見た目の美しさや耐久性を考えて、奥歯のかぶせ物・詰め物を銀歯からセラミックへ変更したいと希望される方が増えています。
ひと昔前は奥歯のかぶせ物や詰め物として銀歯が主流でしたが、最近では白いかぶせ物を使うケースも少なくありません。
特にセラミックは自然な美しさとツヤが得られるため、かぶせ物・詰め物として人気です。
この記事では、銀歯からセラミックに変えられるのかどうかを解説します。セラミックに変えるメリット・デメリットや、変える際の注意点をまとめているので、ぜひ最後までお読みください。
銀歯からセラミックにできる?
結論からいうと、銀歯からセラミックへの変更は可能です。最近では、審美性への意識の高まりから、セラミックに変更を希望する患者さんも増えています。
2014年3月までは、保険適用される奥歯のかぶせ物は銀歯のみでした。しかし、現在はセラミックとプラスチックを一つにしたCAD/CAM(キャドキャム)冠が主流になっています。
CAD/CAM冠とは、コンピューターシステムで設計・制作する白いかぶせ物のことです。すべての歯に保険適用されるわけではありませんが、自費を払ってでも銀歯からセラミックに変えたいと希望される患者さんも少なくありません。
セラミックの素材の種類
歯科治療に用いられるセラミックには、さまざまな種類があります。どのセラミックを選ぶかによって仕上がりの美しさや特徴が異なるため、慎重に選ぶ必要があるでしょう。
ここからは、歯科治療に使われるセラミックが種類ごとにどのような違いがあるのか、それぞれの特徴を紹介していきます。
オールセラミック
内側にも外側にも金属や樹脂などを入れず、陶器素材であるセラミックのみを使用した高級素材のセラミックです。金属を一切入れないため、金属アレルギーの心配がいりません。
陶器なのでツルツルしており、汚れがつきにくいのも特徴です。オールセラミックであれば、天然歯と同じようなツヤや透明感を得ることができるでしょう。
天然歯よりも美しいツヤが出ることもあり、天然歯の上からオールセラミックをかぶせて、より審美性を向上させる方もいます。ただし、食器に使われている陶器同様の素材なので、割れやすいのがデメリットです。
ジルコニア
ジルコニアはセラミックの一種で、人工ダイヤモンドとも呼ばれています。オールセラミック程の透明感はありませんが、自然な白さで奥歯の詰め物として人気の素材です。
包丁やスペースシャトルの外壁にも使われる程の強度があり、オールセラミックの弱点でもある割れやすさをカバーできます。
オールセラミック同様、金属は一切使用していません。ただし、素材が硬いため、研磨や調整の難易度は高くなります。
メタルボンド
セラミックと金属の両方を使ったかぶせ物です。歯の土台に合わせて内側部分の金属を作り、外側にはセラミックを焼きつけます。
金属を使用しているため、強度が高いのが特徴です。そのうえ、外側にセラミックを焼きつけているので、審美性にも優れています。ただし、金属を使用しているので、金属アレルギーがある方にはおすすめできません。
また強度が高い分、ほかの歯が傷つく可能性があるので、就寝時にはマウスピースの使用が必要になるケースもあります。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックとは、セラミックと合成樹脂を配合した素材です。
ハイブリッドレジンやセラミックレジンとも呼ばれます。ツルツルしたセラミック特有のなめらかさよりも、プラスチックに近い素材なので、オールセラミックに比べると審美性には劣るでしょう。
また、オールセラミックよりも表面に細かい傷がつきやすく、その溝に歯石や歯垢が溜まることでむし歯になるリスクが高まります。ただし、オールセラミックよりも安く抑えられるうえに、条件を満たせば保険診療で行うことも可能です。
銀歯からセラミックに変えるメリット
銀歯からセラミックに変えると、審美性向上だけでなく機能的にもさまざまなメリットが得られます。
ここからは、銀歯からセラミックに変えるメリットを大きく5つに分けて解説していくため、セラミックに変えようかお悩みの方はぜひ参考にしてください。
自然な見た目で美しい
たとえ奥歯であっても、銀歯は笑ったときや大きくお口を開けたときに目立ちやすいのがデメリットです。歯の白さと明らかに違う色なので、どうしても目立ってしまうでしょう。
セラミックは白色なので、天然歯の間にあってもあまり目立ちません。オールセラミックにいたっては、近くで見ても見分けがつかないくらいに自然な白さと透明感・ツヤがあります。
審美性が高まることで、見た目のコンプレックスがなくなるので、自然に笑ったり大きなお口を開けたりできるようになるでしょう。
劣化しにくく長持ちする
保険治療で使用される銀歯の寿命が2~7年になのに対し、セラミックの寿命は10年以上もつといわれています。
セラミックが長持ちする理由のひとつは、表面がツルツルしていて、汚れがつきにくいことです。汚れが落ちやすいので、むし歯で歯が傷んでしまうリスクが低くなるでしょう。
また、セラミックのかぶせ物は、劣化しにくい接着剤を使用して歯にぴったり合うように作られています。精度が高い分、銀歯よりも長く使用できるでしょう。
金属アレルギーの心配が少ない
セラミックは陶器と同じ素材であるため、金属アレルギーの心配がありません。銀歯を使うと必ず金属アレルギーになるとは限りませんが、銀歯から金属イオンが溶け出し、蓄積されることで金属アレルギーになる可能性があります。
金属アレルギーになると、歯茎・舌のただれや口内炎の発症や、ときにはお顔や全身に発疹が出ることもあるため注意が必要です。
その点、金属を一切使用していないセラミックであれば、金属アレルギーの心配をせずに使うことができるでしょう。ただし、セラミックのなかでもメタルボンドは金属を一部使用しているため、金属アレルギーを発症するリスクがあります。
金属アレルギーのリスクを減らしたい方は、金属を一切使用していないセラミック素材を選ぶことが大切です。
むし歯・歯周病になりにくい
銀歯の寿命は短いので、経年劣化で傷がつきやすくなります。また、噛む力で徐々に変形してしまうため、歯との間に隙間ができやすく、そこに汚れが溜まりがちです。
そうなると、汚れが原因で細菌が繁殖し、むし歯や歯周病が起きやすくなるでしょう。その点、セラミックは表面がツルツルしているうえに細かい傷がつきにくいので、銀歯に比べると汚れがつきにくいのが特徴です。
口内環境が悪化しにくいので、むし歯や歯周病にもなりにくいでしょう。とはいえ、セラミックでも普段の歯磨きを疎かにしたり定期検診を受けなかったりすると、むし歯や歯周病になる可能性があります。普段から歯垢や歯石はしっかり取り除き、むし歯や歯周病を防ぎましょう。
歯茎の黒ずみが起こらない
銀歯のかぶせ物を使用していると、メタルタトゥーと呼ばれる現象で歯茎が黒ずむことがあります。メタルタトゥーとは銀歯に含まれる金属イオンが歯茎へ流れ出し、色素沈着が起こり歯茎が黒ずむ症状です。
痛みや腫れはありませんが、歯茎が黒ずむので見た目が気になる方も多いでしょう。メタルタトゥーで発生した黒ずみは歯磨きでは落とせないので、黒ずみをとるための治療が必要です。
その点、金属を使用していないセラミックは、歯茎の黒ずみが起こりません。歯だけでなく歯茎の審美性も維持できるでしょう。
銀歯からセラミックに変えるデメリット
銀歯からセラミックに変えると、さまざまなメリットを得ることができます。
とはいえ、デメリットもいくつかあるため、銀歯からセラミックに変える前に知っておくようにしましょう。
費用がかかる
銀歯は保険適用なので、1~3割負担で治療を受けられます。詰め物の場合は3,000~5,000円程度、かぶせ物であれば5,000~15,000円程度に抑えられるでしょう。
しかし、セラミックは保険適用外になってしまうため、基本的には全額負担です。クリニックによって金額は異なりますが、40,000~200,000円(税込)程かかるケースが多いでしょう。
セラミック素材自体が高額なうえに、型取りの際に使われるシリコン材も精度が高い分、費用も高くなるので銀歯に比べるとどうしてもコストがかかってしまいます。
歯を削る量が増える
セラミックは銀歯よりも耐久性が劣るため、長持ちさせるためにはある程度の厚みが必要です。そしてその厚みのあるセラミックをかぶせることになるので、その分歯を削らなければなりません。
また、銀歯からセラミックに変える場合には、銀歯を外す際にも歯を削る必要があるでしょう。歯を削る量が増えると、冷たいものや温かいものをお口に入れたときに痛みが生じる可能性が高くなるため、注意が必要です。
状態が悪化すると、歯の神経を抜かなければならないケースもあります。神経を抜くことで、歯がもろくなったり変色したりするリスクが高まるので、歯を削る量が多くなる場合には慎重に検討しましょう。
割れることがある
銀歯は金属なので割れる心配はありませんが、セラミックは茶碗や湯呑と同じ陶器素材なので、強い力を入れると割れることがあります。
奥歯は硬いものを噛むときに使われるので、どうしても歯にかかる負担が大きくなり、割れる可能性が高いため注意が必要です。
また、普段から歯ぎしりや食いしばりの癖がある方も、割れてしまう可能性があります。そのため、奥歯の治療にセラミックが使えないケースもあるでしょう。
強度が高いセラミック素材を選ぶ、就寝中はマウスピースを着用するなどの対策が必要になるケースもあります。
ホワイトニング効果がない
セラミックの歯をホワイトニングしても、残念ながら効果は得られません。それどころか、セラミックの寿命を縮めてしまう恐れがあるため注意が必要です。
とはいえ、セラミックも経年劣化や着色などにより、黄ばみが発生するケースがあります。その場合は、歯科医院で歯石や歯垢を取ってもらったり、詰め物を新しくしたりして黄ばみを取り除きましょう。
オールセラミックやジルコニア素材のセラミックであれば、セラミックのなかでも変色しにくい素材なので長く使用できます。
銀歯からセラミックに変える場合の注意点
銀歯からセラミックへの変更は可能ですが、変更が推奨できないケースもあるので注意が必要です。
下記に当てはまる方は、歯科医師に相談してみましょう。
- 歯ぎしりが多い
- 噛む力が強い
- 歯の状態が悪い
セラミックは割れやすい素材なので、歯ぎしりが多い方や噛む力が強い方が使用すると割れるリスクが高くなります。丈夫な銀歯のままにしておいたほうがよいケースもあるでしょう。
また、歯周病やむし歯で歯の状態が悪い方は、せっかくセラミックを入れても長持ちしない可能性があります。まずはむし歯治療や歯周病を治してから、セラミックを検討しましょう。
なお、銀歯からセラミックに変えた後も、定期的なメンテナンスが必要です。毎日の歯磨きはもちろん、2~3ヶ月に一度は歯科医院でクリーニングをしてもらい、セラミックを長持ちさせましょう。
銀歯からセラミックに変えるときにかかる費用
セラミックは保険適用外となるため、全額自費負担です。自由診療でクリニックが独自に費用を決められるため、クリニックによっても金額は異なります。
セラミックの詰め物の場合は50,000~120,000円程度(税込)、かぶせ物の場合は100,000~200,000円(税込)程度かかるのが一般的です。
セラミックの種類によっても費用が変わり、オールセラミックはハイブリッドセラミックよりも高額になります。治療を受ける歯科医院に費用を確認し、予算にあったセラミック素材を選ぶようにしましょう。
なお、ハイブリッドセラミックのブロックから削りだしたCAD/CAM冠(キャドキャム冠)のかぶせ物のうち、条件が合えば保険適用で治療を受けられるケースもあります。
保険適用になるのは、前歯と犬歯・小臼歯に加え、7番目の歯が上下左右4本揃っている場合の第一大臼歯(6番目の歯)のみです。
まとめ
銀歯からセラミックに変えると、審美性が高まるのはもちろん、むし歯・歯周病の抑制や金属アレルギーのリスク軽減などさまざまなメリットを得ることができます。
一方で、費用が高くなるだけでなく、歯を削る量が増える・割れるリスクが増える・ホワイトニング効果がないなどのリスクもあるため注意が必要です。
セラミックにはオールセラミック・ジルコニア・メタルボンド・ハイブリッドセラミックと4種類あり、それぞれで費用や特徴が異なります。予算や歯の状態に合わせて選ぶ必要があるので、歯科医師と相談しながら慎重に決めましょう。
なお、口内環境の状態や歯ぎしり・食いしばりの癖などでセラミックに変えられないケースもあります。また、クリニックによって銀歯からセラミックに変えるための費用も異なるので、事前に確認しましょう。
また、銀歯による歯茎のくろずみなどは治りません。一度の治療で最初からセラミックやジルコニアを入れておいたほうが長持ちするのでおすすめです。
参考文献
- 差し歯・冠|日本歯科医師会
- ポーセレン応用による審美修復 : ラミネートベニア修復およびインレー修復について
- オールセラミック修復物製作の際の注意点
- 疑義解釈資料の送付について(その62)
- セラミックスの寿命予測および寿命保証試験
- 変色歯治療の過去,現在,未来
- 歯学・工学融合による抗老化対策
- CAD/CAMシステムで製作したオールセラミッククラウンの適合に関する基礎的研究
- セラミックスの破壊靱性
- CAD/CAMシステムを用いたオールセラミック修復物の製作法
- 歯科用ジルコニアの特徴と接着
- 臼歯部歯冠用硬質レジンクラウンの臨床評価
- オールセラミックスによる金属アレルギー歯科治療の研究
- セラミックインプラントに対する歯垢細菌の付着に関する研究 – 人工プラークの付着と脱離について-