テレスコープ義歯は、入れ歯先進国ドイツで開発され、ヨーロッパで評価を受けている治療法です。
日本ではまだまだテレスコープ義歯の治療を受けられる歯科医院が少なく、聞き慣れないと感じる方も少なくないでしょう。
しかし、テレスコープ義歯はメリットの多い部分入れ歯です。
今回はテレスコープ義歯の概要や種類、メリット、デメリットを解説します。
入れ歯の見た目や使用感にこだわりたい方は、テレスコープ義歯を検討してはいかがでしょうか。
テレスコープ義歯とは
テレスコープ義歯とは、先進的な入れ歯治療を行っているドイツで広く普及している、部分入れ歯の一種です。
日本で普及している一般的な入れ歯は、お口に残っている健康な歯に、入れ歯を金属部品で引っかけています。
安価で治療できるメリットがありますが、引っかけている金属部品の見栄えが悪かったり、支えている健康な歯に負担がかかったりするデメリットがあります。
対して、テレスコープ義歯は内冠・入れ歯本体・外冠の3つのパーツで構成される入れ歯で、お口の内部にぴったりフィットしながら入れ歯を安定させる入れ歯です。
入れ歯を引っかけるのではなく、緻密な調整ではめ込むため、審美性や安定感などが向上します。
テレスコープ義歯が特に優れているポイントは、残っている歯に優しい点と、継続して長く使用できる点です。
テレスコープ義歯は残された健康な歯に負担をかけにくいだけではなく、しっかりと固定することで、歯周病などでぐらついている歯を延命します。
また着脱が可能であるため、入れ歯やお口にトラブルが起きても、入れ歯を取り出して修理をしながら長期的に使い続けることができます。
テレスコープ義歯は日本において、提供に高い技術が求められることがネックとなり、普及が進んでいません。
しかし開発から130年以上の歴史がある、患者さんにメリットの多い治療方法です。
テレスコープ義歯の種類
テレスコープ義歯には、以下の3つの種類があります。
- コーヌス・テレスコープ
- リーゲル・テレスコープ
- レジリエンツ・テレスコープ
治療では、これら3種類のテレスコープ義歯システムを、患者さんの状態にあわせて使い分けます。
また近年では、デジタル技術を取り入れたAGCテレスコープも注目を集めています。
以下では従来の3種類のテレスコープ義歯と、先進的なAGCテレスコープを一緒に解説しますので、治療の参考になるでしょう。
コーヌス・テレスコープ
コーヌス・テレスコープは、特殊なケースに該当しない限り、多くの症例で使えるシステムです。
コーヌスは円錐形を意味するドイツ語です。コーヌス・テレスコープの治療では、まず残っている健康な歯に、内冠と呼ばれる円錐形の被せ物をします。
この際に、内冠に6度の角度をつけておくのがポイントです。
その後入れ歯を挿入し、外冠をかぶせます。内冠にも外冠にも角度が付いていて、その角度に違いがあるため、入れ歯にテンションがかかりしっかりと固定されるようになっています。
茶筒の蓋や重ねた紙コップのように、面でぴったり固定されるため、しっかり安定させることが可能です。
修理やメンテナンス時は、入れ歯に作っておいたくぼみに指を入れて、入れ歯本体を持ち上げると簡単に取り外し可能です。
リーゲル・テレスコープ
リーゲル・テレスコープは特に奥歯がない症例の治療と相性がよいシステムです。
リーゲルはかんぬきを意味するドイツ語です。
治療は、隣り合って生えている数本の歯を連結させるように、内冠をかけるところからはじまります。
その上に鍵をかけられるような構造の入れ歯を被せます。金属製の鍵は小さく、薄いため、お口の中にあっても違和感はありません。
入れ歯の着脱は、手で鍵をかけ外すため簡単に行えます。
鍵を見えにくい場所になるよう工夫すれば、審美性にも悪影響はありません。
入れ歯の付け心地が大変よいことで知られ、就寝時に取り外す必要もありません。
残っている歯への負担が少ない点も大きなメリットです。
レジリエンツ・テレスコープ
お口の状態が悪く、片顎に4本以下しか歯が残っていない場合は、総入れ歯に似たレジリエンツ・テレスコープを選択できます。
レジリエンツ・テレスコープは、歯ではなく粘膜で入れ歯を支えることが可能です。
残った歯を内冠で守り、歯に負担をかけないよう余裕を持たせて入れ歯と外冠を被せます。
残り少なくなった歯を長持ちさせながら、歯の審美性や機能性を回復できる治療法です。
また、口元に内側からボリュームを持たせることができるため、口元が若々しくふっくらとしてほうれい線が目立たなくなる効果も期待できます。
AGCテレスコープ
AGC(Auro Galvano Crown)テレスコープとは、金を主成分にした被せ物を取り入れたテレスコープシステムです。
AGCテレスコープの特徴はアレルギーリスクが低い点と、先進的なデジタル技術で精巧な被せ物が製作できる点です。
AGCテレスコープで被せ物を製作する際は、歯科用CAD/CAMシステムとエレクトロフォーミングが活用されます。
つまり、お口内部の構造データ取得・被せ物の設計・被せ物の製造まで、デジタル技術でフォローしながら進行が可能となります。
人の手では再現が難しい、1ミクロン単位の調整が安定して実現できる点がメリットです。
アレルギー反応のリスクが気になる方や、先進的な歯科医療技術で歯の機能を取り戻したい方におすすめです。
テレスコープ義歯の費用
はめ込み式の部分入れ歯、テレスコープ義歯は、噛みやすく見た目も美しい治療方法です。テレスコープ義歯治療を検討するならば、必要な費用も確認しておきましょう。
テレスコープ義歯は保険適用できるでしょうか。以下で解説します。
テレスコープ義歯の費用相場
テレスコープ義歯の費用相場は、テレスコープ義歯の種類によって異なります。
さらに患者さんのニーズやお口の状態によって、オーダーメイドの提案となるため、費用相場はますますつかみにくくなっています。
コーヌス・テレスコープの場合は少なくとも約150万円(税込)以上は必要です。
またリーゲル・テレスコープと、レジリエンツ・テレスコープを受ける場合は、少なくとも約1,200,000円(税込)以上は必要と考えておきましょう。
テレスコープ義歯の保険適用の有無
テレスコープ義歯の治療は、保険適用できません。
保険適用できる入れ歯は、部分入れ歯であれば金属で引っかけるタイプ、総入れ歯であればプラスチック製タイプのみと選択肢が限られます。
見た目や機能性・耐久性などにこだわりたいならば、テレスコープ義歯のように保険適用外の自由診療にも目を向けることをおすすめします。
テレスコープ義歯のメリット
テレスコープ義歯には、ここまででも触れてきた以下のようなメリットがあります。
- 健康な歯への負担が少ない
- 残っている歯を固定して支える
- 修理・メンテナンスして長く使える
さらにインプラントと比べると、以下のようなメリットもあります。
- 外科手術を受けなくてよい
- インプラントよりもコストがかからない
- インプラントよりも時間がかからない
- 口元に若々しいボリューム感が出る
以下ではさらに、患者さんが生活のなかで感じやすいメリットを中心に詳しく解説します。
見た目がきれい
テレスコープ義歯は、治療が完了した際の見栄えがよい、つまり審美性に優れた義歯です。
入れ歯を固定する際に金属で引っかけないため、一目では入れ歯だと気付かれません。
入れ歯を装着していることを周囲に知られたくない方におすすめです。
またテレスコープ義歯は清掃がしやすく、きれいな状態をキープしやすい入れ歯でもあります。
一般的な引っかけ式の入れ歯は、特にピンク色の粘膜を再現した部分が汚れやすくなっています。
しかしテレスコープ義歯の場合はピンク色部分表面も精度が高く、なめらかに作られているため、汚れが付きにくくセルフケアも容易です。
インプラント治療が抱える、セルフケアが難しく定期的に歯科医院での清掃が必要、というデメリットがありません。
テレスコープ義歯は見栄えがよく清掃しやすい、つまりきれいな見た目が続きやすい入れ歯となっています。
安定感がある
テレスコープ義歯は、お口にぴったりフィットすることで以下のようなメリットをもたらします。
- 安定感がある
- よく噛める
- 装着感がよい
歯を失ったまま放置していると、歯がなくなったスペースに周囲の歯が伸びたり、倒れ込んだりして歯並びが悪くなります。
放置している期間が伸びると、失った歯周辺の骨や歯茎が痩せ、歯科治療が難しくなるリスクもあります。
食事や発音が難しくなる、歯科疾患リスクが高まるなど、お口全体の問題に発展する前に入れ歯などの歯科治療を受けましょう。
テレスコープ義歯ならば、入れ歯の違和感や使用感が心配で治療が億劫な方にもおすすめできます。
義歯が外れにくい
テレスコープ義歯は修理やメンテナンスのために、簡単に着脱できるよう設計されています。
しかし日常生活で、思わぬタイミングで外れてしまうことはほとんどありません。
- 食事をするとき
- 会話するとき
- 笑って大きく口を開けるとき
上記のような動作をするときも、入れ歯が外れる不安を抱える必要がありません。
意識のないうちに、入れ歯が外れて飲み込んでしまうリスクもないため、就寝時も装着したまま過ごせます。
就寝時に入れ歯を外さなくてよいことで、以下のメリットが期待できます。
- 就寝前メンテナンスの手間が省ける
- 歯がない部分が萎縮しづらい
- 唾液が出やすく菌がお口で増えにくい
義歯が外れにくいと、自分の歯が生えていた頃と同じ感覚で過ごすことができます。
テレスコープ義歯のデメリット
テレスコープ義歯を検討しているならばデメリットも理解しておきましょう。
お口の状態・コスト・身体的負担などのバランスを考慮して、テレスコープ義歯が自身に適した治療方法か確認しましょう。
適応症例が限られる
テレスコープ義歯は各システムで適応できる症例が決まっています。どのシステムでは、どのような症例が適応しないか把握しておきましょう。
また歯の残っている場所と、システムの相性が悪い場合も治療は難しいです。
レジリエンツ・テレスコープは、片顎に4本以上の歯が残っていると使用できません。
テレスコープ義歯では確立された3つのシステムで、ほとんどの症例をカバーできるといわれていますが、患者さんのお口の状態をみるまでははっきり診断できません。
お口の状態がテレスコープ義歯の適用範囲か気になる方は、テレスコープ義歯の知識を持つ歯科医院に相談しましょう。
土台となる歯を削る必要がある
テレスコープ義歯の治療をする際は、歯を一部削らなければなりません。削るタイミングは内冠を健康な歯に被せるタイミングです。
入れ歯本体を被せやすくするために、内冠の形状にあわせて歯を筒状に削ります。
健康な歯の形状が変わってしまう抵抗感があるかも知れませんが、筒状になると清掃がしやすいメリットもあります。
制作技術者の高度な技術が求められる
テレスコープ義歯の製作には、歯科技工士の高度な技術と知識が求められます。
しかし今日の日本では、緻密なテレスコープ義歯を製作できる歯科技工士はまだまだ少ないのが現状です。
加えて、精度の高いテレスコープ義歯を製作するためには、知識を持った歯科医師と歯科技工士が連携できる環境も必要です。
作業工程で細かく情報共有と確認作業ができるよう、歯科医院に技工所が併設していることが望ましいでしょう。
熟練した歯科技工士・知識の豊富な歯科医師・両者が連携できる環境がそろう歯科医院は多くありません。
精度の高いテレスコープ義歯治療を受けるためには、まずはテレスコープ義歯製作が可能な歯科医院探しに取り組まなければならないでしょう。
費用が高額になることがある
テレスコープ義歯を使った治療は自由診療です。保険を適用できないため、治療費が高額になってしまうケースがあります。
具体的には、以下のような費用がかかります。
- 診査・検査・診断料
- 治療に関わる技術料
- 入れ歯作製費
- 維持・管理・指導料
- 装着後の調整料
- 治療用試作義歯(仮入れ歯)の費用
テレスコープ義歯の製作にはコストがかかりますが、一度作ると修理しながら長く使い続けることができます。
高額でも質のよいものにコストを支払い、メンテナンスしながら長く使い続けるテレスコープ義歯の考え方は、産地ドイツの価値観に影響を受けているといいます。
入れ歯先進国ドイツの価値観にならって、高品質で長持ちする入れ歯治療を選択してはいかがでしょうか。
テレスコープ義歯の治療期間
テレスコープ義歯の治療期間は、約3ヶ月〜半年となるのが一般的です。
保険適用できる金属で引っかけるタイプの入れ歯を選んだ場合は、約2週間〜1ヶ月で治療が完了します。
テレスコープ義歯の治療に時間がかかるのは、精巧な入れ歯を製作するのに時間を要するためです。
歯を抜くなど、追加の歯科治療がある場合は、さらに治療期間が長くなることも知っておきましょう。
まとめ
テレスコープ義歯とは、内冠・入れ歯本体・外冠の3つのパーツを組み合わせて装着する部分入れ歯です。
先進的な入れ歯治療を行っているドイツで開発された治療法で、審美性や機能性に優れています。
特徴は残っている健康な歯を守り、ぐらついている歯の固定にも役立つ点です。
自分の歯を大切にしながら、歯の見た目や機能を取り戻したい方におすすめです。
参考文献