むし歯ができたらなるべく早めに治療しなければと思いつつ、忙しくてなかなか時間がとれないといった場合もあるのではないでしょうか。
むし歯は治療をしないと症状が進行していってしまいますので、どこまで症状が進むと手遅れになってしまうのかが気になるという方もいるでしょう。
この記事では、手遅れなむし歯の症状についてや、むし歯を放置するリスクなどについて解説します。
むし歯の進行について
手遅れなむし歯の状態を知るために、まずはむし歯がどのように進行していくのかを知っておきましょう。
むし歯はその段階によってCOと、C1からC4という5つの段階に分類されていて、Cはむし歯の英語表記であるカリエス(Caries)の頭文字を取ったものです。
初期段階のむし歯(CO)
COは、カリエスオブザベーション(Caries Observation)の略で、オブザベーションは観察という意味の言葉です。
この後の段階が数字のため紛らわしいのですが、シーゼロではなく、シーオーと呼ばれます。
観察と呼ばれているように、治療までは必要なく、経過観察を行う状態であり、ほとんど自覚症状はありません。
歯に穴が空く前の段階で、歯が白く濁ったり、ザラザラとしたような感じになる程度なので、歯科医院の定期健診で見つかると、念のため注意して見ておきましょうとされるような対応となります。
歯を削るような治療はしませんが、丁寧に歯を磨いてフッ素塗布により再石灰化を促すというようなケアを行うことで、本格的なむし歯に進行する前に治療が可能です。
ホームケアがしっかりできていれば、自然と治ることもあります。
エナメル質が溶かされるむし歯(C1)
歯は、外側からエナメル質という硬い層、象牙質というやわらかい層、歯髄とよばれる神経が集まった場所という構造をしています。
C1はこのうち、一番外側であるエナメル質が感染して溶かされていっている状態です。
むし歯は口腔内にある細菌が、食べ残しに含まれる糖分などを栄養として増殖していく過程で作り出される乳酸などの酸性物質によって歯が溶かされることで生じます。
エナメル質はとても硬い性質を持つため、酸性物質が多少ついたところですぐに溶かされてしまうわけではありません。
また、エナメル質は多少溶かされたとしても再石灰化という機能によって元の状態に戻るため、表面が少し溶かされているCOの状態であれば、自然治癒も可能です。
ところが、歯垢の蓄積などによって細菌が過剰に増殖し、酸性が強くなると再石灰化による回復が間に合わず、エナメル質が大きく溶かされていきます。
すると、歯の表面に穴が空いたような状態となり、穴に入り込んだ歯垢や細菌は除去も難しくなるため、どんどん歯の内側に向かって進行していく形となります。
歯に完全に穴が空いてしまうような状態になると、再石灰化ではもとに戻らないため、自然治癒が難しくなります。
C1の状態は黒い着色や白い斑点といった見た目の微妙な変化や、舌で触るとザラザラするといった程度の変化であるため、セルフチェックで見つけることは難しく、これも歯科医院の定期健診などで見つかることが多いものです。
C1の状態は歯を削って治療する必要がありますが、エナメル質部分だけしか感染が広がっていないため削る量も少なくすみ、削った部分をコンポジットレジンなどで補填するのみで治療が可能です。
象牙質に進行したむし歯(C2)
細菌の感染が進行し、エナメル質を貫通して内側の象牙質までたどり着くと、C2と呼ばれる状態になります。
象牙質はエナメル質と比べてやわらかいため、C1の頃よりもむし歯の進行が早くなっていきます。
また、象牙質に刺激が加わると、その刺激が歯の内部にある歯髄に伝わるため、C2にまでむし歯が進行すると、冷たい水を口に含んだ際などにしみるような痛みを感じやすくなります。
歯の痛みという自覚症状がでてきますが、知覚過敏などと勘違いして治療にいかず、放置されて感染が広がって次の段階に進んでしまうこともあります。
C2までむし歯が進行していると歯を削る範囲が大きくなるため、インレーやクラウンといった治療が行われるようになります。
歯髄(歯の神経)にまで達したむし歯(C3)
象牙質を貫通して、その内側の歯髄にまで感染が広がると、C3と呼ぶ状態となります。
歯髄には痛みなどを感じる歯の神経が通っているため、この段階にまで進むとズキズキとした痛みを感じるようになります。
むし歯で痛むという場合、多くがC3まで進行してしまっている状態です。
むし歯の治療は細菌に感染している部分をすべて除去する必要があるため、歯の神経を抜く根管治療などが行われます。
歯のほとんどが残っていないむし歯(C4)
さらにむし歯が進行して神経が死んでしまい、歯のほとんどが溶かされて残っていないような状態がC4です。
神経が死んでいるので、C3のときに感じていたような痛みはなくなります。ただし、炎症は残っているので歯の根の先に膿が溜まるなどして周囲が圧迫され、これが強い痛みを生じさせることなどがあります。
治療をしても歯を残すことが難しい、いわゆる手遅れの状態となるため、抜歯が選択される可能性もあります。
手遅れなむし歯の状態
むし歯が進行していくと、健康な状態に回復させることが困難という意味で手遅れと表現されることがあります。
手遅れといわれる状態にもいくつかの段階がありますので、具体的にどのようなパターンで手遅れとされることがあるのかをご紹介します。
歯の神経を残すことができない状態
歯の内部には神経や血管が通っていて、血液から栄養を受け取ることで歯の健康な状態が保たれています。
そのため、むし歯が歯の神経にまで広がってしまい、神経を除去しなくてはいけない状態になると、健康な歯をそのままの状態で維持することが困難になるため、手遅れといわれる場合があります。
歯の神経にまでむし歯が進行していたとしても、細菌を徹底的に除去して蓋をする根管治療を受ければ、歯の機能はそのまま維持することは可能です。
しかし、時間経過とともに歯が脆くなって割れやすくなってしまうなどのリスクもありますので、歯の健康な状態をしっかり維持したいのであれば、神経にまでむし歯が進行する前に治療を行うことが大切です。
抜歯が必要な状態
歯の根元部分まで感染が広がったC4の状態など、そもそも歯を残しておく治療が困難な場合は、抜歯が必要な、手遅れの状態ということができます。
歯を抜歯した後も、ブリッジやインプラントといった適切な治療をうけることで歯の機能自体は回復させることができますが、抜いた歯そのものはもとに戻すことができません。
周囲の歯まで影響が出ている状態
むし歯菌が増殖し、周囲の歯にまで感染が広がっていたり、蓄積された膿によって周囲の歯までグラつくなどの影響が出ている場合は、複数の歯を抜歯する必要がでるなど、手遅れの状況が悪化します。
複数の歯で治療が必要になると、対応できる治療の選択肢も狭まってしまう可能性があります。
身体のほかの部位にまで影響がでている状態
むし歯の原因となっている細菌が、血管に入り込んで菌血症となり身体のほかの部位に広がると、歯以外にもトラブルを引き起こす可能性があります。
血液中に細菌が入り込んだとしても、通常であれば身体のもつ免疫機能によって細菌が除去されて大きなトラブルにつながる可能性は低いといえます。
しかし、免疫力が低下している方や、生活習慣病を持っている方、心臓にペースメーカーを装着しているような方の場合、菌血症から細菌性心内膜炎、脳への感染、敗血症といった症状につながるケースもあり、全身の健康を脅かしているという点で、手遅れな状態といえるでしょう。
むし歯の段階による治療法
むし歯の治療法は、症状の段階によって適切な手段が異なります。
手遅れになる前の早めな段階で適切な治療を行えば、しっかりと健康な歯を維持し続けやすくなりますので、むし歯かな?と感じたら極力早めに歯科医院を受診して、適切な治療を受けることが大切です。
ここでは、歯科医院で行われるむし歯の治療法を、むし歯の段階に合わせてご紹介します。
神経にまで達していない場合の治療
C1かC2の、神経(歯髄)にまで達していないむし歯の場合は、むし歯に感染している部分を削って除去したうえで、詰め物や被せ物と呼ばれる治療が行われます。
詰め物はインレー、被せ物はクラウンとそれぞれ呼ばれますが、金属や歯科用レジン、セラミックなどで作られた人工の歯を、歯科用の接着剤によってくっつけることで治療が行われます。
人工の歯を装着することで、歯が削られて露出した部分の保護をすると同時に、噛み合わせの機能を適切に保つことが可能です。
なお、C1など感染の範囲がとても小さい場合には、大きく歯を削る必要がないため、感染している部分を少しだけけずって、コンポジットレジンという特殊な光を当てると固まる樹脂で埋めるという治療が行われることもあります。
神経を残せる治療
むし歯が進行して歯髄にまで感染が広がってしまっている場合でも、神経を残す治療が行える場合があります。
これは歯髄保存療法と呼ばれるもので、細菌に感染している部分の神経のみを除去し、強い殺菌力がある素材を歯の内部に詰めてふたをすることで、神経を一部残しながら、細菌の感染を解消するという方法です。
歯の神経を残せるため、歯の健康寿命を伸ばすことができるというメリットがありますが、保険適用外のため費用負担が大きくなりやすい点などがデメリットとなっています。
神経を除去する治療(根管治療)
歯の神経にまで感染が広がっている場合、一般的に行われる治療が根管治療です。
根管とは歯の根っこ部分にある神経や血管が通った管状の場所のことで、この中をブラシのような器具で丁寧に掃除し、神経に感染してしまった細菌の徹底的な除去を行います。
根管治療では神経の除去をして歯の内部をきれいにしてから、殺菌力のある薬剤を詰めて様子を見るという治療を何度か繰り返し、完全に細菌の感染がないと判断できる状態になったら、歯の内部にゴムなどを詰めて、最後に被せ物などで蓋をして治療が完了となります。
細菌がしっかり除去できていれば、歯を抜かずにそのまま残すことができます。
ただし、神経がなくなっているため歯が脆くなりやすい点や、再度むし歯に感染して菌が歯の内部にまで広がってきても痛みを感じないので放置されやすく、気付いたら手遅れな状態になってしまいやすいといったデメリットもあります。
抜歯とその後の治療
歯の大部分が溶けてしまっていたり、歯の根の先に膿が蓄積した状態になってしまっていたりと、歯を残す意味がない、または残す治療によって周囲の歯に悪影響を与える可能性がある場合は、抜歯が選択されることもあります。
抜歯してしまうとその部分で物を噛むことができなくなり、周囲の歯にその分の負担がかかりやすくなるため、この場合には入れ歯やブリッジ、インプラントといった、噛み合わせを補うための治療が実施されます。
手遅れなむし歯にならないためのポイント
むし歯が手遅れな状態に進行してしまうと、健康な歯を残せないばかりか、全身の健康に影響が生じてしまう可能性もあるため、手遅れにならないように対策することが大切です。
むし歯が手遅れにならないために注意したいポイントをご紹介します。
毎日のケアをしっかり行う
むし歯は口腔内に残った糖分などを栄養として細菌が増殖することで進行していきます。
丁寧な歯磨きやフロスまたは歯間ブラシによるケア、そしてマウスウォッシュなどによる口腔内の殺菌といったケアをしっかりと行うことで、口腔内の汚れを除去してむし歯の進行を抑えることが可能ですので、まずは毎日のケアをしっかりと行うようにしましょう。
歯磨きは人それぞれの歯並びによって適切な方法が異なるため、歯科医院での歯磨き指導を受けて、正しいケアが行えるようになることも大切です。
自覚症状がある場合は診察を受ける
歯に何かしらの痛みを感じるなど、自覚症状がある場合は早めに歯科医院での診察を受けましょう。
むし歯だけではなく、歯周病なども含めて歯のトラブルは自覚症状が出にくいものが多いため、痛みなどを感じた場合にはかなり症状が進行している可能性も高いといえます。
むし歯は放置しておいても治ることはありませんので、とにかく早めに適切な治療を受けることが大切です。
歯科医院での定期健診を受ける
歯科医院では、歯についた歯石の除去を行うための専門的なクリーニングなど、歯のトラブルを予防するための処置や、歯の健康を確認する健診が提供されています。
3ヶ月に1度など、定期的な歯科検診を受けていれば、むし歯ができたとしても早い段階で発見され、ほとんど歯を削らずに治療を行うことができますし、歯周病などのトラブルも適切にケアすることができるので、定期健診をぜひ利用してください。
まとめ
むし歯は放置しておいても自然と治るものではなく、進行しておくと歯の神経を抜いたり、場合によっては全身への影響につながるなど手遅れとなってしまう可能性もある症状です。
早めに治療をすれば、ほとんど身体的な負担もなく、また経済的な負担も小さく済みます。
むし歯に対する最も効率のよい対策は、しっかりと予防を行うことです。
むし歯は自覚症状がないままに進行してしまいますので、歯磨きなど毎日のケアを適切に行なうだけではなく、歯科医院での定期健診を受けるなどして、手遅れになるまえに治療を行うようにしてくださいね。
参考文献