アルコールには殺菌作用があるので、むし歯の原因菌も殺菌することができるのでは?と考えたことがある方もいるのではないでしょうか。
実際に、アルコールでむし歯の予防が可能なのかどうかや、むし歯を防ぐための食事などについて解説します。
むし歯とアルコールの関係について
- お酒のアルコールでむし歯菌は除菌できますか?
- 結論からいえば、お酒に含まれるアルコールでむし歯菌を殺菌、除菌するということはできません。
一般的に、アルコールで除菌を行うためには60~80%以上のアルコール濃度が必要になるといわれていますが、お酒はアルコール濃度が高いウィスキーなどの蒸留酒でも40%程度です。
蒸留を繰り返すことでそれよりも高い濃度のアルコールが含まれたお酒もありますが、そういった高い濃度のお酒を頻繁に飲む方はほとんどいないでしょうし、いたとしたら健康上の問題が出ている可能性が高いのではないでしょうか。
また、むし歯を引き起こす菌は、菌が作り出す歯垢(プラーク)のなかにいるため、アルコールが菌に影響を及ぼす可能性は低いといえます。
- アルコールはむし歯の直接的な原因になりますか?
- お酒に含まれるアルコールによる除菌は期待できませんが、アルコールがむし歯の直接的な原因になることもありません。
むし歯菌は食事に含まれる糖分によって増殖するものであり、アルコールそのものには糖が含まれていないので、直接むし歯の原因になることはないのです。
- 飲酒の習慣はむし歯に関係しますか?
- アルコールそのものがむし歯の原因となることはありませんが、お酒には糖分も含まれているため、飲酒の習慣がある方は、お酒の糖分が原因でむし歯になるリスクはあります。
なお、焼酎やウィスキーなどの蒸留酒には糖分が含まれていないため、日本酒やビール、ワインといったお酒と比べれば、むし歯のリスクが低いといえます。 ただし、アルコールには利尿作用があることから、飲酒の習慣がある方は身体が水分不足になりやすく、口腔内が乾燥することによってむし歯ができやすくなる可能性があります。
また、飲酒をしながらの食事は時間が長くなりやすいこともあり、長い時間口腔内が酸性に傾くことから、歯が溶けやすくなって、むし歯のリスクが引きあがります。
- 飲酒以外にもむし歯のリスクを上げる要因はありますか?
- むし歯のリスクを上げる要因として考えられるのは、喫煙や酸性の強い食べものなどが挙げられます。
喫煙習慣は口腔内の環境を悪化させてしまい、菌への免疫力が下がることで、むし歯のリスクを引き上げます。
また、むし歯は菌が作り出す酸によって歯が溶かされて生じる病気ですので、酸性の強い食べものを食べると、むし歯が進行しやすくなるといえます。 その他では、やはり歯磨きによる歯のケアが十分に行えていないことは、むし歯の大きな要因となります。
むし歯菌はネバネバとしたプラークを作り出し、これによって歯の表面にくっついた状態となっていますので、しっかりとした歯磨きをしないと、これを除去することができません。
歯並びに合った適切な歯磨きが行えていないという方や、歯間ブラシやフロスによる歯と歯の間のケアを行っていない方は、磨き残しによるむし歯のリスクが高まるといえます。
なお、飲酒をする場合、酔うことによって食後の歯磨きが不十分な状態になる可能性も高く、これがむし歯のリスクを引き上げる要因となる可能性もあります。
むし歯と糖アルコールについいて
- 糖アルコールとはなんですか?
- アルコールというとお酒をイメージする方が多いと思いますが、アルコールというのは、本来は科学的な性質を表す言葉であり、さまざまな種類があります。
お酒に含まれるものはエチルアルコールという種類で、エタノールともよばれるものです。
糖アルコールとは、糖質本来の状態に、水素が追加されることでアルコールの性質を持ったもので、キシリトールやマルチトールといったさまざまな種類があります。
糖アルコールは糖質の性質を持ちながらも、菌の栄養となりにくいため、むし歯のリスクになりにくい点や、消化吸収されにくいため食べても太りにくいという特徴があります。
- キシリトールはなぜむし歯予防に効果があるのでしょうか?
- 糖アルコールはどの種類でもむし歯の原因となりにくく、甘味としての刺激によって唾液の分泌を促進することから、免疫力の向上や再石灰化の促進によってむし歯の予防効果をもちます。
そのなかでも、キシリトールは特にむし歯の予防にすぐれていて、そこにはいくつかの理由があります。 一つ目は、むし歯の原因菌として知られるミュータンス菌を減少させる性質です。むし歯の原因となるプラークや酸を作り出すミュータンス菌を減少させるので、むし歯のリスクが低くなります。
また、キシリトールを常用していると口腔内のミュータンス菌の性質が変化して、むし歯を引き起こしにくい菌になるという点も、特徴の一つです。 二つ目が、ほかの糖アルコールでは微量ながらも菌が酸を作り出す要因となるのに対し、キシリトールはまったく酸が作られないため、特にむし歯予防に効果的となっています。 三つ目が、キシリトールはプラークのなかで酸が作られにくくするという性質や、口腔内のアンモニア濃度を上げて酸の中和を促進するため、これも有効な働きとなります。
- キシリトールのとり過ぎによるリスクはありますか?
- キシリトールの摂取によって身体に対して害が生じるということはほとんどありませんが、腸内で水分を吸収するという働きによって、下痢などの症状につながるリスクが存在します。
そのため、キシリトールが配合されたガムなどのパッケージには、食べ過ぎるとおなかが緩くなる可能性があると記載されています。
体質によっては摂取する分量が少なくても便が緩くなる可能性がありますので、無理にたくさん食べるのは控えておきましょう。
- 人工甘味料はむし歯を予防できますか?
- 人工甘味料は、糖アルコールのほか、アスパルテームなどの合成甘味料といった、人工的に作り出した甘味料のことです。
糖アルコールがむし歯予防につながるのは上述のとおりですが、合成甘味料についても細菌の栄養素となりにくく、糖アルコールと同様にむし歯の予防につながります。
ただし、人工甘味料は強烈な甘みを持つものが多く、常用することで甘みへの依存が生じ、甘いものを食べ過ぎるようになってしまう可能性もあります。
こうなると、甘いものに含まれている糖分によって、むし歯のリスクが高くなってしまうため注意が必要です。
むし歯と食事の関係について
- むし歯のリスクを高めるのはどのような食事ですか?
- むし歯は、口腔内の細菌が糖分を分解して作り出す酸によって進行する病気です。
そのため、糖質を多く含む食べものや飲み物がむし歯のリスクを高める要因となります。
特に、ジュースなどの甘い飲料は食事以外のタイミングで摂取することも多く、飲んだ後に歯磨きを行わない可能性も高いことから、むし歯の原因になりやすいといえます。
また、オレンジなどの柑橘類や、お酢などの酸性食品は、酸によって歯が溶けやすい状態を作るため、むし歯のリスクを高めます。
- むし歯のリスクを下げる食べものはありますか?
- 歯は、酸によって多少溶かされても、唾液中に含まれるカルシウムやリンが付着することで再石灰以下という反応が生じて修復されることで、むし歯の進行を防いでいます。
そのため、カルシウムやリン、または再石灰化をサポートするビタミンなどを含む食事を積極的に食べると、むし歯のリスクを下げることが可能です。
具体的には、チーズやヨーグルト、ごまなどが挙げられます。
- むし歯を予防するための食事の注意点を教えてください
- むし歯を予防するためには、口腔内が酸性に傾いた状態の時間を、なるべく短くする必要があります。
お酒を飲みながらなど、ゆっくりと食事をし続けるとその分むし歯のリスクも高まりますので、だらだらと食べたり飲んだりするのはなるべく控えましょう。
また、身体の水分が減少し、口腔内が乾燥することもむし歯につながりやすくなりますので、水やお茶などの糖分が含まれない飲料でしっかりと水分を摂取するように心がけましょう。
編集部まとめ
お酒に含まれるアルコール(エタノール)では、むし歯の原因菌を殺菌することは難しく、むし歯予防にはつながりません。
一方で、糖アルコールと呼ばれる甘味料、とくにキシリトールはむし歯予防の高い効果があるため、積極的に利用をするとよいでしょう。
参考文献