歯医者の麻酔後に動悸がする、麻酔した後で気分が悪くなった、などでお悩みではありませんか。今回は、歯科医院で行う麻酔について、動悸の原因から、リスク、痛みや緊張を軽減する方法などを詳しく解説していきます。
歯の治療はしたいけれど、麻酔に抵抗感があるという方も、これを読んで少しでも不安が解消されたら嬉しいです。
歯医者の麻酔による動悸について
- 歯医者の麻酔を受けると動悸がするのはなぜですか?
- 麻酔によって動悸がするのは、歯科の治療で使用される局所麻酔に血管の収縮作用がある成分が多く含まれているためです。
口腔用局所麻酔薬には、リドカイン塩酸塩やアドレナリン(エピネフリン)が多く含まれていることが多く、これらには血管収縮作用があります。
リドカイン塩酸塩だけでも麻酔効果はありますが、それだけでは持続性が弱いため、アドレナリンを添加することで血管収縮を促し、より麻酔の持続効果を高める狙いがあります。
歯の治療は、顔や体など他の医科の治療よりも特に痛みを感じやすく、また施術時間も長くかかることがあるため、麻酔作用、持続作用ともに強い必要があり、人によってはその強い作用に敏感に反応して動機などといった症状が現れることがあります。
- 動悸が気になる場合は歯医者の治療を中止した方がいいですか?
- 麻酔をした後で動悸が起きるというのは、よく起こる症状ですので、心配しすぎる必要はありません。動悸が起きても異常がなければ治療は継続ができます。
- 麻酔による動悸を抑える方法はありますか?
- 麻酔直後から数秒後くらいに動悸が起こることが多く、気になる場合は数分待ちましょう。時間が経つと動悸がだんだん落ち着いてくることが多いので、歯科医師に相談して落ち着いてから治療を再開してもらうようにするとよいでしょう。
また、動悸が麻酔薬の影響だけではなく、治療に対する緊張やストレスなどが影響している可能性もありますので、そのような場合も医師に相談し、無理に我慢せずに心を落ち着けてから治療に臨むのがよいでしょう。
なお、歯科治療に用いる局所麻酔薬に対して恐怖心や不安を感じる方は少なくありません。
動悸の症状が出ると不安に感じる方も多いかと思いますが、事前に歯科医師に麻酔に対する不安を話しておくことで、麻酔の量を少量ずつ注入するなどの配慮ができる場合もあります。その他にも局所麻酔薬の後に気分が悪くなった経験がある方は、静脈鎮静法というもので対処が可能な場合があるため、事前に歯科医師などに相談するとよいでしょう。
歯医者の麻酔に関するリスクについて
- 歯医者の麻酔での後遺症はありますか?
- 歯医者の麻酔の副作用として、めまいや眠気、じんましん、けいれんなどが起こる場合があります。また、アレルギー反応でアナフィラキシーショックなどのリスクも稀にあります。
なお、こういった症状は麻酔だけではなく心理的なストレスなども影響することがあるため、症状が出たとしても、必ずしも麻酔が原因と断定はできません。
- 歯医者の麻酔でアナフィラキシーショックになる可能性はありますか?
- 現在用いられている局所麻酔薬は、安全性が高くアレルギー反応を起こすことは極めてまれであるといわれています。2012年から2016年の日本麻酔科学会の偶発症例調査によると、周術期のアナフィラキシーショックの発生頻度は100,000症例中わずか4.41件となっています。しかし、わずかながらアレルギー反応が起きる可能性もあるのは事実です。現実問題として、麻酔薬だけでなく、歯科治療ではさまざまなアレルギー源となるものがあり、アレルギー源を一切排除して治療を行うことはとても困難なことです。
例えば、筋弛緩薬や麻酔薬、抗生剤や歯磨き剤、ラテックス製の手袋など、歯科治療に頻繁に使用されるものの多くがアナフィラキシーショックのリスクがあります。
アレルギーが心配という方は、歯科医師とよく相談して治療の内容を検討するようにしましょう。
- 迷走神経反射とはなんですか?
- 迷走神経反射とは、ストレス、強い疼痛、排泄、腹部内臓疾患などによる刺激が迷走神経求心枝を介して、脳幹血管運動中枢を刺激し、心拍数の低下や血管拡張による血圧低下などをきたす生理的反応です。
歯科医院での歯の治療の際、麻酔注射を刺入したときに、針の刺激に反応し、気分が悪くなるということがたまに起こります。迷走神経反射として患者さんに起こる症状としては、気分不良、顔面蒼白、意識消失などが多くみられます。
- デンタルショックとはなんですか?
- デンタルショックとは、血管迷走神経反射のことで、局所麻酔後に起こりうる過換気症候群やアナフィラキシー症候群、局所麻酔薬中毒などの偶発症状です。
過去には神経原性ショック、疼痛性ショック、脳貧血発作、三叉迷走神経反射などさまざまな名称で呼ばれていましたが、現在は血管迷走神経反射という呼称に統一されています。血管迷走神経反射とは、歯科治療に対する不安や恐怖、極度の緊張などの精神的ストレスがある状況で、注射などでの痛み刺激などが与えられ、迷走神経緊張状態となり発症する、全身的偶発症です。局所麻酔を行う際に血管迷走神経反射が起こる頻度は、米国での調査で局所麻酔を行った患者さんの0.65%(約150人に1人)に認められたと報告(J Oral Maxillofac Surg. 2008;66:2421-33.)があります。
- 歯医者で麻酔が受けられない人はいますか?
- 歯科用麻酔薬として多く普及している、キシロカイン®カートリッジ(リドカイン)の添付文書によると、禁忌として、「本剤の成分又はアミド型局所麻酔薬に対し過敏症の既往歴のある患者」と記載があります。
具体的には高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病のある患者さん、および血管攣縮の既往のある患者さんが原則禁忌とされています。
その他にも、過去に麻酔によって気分が悪くなったり、アレルギー反応が出た経験があるという方は慎重に麻酔を利用する必要がありますので、事前に歯科医師に伝えて適切な治療を検討するようにしましょう。
- 歯医者での麻酔を受ける場合の注意点はありますか?
- 局所麻酔後に気分が悪くなるという症状の原因のほとんどは、極度の緊張などの精神的なストレスが関連していることであることがわかっています。
もし、歯科の治療や注射に対して恐怖心がある場合や、過去に気分が悪くなった経験がある場合など、ある程度自覚できることがある場合には、事前に歯科医師に伝えておくのがよいでしょう。
また、睡眠不足や食事を抜いたことによる栄養不足なども歯科での麻酔を受けた後の体調不良に影響することが多くありますので、治療の前日はしっかりと睡眠時間を確保したり、軽くでも食事をとってから歯科医院を受診するなどのことで麻酔後の体調不良を予防できます。
歯医者での麻酔について
- 麻酔をしても痛いのはなぜですか?
- 麻酔をしても痛みを感じるときには、さまざまな理由が考えられます。
まず、局所麻酔の場合、歯の治療箇所が局所麻酔を効かせているポイントから外れてしまっていることがあります。そのときは、痛みを感じたときに歯科医師に伝えることで、麻酔を追加するなどの対処をしてもらえるでしょう。次に考えられるのが、体質や体調によって麻酔が効きづらいときであることです。体質的に麻酔が効きにくい方もいれば、その日の体調によって血液の流れが悪かったり、体の水分量が少なかったりなどが影響して効きにくくなるということがあります。そして、治療箇所が強く炎症しているときも麻酔は効きにくくなります。なぜなら、麻酔薬はアルカリ性ですが、炎症を起こしているとき組織は酸性に傾くため、酸性にアルカリ性の薬剤を入れると中和されてしまい、麻酔の効果が薄れてしまうためです。
こういった場合、麻酔を追加しても痛みが引かないことがあるので、少し痛みを感じる状態で治療を続けるか、炎症がある程度まで沈んでから処置を行うなど、状況によって対処法が異なります。
- 麻酔の痛みを抑えることはできますか?
- 麻酔の痛みを抑えるためにできる工夫はいくつかあります。
まず、注射針を指す前に、表面麻酔を施すことで刺入時の痛みを軽減できます。
そして麻酔注射を打つときには、細い針を使い、ゆっくりと刺すことで刺入時の圧力を軽減したり、麻酔薬を人肌程度にあたためておくことで注入時の温度差を減らして刺激感を抑えたりといった方法があります。
刺入の速度を抑えながら正確に打つのには経験や技術力がある程度必要になりますが、電動注射器を使用することでスピードが安定しゆっくりでも正確に打つことができ、歯科医師の技術力に関わらず痛みの少ない治療ができるといえるでしょう。痛みを抑える工夫は、歯科医院によってやり方がさまざまですので、気になるようであれば事前に相談してみるとよいでしょう。
編集部まとめ
歯科の麻酔は、治療時の痛みを軽減するためにとても大きな効果がありますが、歯科治療で緊張してしまう、といった方は多く、麻酔を施す注射自体が怖いと感じてしまう場合もあるでしょう。
麻酔の痛みや、麻酔後の動悸、そして体調の変化などについては、多くの方が悩むことであり、その分歯科医院でもその対処法をいくつか準備していますので、不安があれば我慢せずに率直に相談して治療を進めてみてはいかがでしょうか。
参考文献