入れ歯をしていて歯茎が腫れる原因をご存知ですか?
入れ歯をしている人の半数以上は、義歯性口内炎を経験しており、入れ歯による口腔内のトラブルは珍しい症状ではありません。
歯茎の腫れを放置すると、さらに悪化したり難治性に進行したりするケースもあります。
入れ歯による歯茎の腫れは、慢性的な痛みで生活の質を大きく低下させるため、放置せずに早めに治療しましょう。
本記事では、入れ歯による歯茎の腫れの原因と治療・患者さん自身でできる対処法などを解説します。
入れ歯で歯茎が腫れる原因
入れ歯を新しく作った多くの人が、5年以内に何らかのトラブルを経験すると報告されています。
なかでも入れ歯があたる部分の歯茎の腫れは頻度が高く、特に入れ歯を原因とした口内炎を義歯性口内炎といいます。
歯茎が腫れると入れ歯があたる部分の痛みが強くなり、食事や発音に支障をきたす方も少なくありません。
入れ歯で歯茎が腫れる原因は、主に以下の3つです。
- 入れ歯が合っていない
- 入れ歯のケアが不十分
- 金属アレルギー
それぞれの内容を解説します。
入れ歯が合っていない
入れ歯は歯並びに合わせて極めて精密に作られていますが、歯並びは時間とともに変化するため、着用後に合わなくなることがあります。
また、入れ歯を装着した直後は多少違和感を覚え、入れ歯での噛み方に慣れるまでは痛みがあることも少なくありません。
入れ歯が歯茎に密着して圧迫することで歯茎の血行が悪くなり、炎症を起こして腫れることもあります。
入れ歯は装着後に何度も調整していくのが一般的で、調整が不十分だと歯茎や粘膜を刺激したり圧迫したりして、腫れなどのトラブルを起こします。
入れ歯のケアが不十分
入れ歯の洗浄が不十分だと、入れ歯と歯茎の間に汚れがたまり、細菌が繁殖して炎症を起こす可能性が高くなります。
入れ歯には血管が通っていないため免疫細胞が届かず、天然の歯よりも細菌が増殖しやすい環境にあります。
入れ歯の形状によっては通常の歯ブラシでは清掃しきれず、専用の入れ歯ブラシや洗浄剤が必要です。
また、入れ歯の着用時間が長過ぎることで、入れ歯と歯茎の間に汚れがたまってしまうことも腫れの原因となります。
金属アレルギー
歯茎や口腔粘膜のトラブルにより、金属アレルギーが発覚する方は少なくありません。
重度のアレルギー反応があればすぐに気が付きますが、入れ歯や金属製の詰め物をして数年後に、歯茎の腫れや口腔粘膜疾患を起こす場合もあります。
口腔扁平苔癬や白板症などの難治性の口腔粘膜疾患は、入れ歯や詰め物などの歯科金属に対するアレルギーの可能性があるため、心配であれば金属アレルギー検査を受けてみましょう。
金属アレルギー検査は皮膚の目立たない部分でのパッチテストで行い、皮膚科医院で受けられます。
金属アレルギーであることがわかったら、金属製の詰め物は除去して、入れ歯は金属を使っていないものに交換する必要があります。
義歯性口内炎とは
口内炎のなかでも、入れ歯(義歯)を原因とするものを義歯性口内炎といいます。
特に高齢者の口内炎は義歯性口内炎の場合が多数を占めており、入れ歯装着者の50~60%が義歯性口内炎を発症するとの報告もあります。
義歯性口内炎となるのは、入れ歯が歯茎や口腔粘膜を慢性的に刺激したり、圧迫して血流が阻害されることが原因です。
義歯性口内炎の主な症状や注意点を、それぞれ解説します。
義歯性口内炎の症状
義歯性口内炎は、入れ歯の金属や義歯床が接触している部位に発生しやすい口内炎です。
初期症状では歯茎の粘膜がはがれたり腫れたりするのが特徴で、進行すると潰瘍となり痛みが強くなります。
入れ歯を装着していると慢性的に痛みが続くため、食事や発音の快適性が損なわれ、生活の質が大きく低下します。
義歯性口内炎の症例の多くはカンジダ真菌が原因であり、口腔カンジダ症と併発するケースも少なくありません。
口腔カンジダ症は歯茎や口腔粘膜に白い苔癬が広がり、赤く腫れ上がることもあります。
義歯性口内炎ができた場合の注意点
義歯性口内炎は入れ歯の不具合が主な原因であるため、入れ歯の不具合を解消しないと自然治癒はしません。
入れ歯があたる部分に腫れや口内炎ができた場合は、早めに歯科医院を受診して入れ歯を調整しましょう。
入れ歯が合っていないと感じても、決して自分でバネを曲げようとしないでください。
入れ歯は患者さんのお口に合うように精密に作られていますので、無理やり曲げてしまうと修復が難しくなることもあります。
義歯性口内炎を放置するリスク
義歯性口内炎が発症すると、慢性的な痛みによって生活の質が低下することが少なくありません。
食事が億劫になって食欲が低下し、栄養不良となる場合もあります。
傷口の修復のためにはタンパク質やビタミン類などの栄養が不可欠であるため、食事を取れないと傷の治りも遅くなります。
入れ歯が合っていないと発音もうまくできないため、会話が億劫になりコミュニケーションが減少するのも、大きな問題です。
入れ歯に付着した細菌が増殖すると、ほかの歯に広がってむし歯や歯周病になったり、血流に乗って全身に広がる可能性もあります。
義歯性口内炎の原因が入れ歯の変形である場合は、歯並びに対して無理な負荷がかかるため、歯並びが乱れるリスクもあるでしょう。
義歯性口内炎は放置せずに、早めに歯科医院で治療を受けてください。
義歯性口内炎の対処法
義歯性口内炎が頻繁に発生するようなら、普段のケアに問題がある可能性が高いでしょう。
入れ歯を装着したら、定期的に歯科医院に通ってメンテナンスを受けるのが基本ですが、患者さん自身でもできるケアがあります。
義歯性口内炎を予防し、悪化させないためには、以下のような対処法があります。
- 入れ歯をこまめに調整する
- 入れ歯安定剤を使う
- 歯磨きと洗浄を欠かさない
- 入れ歯の素材をやわらかいものにする
- 汚れがつきにくい入れ歯にする
- 金属を使わない入れ歯に変える
それぞれの内容を解説します。
入れ歯をこまめに調整する
入れ歯は作って装着したら完成ではなく、装着後に何度も調整していく必要があります。
初めて入れ歯を着用したときは強い違和感がありますが、着用しながら調整を繰り返すことで次第に慣れていきます。
入れ歯着用後はこまめに歯科医院に通って、調整を行いましょう。
また、入れ歯を長期間着用していると歯並びが変化したり、入れ歯が変形して合わなくなってくることがあります。
入れ歯に少しでも違和感があったら、悪化する前に歯科医院でメンテナンスを受けるようにしてください。
入れ歯安定剤を使う
入れ歯安定剤は、ゲル状の接着剤によって義歯床と歯茎を密着させて、入れ歯を安定させる薬剤です。
入れ歯安定剤を使用することで歯茎と義歯床の摩擦が軽減され、痛みが治まったり予防になったりする場合があります。
しかし、入れ歯は本来安定剤を使用しないことを前提に作られているため、安定剤の使用は歯科医師の指示を仰いでください。
患者さんの自己判断で入れ歯安定剤を使用すると、症状が悪化してしまう場合もあるため注意が必要です。
口腔内の状況によっては入れ歯安定剤が必要なこともあり、歯科医師とよく相談して使うようにしましょう。
歯磨きと洗浄を欠かさない
歯茎の腫れや義歯性口内炎を予防するために不可欠なのが、毎日の歯みがきと洗浄です。
入れ歯を使用している方の半数以上は、入れ歯に汚れが蓄積しており、入れ歯の汚れと義歯性口内炎のリスクは相関するという報告があります。
入れ歯は毎食後に外して専用の入れ歯ブラシで汚れを落とし、寝るときは洗浄剤に漬けて保管しましょう。
入れ歯を装着している部分の歯茎にも汚れがたまっているため、入れ歯を外して歯茎を歯ブラシで磨くことも重要です。
研磨剤の入った歯磨き粉を使用すると、入れ歯に傷がついて汚れがたまる原因になるため、必ず入れ歯でも使用可能な歯磨き粉を使用してください。
入れ歯の素材をやわらかいものにする
入れ歯の義歯床にあたる部分がどうしても痛い場合は、やわらかい素材の入れ歯もあります。
シリコン素材の入れ歯は弾力があるため歯茎を刺激しにくく、歯茎の腫れや痛みを軽減できます。
部分入れ歯を隣の歯にひっかける金属製のバネを使わないため、隣の歯に負担をかけないのも大きなメリットです。
シリコン素材の入れ歯は耐久性が低いため、1〜2年でシリコン部の交換が必要となり、厚みがあるため違和感があるのがデメリットです。
シリコン素材の入れ歯は保険適用外となり、材料や症例によって異なりますが、1本あたり100,000〜600,000円(税込)が相場となります。
汚れがつきにくい入れ歯にする
入れ歯の汚れや違和感が気になる場合は、金属床の入れ歯があります。
保険適用の義歯床はレジンと呼ばれるプラスチック製ですが、コバルトクロムやチタンなどの金属床の材料も広く使われています。
金属床はプラスチック製よりも厚みを抑えられ、装着時の違和感を軽減して、汚れがたまりにくいのがメリットです。
もちろん金属床でも毎日の洗浄は必要ですが、プラスチック床に比べれば汚れはつきにくいでしょう。
金属床は部位によっては目立ってしまうのがデメリットですが、プラスチック材料と組み合わせて目立ちにくい入れ歯も開発されています。
金属床の入れ歯は保険適用外であるため、材料や症例によって異なりますが、1本あたり100,000〜600,000円(税込)が相場です。
金属を使わない入れ歯に変える
金属アレルギーの可能性がある場合は、入れ歯も金属を使用しないものに変える必要があります。
金属を一切使用せず、人工樹脂とプラスチックのみで作られた入れ歯をノンクラスプデンチャーといいます。
ノンクラスプデンチャーはやわらかい素材であるため歯茎への負担が少なく、腫れや痛みが軽減されることも少なくありません。
歯茎と近い色で金属製のバネもないため、審美性が高く、見た目を気にされる方にもおすすめです。
金属床と比べると耐久性が低く、汚れが付きやすいのがデメリットであるため、こまめなメンテナンスが欠かせません。
ノンクラスプデンチャーは保険適用外となり、材料や症例によって異なりますが、1本あたり90,000〜160,000円(税込)が相場です。
義歯性口内炎の治療法
義歯性口内炎の治療は、まず入れ歯の不具合を調整し、原因の解消が不可欠です。
入れ歯が合っていない部分があれば調整が必要で、汚れが原因であれば入念な洗浄を行います。
歯みがきや市販の洗浄剤だけでは付着した汚れは落としきれないため、専用の洗浄装置による洗浄が必要です。
原因が解消されれば口内炎は自然治癒するため、入れ歯を装着する時間を短くして歯肉を休ませることも大切です。
入れ歯による刺激や圧迫から解放し、歯肉の自然治癒を促します。
義歯性口内炎と口腔カンジダ症を併発している場合には、カンジダ真菌に対する作用のある抗菌薬を使用します。
抗菌成分を含んだうがい薬や塗り薬を使用して、カンジダ真菌を減らさなくてはいけません。
これらの治療で症状が治まったら、再発しないように入れ歯の洗浄や歯みがき方法を患者さん自身でよく練習しましょう。
歯茎が腫れている場合に生じる入れ歯の不具合
入れ歯を装着している部位の歯茎が腫れていると、入れ歯が浮き上がって食事や発音がしにくくなります。
噛むたびに腫れが圧迫されて痛みを生じ、味覚が変化して食事をおいしいと感じられなくなる方も少なくありません。
食事が取れないと栄養が不足し、傷の修復も遅れるため、やわらかく噛みやすくした料理などで栄養を補給してください。
歯茎の炎症が歯槽骨にまで広がっていくと、歯槽骨が退縮して歯周病のような症状となり、歯が抜けてしまう可能性もあります。
部分入れ歯は隣の歯にバネをかけて固定しますが、バネをかけられた歯には常に負担がかかるため、将来的に抜けるリスクが高くなります。
歯茎が腫れているとバネをかけられた歯が揺れやすくなり、骨の退縮が進むため、歯茎の腫れは放置せずに早めに治療しましょう。
まとめ
入れ歯をしている部位やバネがあたる部位の、歯茎が腫れる原因と治療法を解説してきました。
入れ歯には汚れがたまりやすく、長時間装着していると歯茎に対する負担が大きくなります。
入れ歯をしている人の半数以上は義歯性口内炎を経験していると報告されており、入れ歯による歯茎の腫れは珍しい症状ではありません。
噛むたびに腫れた部分が痛んで食事を楽しめなくなり、生活の質が大きく低下するため、早めの治療が不可欠です。
入れ歯はこまめに調整しながら使っていくものであるため、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けましょう。
そして入れ歯を長持ちさせ、義歯性口内炎を予防するには、患者さん自身での毎日のケアが不可欠です。
入れ歯は丁寧に洗浄するとともに、外す時間も設けて歯茎を休ませましょう。
歯茎の腫れなど違和感が生じたら、遠慮なく歯科医院にご相談ください。
参考文献