一般歯科で歯列矯正を受けるのと、歯列矯正を専門的に行う矯正歯科で受けるのでは、どのような違いがあるのかと疑問に思ったことがある方もいるのではないでしょうか。
歯並びを整える歯列矯正の治療は、矯正歯科だけではなく、むし歯などの一般歯科の診療を中心に行っている歯科医院でも取り扱っている場合があります。 この記事では、一般歯科での歯列矯正と、その他の歯科医院での歯列矯正の違いなどを詳しく紹介するとともに、歯列矯正を受けるときはどこに相談するべきかなどを解説します。
歯列矯正とは
歯列矯正とは、歯に専用の装置を取り付け、一定の力を加え続けることで、歯並びを整えていく治療のことを指します。
歯並びを整えることによって、口元の見た目を美しくできるほか、噛み合わせが改善されてしっかりとした咀嚼を行えるようになり、健康面でもよい影響が期待できます。
歯列矯正の方法
歯列矯正は、専用の矯正装置を使用して行われます。
矯正装置にはさまざまな種類がありますが、特によく利用される方法として、金属製のワイヤーを使用して行うものと、マウスピース型矯正装置を使用して行うものがあります。 金属製のワイヤーを使用する方法は、歯の表面や裏側にブラケットと呼ばれる器具を専用の接着剤で取り付け、そこに形状記憶の働きをもつワイヤーを通し、ワイヤーがもとの形に戻ろうとする力を利用して歯並びを整えてます。
どの程度の強さのワイヤーを使用するかなど、細かい調整によって歯の動き方が変わってくるため、歯科医師の知識や技術によって治療効果が変わりやすいという特徴があります。
また、ワイヤーを使用する治療は歯をさまざまな方向に動かしやすく、重度の歯並びの悪さでも対応しやすい治療法です。 マウスピース型矯正装置は、患者さんの歯ならびを少しだけ理想的な状態に近づけるようなマウスピースを、一定期間で交換しながら、毎日決まった時間はめておくことで、歯並びを整えていく治療法です。
マウスピースは、口腔内スキャナーなどによって撮影された患者さんの歯型のデータから、コンピューターが自動的に計算を行ってデザインされ、それをもとにメーカーが作成したものを使用します。
口腔内スキャナーなどの機器が必要となりますが、過去のさまざまな症例データなどから、自動でマウスピースの作製が進められるため、歯科医院としては手軽に導入しやすい治療法です。
マウスピース型矯正装置での治療は、例えば歯を歯茎から引っ張り出すといった動かし方が難しいなど、歯並びの状態によっては十分な治療が行いにくい場合もあります。 その他にも、子どもの顎の発達を促進することで、自然と歯並びが整う状態を目指す治療など、歯列矯正にはさまざまな特徴をもった治療法があります。
歯列矯正の治療の流れ
歯列矯正の治療は、治療法によって詳細な流れが異なりますが、大まかにいえば、カウンセリングと検査、歯型の採取と矯正装置の用意、矯正治療の実施、保定という段階で治療が行われます。 カウンセリングと検査では、患者さんがどのような悩みを持っているのか、どういった歯並びを目指したいのかを歯科医師が確認し、X線撮影などで歯列矯正が可能かどうかを調べます。
検査の結果、むし歯や歯周病などが見つかった場合は、歯列矯正の前に歯の治療が必要になることもあります。 歯列矯正を受けることができると判断された場合は、歯型を取り、矯正装置の準備が行われます。
マウスピース型矯正装置による治療では、口腔内スキャナーで撮影したデータからマウスピースが設計され、そのデータをもとに、治療開始から終了までのマウスピースが一気に作成されます。 そして、矯正装置の準備が整ったら、実際に装置を装着して、歯列矯正の治療がスタートします。
ワイヤーによる歯列矯正の場合、定期的な通院で歯科医師が歯に適度な力がかかり続けるようにワイヤーを調整し、歯の動きをサポートしていきます。
マウスピース型矯正装置の場合は患者さんが定期的にマウスピースを交換しながら、毎日20時間以上(食事や歯磨きのとき以外は常に)装着し続けることで治療を進めます。ただしマウスピース型矯正装置による治療の場合も、歯の動きや、口腔内にトラブルがないかを確認するため、定期的な通院が必要です。 歯が理想とする位置まで移動したら、歯の位置を固定するための保定という対応が行われます。
保定は歯を動かすのにかかった時間と同じ時間の対応が必要といわれ、2年間程度しっかりと取り組む必要があります。
歯列矯正を提供するクリニックの分類
歯列矯正を受けることができる歯科医院は、大きく下記のように分類することができます。
歯列矯正にも対応する一般歯科
歯列矯正を行うクリニックとして、特に数が多いのが、歯列矯正の治療を含め、さまざまな歯科診療を取り扱う一般歯科です。
むし歯などの一般歯科診療を中心に、幅広い歯科診療に対応し、歯の定期的なメンテナンスなどを含めて気軽に受診しやすい点が特徴です。
大学病院などの矯正歯科
専門性が高い歯列矯正を提供している医療機関として、大学病院などの矯正歯科が挙げられます。
大学病院は研究機関や研修期間としての側面も持ち合わせているため、先進的な治療などが期待できます。
矯正歯科を専門的に行うクリニック
歯科医院のなかには、歯列矯正を専門的に取り扱い、一般歯科診療は基本的に対応していないクリニックがあります。
歯列矯正のみに対応することで、専門性の高い診療を提供しています。
一般歯科で歯列矯正を受けるメリットとデメリット
一般歯科で歯列矯正を受ける場合のメリットやデメリットは、下記のとおりです。
むし歯の治療なども受けられる
一般歯科は、むし歯の治療なども広く対応しているため、歯列矯正に限らず歯の健康を幅広く相談することができます。
歯列矯正はむし歯や歯周病があると治療を行えませんが、一般歯科であれば同じクリニックで歯の治療から歯列矯正まで受けることが可能で、歯列矯正の治療中にむし歯などが見つかった場合も、素早く必要な治療を受けやすいといえます。
長期的に相談しやすい
一般歯科は、歯の健康を維持するための歯科検診などを提供しているので、歯列矯正を始める前や終わった後も、かかりつけ医として長期的に利用することができます。
歯列矯正の経験が不十分な可能性がある
一般歯科での診療は、歯列矯正以外の治療が主体であるケースが多く、歯列矯正の診療経験だけで見ると、十分な経験があるとはいえない可能性もあります。
また、一般歯科では対応している歯列矯正の治療法も限定される場合があり、患者さんの歯の状態や目的に対して、必ずしもぴったりの治療が可能とはいえません。
大学病院などの矯正歯科での治療のメリットとデメリット
大学病院など、大きな病院にある矯正歯科で治療を受けるメリットやデメリットを紹介します。
専門性の高い歯科医師が在籍している
大学病院や総合病院などの大きな医療機関は、各診療科に専門性の高い医師が揃っていることが特徴の一つです。
歯列矯正の診療や研究を専門的に行う歯科医師が在籍している病院であれば、その専門的な知識や技術を活用した、精度の高い治療が期待しやすいといえます。
設備が整っている
大学病院や総合病院などの大きな医療機関は、高度な医療を実現するための先進的な設備が揃い、より詳細な検査などのうえでの治療を受けやすい点が特徴です。
治療中に何かトラブルが発生した場合でも、詳しい検査でその原因を突き止め、専門性の高い安心感のある治療を受けやすいといえるでしょう。
研修中のドクターが治療を担当する可能性がある
大学病院などの医療機関は、ドクターの育成期間としての役割も持っています。
そのため、研修中のドクターが治療を担当する可能性があり、必ずしも専門性の高い歯科医師による丁寧な治療を受けることができるとは限りません。
矯正歯科を専門的に行うクリニックでの治療のメリットとデメリット
矯正歯科の診療を専門的に行うクリニックでの治療は、下記のようなメリットやデメリットがあります。
幅広い歯列矯正方法に対応している
歯列矯正を専門的に行うクリニックは、ワイヤーを使用した従来の歯列矯正やマウスピース型矯正装置など、幅広い歯列矯正方法に対応しているケースが多い点が特徴です。
さまざまな治療法を取り扱っているため、要望に応じてさまざまな治療方法の提案を受けることが可能であり、自分にあった治療法を選びやすいといえます。
歯列矯正の専門的な知識を持つ歯科医師が対応
矯正歯科の診療を専門的に行うクリニックは、歯列矯正の経験が豊富な歯科医師が診療を行っていることが多く、専門性の高い知識に裏付けされた治療が期待できます。
歯列矯正に必要な医療機器が揃う
歯列矯正を専門的に取り扱うため、医療機器も歯列矯正に必要な設備に絞って導入されていることが多く、先進的な医療機器を使用した治療を受けやすい点がメリットの一つです。
むし歯治療などは一般歯科で受ける必要がある
矯正歯科を専門的に対応している歯科医院は、むし歯などの治療が行えず、歯の治療の前や治療中に歯のトラブルが見つかった場合、別のクリニックで治療を受ける必要が生じることがあります。
また、歯列矯正に関係しない診療を受けにくいため、長期的に相談できるかかりつけ医としての付き合い方が難しい点も、一つのデメリットといえます。
一般歯科で歯列矯正を受けても大丈夫?
歯列矯正は、専門性の高い知識や技術が必要となる治療のため、患者さん一人ひとりの状態や要望にぴったりの治療を求めるのであれば、歯列矯正を専門的に取り扱う矯正歯科に相談した方がよいケースが多いでしょう。
ただし、だからといって一般歯科で歯列矯正を受けるべきではないということではなく、治療の目的などに応じて、適切な歯科医院を受診することが大切です。
下記のようなケースであれば、一般歯科でも納得感のある歯列矯正を受けやすいといえます。
難しい症例でなければ治療を受けやすい
歯並びの悪さが重度であるなど、難しい症例の場合は、より専門性の高い診療が求められるため、一般歯科よりも矯正歯科での専門的な治療がおすすめです。
一方で、例えば前歯の歯並びだけを、部分矯正で気軽に治療したいなど、難しい症例でなければ一般歯科でもしっかりとした治療を受けやすいといえます。
歯列矯正を専門的に行う医師に相談できるケースもある
一般歯科を中心に取り扱う歯科医院であっても、場合によっては月に何回か、歯列矯正を専門的に行う歯科医師による、治療相談会を開催している場合があります。
こういった取り組みを利用すると、いつも通っている歯科医院で専門性の高い治療も受けやすくなります。
一度は歯列矯正を専門的に行う歯科医院で相談してみましょう
近年、マウスピース型矯正装置を使用した治療法など、手軽に受けやすい治療が導入されている歯科医院も増え、一般歯科でもさまざまな症例をベースにした歯列矯正を受けやすくなってきています。
しかし、やはり歯列矯正には専門性の高い知識や診療技術が必要となる場面も多く、手軽な治療だけでは目指したい治療結果を達成しにくいという場合もあります。
満足度の高い歯列矯正を受けるためには、何よりも自身の歯の状態や目的にぴったりの治療を受けることが重要なので、歯列矯正を専門的に行う歯科医院のカウンセリングを一度は受けてみて、そのうえで自分にあっていると感じられる治療を選ぶとよいのではないでしょうか。
まとめ
一般歯科での歯列矯正は、手軽に治療を受けやすい点や、むし歯などのトラブルもすぐに適切な治療を受けやすいというメリットがある一方で、歯列矯正を専門的に取り扱う歯科医院と比べると、選択できる治療法が制限されてしまうなどといったデメリットも存在します。 歯列矯正は歯科診療のなかでも専門性の高い知識や技術が必要とされる治療なので、歯並びの悪さが重度であるなど、難しい症例の治療や、より精度の高い治療を求めるのであれば、歯列矯正を専門的に取り扱う歯科医院での治療も選択肢に入れて検討した方がよいといえるでしょう。 最終的には、治療を受ける本人が、安心感をもって積極的に取り組める方法で治療を進めることが重要なので、歯列矯正を専門的に行う歯科医院や、かかりつけの歯科医院など複数の歯科医院で治療の相談を行い、納得できる治療を受けられる歯科医院を利用してみてはいかがでしょうか。
参考文献