「最近、歯の表面が黒くなってきた。もしかしたら、私の歯はむし歯かもしれない」と思ったことはありませんか。むし歯の症状の一つに歯が黒くなることがあります。しかし、歯の表面が黒くなる原因は、むし歯以外にも存在します。そのため、必ずしもむし歯とは限りません。そこで、本記事では、むし歯の進み方、むし歯と間違えやすい症状、むし歯を疑ったときの受診の目安までを解説します。
むし歯とは

むし歯は、虫に食われたように穴があく病気のため、むし歯と呼ばれています。医学的には齲蝕(うしょく)と呼ばれ、齲の字は、歯が虫におかされると書きます。まさにその名のとおり、歯の表面が少しずつ溶け、黒ずんだり穴が空いたりする病気です。とはいえ、実際に虫がいるわけではありません。では、むし歯はなぜ起こるのでしょうか。その原因をみていきましょう。
むし歯の概要
むし歯は、細菌が作る酸で歯が溶ける病気です。主な原因は、お口の中にすみつくミュータンス菌が、食べ物や飲み物に含まれる糖質をエサにして酸を作り、酸が歯を溶かすことです。むし歯は、次の3つの条件が重なり、さらに時間が経過することで発生します。
- 酸を作る細菌(主にミュータンス菌)
- 酸に弱い歯の質(抵抗力)
- 細菌のエサとなる糖質(特に砂糖)
むし歯の進み方
むし歯は、歯の表面にあるエナメル質からミネラルが少しずつ溶け出す(脱灰)ことで進行します。通常は、唾液の働きによってお口の中のpHが中性に戻ると、唾液に含まれるリン酸やカルシウムの力で、歯は自然に修復されます(再石灰化)。しかし、糖分を頻繁に摂取していると、お口の中が酸性の状態が長く続き、再石灰化が追いつかなくなります。その結果、脱灰が進み、むし歯は進行します。
自分でむし歯をチェックするための準備

むし歯のセルフチェックを始める前に、以下の準備をしておきましょう。適切な準備を整えることで、より正確に歯の状態を観察できます。
【準備するもの】
- 明るい照明と鏡
- デンタルミラー(あれば)
- デンタルフロスや歯間ブラシ
まず、歯をしっかり観察できるように、明るい照明と鏡を準備しましょう。洗面所の照明だけでは暗い場合もあるため、デスクライトなどを使ってお口の中がはっきり見える明るさを確保することが大切です。さらに、デンタルミラーがあると、奥歯の裏側や歯と歯の隙間など、ふだん見えにくい部分まで確認しやすくなります。
また、セルフチェックを始める前には、歯ブラシで歯の表面を丁寧に磨くことが重要です。食べかすやプラークが残っていると、むし歯の兆候が隠れてしまい、正確な観察ができません。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシを使って歯と歯の間も清掃しておくと、見落としやすい部分の状態も把握しやすくなります。
進行度別|むし歯と正常な歯の見分け方

むし歯の進行度は、歯の組織のどこまでむし歯が達しているかによって、COからC4までの段階に分類されます。ここでは、むし歯の進行段階ごとに見られる歯の変化や、自覚症状の違いについて解説します。
CO
CO(シーオー)は、エナメル質のカルシウム分が失われることで、歯の表面のつやがなくなり、白く濁って見えたり、薄い茶色に変色したりするのが特徴です。この段階では、痛みなどの自覚症状はほとんどなく、自分では気付きにくいこともあります。健康な歯はやや透明感がありますが、COの歯は白く濁って見えるため、見た目の違いから判断できる場合があります。特に前歯は光が当たりやすいため、色の変化に気付きやすい一方で、奥歯は見えづらく、自分で発見するのが難しいため注意が必要です。
C1
C1は、むし歯が歯の表面にあるエナメル質まで進行し、実際に穴があいた状態です。この段階では、歯の表面に黒い着色や白い斑点が見られ、舌で触れるとザラザラとした感触があります。エナメル質には神経が通っていないため、痛みやしみるような自覚症状はほとんどありません。そのため、見た目に気付かないと、放置されやすい傾向があります。ただし、歯の表面に明らかな変色や小さな穴が確認できることが多く、早期発見とケアによって進行を止められる可能性があります。
C2
C2は、むし歯が象牙質(ぞうげしつ)まで進行した状態です。象牙質は、歯の表面にあるエナメル質の内側にあり、歯髄(しずい)と呼ばれる歯の神経に近い層でもあります。この段階になると、冷たい飲食物がしみるほか、むし歯の進行によっては熱いものでも痛みを感じることがあります。こうした症状が現れるのは、象牙質に神経とつながる細かな管(象牙細管)が通っており、外からの刺激が神経に伝わりやすくなるためです。そのため、C2では痛みや知覚過敏といった自覚症状から気付くケースも少なくありません。
C3
C3は、むし歯が歯髄まで達した状態です。この段階では、むし歯菌の感染が神経まで広がり、炎症が強くなることで、常にズキズキとした激しい痛みが生じます。何もしていなくても痛む、鎮痛剤が効きにくい、痛みで眠れないなど、日常生活に支障が出ることも少なくありません。また、熱いものがしみるようになるほか、炎症によって圧迫された神経からズキズキと脈打つような痛みが出るのも特徴です。このような症状がある場合は、むし歯がC3まで進行している可能性が高く、早急な歯科受診が必要です。
C4
C4は、歯冠が崩壊し、歯根だけの状態です。歯の大部分が溶けてしまい、歯根だけが残る状態です。この段階では、歯髄が死んでしまい、痛みがなくなる場合があります。しかし、身体の免疫力が低下した際に急に腫脹し著しく痛むことがあります。
むし歯と間違えやすい歯の状態や症状

歯が黒く見えたり、冷たいものがしみたりしても、必ずしもそれがむし歯とは限りません。
実は、むし歯以外の原因でも、歯の色や感覚に変化が起こることがあります。ここでは、むし歯と間違えやすい歯の症状や状態について、いくつかご紹介します。
歯が黒くなっている
歯が黒くなる原因のひとつに、コーヒーや紅茶、喫煙などによる着色汚れ(ステイン)があります。着色汚れは歯の表面に色素が付着している状態で、適切な歯磨きや歯科でのクリーニングによって除去が可能です。一方で、むし歯による黒ずみは、歯の内部にまで変化が起こっている状態であり、放置すると時間とともに進行します。
見分け方のポイントは以下のようなものがあります。
- 黒ずみの範囲や深さ
- 舌や爪で触れたときの感触(ザラザラしているかどうか)
見た目だけでは判断が難しい場合も多くあります。特に奥歯のむし歯は、自分では見えにくい位置にできることが少なくないため、専門的な診断が必要です。
冷たいものや熱いものがしみる
歯がしみる原因の一つに象牙質知覚過敏症(ぞうげしつちかくかびんしょう)があります。知覚過敏は、エナメル質が薄くなったり、歯茎が下がったりして象牙質が露出し、外部からの刺激が神経に伝わりやすくなって起こります。むし歯と知覚過敏の主な違いは、症状の持続時間としみる範囲です。
知覚過敏の場合、冷たいものに触れた瞬間だけしみて、刺激がなくなればすぐに症状が治まるのが特徴です。
むし歯の場合、しみる症状が持続しやすく、進行すると温かいものでもしみるようになることがあります。
また、むし歯は特定の1本の歯に症状が集中するのに対し、知覚過敏は複数の歯にまたがって症状が出ることもあります。ただし、症状の現れ方には個人差があり、自己判断では見分けが難しいこともあります。しみる症状が続く場合は、早めに歯科医院で診断を受けることが大切です。
噛むと痛みがある
噛んだときの痛みは、さまざまな原因によって起こることがあります。代表的な原因は以下のようなものが挙げられます。
- 歯のひび割れ(クラックトゥース症候群)
- 歯周病
- 噛み合わせの異常
例えば、硬いものを噛んだときに痛みがある場合は、歯に小さなひびが入っている可能性があります。むし歯による痛みは、通常むし歯が進行して神経に近づいたり、神経まで達した場合に生じます。一方、歯のひび割れによる痛みは、噛む方向や力の加わり方によって痛みの程度が変わるのが特徴です。また、歯周病が原因の場合は、歯を支える組織に炎症が起こっており、歯茎の腫れや出血などを伴うことが多くあります。さらに、噛み合わせの異状によって、特定の咬み方をしたときだけ痛みが出るケースもあります。
むし歯が疑われる際の受診目安と歯科医院での検査内容

むし歯の疑いがある場合、適切なタイミングで歯科医院を受診できれば、より効果的な治療が可能になります。早期発見、・早期治療は、歯を保存し、治療期間や費用を抑えるために重要です。
むし歯で受診する目安
むし歯は初期の段階ではほとんど自覚症状がないため、症状がなくても定期的に歯科医院を受診することが大切です。しかし、むし歯が進行すると、さまざまな痛みが現れるようになります。
例えば、何もしていないのにズキズキと痛みが続いたり、特に夜間に眠れないほどの痛みがある場合は、歯の神経に炎症が広がっている可能性があり、できるだけ早めの受診が必要です。また、冷たい物や熱い物を口にしたときに痛みがしばらく続く場合も、むし歯が歯の内側まで進行している可能性があります。たとえ痛みが一時的であっても、繰り返し起こるようであれば早めに歯科医院を受診することが大切です。
さらに、噛んだときだけ痛みを感じる場合には、歯にひびが入っていたり、根の部分にトラブルがあることも考えられます。こうした症状を放置すると悪化するおそれがあるため、少しでも気になることがあれば、早めに歯科医に相談しましょう。
歯科医院で行われるむし歯の検査
歯科医院では、主に問診、視診、触診、X線検査、透過診などが行われます。問診では、歯がしみる、歯や歯茎の痛み、歯の色の変化などの自覚症状を確認します。生活習慣として、甘い物を頻繁に食べるか、間食のタイミング、歯みがきの回数や時間帯、フロスや歯間ブラシの使用状況、定期的な歯科受診の有無など、詳しく聞き取ります。自覚症状と生活習慣の情報は、う蝕のリスクや進行状況を予測する手がかりになります。
視診では、明るい光と鏡を使って口腔内をよく観察し、むし歯のリスクや歯の清掃状態などを確認します。より正確に見るために、拡大鏡を使うこともあります。触診は、細い器具(探針)を使って歯の状態を調べる方法です。歯垢などを取り除きながら、強い力を加えずに、歯の表面の感触をやさしく確かめる方法です。
X線検査は、見えにくい歯と歯の間のむし歯を発見するのに役立ちます。ただし、歯の表面にとどまる初期のむし歯は写りにくいことがあります。そのため、目で見る視診とエックス線検査をあわせて使うことで、より正確にむし歯を見つけることができます。透過診は、光を使って歯の内部を調べる検査です。健康な歯は光を通しやすく明るく見えますが、むし歯がある部分は光が通りにくく、暗く見えるのが特徴を使い、むし歯を発見していきます。
まとめ

むし歯は、初期の段階であれば歯を削るなどの治療が不要な場合もあります。再石灰化によって自然に回復することもあり、早期発見・早期対応がとても重要です。一方で、むし歯が進行してしまうと、場合によっては抜歯が必要になることもあります。そのため、症状が軽いうちに歯科医院を受診し、必要に応じて適切な治療を受けることが、歯を守るうえで効果的です。
大切なのは、歯に変化や違和感があったときに放置せず、まず専門家に相談すること。
むし歯かどうか自己判断が難しい場合も、歯科医師による診察で原因を特定し、適切なケア方法を選ぶことができます。不安や疑問を一人で抱え込まずに、気軽に歯科医院へ相談してみてください。早めの対応が、将来的な治療の負担を軽くする第一歩になります。
参考文献
- https://www.hozon.or.jp/member/publication/guideline/file/guideline_2015.pdf
- https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/trouble/01-1/
- https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-02-001
- https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth-summaries/h-02.html
- https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/cavities/symptoms-causes/syc-20352892
- https://www.cochrane.org/CD004346/ORAL_how-often-should-you-see-your-dentist-check