歯が抜けたり欠けたりして、差し歯の歯科治療を受けた方は少なくないでしょう。しかし、時が経つにつれて、過去に治療した差し歯の裏側や歯茎に黒ずみが発生することがあります。
黒ずみが発生すると、見た目の問題だけでなく、口腔内の健康状態が気になる方もいるでしょう。本記事では、差し歯の裏側が黒くなる原因と、その治療法や歯茎の黒ずみを予防するためのポイントについて解説します。
差し歯による見た目を気にしている方やすでに黒ずみが確認できる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
差し歯の裏が黒くなる原因

差し歯の裏が黒くなる原因は、大きく7つに分類されます。
- 金属イオンの浸出
- 金属の土台の腐食
- 歯茎の退縮による金属の露出
- 黒い歯石の付着
- むし歯
- 炎症によるメラニン色素の沈着
- 着色汚れ
それぞれの原因について、詳しく解説していきましょう。
金属イオンの浸出
金属イオンの浸出と聞くと難しく感じる方もいるかもしれませんが、差し歯に使用されている金属によって起こる金属アレルギーのことです。
差し歯には金銀パラジウム合金やニッケルクロム合金などの金属が使用されているものがあります。
唾液や差し歯の経年劣化によって、金属イオンが溶け出して体内に入り込むと、免疫機能によって異物が混入したと判断されてアレルギー反応が現れます。
アレルギー反応は歯茎が薄い方や金属が使用された差し歯を長期間つけている方、ピアスやネックレスなど金属のアクセサリーで金属アレルギーが出た方に起こりやすいため、注意が必要です。
金属アレルギーを一度発症してしまうと、一生続くとされています。
金属イオンが溶け出し、歯茎や差し歯の裏側に付着して黒ずみとして認識できる場合は、金属アレルギーを発症する前に歯科医院を受診することが大切です。
金属の土台の腐食
差し歯は歯茎に土台となるコアを入れ、クラウンと呼ばれる被せ物を用いて形成されています。金属のコアを使用している場合、唾液や口腔内の環境によって金属が腐食する場合があります。
歯や歯茎に黒ずみが見られる場合は、腐食した生成物が歯や歯茎に付着している可能性も考えられるでしょう。
歯茎の退縮による金属の露出
歯茎に入っている差し歯の金属コアが見えてしまい、黒ずみに見える原因になっていることもあります。
歯茎は歯磨きの力が強すぎたり、加齢や歯周病によって徐々に下がったりすることがあります。
歯茎が下がると、結果として差し歯内部の金属コアが露出して、黒ずみに見えるため注意が必要です。
特に差し歯を入れてから時間が経っている場合は、歯茎が下がって金属コアが露出しやすくなる可能性が高まります。
黒い歯石の付着
歯石は白色や黄白色をしていることがほとんどですが、喫煙や褐色の飲食物を好む方は黒い歯石が付着することがあります。褐色の飲食物は以下のとおりです。
- コーヒー
- 紅茶
- 番茶
- ウーロン茶
- コーラ
- カレー
- 赤ワイン
褐色の飲食物摂取量が増えると、歯石に色素が沈着して黒ずみになる可能性が高まります。
特に差し歯の裏側は、歯磨きがやりづらかったりクラウンが染まりやすかったりする傾向にあります。
むし歯
むし歯も差し歯の裏側や歯茎に黒ずみができたようにみえるため、注意が必要です。
差し歯にはわずかなすき間があるため、細菌が侵入すると差し歯と歯の境目から新たなむし歯が発生することがあります。歯の境目がむし歯になることで、差し歯の裏側が黒ずみにみえます。
歯磨きが不足している場合や差し歯と歯の境目にすき間がある場合、差し歯を長期間交換していない場合はむし歯になりやすいため注意しましょう。
炎症によるメラニン色素の沈着
歯周病をはじめとした口腔内の炎症は、慢性化すると歯茎の組織が赤黒くなります。炎症によってメラニン色素が過剰に生成されることで、歯茎が黒ずんでみえます。
金属イオンが溶け出したり、歯茎の退縮やむし歯が発生したりすることとは異なり、差し歯の裏側よりも歯茎全体が黒ずんでみえるのが特徴です。
着色汚れ
差し歯は通常の歯よりも表面がザラザラしています。そのため、コーヒーや紅茶、カレーなどの色が濃い飲食物を多様に摂取すると差し歯に着色汚れがつきやすくなります。
差し歯だけでなく歯石にも着色汚れがつきやすいため、注意が必要です。
差し歯の裏が黒くなった場合の治療法

ここからは、差し歯の裏が黒くなった場合の治療法をみていきましょう。治療法は以下の6つです。
- 被せ物を非金属のものに交換
- 土台を非金属のものに交換
- レーザー治療
- 歯石除去
- むし歯治療
- 歯のクリーニング
では、詳しく解説します。
被せ物を非金属のものに交換
差し歯の金属が溶け出している場合や腐食によって黒ずみが発生している場合は、差し歯をオールセラミッククラウンやジルコニアクラウンなどの非金属のものに交換します。
非金属のものを使用することで金属アレルギーの心配もなく、人体と親和性の高い素材であるため、黒ずみが発生するリスクを軽減できます。
また、金属の差し歯よりも非金属のものは天然の歯に近い透明感と色合いを再現できるため、見た目が気になる方にもおすすめです。
土台を非金属のものに交換
差し歯は土台となるコアに被せ物をしている状態です。コアが金属の場合は、金属イオンの発生や歯茎の退縮などにより黒ずみが発生するため、非金属のものに交換することで悩みを解消できます。
非金属のコアにはグラスファイバーという素材があり、ハリや曲げの強度が歯根に似たしなやかさがあります。ファイバーコアを入れた後は、レジンで歯茎に入れている根本の部分を盛り上げて強度をつけることが一般的です。
天然の歯に見た目が近いことはもちろんですが、ほかの歯への負担が軽減されたり金属イオンが溶け出したりして黒ずみが発生する心配がないといった特徴があります。
レーザー治療
差し歯の裏側や歯茎に金属イオンが溶け出し、色素沈着を起こして黒ずみになっている場合は、レーザー治療での解消が期待できます。
歯科用レーザーを照射して沈着したメラニン色素を蒸散させ、健康的なピンク色の歯茎に戻すことが可能です。
レーザー治療は痛みが少なく、短時間の施術で済むため回復が早いことが特徴です。
ただし、色素沈着が広範囲であったり深くまで浸透していたりすると、レーザー治療だけではすべてを除去できない場合もあります。
歯石除去
黒ずみが歯石によるものであった場合は、歯石除去(スケーリング)を受けることで黒ずみを解消できます。
歯石は通常の歯磨きだけでは除去できないため、定期的に歯科医院で歯石除去を受けることが重要です。
ハンドスケーラーや超音波スケーラーを使用して、歯の表面に付着した歯石はもちろん、歯周ポケットの内部まで徹底的に除去します。
むし歯治療
差し歯の下や内側にむし歯が発生した場合には、差し歯を一度外してむし歯をすべて除去する必要があります。
むし歯は放置していると悪化するリスクが高まるため、早急な治療を受けることが重要です。むし歯の状況に応じて必要な処置を行ったうえで、新しい差し歯を装着する必要があります。
むし歯の進行具合によっては、歯の神経を抜く必要が出てくることもあります。痛みや腫れがひどい場合には、歯を失うことにもつながりかねません。
むし歯かもしれないと感じたら、早急に歯科医院を受診しましょう。
歯のクリーニング
差し歯や歯茎の黒ずみが着色汚れによるものだった場合は、歯のクリーニングによって解消できます。
プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング(PMTC)は、歯を研磨して汚れの除去と表面を滑らかにする治療法です。
歯のクリーニングは普段の歯磨きでは落としきれない、汚れやむし歯の原因となるバイオフィルムを除去できます。
細かいところまでクリーニングするとむし歯や歯周病の予防にもつながるため、定期的に受けることが重要です。
差し歯を選ぶときのポイント

差し歯には見た目の改善だけでなく、長期的な口腔内の健康を保つ役割があります。そのため、耐久性や生体親和性も重要であり、どのように差し歯を選べばよいのか迷う方も少なくありません。
まずは、差し歯の素材やどのような機能を差し歯に求めているのかを確認しましょう。差し歯の種類は以下のとおりです。
- ジルコニアボンド・インセラム
- 電鋳ポーセレン
- メタルボンド
- ハイブリッド
- 硬質レジン
ジルコニアボンドからメタルボンドまでは、セラミックが差し歯の素材になります。
見た目の美しさだけでなく、変色がしにくいことや摩耗のしにくさ、生体親和性が高いといったメリットがあります。また、セラミックは口臭が出にくいことも特徴です。
ハイブリッドはセラミックとレジン(合成樹脂)を合わせた差し歯です。性能はセラミックだけの差し歯より全体的に劣りますが、臼歯部に使用するには適した硬さがあります。
硬質レジンは保険適用となる治療法です。セラミックを使用した治療法は保険適用外となります。
見た目と耐久性や生体親和性、長期的な口腔内の健康を保つことを優先したい場合はジルコニアボンド・インセラム、金額面を優先したい場合は保険適用の硬質レジンがおすすめです。
患者さんの歯や歯茎の状況によりますが、要望は事前にしっかり伝えておくとよいでしょう。歯科医師と相談しながら差し歯を選ぶようにしましょう。
金属による黒ずみを防ぐためのメタルフリーの補綴物
金属による黒ずみを防ぐためには、メタルフリーの補綴物(ほてつぶつ)を使用した差し歯を選ぶことをおすすめします。メタルフリーの補綴物は以下のとおりです。
- ファイバーコア
- HJC・CAD/CAM冠
- ガラスセラミック
- ジルコニア
- オールセラミッククラウン
上記の補綴物は黒ずみを解決するだけでなく、さまざまな点で優れています。優れている点は、以下のとおりです。
- 天然の歯に近い透明感と色合いを再現できる
- 生体親和性が高い
- 長期間使用できる耐久性がある
- 熱伝導率が低いため冷たいものや熱いものを口にしてもしみにくい
- 表面に汚れやむし歯の原因となるプラークが付着しにくい
多くのメリットがあるメタルフリーの補綴物ですが、保険適用外での治療となるため費用は高くなる傾向にあります。
使用する素材や歯と歯茎の状態にもよりますが、メタルフリーの補綴物を使用した場合の治療費は100,000〜800,000円(税込)程度です。
また、治療期間は3〜6ヶ月程度かかり、通院の回数は平均5〜10回程度必要になります。
無理のない範囲でメタルフリーの補綴物を使用した治療を受けられるよう、歯科医師と治療スケジュールや費用についてしっかり相談することが大切です。
差し歯の裏や歯茎の黒ずみを予防するためのポイント
差し歯の裏側や歯茎の黒ずみを予防するためには、いくつかのポイントがあります。
- 丁寧な歯磨き
- デンタルフロスや歯間ブラシの使用
- 禁煙
- 褐色の飲食物の後には歯磨きを徹底する
- 歯科クリニックでの定期的なメンテナンス
まずは日常生活で行える禁煙や、特に褐色の飲食物の後は丁寧な歯磨きを徹底するといった基本的な予防対策を徹底しましょう。
通常の歯磨きだけでは、差し歯の周辺や歯と歯茎の境目に食べかすやプラークが残りやすくなります。食べかすやプラークは、むし歯や歯周病だけでなく、歯石の付着による黒ずみにつながります。
食べかすやプラークを除去するためには、歯磨きに加えてデンタルフロスや歯間ブラシを使用することがおすすめです。
歯ブラシは歯と歯茎の境目に対して、毛先を45度程度になる角度で優しく細かく動かしましょう。
デンタルフロスや歯間ブラシは、歯と歯の間や差し歯の裏側を丁寧に清掃することを心がけて行いましょう。電動の歯ブラシを使用することも丁寧な歯磨きに効果的です。
どれだけ日常生活で丁寧な歯磨きや口腔内の清掃を心がけていても、汚れやプラークの除去には限界があります。そのため、歯科医院で定期的なメンテナンスを受けることが重要です。
歯科医院でのメンテナンスは約3〜6ヶ月に一度の受診が推奨されています。
むし歯をいち早くみつけて治療することにも有効なため、ぜひ定期的にクリーニングを受けるようにしましょう。
まとめ

今回は、差し歯の裏側が黒くなる原因と、歯茎の黒ずみの治療法や予防するためのポイントについて詳しく解説しました。
差し歯の裏側や歯茎に発生する黒ずみには、さまざまな種類があります。金属の差し歯の場合は金属アレルギーや腐食によるもの、または歯茎の退縮による可能性が高いです。
ほかにも差し歯の下や内部に新たなむし歯が発生している場合もあります。
喫煙や褐色の飲食物による色素沈着や汚れであれば、歯科医院のクリーニングを受ければある程度はきれいになりますが、むし歯は放置していると悪化の一途をたどります。
差し歯や口腔内の健康を悪化させないためにも、早期発見と早期治療を行うためにも、定期的に歯科医院を受診しましょう。
本記事が差し歯の裏側や歯茎の黒ずみの解消に少しでも役立ててもらえれば幸いです。
参考文献