私たちの歯はとても硬いエナメル質で覆われていますが、いろいろな原因で欠けることがあります。歯は再生することがない組織なので、何かの拍子に欠けたときは、どうしたらよいのか戸惑ってしまうことでしょう。ここではそんな歯が欠ける原因や対処法について解説します。欠けた歯の対応に迷っている人は、このコラムの内容を参考にしてみてください。
歯が欠ける原因
はじめに、歯が欠ける原因について確認しておきましょう。
- 歯が欠ける原因について教えてください。
- 歯が欠ける主な原因は、以下の4つです。
1. 外傷(歯をぶつけた)、硬いものを噛んだ
歯が欠ける一般的な原因の一つは、外部からの衝撃や怪我です。例えば、スポーツ中の事故や転倒、物を誤って噛んだりしたときに、歯に強い力が加わることがあります。このような場合、歯が欠けるだけでなく、歯根まで損傷が及ぶこともあるため、注意が必要です。
2. 歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりは、歯に過剰な力を加え、徐々に歯をすり減らしてしまいます。特に、夜間に無意識に歯ぎしりをしている場合、長期間にわたって歯が摩耗し、欠けやすくなります。
3. むし歯
むし歯が進行すると、歯の内部の組織が軟化し、外部の力に対して脆弱になります。特に、大きなむし歯が放置されていると、歯が簡単に欠けてしまうことがあります。むし歯が原因で歯が欠けた場合、欠けた部分にはむし歯菌が潜んでいる可能性が高いため、早急に歯科医院での治療が必要です。
4. 酸蝕症(さんしょくしょう)
酸蝕症とは、酸性の飲食物や胃酸の逆流によって、歯のエナメル質が溶けてしまう現象です。エナメル質が損失すると、歯の内部の象牙質が露出し、弱くなります。その結果、軽い力でも歯が欠けやすくなります。
これらの原因を理解し、日常生活での予防策を講じることが、歯が欠けるリスクを低減するための鍵となります。
- 歯が欠けたけど、痛みが少ない場合はどうしたらいいですか?
- 痛みが少なかったとしても歯にダメージが及んでいるため、歯科医院を受診する必要があります。ケースによっては、歯根が折れていることもあり、痛みの強弱だけで自己診断するのはよくありません。
- 歯が欠けたままでも大丈夫ですか?
- 歯が欠けた状態を放置すると、以下に挙げる2つのリスクが生じるため、歯科医院の受診が推奨されます。
1.歯が欠けたところがむし歯になりやすくなる
歯が欠けたまま放置すると、欠けた部分に食べ物のカスやプラークが溜まりやすくなり、むし歯のリスクが高まります。また、欠けた部分は傷口がむき出しとなっているような状態で、むし菌が作り出す酸に溶かされやすい点に注意しましょう。むし歯が進行すると、歯の内部にまで菌が侵入し、治療が難しくなることもあります。
2.欠けた歯でお口や舌などを傷つける
欠けた歯の尖った部分は、お口の中のやわらかい組織、特に舌や頬の内側を傷つける可能性があります。これにより、口内炎や痛みが生じることがあるため、食事や会話が不快になることも考えられます。
歯が欠けたときの応急処置
続いて、歯が欠けたときの応急処置について解説します。
- 歯が欠けたときはどうすればいいですか?
- 歯が欠けたときは、まず次の方法を実践してください。
1.出血がある場合は清潔なガーゼで止血する
歯が欠けた際に出血が見られる場合は、まず清潔なガーゼを用意し、軽く噛んで止血を試みてください。出血が止まらない場合や痛みが強い場合は、無理をせずに速やかに歯科医院を受診しましょう。
2.患部を刺激しない
欠けた歯の周囲はとても敏感で、さらに損傷する可能性があります。患部を刺激しないよう、できるだけその部分に触れず、食べ物や飲み物が直接当たらないように注意しましょう。刺激を避けることで痛みを軽減できます。
3.欠けた、抜けた歯は捨てずに保管する
欠けた歯や抜けた歯の破片は捨てずに牛乳につけて保管しましょう。歯科医院に持参することで、元の歯の形に合わせた修復が可能になることがあります。
4.できるだけ早く歯科に連絡する
歯が欠けた場合、早急な対応が重要です。できるだけ早く歯科医院に連絡し、診察の予約を取りましょう。迅速な対応が、将来のむし歯リスクやほかの歯の損傷を防ぐために有効です。いつも通っている歯科医院が休みであったり、診療の枠が埋まっていたりする場合は、診察を翌日以降に延ばすのではなく、近くの急患に対応している歯科医院を探した方がよい場合もあります。特に後段で解説する歯が丸ごと抜けたケースは、30分以内に歯科を受診することが推奨されている点にご注意ください。
- すぐに歯医者に行けない場合の対処法を教えてください。
- 上記の応急処置を行った後もできるだけ安静に過ごすようにしましょう。歯に刺激を与えるような硬い食べ物・辛い食べ物・熱い食べ物などは避けてください。歯磨きの際も欠けた部分にダメージが及ばないよう配慮する必要があります。痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を服用して対処しましょう。
- 抜けてしまった歯はどうしたらいいですか?
- 歯が丸ごと抜け落ちた場合は、その歯を歯科医院に持参することが重要です。抜けた歯を持ち込むことで、再度元の位置に戻すことができる場合があります。特に、事故や衝撃で歯が抜けた場合は、早急に歯科医師の診察を受けることが推奨されます。抜けた歯を持ち込むことで、適切な治療方法を選択し、将来的な噛み合わせの問題を防ぐことができます。
ちなみに、歯が丸ごと抜ける脱臼は、受傷から30分以内に歯科を受診することが推奨されています。30分程度であれば、歯の根に分布している歯根膜細胞が死ぬリスクも低いからです。もちろん、受傷から30分を過ぎたら、抜けた歯を再植できなくなるというわけではありません。
◎抜けてしまった歯の保存方法
抜けた歯を適切に保存することは、治療成功の鍵です。まず、歯の根を触らずに優しく拾いあげ、水で軽く汚れを落としましょう。その後、歯を牛乳や生理食塩水に浸して保存するのが理想的です。これらの液体は、歯の根の細胞を保護し、歯の再植の可能性を高めます。牛乳や生理食塩水が手元にない場合は、歯を頬の内側に入れて保存する方法もありますが、飲み込まないよう注意が必要です。
歯が欠けたときの治療
ここでは、歯が欠けたときの治療法を重症度別に解説します。
- 歯が少し欠けたらどうしたらいいですか?
- 歯の欠けが軽度の場合は、コンポジットレジンによる修復で対応できます。歯の欠けた部分の形を整えたうえで、コンポジットレジンを盛り付けて光で固めます。この場合の治療は、即日終わり、治療に痛みを伴うことはほとんどなく、費用も安価となります。
- 歯が中くらい欠けたときの治療方法を教えてください。
- 歯の欠けが中等度の場合は、コンポジットレジン修復が難しく、詰め物・被せ物による治療が必要となりやすいです。歯の形を整えたうえで型取りを行い、ラボサイドで詰め物・被せ物を製作します。保険診療では銀歯かレジン歯になりますが、自費診療を選択した場合は、天然の歯質を忠実に再現できるに加えむし歯にもなりづらい材料のセラミックなどが使用可能です。
- 歯が大きく欠けても、歯を抜かないで治療できますか?
- 歯の状態によっては、抜かずに保存できる場合もあります。歯の欠けによって神経が露出し、汚染されている場合は、抜髄(ばつずい)および根管治療を行う必要があります。その後は土台を作って被せ物を装着します。根管治療を行えない程歯が大きく欠けていたり、歯根が割れていたりする場合は、抜歯が第一選択となりやすいです。歯を抜いた後はブリッジ・入れ歯・インプラントといった補綴装置で治療します。
編集部まとめ
今回は、歯が欠ける原因や対応の方法について解説しました。歯が欠ける原因としてはむし歯、歯ぎしり、外傷、酸蝕歯などが挙げられます。いずれにしても歯が欠けた状態はとても不安定なので放置するのはやめましょう。できるだけ早く歯科を受診して適切な処置を受けましょう。欠けた歯の治療法としては、コンポジットレジン修復、詰め物・被せ物治療、抜歯などがあります。歯の欠け方によって選択できる治療法が限られてくる点に注意が必要です。
参考文献