フッ素塗布は大人にも有効なむし歯予防方法ですが、デメリットやリスクも存在します。本記事ではフッ素塗布の効果・方法から、大人に特有の注意点やメリット、さらに費用や過剰摂取など安全性に関する疑問まで徹底解説します。
フッ素塗布の役割と効果

日常的に使っている歯磨き剤でも、フッ素入りなどの文字を見たことがあると思います。なんとなくむし歯にならないために必要なんだろう、と知ってる方は多いですが、フッ素にはどのような効果があるのでしょうか。この章でフッ素塗布の役割と効果を詳しく解説します。
フッ素塗布とは
フッ素塗布とは、歯科医院や家庭で、歯の表面にフッ素を直接塗る処置です。主にジェルや泡、液体状のフッ素製剤を用います。主な目的としては、歯のエナメル質を強化し、むし歯を予防するために行われます。市販でもフッ素入り歯磨き剤はありますが、歯科医院で使用されるフッ素塗布剤は、より高濃度なのが特徴です。この高濃度なフッ素を塗布できるのは、歯科医師や歯科衛生士といった専門家のみです。
幼児からの定期的なフッ素塗布が推奨されていますが、成人や高齢者においてもむし歯予防や歯周病のリスク低減の目的で注目されています。
しかし、子どもの歯である乳歯と大人の歯である永久歯とでは、フッ素塗布を行う目的は以下のように異なります。
子どもの方がむし歯になりやすいというのは何となく知っている方も多いと思いますが、それには理由があります。歯の表面は、エナメル質という層があり歯がむし歯にならないように守っています。このエナメル質は人体の組織のなかで一番硬いといわれていますが、子どものエナメル質は大人と比較すると薄いためむし歯になりやすいといわれています。子どものフッ素塗布の目的は主に、このエナメル質を強化することです。
一方、大人のフッ素塗布は永久歯のエナメル質の強化も目的の一つではありますが、大人の歯は加齢や歯周病により歯茎が退縮し定期、歯の根っこ部分の象牙質(エナメル質の内側でエナメル質より弱い)が露出します。露出部分は菌や酸に弱くむし歯のリスクとなります。また、過去のむし歯治療による詰め物や被せ物の境にたまる歯垢もむし歯のリスクとなり、これらを防ぐ目的も大人のフッ素塗布の重要なポイントです。
フッ素塗布の効果
フッ素塗布には、以下のような効果があります。
具体的な効果 | 解説 |
---|---|
むし歯の発生予防 | フッ素が歯の表面に作用し、歯質を強化して酸に負けにくいエナメル質を作ります。フッ素塗布を行うことで、エナメル質に取り込まれ、従来のエナメル質よりも、より酸に対する抵抗力の強いフルオロアパタイトを形成し、むし歯にならないように歯を守ることができます。 |
歯の再石灰化の促進 | 脱灰(歯が溶ける現象)が起こった部位では、唾液により再石灰化が行われますが、再石灰化を促進することで、初期むし歯においては、再石灰化(もとに戻す働き)も促すことで、むし歯の進行を防ぎ歯の傷を修復していくサポートをします。 |
細菌の活動抑制 | フッ素は、抗菌作用も有します。お口の中の糖分を餌として酸を生成することでむし歯を引き起こすむし歯菌(ミュータンス菌など)が酸を産生する働きを弱め、口腔内のむし歯リスクを下げる効果が報告されています。 |
以上のように、フッ素塗布はむし歯予防や歯の健康維持に欠かせない役割を果たします。特に成人では、加齢や歯茎の下がりによる根面う蝕の予防にも効果が期待できるため注目されています。
フッ素塗布の方法
フッ素塗布の方法には、歯科医院で行う専門的な方法と、自宅でのセルフケアがあります。
市販で買える高濃度フッ素の歯磨き剤に含まれるフッ素濃度は900ppm〜1450ppm程度ですが、歯科医院で使用されるフッ素の濃度は約9000ppmです。500ppmフッ素濃度が高くなると6%むし歯予防効果が上昇するといわれています。
市販の歯磨き剤に含まれるフッ素濃度は薬事法により1500ppmが上限となっています。そのため、十分なフッ素塗布によるむし歯ケアを行うのは自宅では限界があり、歯科医院での施術が必要となります。
ですので、歯科医院で行うフッ素塗布では、高いむし歯予防効果を期待できます。一方、自宅で使用できる歯磨き剤では歯科医院と比較しフッ素濃度が低いとはいえ、継続的なケアを行うことが効果を維持するうえで重要です。それぞれの利点を活かし、ケアを両立することが大切です。
大人におけるフッ素塗布のデメリット

大人になってからのフッ素塗布は上述のとおりむし歯の発生予防から初期のむし歯の修復や歯そのものの強化など多くのメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットや注意点も存在します。デメリットや注意点もしっかりと把握し、安心して自分にあったケアの方法を考えましょう。この章では、以下に代表的なデメリットを詳しく解説します。
過剰摂取のリスクがある
これは大人に限ったことではないですが、フッ素を大量に摂取することでフッ素中毒や慢性的な健康被害が報告されています。通常の歯科治療で推奨される範囲を大きく超えてフッ素を摂取しない限り、健康へのリスクは低いとされていますが、複数のフッ素入り製品を併用する際には摂取量の管理が必要です。過剰摂取が続くと、歯のエナメル質の表面に白く不規則な斑点が現れたり、密度は高いものの脆い歯や脊椎や靭帯の石灰化を招くおそれがあります。
費用がかかる
幼児からのフッ素塗布は生後半年から永久歯がすべて生え揃う15歳頃までのフッ素塗布による予防がすすめられています。フッ素塗布の間隔は3〜6ヶ月に1回程度であり、病院により費用は異なりますが、1回あたり1,000~2,000円が多いです。小児の間はより低価で提供されている歯科医院もありますが、大人の場合は基本的に上述の費用がかかります。フッ素塗布は高齢者のメンテナンスとしても行うことができるため、数十年間の費用という面で見ると費用がかかることになります。しかし得られるメリットも大きいことも事実です。
アレルギー反応が生じることがある
多くの薬剤や食品にいえることであり、また、まれなケースではありますがアレルギー反応を起こす可能性があります。現実には、フッ化物でのアレルギーは文献的には認められていませんが、フッ化物洗口という低濃度のフッ化物水溶液を使ったうがいケア時に洗浄液に含まれる成分によるアレルギー反応が認められるケースは起こりえるといわれています。この場合もフッ素自体でのアレルギーは科学的には認められていません。そのため、過去に食品や薬物によるアレルギー反応を起こしたことがある方や、日々のケアのなかでアレルギー反応を疑うような症状が見られる際は医療機関を受診されるようにしてください。
大人におけるフッ素塗布のメリット

フッ素塗布は子どもだけでなく、大人にとっても多くのメリットがあります。加齢や生活習慣による歯のリスクが高まる大人だからこそ、フッ素の効果的な活用が重要です。ここでは、大人のフッ素塗布に期待できる主なメリットを解説します。
むし歯予防
フッ素塗布の特に大きなメリットは、むし歯予防効果です。フッ素は歯のエナメル質に取り込まれ、酸による脱灰(歯が溶け出す現象)を抑え、再石灰化(溶けたミネラルの再沈着)を促します。
歯が酸によって傷ついた部分は身体の生体反応として再石灰化を行い修復をしますが、その再石灰化をサポートしてくれます。
また、歯垢(プラーク)内のむし歯菌が出す酸の産生を阻害する働きもあるため、大人でもむし歯の発症リスクを軽減できます。特に加齢や歯茎の後退によって根元が露出しむし歯になりやすい方にも有効です。
歯周病予防
フッ素は歯周病菌の増殖抑制や酸の産生抑制にも役立ちます。大人では歯肉炎や歯周病の罹患率が高くなりますが、フッ素による歯垢中の細菌活性の低下効果が歯周病予防にも寄与します。
さらに、歯周病により露出した歯の根面(象牙質)はむし歯にもなりやすいため、フッ素塗布によって歯茎下がりによるリスク対策も期待できます。
エナメル質の強化
強い酸性飲食物の摂取や加齢、歯ぎしりなどで傷つきやすくなる大人の歯のエナメル質ですが、フッ素はエナメル質に取り込まれ、ミネラル成分(カルシウムやリン酸)と結合し、「フルオロアパタイト」と呼ばれるエナメル質よりも硬度が高いといわれ、酸から歯を守る物質となります。そうすることで、従来のエナメル質そのものを強化し耐酸性を高めます。これにより、歯が溶けたり傷んだりするのを日常的に防ぐ手助けとなります。
大人のフッ素塗布の疑問

上述のとおり大人においてもフッ素塗布は有効な予防ケアですが、なかには「フッ素塗布は危険」と聞いたことがあったり、「実際にはどれくらいの間隔でフッ素塗布をしてもらえばいいの?」など、疑問が浮かんだかもしれません、この章ではよくある大人のフッ素塗布の疑問について丁寧に解説します。
フッ素塗布が危険といわれる理由
一部で「フッ素塗布は危険」といわれる理由として主に過剰摂取による健康被害のリスクが挙げられます。フッ素はむし歯を予防する効果が高い成分ですが、過剰に摂取した場合にはフッ素中毒や歯のフッ素症が発生することがあるため、安全性について懸念の声があがることがあります。しかしながら、日本の歯科医院で使用されているフッ素濃度や使用頻度は、正しく施術を受ける分には重篤な健康被害が起きるリスクは低いとされています。日常的な歯みがき剤やうがい薬に含まれるフッ素も、表示された用法・用量を守ることが重要です。
大人のフッ素塗布の頻度
大人がフッ素塗布を受ける適切な頻度は、個人のむし歯リスクやお口の状態によって異なります。一般的には、3ヶ月〜6ヶ月に1回の定期的なフッ素塗布が推奨されています。むし歯になりやすい体質や、歯周病の治療中の方、歯列矯正中の方、唾液量が少ない方などリスクの高い場合は、歯科医師と相談し、より短い間隔でのフッ素塗布を検討する場合もあります。歯科医院では、個々のリスク評価に基づき、適切な塗布頻度を提案しています。
歯科医院でのフッ素塗布と自宅でのセルフケアの違い
歯科医院でのフッ素塗布と、自宅で行うセルフケア用フッ素の使用には、濃度・方法・効果の持続時間などに違いがあります。歯科医院のフッ素塗布では、主に9000ppm程度の高濃度フッ素製剤を用い、歯面に直接塗布するため、エナメル質への取り込みが効率的に行われ、むし歯予防効果が高まります。一方、市販の歯みがき剤やうがい薬は、約1000~1500ppmと低濃度に設定されており、継続的な使用によってむし歯リスクを抑える”補助的役割”が中心です。
まとめ

大人のフッ素塗布には、むし歯や歯周病予防、エナメル質強化などのメリットが多くありますが、実際に定期的に行っている方は少ないと思われます。今回の記事が、大人においてもフッ素塗布の重要性を知り、将来に渡って自分の歯を大切にして過ごすきっかけとなれば幸いです。
参考文献