ハイブリッドセラミックは、奥歯でも使用できるかご存知ですか?
レジンの審美性とセラミックの耐久性を併せ持ったハイブリッドセラミックは、歯の被せ物の素材として広く使われています。
ジルコニアセラミックや銀歯などと比較して、ハイブリッドセラミックにはどのような特徴があるかを知っておきましょう。
本記事では、ハイブリッドセラミックの特徴と奥歯に使用する場合のメリット・デメリットや費用相場を解説します。
奥歯に使用する素材を選ぶ際の、参考になれば幸いです。
ハイブリッドセラミックについて
むし歯治療で大きく削った歯に被せ物をしたり、差し歯にしたりする際には、素材選びが重要になります。
歯の補修に使われる素材には多くの種類があり、それぞれ特徴や費用が大きく異なります。
どの素材を選ぶかは、歯科医師からよく説明を受けたうえで慎重に判断しましょう。
ここでは、近年普及しているハイブリッドセラミックの特徴を解説します。
ハイブリッドセラミックとは
ハイブリッドセラミックとは、レジンというプラスチックの素材にセラミック粉末を混合した素材です。
レジンは弾力性のあるプラスチックで、歯の補修に広く使われています。
レジンは扱いやすい素材ですが、プラスチックであるため耐久性が劣り、奥歯など強い力がかかる部位には使いづらい素材です。
そのレジンに粉末化したセラミックを混合して、強度を高めたのがハイブリッドセラミックです。
レジンはもともと天然歯に近い色合いを再現しやすい素材であり、ハイブリッドセラミックはセラミックの強度とレジンの審美性を兼ね備えています。
ハイブリッドセラミックは奥歯に使える?
ハイブリッドセラミックは、オールセラミックに比べると耐久性が劣るといわれており、前歯によく使われる素材です。
しかし、実際にはハイブリッドセラミックを奥歯に使用する例もあり、奥歯でも問題なく使用可能です。
オールセラミックは極めて硬い素材ですが、硬すぎて噛み合わせの歯に負担をかけてしまうことも少なくありません。
ハイブリッドセラミックはレジン特有の弾力性があるため、噛み合わせの歯に負担をかけず、万が一割れても補修しやすい特徴があります。
このような特徴から、ハイブリッドセラミックは奥歯でも使われる素材です。
奥歯をハイブリッドセラミックにするメリット
ハイブリッドセラミックは奥歯の被せ物にも使用可能ですが、奥歯に使える素材はほかにもたくさんあります。
ほかの素材と比べて、ハイブリッドセラミックにはどのようなメリットがあるかを知っておきましょう。
ハイブリッドセラミックのメリットは、主に以下の4つです。
- 審美性が高い
- 金属アレルギーでも使える可能性
- 変色しにくい
- 治療費用を抑えられる
それぞれの内容を解説します。
審美性が高い
ハイブリッドセラミックはレジンにセラミック粉末を混合した素材であるため、レジンの特徴を多く兼ね備えています。
プラスチックの一種であるレジンは、色合いの調整がしやすく、天然歯に近い色合いを精密に再現できます。
複数の色見本のなかから患者さんの歯に近い色を選び、その色の素材を使えば、補修部分が目立ちません。
奥歯は見えにくい部位ではありますが、審美性を気にされる方には適した素材です。
金属アレルギーでも使える可能性
ハイブリッドセラミックは、プラスチックとセラミックの混合素材であるため、金属を一切使用していません。
このため、金属アレルギーの患者さんでも使える可能性が高くなります。
金属アレルギーは自覚していない方も多く、口腔粘膜疾患などに悩まされた結果として金属アレルギーが判明することも少なくありません。
口腔内に金属があると、唾液で溶け出した金属が徐々に体内に吸収され、後天的に金属アレルギーを発症する場合もあります。
金属アレルギーが不安な方は、ハイブリッドセラミックなど金属を使わない素材が適しているでしょう。
変色しにくい
歯の補修でよく使われるコンポジットレジンは、経年劣化により変色しやすいのが特徴です。
コンポジットレジンの寿命は約2〜3年といわれており、飲食物による着色や、素材自体の劣化で黄色く変色してきます。
レジンはやわらかい素材であるため、表面に細かな傷が付き、汚れがたまるのも変色の原因となります。
ハイブリッドセラミックはレジンよりも強度が高く、セラミックの特性上レジンよりも変色しにくい素材です。
治療費用を抑えられる
ハイブリッドセラミックはレジンとセラミックの混合素材であり、両者の中間に位置します。
オールセラミックよりも費用を抑えられ、治療の経済的な負担を少なくできるでしょう。
条件によって異なりますが、保険適用できる場合もあるため、自己負担額を抑えたい場合に適しています。
奥歯をハイブリッドセラミックにするデメリット
ハイブリッドセラミックにはメリットだけでなく、デメリットもあります。
歯を補修する素材を選ぶ際は、デメリットも考慮したうえで判断するようにしましょう。
ハイブリッドセラミックの主なデメリットは、以下の3つです。
- オールセラミックと比べると審美性が低い
- オールセラミックよりも割れやすい
- 二次カリエスの可能性
それぞれの内容を解説します。
オールセラミックと比べると審美性が低い
ハイブリッドセラミックは、レジンとセラミックの特徴を併せ持っており、レジン特有の審美性の良さを持っています。
しかし、セラミックのなかでも特に審美性の高いe-maxやポーセレンなどの素材と比較すると、審美性は劣るでしょう。
ポーセレンは歯科用セラミック素材のなかでも極めて高い審美性を持ち、天然の歯と見分けが付きにくくなります。
審美性の高いセラミックのみで作られたオールセラミックの方が、ハイブリッドセラミックよりも審美性では勝っています。
オールセラミックよりも割れやすい
ハイブリッドセラミックは、レジンにセラミック粉末を混ぜて硬度を高めていますが、その硬度はオールセラミック程ではありません。
セラミックのなかでも特に硬度の高いジルコニアに比べると、ハイブリッドセラミックの強度は劣ります。
奥歯は咀嚼で強い力がかかるため、素材選びの際に硬度は重要なポイントです。
二次カリエスの可能性
二次性カリエスとは、1度治療した歯が再びむし歯になってしまうことです。
レジンは固まる際に収縮する性質があるため、歯と詰め物の間にわずかな隙間ができてしまい、そこからむし歯になるケースが少なくありません。
ハイブリッドセラミックもベースはレジンであるため、オールセラミックよりは二次性カリエスのリスクが高いといえるでしょう。
ハイブリッドセラミックの耐久性
ハイブリッドセラミックは、歯の治療後の補修材として一般的に使用されるレジンに、セラミック粉末を混合して強度を高めています。
その強度はレジンに比べて、圧縮強さで1.5倍・曲げ強さで2.3倍といわれており、奥歯での咬合力に十分耐えられる素材です。
極めて硬度の高いジルコニアセラミックに比べれば耐久性は劣りますが、硬すぎないことは噛み合わせの歯に負担をかけないメリットもあります。
ハイブリッドセラミックによる被せ物の寿命は7〜10年といわれており、一般的なセラミックと変わりません。
被せ物の耐久性は、土台となる歯根の状態にも左右されるため、日頃からのデンタルケアに大きく左右されます。
ハイブリッドセラミックの被せ物を長持ちさせるためにも、治療後には定期的に通院して歯科検診を受けましょう。
奥歯をハイブリッドセラミックにするときの費用
ハイブリッドセラミックは基本的に保険適用外の素材でしたが、保険改定によって保険適用となる範囲が広がっています。
健康保険の適用となるか否かで自己負担額は大きく変わるため、保険適用の条件は歯科医師によく確認してください。
奥歯のハイブリッドセラミックが保険適用になる場合とならない場合の、費用相場を解説します。
保険適用される場合の費用
奥歯の第一小臼歯・第二小臼歯をハイブリッドセラミックにする場合、CAD/CAM装置を使用する認定医であれば、健康保険が適用されます。
奥歯のハイブリッドセラミックの費用は、3割負担で6,500円(税込)程が相場です。
第一大臼歯・第二大臼歯の場合は、金属アレルギーの診断があればハイブリッドセラミックが保険適用となります。
また、金属アレルギーの診断がなくても、第一大臼歯のハイブリッドセラミックが保険適用となる場合もあります。
第二大臼歯がすべて残存しており、第一大臼歯に過度な咬合力がかからない場合に限り、第一大臼歯のハイブリッドセラミックは保険適用です。
これらの条件は保険改定によって変わる可能性もあるため、まずは歯科医師にご相談ください。
2024年の保険改定で適用範囲がさらに拡大されました。
保険適用外の場合の費用
保険適用の条件に当てはまらない場合は、ハイブリッドセラミックは保険適用外となります。
保険適用外となった場合、奥歯のハイブリッドセラミックにかかる費用は40,000〜120,000円(税込)が相場です。
金属アレルギーの診断がない方が第二大臼歯をハイブリッドセラミックにしたい場合や、第二大臼歯が1本でも失われている方が第一大臼歯をハイブリッドセラミックにしたい場合などは、保険適用外となります。
ただし、上記に該当する場合でも2024年1月よりPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材質のメタルフリー冠が保険適用となりました。
ハイブリッドセラミックの保険適用に必要な設備がなく、認定医が在籍していない歯科医院では、どのような場合でも保険適用にはなりません。
保険適用外の自由診療の場合は、ハイブリッドセラミックにもさまざまな選択肢があるため、奥歯にハイブリッドセラミックを使うメリットは少なくなります。
奥歯には強い咬合力がかかるため、歯科医師からより強度の高い素材をすすめられる場合もあるでしょう。
ハイブリッドセラミック以外で奥歯に使える素材
奥歯のむし歯治療後に使われる素材は、ハイブリッドセラミック以外にも多くの種類があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、耐久性・審美性・経済性などを考慮して慎重に判断しましょう。
ハイブリッドセラミック以外で奥歯に使える素材は、主に以下の3つです。
- ジルコニアセラミック
- e-max
- 銀歯
それぞれの内容を解説します。
ジルコニアセラミック
ジルコニアセラミックは、極めて硬く割れに強い素材です。
歯の部分的な補修ではなく、被せ物や人工歯に使用されるセラミックで、強度を重視する方に選ばれています。
耐久性が高い一方で、色合いの調整が困難であるため、審美性には劣ります。
真っ白な色になってしまうため、ほかの歯と比べて浮いてしまい、目立ちやすくなるでしょう。
奥歯は目立ちにくい部位であり、強い咬合力がかかるため、強度を重視してジルコニアセラミックを選ぶ方は少なくありません。
ジルコニアセラミックは保険適用外の材料であり、ほかの素材に比べても費用が高いのもデメリットです。
奥歯の場合、ジルコニアセラミックの費用は1本あたり120,000〜200,000円(税込)が相場となります。
e-max
e-maxとは、一般的に歯科用セラミックとして使われているポーセレンの強度を高めた素材です。
ポーセレンはレジンよりも強度が高く、透明感があって色合いを調整しやすいため、極めて審美性に優れています。
その一方で、弾力性がないため割れやすいのがメリットで、耐久性の問題がありました。
e-maxはポーセレンの審美性はそのままに、割れにくさを高めた素材で、奥歯にも使用可能です。
ジルコニアセラミック程の耐久性はなくても、一般的な症例であれば問題は起きにくいでしょう。
e-maxは保険適用外の素材で、奥歯の費用は1本あたり80,000〜140,000円(税込)が相場です。
ジルコニアセラミックよりは安く、ハイブリッドセラミックよりは高い素材となります。
銀歯
銀歯は、むし歯治療後の詰め物や被せ物として広く使われている素材です。
保険適用となる素材は12%金銀パラジウム合金で、パラジウム20%・銀50%・金12%・銅16%の比率となっています。
金属には弾性があるため、セラミックに比べて割れにくく、噛み合わせの歯を痛めにくいのがメリットです。
銀歯はどの歯であっても保険適用となるため、自己負担額も大幅に抑えられます。
銀歯は審美性に大きな問題がありますが、奥歯であれば目立ちにくいため、銀歯でも問題は少ないでしょう。
一方で、唾液や食べ物の成分によって金属が少しずつ溶け出し、金属アレルギーの発症や口腔粘膜疾患の原因となる場合もあります。
長期的な悪影響から、銀歯の使用を規制している国もあり、長期間の使用には注意が必要です。
保険適用で費用を抑えられるため、まずは銀歯にして様子を見ながら、後にハイブリッドセラミックやジルコニアセラミックなどに交換する方も少なくありません。
まとめ
奥歯をハイブリッドセラミックにするメリット・デメリットや、一般的な費用相場を解説してきました。
ハイブリッドセラミックは、プラスチックの一種であるレジンと、セラミックを混合して両者の特徴を併せ持った素材です。
奥歯でも使用可能な耐久性と、色合いを調整しやすい審美性を併せ持った優れた素材といえるでしょう。
審美性の高さから前歯に使用されることが一般的ですが、奥歯でもハイブリッドセラミックは使用可能です。
ほかの材料の特徴と比較しながら、どの材料が適切かは歯科医師にご相談ください。
参考文献