むし歯治療といえば銀歯というイメージをお持ちではないでしょうか。そんな人におすすめしたいのが、セラミックを用いた治療法です。セラミックの詰め物は、美しい見た目と高い耐久性が人気の治療法で、ほとんどの人にとって優れた選択肢となり得ます。この記事では、セラミック治療の特徴や種類ごとのメリット・デメリット、費用相場について詳しく解説します。歯科治療について知識を身につけ、自分に適した治療法を選びましょう。
セラミックとは
まずはそもそも、セラミックとは何かという基本的なところから押さえていきましょう。
セラミックの特徴
セラミックは、家庭で使われる陶器のお皿などと同じ素材です。透明感と光沢があり、自然な歯の色調や明るさを再現するのに優れています。セラミック治療とは、銀歯や樹脂(プラスチック)を使わずに、陶器の素材を使って歯を治療する方法です。
セラミックによる歯の治療は、世界的にも標準的な方法とされています。日本人はむし歯治療の後に銀歯を使うイメージが強いかもしれませんが、これは先進国のなかでは日本だけだとも言われています。例えば、ドイツやスウェーデンでは、銀歯に使われる金銀パラジウム合金の使用が歯科治療で禁止されています。
セラミックの種類
歯科治療に使われるセラミックには、1種類の素材しかないと思われがちですが、実際にはさまざまなバリエーションがあります。それぞれに特有の特徴があり、費用も素材によって大きく異なります。現在、歯科医院で一般的に使用されているセラミック素材は以下の5種類です。
- ポーセレン
- ジルコニア
- イーマックス
- ハイブリッドセラミック
なかでも、古くから歯科治療に使用されているセラミックはポーセレンです。技術の進歩により、さまざまなセラミック素材が開発され、現在のようなラインナップになりました。以下では、それぞれについて詳しく解説します。
・審美性に優れているのはポーセレンとイーマックス
見た目の美しさを重視する場合には、ポーセレンとイーマックスが適しています。これらは、自然な歯の色や透明感、光沢を再現するのに優れており、審美性が高いのが特徴です。
特にイーマックスは、ポーセレンの弱点である割れやすさを克服し、見た目と耐久性を兼ね備えた素材として注目を集めています。
・耐久性が高く割れにくいジルコニア
耐久性を優先するなら、ジルコニアが適切です。ジルコニアは金属に匹敵する強度を持ち、人工ダイヤモンドとも称されるほど頑丈で、強い力がかかる奥歯の被せ物や、歯ぎしり・食いしばりのある人の治療に適しています。
見た目も天然歯に近い色合いを再現できますが、ポーセレンやイーマックス程の美しさはありません。また、硬すぎるため、噛み合わせる歯を傷つけるリスクがある点にも注意が必要です。
・コストを抑えたいならハイブリッドセラミック
治療費を抑えたい場合には、ハイブリッドセラミックが適しています。この素材は、歯科用プラスチック(レジン)とセラミックを組み合わせたもので、原材料費が安価に設定されています。レジンが含まれているため、時間が経つと摩耗したり変色したりしますが、コストを抑えられるのは大きなメリットです。保険診療でも一部のハイブリッドセラミックを使用した治療が可能です。
セラミックで治療するメリット
ここでは、セラミックで治療するメリットを紹介します。
むし歯の再発率が低い
むし歯治療後に再度むし歯になることを2次カリエスと呼びます。2次カリエスの主な原因の1つは、プラークの蓄積です。
セラミックは、レジンや金属と比べて経年劣化しにくく、表面が粗くならないため、汚れが付きにくい素材です。そのため、2次カリエスの予防に適しています。
また、セラミックの詰め物や被せ物は、レジンセメントという接着剤を用いて歯に緊密に接着されるため、歯と詰め物の間に隙間が生じにくいです。むし歯はこの隙間から生じることがあるため、セラミックの隙間を作らない性質がむし歯の再発率を低く保つのに役立ちます。
表面に汚れがつきにくい
保険診療で行われるむし歯治療では、金属やレジンが一般的に使用されます。特にレジンは吸水性があるため、時間が経つと黄ばんでしまうことがあります。
一方、セラミックは変色しませんし、表面が非常に滑らかなので汚れが付きにくいという特徴があります。口腔内の汚れ(プラーク)はザラザラした部分に溜まりやすいですが、セラミックの滑らかな表面はプラークの蓄積を防ぎ、むし歯や歯周病のリスクを低減します。
対して銀歯は細かい傷が付きやすく、その傷にプラークが溜まりやすいという欠点があります。
金属アレルギーの心配がない
金属の詰め物や被せ物には、パラジウムやニッケルなどにより金属アレルギーを引き起こす可能性があります。これらの金属は経年劣化により口腔内に溶け出す可能性があり、歯肉の黒ずみや金属アレルギーの原因となることがあるといわれています。。
金属の詰め物や被せ物にて金属アレルギーが生じる方はそれほど多くはありませんが、金属アレルギーが心配な方は、非金属であるセラミックを用いた治療を受けると、リスクが排除できるため安心できるのではないでしょうか。
透明感のある白さで審美性が高い
セラミックの詰め物や被せ物は、自然な歯の色調や透明感を再現するのに優れています。これにより、天然の歯に非常に近い見た目を実現し、口腔内の審美性を高めることができます。セラミック治療は、自然なツヤや透明感を持つ白い歯を作り出すことができるため、見た目の美しさを重視する方にとって理想的な治療法です。
セラミックで治療するときの注意点
さまざまメリットを持つセラミック治療ですが、注意点もあります。リスクなども考慮したうえで、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
割れるリスクがある
金属製の歯が割れることは稀ですが、セラミックは硬い石のような材質であり、金属に比べて曲げや衝撃に弱いです。そのため、強い噛み締めや衝撃によって割れてしまうリスクがあります。
特に奥歯は大きな力がかかることがあり、歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合、治療後に割れたり欠けたりすることがあります。そのため、治療前にこれらの症状に気付かずに進めてしまうと、後で「やらなければよかった」と後悔するケースもあります。
永久に使用できるわけではない
高価な材料だからといって、必ずしも長期間使用できるわけではありません。セラミックにも寿命があり、10〜15年程度の耐用年数とされています。
セラミックは銀歯や樹脂素材よりも長持ちする傾向がありますが、それでもケアやメンテナンスを怠ると、寿命が短くなることがあります。適切なケアを行い、良好な状態を保てば、15年以上使えることもあります。
自由診療のため高額
セラミックは保険適用外の材料ですので、全額自己負担となる自由診療です。小さな詰め物でも、1歯あたり50,000円程度の費用がかかります。
セラミック治療は審美性や機能性が高い一方で、費用面での負担が大きいことを考慮する必要があります。ただし選ぶ素材によっても金額は変わるため、詳しくは後述します。
セラミックの詰め物の費用相場
セラミック治療の費用は、歯科医院やセラミックの種類・大きさによって異なります。一般的には、セラミックの詰め物は4万円〜8万円程度、が相場です。
種類ごとに値段が異なるのは、素材や材料費、製作工程に違いがあるためです。特に審美性や機能性が高いもの程高額になる傾向があります。種類によって費用にどのような違いがあるかを解説します。
・オールセラミックインレー
セラミックのみで作られた詰め物で、1本あたり4万円〜8万円です。部分的な詰め物のため、費用は被せ物より抑えられますが、保険適用のレジンや金属よりは高額です。
インレー(詰め物)の治療で済む場合、4〜8万円が相場となりますが、クラウン(被せ物)となった場合はどの程度の費用になるのかも参考にお伝えいたします。
・オールセラミッククラウン
セラミックのみで作られた被せ物で、1本あたり8万円〜18万円です。耐久性に優れていますが、衝撃に弱いため割れるリスクがあります。
・ジルコニアセラミッククラウン
ジルコニアを使用した被せ物で、1本あたり5万円〜18万円です。非常に高い強度を誇り、見た目も美しいですが、透明感はオールセラミックに劣る場合があります。
・ラミネートベニア
歯の表面に薄いセラミックを貼り付ける治療法で、1本あたり5万円〜15万円です。主に前歯の変色や隙間を整えるために使用され、削る量が少なく、治療期間も短いのが特徴です。
セラミック以外の詰め物の選択肢
セラミック治療について説明してきましたが、ここでセラミック以外の詰め物の選択肢についても触れておきましょう。
保険適用の金属の詰め物
主に奥歯で使われる銀色の金属の詰め物には、金銀パラジウム合金やニッケルクロム合金があります。これらの金属は保険適用であり、安価で強度が高いため、噛む力が強くかかる場所にも適しています。
しかし、見た目が暗く沈んで見えるため美観を損ねることや、経年劣化によって金属イオンが溶け出し、歯や歯茎が変色する、金属アレルギーを引き起こすなどのリスクがあります。
コンポジットレジン充填
歯科用プラスチックのレジンを使って、削った部分を埋める治療法です。保険適用の場合もありますが、美しく仕上げるには自費診療となることがあります。むし歯治療だけでなく、歯の欠け修復や金属アレルギー予防のための金属置き換えにも利用されます。
メリットは、保険が適用されれば安価なこと、見た目が自然、治療期間が短く、金属アレルギーの心配がないことなどが挙げられます。一方、吸水性があるため時間が経つと変色しやすく、充填する場所や穴の大きさによっては欠けやすいことがあります。
ゴールドインレー
金合金や白金加金など、生体親和性の高い貴金属で作られる保険外の詰め物です。金属ですが、歯や歯茎の変色が起こりにくく、金属アレルギーにもなりにくいのが特徴です。程よい強度があり、奥歯にも適しています。
治療期間は半月から2ヵ月程度、2~4回の通院で済みます。ただし、銀歯程ではないものの目立つことがあります。
セラミックとセラミック以外の詰め物の違い
保険診療で使用される金属素材には金銀パラジウム合金、銀合金、純チタンがあり、これらは汚れがつきやすく、むし歯や歯周病、口臭のリスクが高まります。
金銀パラジウム合金は金属アレルギーを引き起こしやすく、銀合金はやわらかく変形しやすいため2次的なむし歯のリスクがあり、純チタンは非常に硬くて噛み合う歯を痛めることがあります。
一方、セラミックは汚れがつきにくく、2次的なむし歯や歯周病、口臭のリスクを低減します。セラミックはガラス成分を含むオールセラミックと、含まないジルコニアに分けられます。
製法にも違いがあります。銀歯は鋳造法で製作され、ワックスで形を作り溶かした金属を流し込みますが、セラミックは新しいのCAD/CAM技術でコンピューター上でデザインし専用機械で削り出します。歯に調和した色に仕上げるには、技工士の技術が重要です。
編集部まとめ
むし歯治療を考えたとき、セラミックの詰め物は、見た目の美しさと高い耐久性を兼ね備えた優れた選択肢です。金属アレルギーのリスクがなく、透明感のある白さで審美性も高いため、ほとんどの方におすすめできます。
割れるリスクや費用の高さといった注意点もありますが、適切なケアを行えば長期間使用することが可能です。
丈夫で美しい歯を維持することは、豊かな人生につながると言われています。ぜひほかの素材との違いをしっかりと理解し、セラミックのメリットをできる限り活かすために、歯科医師と相談して適切な治療法を選びましょう。
参考文献