レントゲン撮影は歯科治療のベースとなるため、歯科疾患が疑われる患者さんにはよく実施されています。
しかし、レントゲン撮影が苦手で受けたくない患者さんや、レントゲン撮影に伴う被ばくが心配な患者さんも少なくないでしょう。
今回はレントゲン撮影に不安を抱える患者さんのために、なぜレントゲン撮影が必要なのかを解説します。
レントゲン撮影の種類ごとに放射線量もまとめていますので、受診の参考にしてください。
歯医者でレントゲン撮影をする理由は?
歯科医院でレントゲン撮影を実施している理由は、歯科医師が患者さんの口内を把握して、適切な治療計画を立てるためです。
レントゲン撮影で疾患が患者さんの口内のどこで、どのように起こっているか診断できなければ、どのように治療するか方針を決めることができません。
歯科医師から患者さんに診断を説明して、治療計画に同意を得るインフォームドコンセントも、診断の判断材料がないため成立しなくなります。
歯科治療において、レントゲン撮影は診断や治療の土台として欠かせない手順であるとわかるでしょう。
しかしレントゲン治療では、患者さんが被ばくすることを避けられません。
歯科医師は患者さんの被ばく量を念頭に置いて、被ばくリスクがレントゲン撮影を実施せずに治療するリスクを上回る場合にのみ、レントゲン撮影を実施します。
レントゲンを撮影するタイミング
歯科レントゲン撮影では、X線の物質透過作用、つまり光を通さない物質を透過する作用を活かして口内の様子を映し出しています。
目視では確認できない歯肉の奥・歯の内部・骨の内部まで、影絵のようにシルエットをとらえて疾患の様子を確認できます。
疾患の箇所や様子をうかがう重要なヒントとなるレントゲン撮影は、初診以外では、どのようなタイミング・どのような目的で実施されるのでしょうか。以下で具体的に解説します。
久しぶりの受診
前回のレントゲン撮影から1年間以上期間が開いているならば、レントゲン撮影を求められる場合があります。
レントゲン撮影は、患者さんの口内の様子を総合的に把握できるため、診療に大いに役立ちます。
口内に症状が出てから、歯科医院を受診する患者さんは少なくありません。
しかし症状がなくても定期的に歯科医院の検診に通った方が、検査費用や治療費用が抑えられるとの調査結果もあります。
定期検診の理想的な頻度は、一般的には3ヵ月に1回程度、年4回程度です。
定期検診
定期検診では以下のような施術を行います。
- むし歯のチェック
- 歯茎のチェック
- 口腔粘膜のチェック
- 歯垢の染め出しチェック
- 歯磨き指導
- 歯垢の清掃
- 歯石除去
- 歯科相談
定期検診の主な目的は、患者さんのお口からの健康づくりです。その一環として、お口に異変がないかもチェックしています。
お口に異変があれば、レントゲン撮影などで詳細な検査を行い、治療が必要か否かを判断する必要があります。
歯列矯正の診断
歯列矯正とは、歯並びに問題がある状態、不正咬合を正す歯科治療です。
歯をワイヤーで移動させたり、外科手術で顎骨の位置を調整したりする治療が一般的です。
歯科医院で歯列矯正を受けるためには、患者さんにどのような歯列矯正が必要か判断し計画を立てるために、まずは精密検査を受ける必要があります。
歯列矯正の精密検査で実施されるのは以下の内容です。
- レントゲン撮影
- CT撮影
- 顔の写真撮影
- 口内の写真撮影
- 歯型の採取
歯列矯正の診療で実施されるレントゲン撮影では、正面と側面から頭部全体を撮影します。
根管治療・抜歯
根管治療とは歯の内部に通っている神経を取り除く治療です。いわゆる、歯の神経を抜く治療を指します。
むし歯が歯の神経まで到達してしまった場合や、外傷で神経が死んでしまった場合に根管治療が選択されます。
根管治療でレントゲン撮影が実施されるのは、口内の状態やむし歯の広がりを確認するためです。
根管治療では小さく複雑な歯の内部を治療する必要があるため、レントゲン治療などで治療前にお口の状態を把握しておく過程は重要です。
また抜歯の前にレントゲン撮影が実施されるのは、抜歯する歯の位置や状態を把握し、周辺の歯に異常がないかの確認をするためです。
インプラント治療
インプラント治療にもレントゲン撮影が必要です。インプラント治療の術前に行われる検査には以下のようなものがあります。
- 問診
- 血液検査
- 口腔内検査
- レントゲン検査
- CT検査
インプラント治療に伴うレントゲン検査で歯科医師がチェックしているのは、顎骨の厚みです。
インプラント治療とは顎骨に人工の土台を立てて、その上に人工歯を取り付ける治療です。
そのため術前に、顎骨にインプラントを埋め込むために必要な厚みがあるのかを調べなければなりません。
骨の厚みが足りないと判断されれば、追加で骨移植など骨を補強する治療が必要となります。
外科処置の診断
口腔外科疾患にレントゲン撮影が必要になるケースもあります。口腔外科疾患とは外科手術が必要な疾患で、以下のようなものが該当します。
- 埋伏智歯抜歯
- 歯性感染症
- 骨折を含む外傷
- 顎骨嚢胞や腫瘍
- 顎関節症
ほかにもインプラント治療や抜歯も外科手術を伴う治療です。治療が難しいケースでは、大学病院などの大きな病院にある口腔外科を紹介されることもあります。
レントゲンの種類と放射線量
歯科医院で使われているレントゲンにはいくつかの種類があり、それぞれ放射線量も異なります。
レントゲン撮影で被ばくすることに抵抗がある患者さんも少なくありませんが、歯科治療で受ける放射線量は健康被害を引き起こす程多くはありません。
がんの過剰発生が確認されているのは、被ばく量100mSv以上からです。
しかし歯科治療で受ける放射線量は約0.01〜0.1mSvです。
この被ばく量は、日本人ひとりが1年間自然に生活していて受ける平均放射線量の1.5mSvと比較しても極めて少ないことがわかるでしょう。
歯科医院でレントゲン撮影を行う際は、被ばくについての事前説明が行われます。不安に感じる患者さんは担当歯科医師に相談してみましょう。
以下では歯科医院で受けられるレントゲンの種類と、放射線量を解説します。
デンタルX線撮影
デンタルX線撮影とは小さなプレート、デンタルフィルムを口内に入れて、口内の狭い範囲のみを撮影する方法です。歯科口内法とも呼ばれます。
狙った部分を詳細に見ることができるため、目視できないむし歯・詰め物の下にあるむし歯・歯周病の状態確認・歯石の有無を確認したいときに適しています。
デンタルX線撮影の照射量は約0.01mSvです。
パノラマX線撮影
パノラマX線撮影とは歯の全体を撮影する方法です。U字に並んだ歯を平面の画像データで確認できるようになります。
口内全体を広く確認できるようになるため、親知らずの有無・歯の生え方・本数などのチェックが可能です。
そのため、お口の全体像・人工物の適合具合・顎骨の健康状態を確認する際に役立ちます。
パノラマX線撮影の照射量は約0.03mSvです。
パノラマX線撮影は、デンタルX線撮影のように小さなむし歯の発見には向いていません。しかし幅広くお口の状態を得られるメリットがあります。
CT撮影
歯科CT撮影はレントゲン撮影と同様に、X線を用いて身体の内部を調べる撮影方法です。
ただし撮影方法や得られるデータが異なります。
レントゲン撮影では写真のように一方方向からX線を照射する撮影方法で、二次元的な平面データが得られます。
対して、CT撮影は患者さんにベッドに寝た状態でドーナツ型の大型装置に入ってもらい、360度全周からX線を照射する方法が従来一般的でした。しかし、近年では歯科用CT装置が普及しており、パノラマ撮影と同じ装置を使用して立ったままや座ったままでも三次元的な立体データを得ることが可能です。
得られたデータからは、輪切りの断面図・前方から見た断面図・横から見た断面図・立体画像などさまざまな画像データが得られます。
照射量はレントゲン撮影より多くなり、約0.1mSvとなっています。
セファロX線撮影
セファロ(セファログラム)X線撮影とは、頭から顎にかけて骨の全体像を撮影するレントゲン撮影です。頭部X線規格写真とも呼ばれます。
頭部と顎の骨状態を把握できるため、歯列矯正治療のために撮影されることが多いです。
歯列矯正のためにセファロX線撮影を行うときは、横から見た唇や頬のライン・歯並びの状態・顎骨の位置・頭を基準にしたときの歯の傾きをチェックします。
胸部のレントゲン撮影で受ける照射量は約0.05mSvです。
頭部のみ撮影するセファロX線撮影での被ばく量はさらに少量となるため、健康被害を心配するような被ばくとはなりません。
レントゲン画像でわかること
レントゲン撮影で得られる画像データは、人体のX線への反応の違いから映し出されるモノクロ画像に過ぎません。
しかし歯科医師のように知識と経験がある人が見ると、患者さんのお口の情報が詰まった重要な資料となります。
レントゲンからはどのような情報が得られるのでしょうか。その一部を以下で紹介します。
- これまでの治療履歴
- むし歯・歯周病の進行度
- 歯根先端の異変
- 親知らずの有無
- 歯肉で隠れている歯石
- 顎骨の異変
- 乳歯と永久歯の位置関係
レントゲン画像は歯科疾患の状態確認から、インプラント治療に必要な情報収集、小児患者さんの歯並び・成長確認などさまざまなシーンで役立ちます。
レントゲンを撮らずに治療するリスク
もしレントゲンを撮影せず治療を開始してしまったら、どのようなリスクが生じるでしょうか。まずレントゲン撮影しなければ、歯や顎骨のサイズ感や位置、神経の位置などが把握できません。
そのため治療行為でお口の重要な器官を傷つけてしまうリスクが大きくなるでしょう。
またお口の異変発見も、肉眼でのみ行うことになります。その場合、歯の隙間・歯肉の奥・歯根の異変まで見つけ出すのは困難です。
以下で生じるリスクについて詳しく解説します。
歯を削りすぎる可能性
例えばむし歯治療の場合、レントゲン撮影していなければ必要以上に歯を削ってしまうリスクが生じます。
むし歯は歯の表面のみから観察しても、歯の内部でどの程度病変が広がっているか診察するのは困難です。
そのためむし歯が疑われる場合は、診察時にレントゲン撮影をしてむし歯の全体像をつかんでおくのが一般的です。
一度削った天然歯はもとに戻りません。なるべく身体に負担をかける侵襲を抑える、低侵襲治療(Minimal Intervention)を受けるためにはレントゲン撮影は必要不可欠です。
神経を取る可能性
レントゲン撮影をしないむし歯治療では、露髄が起こる可能性が高まります。
露髄とは歯のなかに通っている神経が露出してしまう状態を指します。
露出した神経は細菌に触れて汚染されてしまうため、切除を選択するケースがあります。切除する方法は部分生活断髄法や、生活断髄法です。
つまり歯の神経にまでは広がっていなかったむし歯の治療でも、誤って歯の神経が露出してしまえば、健康な神経を取らなければならないケースがあります。
レントゲン撮影をしておけば、神経を避けて治療できるため露髄のリスクを抑えられます。
神経や血管を傷つける可能性
レントゲン撮影を行わなければ、神経や血管の位置がわからないまま治療を行うことになるため、神経や血管を傷つけるリスクが上がります。
神経を傷つけると三叉神経麻痺が起こるケースがあります。三叉神経麻痺で引き起こされるのは、顔面の皮膚やお口の知覚障害・稀なお口の運動障害です。
薬物療法や理学療法で改善しますが、レントゲン撮影でリスクを抑えておくことが重要です。
したがって、不用意にレントゲン撮影を拒否して歯科治療を受けようとするのは危険だと考えられます。
口腔トラブルの早期発見が困難
目視のみで、すべての口腔トラブルを早期発見することはできません。レントゲン撮影で早期発見できる疾患や病変には以下のようなものが挙げられます。
- むし歯
- 歯周病
- 根尖病巣
- 破折
- 歯周病
- インプラントの異変
歯科医師にレントゲン撮影を求められる場合は、歯科診療の観点からメリットが多いため撮影を行うようおすすめします。不安な点や心配な点がある場合は歯科医師に相談しましょう。
歯医者のレントゲンは保険適用される?
歯科医院で行うレントゲン撮影は、保険適用される場合とされない場合があります。保険適用されるのは、歯科疾患の治療をする場合です。
インプラント治療などの自由診療に伴うレントゲン撮影は保険適用外となります。保険適用外の場合のレントゲン撮影費用は約4,020円(税込)が目安ですが、この目安より費用がかかる場合が多くなっています。
まとめ
歯科医院でレントゲン撮影を行うのは、レントゲン撮影が患者さんの歯や顎骨などのお口の状態を把握する医療機器として優れているためです。
レントゲン撮影は歯科疾患が疑われるときやお口の全体像を把握したいときなどのタイミングで実施されます。
レントゲン撮影には被ばくが伴ないますが、照射量は少量ですので、健康被害を引き起こす程のものではありません。
レントゲン撮影は、レントゲンを受けて治療を進めるメリットが被ばくのデメリットを上回る場合のみ行われます。
レントゲン撮影に不安を感じる患者さんは、歯科医師によく相談しましょう。
参考文献