甘いものを食べた後、歯が少ししみるといった経験はありませんか?これは、初期段階のむし歯である可能性を示唆しているかもしれません。放っておくと、むし歯はどんどん進行し、最終的には歯を失ってしまうこともあります。この記事では、むし歯の初期症状や、進行を食い止めるための対策を具体的に解説します。あなたの歯の健康を守るために、ぜひ読んでみてください。
むし歯は初期なら自力で治せる?
歯の構造は、大まかに3層構造となっていて、外側からエナメル質(またはセメント質)、象牙質、歯髄で構成されています。
このうち、一番表面にあるエナメル質は、噛むときの衝撃によって小さな傷がついたり、酸などによって溶かされたりといった状況が日々繰り返されています。このように表面がごく少量溶かされてしまうことを脱灰と呼びます。
脱灰が発生すると、歯の表面に小さな穴ができるため光の透過がされにくくなり、歯が白く濁って見えるようになります。
一方で、脱灰が生じていても歯がなくならないのは、歯には再石灰化という仕組みがあり、これによって修復が行われているためです。
再石灰化は唾液中に溶け出たカルシウムイオンやリン酸イオンがエナメル質に付着して取り込まれることで、脱灰によって減少してしまった分を補修するという働きです。 むし歯は菌が作り出す酸によって歯が溶かされていく病気ですが、溶かされた分が再石灰化によって補修されれば、歯を削るような治療をしなくても治すことができます。
そのため、歯のエナメル質の表面に影響が出ている程度の初期のむし歯であれば、自力で治すことも可能といえます。 ただし、再石灰化はごく小さな傷や穴を補修する程度であり、しっかりと穴が空いてしまった状態のむし歯を回復させることはできません。
つまり、白く歯が濁る程度の状態であればまだ自力での回復が可能ですが、その状態をすぎると歯科医院での治療が必要となるといえます。 なお、歯茎よりうえに出ている部分の表面はエナメル質ですが、歯茎の内側にある部分は、歯の表面がセメント質という組織で覆われています。
セメント質は骨と同程度の硬さですが、エナメル質よりもやわらかく、酸に溶かされやすい性質の組織です。
そのため、歯周病などによって歯茎が下がってしまい、セメント質の部分が露出すると、そこからむし歯が進行しやすくなります。
むし歯の進行について
むし歯の進行はCOと呼ばれる初期段階と、C1からC4という4つの段階で表現されます。
それぞれの状態について解説します。
初期段階のCO(シーオー)
COはむし歯になり初めの状態で、痛みなどの自覚症状はありません。
むし歯菌によって、歯のエナメル質がわずかに溶けていますが、再石灰化で回復できる範囲ですので、正しい歯のケアを続けていくことで改善が可能です。
ただし、乳歯や生えたばかりの永久歯の場合はCOからC1に進行するのが早いため、注意が必要です。
自覚症状のないC1
C1はCOからさらに進んで、エナメル質内で起きてしまっているむし歯です。
小さな穴が空いたり、茶色や黒っぽく変色することがあります。
エナメル質にとどまっているので、痛みなどの自覚症状はありません。
歯科治療では、変色した箇所を削り取って歯科用レジンと呼ばれる素材で補修する処置などが施されます。
知覚過敏に近い痛みが出る場合もがるC2
C2はエナメル質を通過して象牙質まで達してしまったむし歯です。
神経がある歯髄に近いところまで進行しているため、普段何もしていないときには特に痛みは感じませんが、冷たいものや熱いものを食べたときなどに痛みが出る知覚過敏に近い痛みがでることがあります。
また、象牙質はエナメル質よりもやわらかい組織のため、C2以降はむし歯の進行が早くなります。
この段階での治療は、局所麻酔を施したうえでむし歯の部分を丁寧に取り除き、削った分量に応じて詰め物や被せ物をします。
持続的な痛みが出るC3
C3は歯の一番内側にある歯髄にまで達したむし歯です。歯髄には神経があるため、何もしていなくてもズキズキと常に強い痛みを感じる可能性があります。
この状態になると、神経や血管などを取り除く根幹治療を行う必要があります。
根幹治療では、歯の内側の歯髄の組織を掻き出して消毒し、菌をしっかりと取り除いてから、内部に詰め物をしていきます。
最終的には、残った歯を土台として被せ物などの治療を行います。
歯の大部分が溶けてしまうC4
C4はむし歯の最終段階で、歯のほとんどが溶かされてしまう状態です。
当然歯髄も壊死を起こしてしまっているため、神経が死んで痛みすら感じなくなってしまっている場合もあります。
温存できる可能性が残っていれば根幹治療を行い、温存が難しい場合は抜歯となります。
根幹治療を選択したとしても、歯の根っこの内部を削り取るという方法を取るため、その工程のなかで歯の根っこが割れてしまったりヒビが入ってしまうリスクがあります。そうなると、温存が難しくなってしまい、結果的に抜歯となってしまう可能性もあります。 また、むし歯菌が歯の根っこの一番下の部分にまでいってしまうと、炎症して膿が溜まり、歯茎や顔が腫れたり、激しく痛むようになります。そうなってしまうと歯を残すことがとても難しく、抜歯となる可能性が高くなります。
むし歯の進行速度は人によって異なる
むし歯のなりやすさや進行速度は、ひとそれぞれのお口の環境などによっても異なります。
まず、乳歯や生え変わったばかりの永久歯は、歯がやわらかいためむし歯の進行が早く、COやC1といった初期むし歯でもC2に移行するのが早いといえます。
また、歯のエナメル質や象牙質の状態にも個人差があり、むし歯ができやすい人がいたり、逆にできやすい人がいたりします。 そして、生活習慣などによってもむし歯のできやすさやむし歯の悪化のスピードは違います。
当然のことながら、正しい歯磨き習慣を続けている人はむし歯ができても進行が遅いですが、歯磨きの仕方が間違っていたり、歯磨きの回数が少ない人はむし歯ができやすく進行のスピードも早くなります。 そのほかではお口の乾燥もむし歯の進行が早まる要因です。
口腔内は唾液によって潤いが保たれ、菌の増殖を防いだり、再石灰化が促進されたりしています。そのため、唾液の量が少ない方や、口呼吸の癖などで口腔内が乾燥しやすい状況にある方は、むし歯になりやすく、進行も早くなります。
初期むし歯を見つける方法
初期むし歯は自然治癒できる可能性がありますが、やはり早めに発見することがよりしっかりとむし歯の進行を食い止めるために重要なことであるのは間違いありません。
自覚症状のない初期むし歯をどのようにして見つけるかのポイントを見ていきましょう。
見た目でのチェック
初期むし歯は、歯の透明感が減少して白っぽい斑点が現われたり、白く濁ったような状態の見た目になります。
むし歯になりやすい箇所としては、歯と歯の隙間、奥歯の頭の溝なので、特に注意して見るとよいでしょう。
なお、奥歯の溝については、むし歯ではなく着色によって黒く変色することもあります。むし歯かただの着色かを見分けるのは難しいので、歯科医院での診察を受けるようにしましょう。
また、歯が茶色などに変色するのは、むし歯が象牙質に到達し、象牙質が酸化することなどで生じるものですので、すでにむし歯が進行している可能性が高いといえます。
触った感じでの変化を確認する
むし歯ができる場所の傾向として、歯ブラシが届きにくく磨き残ししやすい場所に多くできます。
例えば、歯と歯の間などは、食べカスが挟まりやすく歯ブラシが届きにくい箇所であるうえに、直接目で見て確認することができませんので、気づかないうちにむし歯になっていることがよくあります。
そういう場合は、デンタルフロスなどを使ってケアするのがよいのですが、フロスを通したときに糸が引っかかったり、歯茎から血が出たりした場合は、むし歯になっている可能性が考えられます。
糸が引っかかるということは、歯の表面が削れて凸凹になっているためだからです。
また、歯垢が溜まると歯茎が炎症を起こし、歯肉炎や歯周病となりますが、歯垢が溜まったところにはむし歯が発生している可能性が高いため、歯茎から血が出る状態ということは歯垢が溜まってむし歯が始まっているかもしれないサインとなります。
歯科医院に定期的に通う
やはりむし歯はなかなか直接目で見て発見するのが難しいので、よりしっかりとむし歯を早期発見したい場合は、定期的に歯科医院での歯科検診を行うことをおすすめします。
歯科医院では、歯の専門的なクリーニングをしたうえで、歯に歯垢などの汚れがなくよく見える状態にして、歯科医師や歯科衛生士が1本1本確認をし、むし歯をチェックしてくれます。
場合によってはレントゲンを撮影して肉眼で見えない箇所にもむし歯がないかなどを検査するので、より正確性の高い診断が可能です。
歯のクリーニングなどを2〜3ヶ月に1回程度の間隔で行うことで、むし歯ができてもすぐに治療可能な初期段階で対応することが可能となります。
むし歯の治療法
むし歯は進行段階によって治療法が異なります。むし歯の状態ごとにどのような治療を行うのかを見ていきましょう。
初期むし歯の治療法
初期むし歯は、歯を削らなくても治療ができます。
COといってむし歯になりかけの状態のときは、歯科では歯磨きの指導やフッ素を塗布するなどの処置をして自然治癒を促進する場合が多いです。
さらに、よりむし歯ができにくい環境を整えるために、PMTCという専門的な歯のクリーニングを行うこともあります。
なお、COからC1に移行させないためには、歯科医院で適切な処置をしてもらうことももちろん重要ですが、日々のセルフケアも大切です。歯科医院での歯磨き指導を受けたうえで、正しい方法でのセルフケアも継続的に行うことがむし歯予防につながります。
C1、C2の中期段階の治療法
C1、C2のむし歯は、むし歯の箇所を削って菌を除去し、詰め物をする治療を行います。
C1の場合はエナメル質の層だけを削るため、麻酔は不要ですが、C2のむし歯は象牙質という神経にちかくやわらかい層を削るため、局所麻酔をして治療を行うことがあります。
C3以上のむし歯に対する治療法
C3以上のむし歯は、根幹治療を行います。
ここまでむし歯が進行すると、歯の内側である歯髄にむし歯菌が感染してしまっているため、その一部分だけを削りとっても神経が残れば痛みが治らないばかりか、神経や血管組織の壊死の恐れがあります。
そのため、根幹治療によって神経や血管組織を取り除く必要がでてきます。根管治療では神経などを除去した部分に空間ができるので、そこに薬を詰め、最後に歯冠(歯の頭)を作って被せ物をします。 なお、根幹治療は歯の根っこに対するダメージが大きく、繊細さを要する治療のため、何度も際限なく繰り返しできる治療法ではありません。過去に根幹治療を行ったことのある歯は、2回目以降に治療の負荷に耐えきれずに割れたりヒビが入るなどのリスクが高まるため注意が必要です。 また、C4のむし歯は、歯のほとんどが溶けてしまって根っこを残すことが困難な場合が多く、根幹治療ができず歯を残さずに抜歯しなければならないこともあります。
むし歯を予防するための方法
むし歯は治療できるといっても、治療の回数にも限界がありますので、何度もむし歯ができてしまっては、そのたびに歯の寿命を短くしてしまう危険性があります。
そのため、健康な歯をできるだけ長く保つためには、むし歯の予防がとても重要です。
歯磨きを丁寧に行う
むし歯予防の基本は歯磨きです。
歯の一本一本を丁寧に時間をかけて、歯の表面だけではなく歯と歯の間や歯茎との境目などの細かなところまでしっかりと磨くのが大切です。
しかし、いくら丁寧に磨いているつもりでもむし歯ができてしまうことがあります。
歯並びは一人ひとり異なり、それぞれに適切な歯磨きの方法がありますので、歯科医院で自分にあった正しい歯磨き方法を教えてもらい、自宅でも実践しましょう。
歯間も掃除する
実は、最もむし歯ができやすいのは歯と歯の間というのはご存知ですか?
歯と歯の間は歯ブラシでは届きにくいため、どれほど丁寧に歯磨きをしていても磨き残しができてしまい、むし歯になってしまうというケースがよくあります。
そのような場合は、歯間ブラシやデンタルフロスを活用しましょう。
歯間ブラシは、狭いすきまに入り込み、歯の側面の汚れをこすり取ることができます。
デンタルフロスは、歯間ブラシも入れづらい、歯と歯が隣り合ったところに細い糸が入り込んで、挟まった汚れをかき出すことができます。
これらを使って歯と歯の間もしっかりとケアすることで、よりきれいな歯を保つことができ、むし歯を防ぐことができます。
フッ素入りの歯磨き粉を使用する
フッ素は、歯を強くする効果が期待できる成分です。
フッ素には脱灰を抑制する作用と、再石灰化を促進する作用、さらにむし歯菌が作り出した酸によって歯が溶けてしまうのを防ぐ作用があります。
こうした作用から、歯科医院では歯のクリーニングと同時にフッ素塗布が行われることがあります。ホームケアでも手軽に取り入れることができるフッ素入りの歯磨き粉が販売されていますので、セルフケアではそういった商品を利用するとよいでしょう。
歯科医院でのクリーニングや検診を受ける
毎日の歯磨きなどといったケアをしっかり行っていても、少しずつ磨き残した汚れが蓄積されてしまい、歯石となってホームケアでは除去が難しくなってしまうことがあります。
歯の汚れや歯石は、むし歯はもちろんのこと、歯周病の原因にもなる細菌の温床となり、放置すると歯の健康を損なう可能性が高まります。
歯科医院でのクリーニングでは、専用の器具を使って歯の表面や歯周ポケットに付着した頑固な汚れを徹底的に除去します。また、歯科医師や歯科衛生士から、より効果的な歯磨き方法や口腔ケアのアドバイスを受けることもできます。 歯科医院は歯の治療のためだけに行くのではなく、歯の健康を守るためのメンテナンスとして1〜3ヶ月に1回程度の頻度で通院し、検診とクリーニングを受けることをおすすめします。
まとめ
歯の健康は、全身の健康にも深く関わっています。むし歯や歯周病を予防し、快適な毎日を送るためには、歯科医院での定期的なケアが必要不可欠です。歯科医院に足を運ぶのが億劫に感じる方もいるかもしれませんが、プロによるケアを受けることで、歯のトラブルを未然に防ぎ、安心して食事を楽しめるようになります。 今、歯の痛みが気になっているという方はこれ以上悪化しないためにもすぐに歯科医院に行くことを強くおすすめするとともに、治療後はセルフケアと合わせて定期的な歯科医院の通院をして歯の健康を守っていきましょう。
参考文献