むし歯で歯を削ったり、外傷で歯が欠けたりした際には、歯科材料で補う必要があります。歯質の欠損が軽度ならコンポジットレジンを充填するだけで修復できますが、大きな穴や欠損が生じた場合は、被せ物や詰め物を作らなければなりません。
クラウンやインレーと呼ばれるもので、セラミックとプラスチックのどちらかで迷う方が増えています。この記事では、歯の被せ物や詰め物の素材にセラミックとプラスチックのどちらを選ぶべきか、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
セラミックとプラスチックの違い
セラミックとプラスチックの違いを確認しておきましょう。どちらも白色材料で、一見すると同じものに見えるかもしれませんが、審美性や耐久性、費用相場など、さまざまな面で違いが見られます。
素材の特徴
◎セラミックの特徴
セラミックは、いわゆる陶器です。身の回りではお皿やカップ、洗面所のシンクなどに使われている素材で、きれいな白色を呈しており、光を反射してピカピカと輝いています。セラミックは表面も滑らかで汚れがつきにくい特徴があります。被せ物や詰め物に使用されるセラミックも基本的にはこれらと同じです。
歯科用に改良されていたり、いくつかの種類にわかれたりしますが、素材としての特徴はセラミック製のお皿やカップと大差はありません。ちなみに歯科用セラミックは、シリカやアルミナ、ジルコニアなどの無機物を高温で焼き固めて作成します。
◎プラスチックの特徴
歯の被せ物や詰め物に使用されるプラスチックはレジンと呼ばれるものです。レジンにもコンポジットレジンや硬質レジンなど、いくつかの種類がありますが、プラスチックである点はすべてに共通しています。
石油などの原材料を化学的に合成して作られた樹脂です。プラスチック製の食器やスマートフォン、家具、コンタクトレンズなど、あらゆる製品に用いられている素材で生活に欠かすことができないものとなります。
プラスチックは経年的に変化していくものなので、セラミックより寿命が短く、いろいろな面で劣った素材といえます。この点は歯科用プラスチックも同様です。歯の被せ物や詰め物の素材としてセラミックとプラスチックで迷った場合は、自分に合ったものを選択することになります。
見た目などの審美性
セラミックとプラスチックは、わかりやすい違いとして審美性が挙げられます。 セラミック製のお皿とプラスチック製のお皿を見比べても一目瞭然です。セラミックの方が美しい白色と光沢を備えており、プラスチックよりも美しいと感じるでしょう。被せ物や詰め物に関しても同様のことがいえます。歯科用セラミックは、患者さん一人ひとりの天然歯の色調や光沢、透明感などを忠実に再現することができるため、プラスチックよりも仕上がりがよくなりやすいのです。
近年では審美治療が注目を集めていますが、その際、主に使用される素材がセラミックであることもプラスチックとの審美性の違いを如実に表しています。
耐久性や寿命
セラミックとプラスチックの耐久性や寿命という観点では、セラミックの方が優れています。セラミックはとても硬く、経年的な劣化も起こりにくい素材なので、大切にケアすれば10年以上使い続けることも難しくありません。ケースによっては15年、20年経過しても治療当時のままの状態を維持できます。
一方、プラスチックの強度は低く、経年的な劣化が起こりやすい素材であり、セラミックよりも寿命が短くなっています。とりわけ素材の色の変化は、プラスチックが圧倒的に起こりやすいといえるでしょう。
費用相場
歯の被せ物や詰め物の費用という観点では、セラミックよりもプラスチックの方が優れています。そもそもプラスチックは原材料費が安価なので、歯の被せ物や詰め物の費用も自ずと安くなります。
一方、セラミックは原材料費が高いことから、歯の詰め物や被せ物の費用も高額になりがちです。セラミックとプラスチックを混合したハイブリッドセラミックでさえも数万円の費用がかかり、審美性に優れたオールセラミッククラウンの値段は十数万円になることがあります。
セラミックのメリットとデメリット
ここからはセラミック素材のメリットとデメリットを紹介します。
セラミックのメリット
◎審美性が高い
セラミックのメリットは審美性の高さです。歯科用セラミックは、天然のエナメル質が持つ透明感や光沢まで忠実に再現できることから、被せ物・詰め物を装着した後はどの歯を治療したのかわからないくらい自然な仕上がりが期待できるのです。色調のバリエーションも豊富で、被せ物や詰め物の見た目の美しさを追求できる素材といえます。
◎耐久性が高い
セラミックもダイヤモンド程の丈夫さはないため、突発的な事故や不適切な力がかかることで破損する場合もありますが、基本的にはセラミックで作られた製品の耐久性は、優れているものとされています。セラミック製の被せ物や詰め物も耐久性が高く、10年以上問題なく使い続けられるケースがほとんどです。しかも表面がツルツルとしていて汚れがつきにくく、衛生面にも優れた素材といえるでしょう。
◎変色しにくい
セラミックは、安定性が高い素材としても広く知られています。お口のなかはとても過酷な環境であり、1日のなかでもさまざまな刺激に晒されます。そのような環境下にも関わらずセラミックで作られた被せ物や詰め物は、黄ばんだり、黒ずんだりすることがほとんどありません。表面が摩耗して白く変色することも稀といえます。
◎歯との適合性が高い
被せ物や詰め物の質を左右するように適合性があります。被せ物や詰め物は、残った歯質に固定することになるため、適合性の違いによってむし歯の再発リスクも大きく変わります。セラミックは歯質との適合性が高く、不要な隙間が生じにくいことから、むし歯の再発リスクや被せ物・詰め物が脱離するリスクも低くなっています。
セラミックのデメリット
◎費用が高い
セラミックを使った被せ物・詰め物の治療には、原則として健康保険が適用されません。治療にかかった費用が全額自己負担になるため、経済的なコストは相応に高くなります。さらに、セラミックは原材料費が高く、加工や調整にも特別な器具や技術を要することから、被せ物・詰め物の治療費は高額になる傾向にあるのです。
◎治療に時間がかかる
被せ物・詰め物の治療でセラミックを選択すると、歯を大きく削る必要性が高まります。場合によっては歯の神経の処置を施さなければならなくなるかもしれません。また、セラミックインレーやセラミッククラウンの調整には、プラスチックよりも長い時間や手間がかかります。
◎調整が難しい
セラミックには、強度が高いというメリットがある反面、調整が難しいというデメリットも伴います。とりわけ金属に匹敵する硬さを備えたジルコニアは、微調整が難しい素材の代表といえます。
プラスチックのメリットとデメリット
プラスチック素材のメリットとデメリットを詳しく解説します。
プラスチックのメリット
◎費用が安い
歯科用プラスチックを使った被せ物・詰め物の治療費用が安いです。基本的には健康保険が適用されるため、費用負担も1〜3割にとどまります。
◎治療が早い
歯科用プラスチックであるレジンは、光で固めたり、ドリルで整形したりするといった操作がしやすいのもメリットです。特にペースト状のコンポジットレジンを使った修復治療は、即日終わるのが一般的です。
◎調整がしやすい
歯科用プラスチックは、ドリルで簡単に削れます。噛み合わせや形態に不具合があった場合は、その場ですぐに削って調整できます。コンポジットレジン修復にいたっては、その場で素材を盛り足して調整することも可能です。
プラスチックのデメリット
◎耐久性が低い
プラスチックは脆く、欠けたり割れたりすることが少なくありません。プラスチックで作られた被せ物や詰め物は、3〜5年程度で寿命を迎えることがあります。
◎変色しやすい
歯科用プラスチックは、経年的な変色が起こりやすく、装着から1〜2年くらい経過すると徐々に黄ばんでいきます。欠けた歯質の一部分をコンポジットレジンで充填したケースでは、天然の歯質との境目がはっきりと現れるため、審美性の低下を実感しやすくなります。
◎摩耗しやすい
歯科用プラスチックは、ドリルを使って調整がしやすいのですが、同時に摩耗も起こりやすくなっています。とりわけ天然歯と噛み合う部分は、摩耗も速やかに進行していきます。被せ物や詰め物の摩耗が進むと、装置自体が脆くなるとともに、汚れがつきやすく、噛み合わせも悪くなります。
セラミックとプラスチック、それぞれに適したケース
ここまでの説明でセラミックとプラスチックの違いについては理解できたかと思います。それらを踏まえたうえで、セラミックがおすすめな人とプラスチックがおすすめな人を解説します。
セラミックがおすすめな人
- 欠損部を美しい素材で補いたい人
- 壊れにくい素材で再治療のリスクを抑えたい人
- むし歯の再発リスクをおさえたい人
歯質の欠損部をできるだけ美しい素材で補いたい、壊れにくい素材を使いたい、いつまでもきれいな状態を維持したい、むし歯の再発リスクを抑えたいという方には、セラミックがおすすめです。
プラスチックがおすすめな人
- 治療費を保険適用の範囲で抑えたい人
- 治療期間をできるだけ短くしたい人
歯の被せ物・詰め物の費用をできるだけ抑えたい、治療にかかる期間や時間を短くしたい、困ったときにすぐ調整できる素材がいいという方には、プラスチックがおすすめです。
歯の被せ物や詰め物の素材を選ぶ際の注意点
歯の被せ物や詰め物の素材を選ぶときに注意すべき点を4つ紹介します。
歯の場所や機能に適しているか
永久歯は全部で28本生えてきて、それぞれ異なる見た目と機能を有しています。例えば、前歯は食べ物を噛み切る際に重要な役割を果たす歯で、高い審美性も求められます。それだけに被せ物や詰め物の素材を選ぶ際には、機能性と審美性の両方を追求した方がよいといえます。
一方、奥歯は食べ物を噛み砕き、すり潰す機能を果たしており、審美性よりも機能性を重視した素材が望ましいです。このように被せ物・詰め物の素材を選ぶ際には、治療する歯の部位や機能に適しているか考える必要があります。
噛み合わせや歯ぎしりに問題がないか
噛み合わせに問題があったり、歯ぎしり・食いしばりが習慣化していたりする場合は、耐久性や強度の高い素材が望ましいです。特に奥歯の被せ物や詰め物には、大きな力がかかりやすいことから、セラミックのなかでもジルコニアが向いているといえます。
素材に対するアレルギーがないか
セラミックとプラスチックがアレルギーの原因となることは少ないですが、被せ物の土台となるコアに金属を使う場合は、金属アレルギーのリスクを考えなければなりません。メタルコアに含まれる金属がアレルゲンとなる方は、それ以外の素材で治療できる方法を検討しましょう。
保険診療と自費診療の費用差がどれくらいか
セラミックとプラスチックのどちらで被せ物・詰め物の治療を行うか迷った場合、保険診療と自費診療の費用差を検討するのもおすすめです。費用差が許容範囲を超えないのであれば、セラミックの被せ物・詰め物も視野に入れて、治療方法の検討を進めていきましょう。
保険診療と自費診療の費用差が許容範囲を超える場合は、セラミックを選択するのは難しくなります。基本的には健康保険が適用されるプラスチックで被せ物・詰め物の治療を行うようにしましょう。
まとめ
今回は、歯の被せ物や詰め物でセラミックとプラスチックのどちらを選ぶべきかについて解説しました。セラミックとプラスチックには、審美性や耐久性、費用相場などに大きな違いが見られるため、それぞれの特徴を正しく理解したうえで検討することが大切です。
歯の被せ物や詰め物の治療の費用を安く抑えたい、できるだけ早く終わらせたいという希望を持っている方には、プラスチックが向いているといえます。逆に、費用は高くてもいいので、見た目が美しく、長持ちする歯の被せ物や詰め物を装着したいという方には、セラミックが向いています。いずれにしても被せ物や詰め物の素材でセラミックとプラスチックのどちらにしようか迷っている方は、まず歯科医師に相談してみましょう。
参考文献