。
セラミックの完成後、実際に接着して見た目および噛み合わせに問題がないかを確認し、セメントで合着すれば治療は完了です。
どの治療を選択しても、治療の流れ自体は大きく変わりません。ただし治療中に異常があった場合は計画の見直しが必要になる可能性があります。
またむし歯や歯周病など、セラミックによる歯科治療に入る前の事前治療が必要な状態であれば、治療期間はさらに長くなります。
通院回数の目安
セラミックを装着するまでには細かな治療工程がありますが、1回の通院で複数の工程をまとめて進めるため頻繁に通院する必要はありません。
通常、1本の歯の治療は2回程度の通院で完了します。1回目で歯型の採取までを行い、セラミックが完成した後に再度通院してセラミックを装着します。
しかし前述したように、仮歯またはセラミックの歯に異常があれば再作製となり通院回数が増えるでしょう。また、事前治療のためにも通院が必要です。
例えば歯の神経(歯髄)の処理が必要なケースがあります。神経は複数回に分けて処置されるため、通院回数が2〜4回程増える点を考慮に入れてください。
セラミックの歯の寿命
セラミックでできた歯は半永久的に使用できるわけではありません。人工物にはどれも寿命があり、快適に使い続けるには定期的な交換が不可欠です。
例えばレジンなら約5年、金属なら約5〜7年とされています。一方、セラミックの材質別に分けた大まかな寿命は以下のとおりです。
- ポーセレン(オールセラミック):10~15年
- ニケイ酸リチウムガラスセラミック:10~15年
- ジルコニア:10~15年
- ハイブリッドセラミック:7~8年
- メタルボンド:8~10年
セラミックの歯は、レジンや金属のみの補填物よりも全体的に長持ちしやすい傾向があります。平均で10年程度は続けて使用できるでしょう。
しかし強い衝撃による破折あるいはむし歯や歯周病の発症により、寿命が大幅に縮まる場合もあります。口腔環境が寿命を左右しやすいです。
セラミックの歯の寿命を長くするポイント
セラミックの歯はほかの素材よりも寿命が長いのが利点です。しかし、患者さんの使用状況によって急速に劣化する可能性もあります。
ここからは、セラミックの歯をできる限り長持ちさせるために押さえておくべき3つのポイントを解説します。ぜひご自身の生活に取り入れてみてください。
毎日のセルフケア
セラミックの歯は汚れが付きにくい特性があるものの、天然歯と同様にきちんとセルフケアを行っていないと口腔環境が悪くなり劣化しやすくなります。
重要なのは毎日の歯磨きです。力を入れすぎると、プラーク除去率は下がりセラミックの歯および周辺組織も傷付けてしまうため、磨き方に注意しましょう。
歯ブラシの毛先を歯頸部に当て、1本の歯に対して10〜20回程度弱い力で小刻みに動かす磨き方が推奨されています。
また歯間をはじめ歯ブラシが届きにくい箇所には、タフトブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロスなどの補助用具も積極的に用いてケアしてください。
定期的なメンテナンス
十分にセルフケアを行っているつもりでも、意外な場所に磨き残しが生じやすいです。気付かないまま放置すると、セラミックの劣化が進んでしまいます。
定期的にメンテナンスを受けると、自分では落とし切れない歯垢のクリーニングを受けられるとともに、歯磨き指導も行ってもらえます。
さらにむし歯や歯周病を早期発見でき、被害が拡大する前に治療が可能です。噛み合わせの確認により、セラミックの交換時期を決めやすい利点もあります。
症状がなくても、3〜4ヵ月に1回はメンテナンスを行うのがおすすめです。お口の健康に気を配ると、セラミックの寿命も長くなるでしょう。
歯ぎしり・食いしばりへの対策
セラミックの歯が破折しやすいのは、過度な咬合力が加わった場合です。その主な原因に、歯ぎしり・食いしばりがあります。
これらの習慣がある方は、歯が欠けたり削れたりする程の強い力が加わっています。衝撃に弱いセラミックは天然歯よりも破折の確率が高まるでしょう。
歯ぎしり・食いしばりの傾向がみられる方は、セラミック治療を行う前に診断と治療を行い対処しておくのがよいです。
特に眠っている間は患者さん自身も症状を制御できないため、ナイトガードを使用するのもセラミックの歯を守る対策となるでしょう。
まとめ
この記事では治療方法や材質の種類を中心に、セラミックの歯を用いた歯科治療に関する情報をまとめて解説しました。
審美性や耐久性の高さから需要が高まっているセラミックは、種類によって特徴がさまざまです。かかる費用にも幅があり、慎重な検討が必要となります。
また、歯科医院によっても扱っている材質が異なります。そのため患者さん自身が違いを知り、自分の希望を明確にしておくのが大切です。
治療を行った後も、日頃のケアも十分に行ってください。そうすればセラミックの歯を選択した価値を存分に感じられるでしょう。
参考文献
- CAD/CAMシステムで製作したオールセラミッククラウンの適合に関する基礎的研究
- 北海道大学病院諸料金内規|北海道大学病院
- 保存修復科(旧美容歯科)|昭和大学歯科病院
- セレックインレー修復
- 臼歯における焼成法セラミックインレーの予後に関する研究
- 治療費用|神奈川歯科大学附属病院
- ポーセレン・ラミネート・ベニア修復法
- 歯科領域の諸料金
- CAD/CAM用歯科材料の進化
- 国立大学法人東京医科歯科大学病院諸料金規制の一部改正|国立大学法人 東京医科歯科大学病院
- 二ケイ酸リチウム含有ガラスセラミックスの臨床を考える
- オールセラミックレストレーションを実現するためのジルコニアの材料特性
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