むし歯がどのように進行していくのかご存じですか?むし歯がどうやって進むかを知ることで、気になる症状があったときに、それがむし歯なのかどうかや、適切な対応方法を考えることができるようになります。
の記事では、むし歯の進行度合いや、治療方法、進行を止めるためのケア方法などを解説します。
むし歯について
そもそもむし歯というのがどういった症状か、なんとなく知っているだけになっていませんか? むし歯の原因や、その特徴を知ることで適切なケアが行いやすくなりますので、まずはむし歯の症状について解説します。
むし歯とはどのような症状?
むし歯とは、簡単にいえば細菌の働きによって歯に穴が空いてしまった状態や、歯が溶かされてしまっている状態を指す言葉です。
し歯という言葉については所説あります。古代中国で病気の原因が虫によるものと考えられていたため、歯の病気がむし歯とされたというものや、蝕(むしば)むという言葉から来たという説、ほかにも歯に穴が空いた状態を見た人が、虫に食い荒らされたと勘違いしたからという説などがあり、はっきりとはわかっていません。
科用語ではう蝕といい、英語ではカリエス(Caries)といいます。
し歯の進行状況をC1などと呼びますが、これはカリエスの頭文字であるCを取ったものです。
むし歯の原因
むし歯の原因は、口腔内にいる細菌が作り出す酸性物質によって、歯が溶かされてしまうことです。
し歯の原因となる菌としてはミュータンス菌がよく知られていて、この細菌は食べものや飲み物に含まれる糖分によって増殖し、増殖の際に周囲にグルカンと呼ばれるネバネバの物質を放出します。
のグルカンによって細菌が集まったプラーク(歯垢)が作られるのですが、この細菌は乳酸という酸性物質も同時に作り出すため、プラークは酸性の性質を持つこととなります。
ラークはネバネバしているため歯磨きをしてもキレイに除去しにくく、同時に酸性の性質を持つため、接触している歯が徐々に溶かされていき、むし歯の状態となります。 よく、甘いものを食べるとむし歯になると表現されますが、これは糖分が細菌の栄養となるためで、甘いものでなくても、糖分が豊富に含まれている食べものや飲み物であればむし歯の原因となります。
た、歯に付着したプラークがむし歯の原因となるため、歯磨きが不十分だとむし歯になりやすくなります。
むし歯は自覚症状が出にくい
むし歯というと、歯が痛むという自覚症状を想像しやすいのではないでしょうか。
かし、実は歯が痛むというのはかなり進行したむし歯の状態であり、むし歯はむしろ自覚症状が出にくい病気です。
いうのも、歯は外側からエナメル質、象牙質、歯髄という構造になっていますが、痛みを感じるのはこのうち一番内側にある歯髄部分であり、エナメル質や象牙質は直接痛みを感じません。
し歯はエナメル質から溶かしはじめ、徐々に内側へと進行していく症状ですが、直接痛みが出るのは歯髄という最終段階に到達した段階であり、それまでは自覚症状が出にくいのです。
合によっては象牙質に到達している段階で、冷たいものや甘いものを食べたときに歯がしみるという自覚症状が出ることはありますが、元々知覚過敏があるという方などでは、こうした症状があっても気が付きにくくなってしまいます。
た、むし歯は黒い点が見えるというイメージを持っている方も多いと思いますが、そもそもむし歯ができやすい部分は歯ブラシが届きにくい場所、つまり隠れやすい場所であり、奥歯の内側や歯と歯の間で発生することが多いため、見た目でも気が付きにくいといえます。
むし歯は重度になると進行が早くなる
むし歯の進行は、初期段階ではゆっくり、そしてある程度症状が進むと早くなります。
れは、歯の表面側であるエナメル質はとても硬い性質であり、再石灰化という機能があるためすぐには溶かされないのに対し、歯の内側の象牙質などはやわらかい性質であり、むし歯によって溶けやすいためです。
みを感じる程進行している場合、あっという間に歯の深い部分まで症状が進む可能性もあるため、自覚症状が出ているのであればとにかく早めに受診することが必要となります。
子どもの歯は進行が早い
子どもの頃に生えている歯を乳歯といい、乳歯は成長とともに自然と抜けて、永久歯へと生え変わります。
は、乳歯はエナメル質の厚みが永久歯の半分程度であり、さらに象牙質も薄く、一方で歯髄が大きいという特徴を持っています。
のため、一番進行がゆっくりであるエナメル質をすぐに通過してしまうので、子どもの歯はむし歯の進行がとても早いのです。
た、子どもは大人のように歯磨きをきちんとできないことが多い点や、痛みが一過性で訴えがなかったり、弱い痛みを感じても上手に訴えられなかったりするため、大人よりもさらに進行するまで気が付きにくいという点も、重度に進行してしまいやすい要因となっています。
むし歯の進行度合い
むし歯の進行は、カリエスの頭文字であるCと、段階を表す1~4の数値、またはOで表されます。
お、COはよくシーゼロと勘違いされますが、観察を意味するオブザベーション(Observation)という言葉の頭文字で、読み方はシーオーとなります。
れぞれの進行段階について解説します。
CO(初期段階)
前述のとおり、COのOは観察を意味する言葉で、むし歯になるかどうかの経過観察を行う時期というものとなります。
菌の働きによって歯に穴が空く前段階で、歯の表面がザラザラとした状態になったり、白く濁った色になるといった変化を起こします。
の段階であれば、まだ歯の再石灰化によって回復が望めるため、むし歯の本格的な治療が行われることはありません。なぜなら、むし歯の治療は菌がいる場所を削ることによって行うものであり、一度削ってしまうと元の状態には戻らないため、自然回復する程度であれば行う必要がないからです。 COの状態であれば、しっかりとしたクリーニングや、再石灰化を促すためのフッ素塗布などを行って様子を見て、自然な回復を待つ治療となります。
お、COの状態は自分で見てもわからないようなケースが多く、歯科医院で指摘されて初めて知るというケースが多いでしょう。もちろん痛みといった自覚症状もありません。
C1(エナメル質のむし歯)
C1は、エナメル質が溶け始めている状態で、小さい穴が歯にできます。
述のとおりエナメル質には痛覚などがないので、痛みなどの自覚症状はありません。
に灰色や茶色の小さい穴が目視で見つかることがある程度なので、セルフチェックでもなかなか見つけにくいでしょう。
療では歯を多少削る形となりますが、浅く削る程度で治療が可能です。
C2(象牙質のむし歯)
エナメル質を通過して、むし歯の感染が象牙質に到達している状態がC2です。
い痛みなどが出ることはあまり考えられませんが、甘いものや冷たいものをお口に含むとその刺激が歯の神経に伝わりやすい状態であるため、しみるような痛みを覚えることがあります。
C3(歯髄のむし歯)
象牙質も通過して、歯髄にまで到達するとC3と呼ばれる段階に進行します。
髄には痛みなどを感じ取る神経が通っているため、ここがむし歯の酸などによって刺激を受けることで、炎症(歯髄炎)を起こして強い痛みを感じます。
みがずっと続く状態になるため、精神的なストレスなども強くかかるでしょう。
が痛くて歯科医院に行くという場合、すでにむし歯がこの段階にまで進行している状態となります。
C4(末期のむし歯)
むし歯が歯根部分にまで到達した状態がC4で、この段階に進行している場合は、歯の大部分が溶けてしまっていることもあります。
根部分にまで炎症が到達しているため、歯の根に膿がたまって歯茎が腫れるといった状態になることもあります。
お、ここまでむし歯が進行すると、痛みを感じる神経が死んでいるため、一時的に痛みがなくなる場合があります。
かし、炎症が解消しているわけではないため、膿が蓄積されることで歯茎が強く腫れ、その腫れによって痛みが出たり、周囲の歯でむし歯が進行して痛みが出るということがあります。
た、この状態でも放置していると細菌が根っこ部分から血管内に入り込み、血流にのって心臓などに到達することで、全身のトラブルにつながることがあります。
むし歯の治療方法
むし歯は、その進行度合いによって治療法が異なります。
自然治癒が可能なのはCOの段階のみ
前述のとおり、むし歯の進行状態がCOであれば、歯のクリーニングによって歯垢を除去し、再石灰化を促すことで自然治癒が可能です。
かし、一度歯に穴が空いてしまえば自然治癒が難しくなるため、C1以上では下記のような治療が必要となります。
むし歯治療の基本は感染部位の除去
むし歯治療は、基本的に菌に感染している部位を、物理的に除去する方法で行います。
もそもむし歯の原因菌は口腔内に元々いる菌であるため、薬などで殺菌しきることが難しく、ドリルなどで物理的に除去をしなくては改善しにくいためです。
ーザーによる治療などもありますが、この場合も熱でむし歯がある場所を削り取る形で行われます。 なお、むし歯を削らずに強い殺菌力のある薬などで治療を行う方法も存在しますが、こちらは保険適用で認められておらず、また変色の可能性や成功率の関係などもあり、歯科医院によって対応がわかれています。
進行が浅ければコンポジットレジンで修復可能
むし歯を削る治療を行った場合、削った箇所を何かで埋めなければ、再発の可能性が高くなってしまいます。
った場所を埋める方法はいくつかありますが、むし歯の進行が浅く、削る量が少量である場合は、コンポジットレジンと呼ばれるもので直接削った場所を埋めるだけで、治療が完了します。
ンポジットレジンは樹脂製の充填剤で、削った場所に塗ってから特殊な光を当てることで、しっかりと固めて蓋をすることができるものです。
C2以上の場合はインレーやクラウンが必要
むし歯がある程度進行していて歯を削る量が一定以上の場合は、インレーやクラウンといった人工歯による治療が必要となります。
ンレーは穴を埋めるために作られるもので、削った穴にぴったり合うように金属やセラミックの素材で形を作り、それを歯科用の接着剤などで固定させるものです。
ラウンはやはり金属素材やセラミック、歯科用レジンなどで歯の形を作り、削った歯を土台にして、そこに被せて歯科用接着剤で固定するものです。
ンレーやクラウンで蓋をすることで、歯の内部に再度細菌が付着することを防ぎ、むし歯の再発を防止しながら、適切な噛み合わせを維持することができます。
C3になると必要な根管治療
むし歯が神経にまで到達してしまっている場合は、感染している神経を除去する必要があります。歯の内部にある神経を取り除き、菌を徹底的に除去する治療が根管治療と呼ばれるものです。
管治療では、歯の内部の感染を除去することで、歯を抜かずに維持することが可能となりますが、虫歯で失った歯の部分だけでなく、歯の神経の通り道の近くを大きく削ることになるため、長期的には脆くなっていくというデメリットもある治療です。
感染状況によっては抜歯が必要な場合も
むし歯が歯根まで到達し、炎症によって根っこ部分に膿が溜まる状態となっている場合や、残しておくとほかの歯に影響を与えてしまうような場合は、根管治療ではなく抜歯が選択されることもあります。
管治療であれば残っている歯根を土台としてクラウンによる治療なども可能となりますが、抜歯をしてしまうと入れ歯やインプラントといった治療を選択する必要があり、治療の選択肢が狭まってしまうこととなります。
むし歯の進行を予防するために
むし歯の進行を予防するためには、下記のような点に気を付けるようにしましょう。
適切な歯磨き方法を身に着ける
むし歯の原因は歯に付着した細菌、そして歯垢ですので、適切な歯磨きはむし歯予防にとって特に重要です。
の一本一本を丁寧に磨くようにして、歯の表や裏、上部や歯と歯茎の間など、細かい部分までしっかりと磨くようにしましょう。
しい歯磨き方法は一人ひとりの歯並びなどによっても異なりますので、歯科医院で診察を受けて、自分にあった歯磨き方法の指導を受けるようにするとなおよいでしょう。
フロスや歯間ブラシも使用する
むし歯は、歯と歯の間から生じるケースがとても多く、この部分は通常の歯ブラシでは汚れを除去しきることが困難です フロスや歯間ブラシはこういった隙間の掃除をするためのものですので、歯磨きと合わせてきちんと利用するようにしましょう。
お、歯間ブラシは歯の状態などによっても適切なサイズなどが異なるため、歯科医院で自分にあった商品の選び方などを相談するとなおよいでしょう。
マウスウォッシュを使う
殺菌力のあるマウスウォッシュを使用することで口腔内の細菌の増殖を抑えることが可能です。
だし、ものによっては強い刺激となってしまう場合もありますので、どういった商品があっているかについては、やはり歯科医院で相談した方がよいでしょう。
歯科医院での定期健診をうける
どれだけ丁寧に歯磨きをしていても、完全に汚れを落としきることは難しく、少しずつ蓄積された歯垢などによってむし歯や歯周病が進行してしまう可能性があります。
科医院で定期的な検査を受けると同時に専門的なクリーニングを受けることで、蓄積されてしまった歯垢や歯石を除去することができます。
た、もしむし歯ができていても、トラブルの少ない早期に治療が可能となりますので、歯科検診を受けるようにしましょう。
再発しにくい治療法を選ぶ
むし歯をせっかく治療しても、細菌が残ってしまっていたりすると、すぐに再発してしまう可能性があります。
療内容はどうしても歯科医師に依存する形となりますが、細菌が残っていないかどうかの検査を行うなど、再発を防止するための取り組みをしている歯科医院を選ぶなどして、なるべく再発しない治療を受けるようにするとよいでしょう。
シーラント処置を受ける
シーラント処置はむし歯予防のための治療で、歯の表面にある溝を歯科用レジンで埋めることで、歯の表面からのむし歯を予防するというものです。
に乳歯や永久歯が生えたばかりの子どもに推奨されていて、早めにこの処置をしておくことで、物理的にむし歯を防ぐことができます。
だし、歯と歯の間などに発生するむし歯を防ぐことはできないので、歯磨きなどのケアは必要です。
まとめ
むし歯の進行段階はCOおよびC1からC4という段階にわかれていて、進行状況によって適切な治療法も異なります。
行を予防するためには歯磨きなどのセルフケアのほか、シーラント処置などの歯科医院で受けることができる対応などもあります。
は一度削ってしまうと元の状態に戻せません。なるべく早めに治療することが大切ですので、できれば定期的な歯科検診などを受けて、適切なケアを行うようにしましょう。
参考文献