コーヌスデンチャーという入れ歯をご存じですか?
ドイツ式義歯とも呼ばれるこの入れ歯は、しっかりとした安定感を保ちながら、審美性にも優れ、さらに手軽につけ外ししやすい使用感が特徴です。
この記事では、コーヌスデンチャーの特徴やメリットのほか、治療におけるデメリットやリスクも含め、詳しくご紹介します。
コーヌスデンチャーとは
コーヌスデンチャーは入れ歯の一種で、コーヌステレスコープ義歯やコーヌスクローネ、ドイツ式義歯などと呼ばれることもあります。
ドイツ式と呼ばれるように、この入れ歯はドイツが本場として開発されているもので、コーヌスは円錐形、テレスコープははめ込み式、クローネは冠(クラウン)と、それぞれドイツ語が使用されています。
コーヌスデンチャーの治療法が翻訳されたことなどによって、日本の歯科医院でも、一時期多くのクリニックが取り入れるなどの流行がありました。
しかし、その頃の日本ではまだコーヌスデンチャーを正しく取り扱える歯科医院も少なく、さまざまなトラブルが生じてしまったことから、積極的に取り扱うクリニックが少なくなってしまったという背景があります。
近年になって日本の歯科診療における環境が整ってきたことなどもあり、コーヌスデンチャーは再び注目されるようになってきました。
まずは、コーヌスデンチャーの特徴などをご紹介します。
コーヌスデンチャーの特徴
コーヌスデンチャーは、正式にはコーヌステレスコープと呼ばれることが多く、上述のとおりこの言葉は「円錐形」「はめ込み式」を意味するドイツ語です。
そしてこの言葉通り、コーヌスデンチャーは円錐形のパーツにはめ込んで固定するような入れ歯です。治療法としては、残っている歯に内冠と呼ばれる金属製の円錐形をしたクラウンを被せ、そのパーツにぴったりはまるような、外冠と呼ばれる構造を持った入れ歯を用意することで、入れ歯をしっかりと安定させることができます。
例えるならば茶筒のようなイメージで、隙間なくぴったりとはまるようにクラウンと入れ歯それぞれのパーツが作られることで、接着剤などを使用しなくても、装着している間は高い安定感が得られ、ゆっくりと引き上げれば簡単に取り外せます。
入れ歯をはめ込むためのパーツを、残っている歯にクラウンとして取り付けるため、コーヌスクローネとも呼ばれます。
なお、ドイツではコーヌスクローネのほかにもさまざまなテレスコープシステムがあり、歯の状態に応じて適切な治療法を選択することで、幅広いお悩みに対応できます。
ほかの入れ歯との違い
入れ歯には、コーヌスデンチャーのほかにもさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
代表的なものは保険診療で作ることができる入れ歯で、これは歯科用レジンで土台となる義歯床と義歯(白い歯の部分)が作られ、部分入れ歯の場合はほかの歯にひっかけて入れ歯を安定させるためのクラスプやレストと呼ばれる金属製のパーツが付属しています。
保険診療の入れ歯とコーヌスデンチャーはともに適切な噛み合わせを実現させ、よく噛めるようにするという点では同じですが、使用時の見た目のよさや、安定感に差があるといえます。
保険診療でつくる部分入れ歯は、歯を固定するための金属パーツが存在していることから、どうしても使用時の見た目が不自然になってしまいます。一方、コーヌスデンチャーは表から金具が見えないため、使用時の見た目が自然で、口元が美しく見えます。
使用感についても、コーヌスデンチャーは入れ歯を内側からしっかり固定するため、安定感が得やすく、硬いものでも噛みやすい入れ歯です。
保険適用ではなく、自費診療で作成する入れ歯にもさまざまな種類があり、保険診療で作成するものよりも見た目や使用感に優れたものも多いですが、コーヌスデンチャーはそのなかでも自然な見た目かつ安定感のある入れ歯といえるでしょう。
インプラントとの違い
コーヌスデンチャーは、金属製の土台を作り、その上に義歯を被せるという点では、インプラントや、インプラントを使用した入れ歯であるインプラントオーバーデンチャーと似ています。
両者の違いは、インプラントは歯が完全にない場所に金属製の人工歯根を埋め込む治療であるのに対し、コーヌスデンチャーは残っている歯を加工して、入れ歯を安定させるための土台にするという点です。
インプラントは、歯槽骨という天然の歯が固定されている顎の骨に対して、チタンまたはチタン合金のボルトを埋め込み、これが土台となります。そのため、天然の歯が残っている場合はインプラント治療は行えず、抜歯してからの治療を実施します。
コーヌスデンチャーは、残っている自身の歯を削って円錐形のクラウンを被せて土台とするので、抜歯は行いません。
それぞれメリットやデメリットがありますが、ボルトを埋め込む手術が必要なインプラントの方が身体への負担が大きく、インプラント周囲炎というリスクもありますので、土台にできる歯が残っているのであれば、コーヌスデンチャーはおすすめの治療といえます。
なお、残っている歯の状態によっては、インプラントを併用してコーヌスデンチャーの治療が行われることもあります。
コーヌスデンチャーは残っている歯に内冠を被せて土台としますが、歯の状態によっては十分に安定感をえるための土台が作りにくい場合もあります。この場合、患者さんの歯自体に内冠を被せた土台だけではなく、インプラント治療で用意した土台も作ることで、よりしっかりと安定感のある入れ歯を目指せます。
自身の歯とインプラントの両方が混在している状況でも治療を受けることができる点は、コーヌスデンチャーの特徴の一つといえます。
コーヌスデンチャーの素材
入れ歯の素材は、保険適用で作成する場合には歯科用レジンしか利用できませんが、コーヌスデンチャーのように自費診療の場合、特に使用する素材に制限はありません。
そのため、コーヌスデンチャーは歯科医院によっても使用する素材が異なります。
白い歯の部分ではハイブリッドセラミック、ピンク色の義歯床部分では歯科用レジンなどが用いられ、患者さんのお口に合わせて、色味などが調整されます。
入れ歯を安定させるための金属製のパーツにはコバルトクロムのほか、より高い安定感や、後から調整ができるようにするため、金や白金が使用されることもあります。
コーヌスデンチャーの適応
コーヌスデンチャーは、患者さん自身の残っている歯を加工して土台にする必要があるため、残っている歯がある方が適応となります。
総入れ歯を使用しているような、歯が一本も残っていないような方ではコーヌスデンチャーの治療を行うことができません。
また、歯が残っている場合でも、根管治療などによって神経が取り除かれている場合は土台として十分な強度が確保できず、治療の適応とならない可能性があります。
また、金属パーツを使用することから、金属アレルギーの状態などによっては適応が難しくなる可能性もあります。
それ以外では、コーヌスデンチャーにはさまざまな種類があるので、歯の欠損状態に応じた治療が可能であり、幅広いお口の状態に適応があります。
コーヌスデンチャーのメリット
コーヌスデンチャーは、見た目や使用感においてメリットの多い入れ歯です。それぞれのメリットについてご紹介します。
自然な見た目
コーヌスデンチャーは、入れ歯を安定させるための金属パーツが入れ歯の内側にあるため、使用中に金属が見えることがなく、とても自然な見た目を実現可能です。
また、歯並びや色味は自由に調整が可能なので、天然の歯のときよりも美しい口元を目指すことができます。
違和感の少ない付け心地
コーヌスデンチャーは、金属パーツで入れ歯を安定させるため、それ以外のパーツを小さく作ることができます。保険適用の入れ歯の場合は、義歯床などが大きくなりやすいことから使用時の違和感が生じやすいのですが、コーヌスデンチャーは違和感も少なく、快適に使いやすい点がメリットです。
治療期間が短い
コーヌスデンチャーは、歯型などをとって入れ歯を作り、天然の歯に専用のクラウンをかぶせれば治療が完了します。
インプラントのように大がかりな手術や、治療後の回復を待つ必要がないため、治療にあまり長い期間をかけたくないという方でも利用しやすいといえます。
食事を楽しめる
コーヌスデンチャーは、歯にかぶせた内冠と入れ歯側の外冠がぴったりのサイズで作られているため、装着時にとても高い安定性を実現できる入れ歯です。
しっかりと歯に固定されるため、硬いものでも噛みやすく、食事を心置きなく楽しむことができます。
また、保険適用の入れ歯は熱伝導率の低い樹脂製の素材が使用されていることで、食べものの温度を感じにくいことも食事の楽しみを減少させる要因ですが、コーヌスデンチャーは熱伝導率も高いため、食事の楽しみが損なわれません。
コーヌスデンチャーのデメリット
コーヌスデンチャーにはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在します。
保険が適用されない
コーヌスデンチャーのデメリットの一つが、治療費用が高額になりやすい点です。
現在、入れ歯治療で保険適用が認められているものは、部分入れ歯であれば義歯と義歯床が歯科用レジンで作られ、外側に入れ歯を固定させるための針金のようなパーツ(クラスプ)がついた形状のものか、マグネットデンチャーといって、磁力で入れ歯を安定させるもののみです。
コーヌスデンチャーは保険適用ではないため、歯科医院それぞれで治療費用が異なるうえ、金などの素材が使われることもあって、どうしても高額になってしまいやすい入れ歯といえます。
適応できない場合がある
上述のとおり、コーヌスデンチャーは幅広い症例で適応可能な入れ歯ですが、残っている歯の状態や金属アレルギーの症状などによっては、治療が適応とならない場合もあります。
また、コーヌスデンチャーにもさまざまな種類があり、それぞれ適応となる症例が異なるため、適切な治療内容を選択しないと良好な結果につながらない可能性もあります。
コーヌスデンチャーの治療を受けるときは、しっかりと適応がある治療を受けるため、症例経験がしっかりとある歯科医院を選ぶようにしましょう。
ほかの歯を削る可能性がある
コーヌスデンチャーは、残っている自身の歯に内冠を被せ、そこにぴったりとはまる外冠のついた入れ歯を装着することで、入れ歯を安定させるという治療法です。
そのため、内冠を被せる歯については歯を削る治療が行われる可能性もあり、残っている歯をなるべくそのままの状態で残しておきたいという方には不向きな治療といえます。
なるべく天然の歯は削らない治療を受けたいという場合は、歯科医師とよく相談してコーヌスデンチャー以外の治療も含めてよく検討するようにしましょう。
治療を受けられる歯科医院が少ない
コーヌスデンチャーは入れ歯のなかでも専門性が高い治療で、治療を提供している歯科医院の数が多くはありません。
治療を受けるための歯科医院選びの選択肢が少なく、気軽に相談しにくいという点が、デメリットの一つといえるでしょう。
コーヌスデンチャーの治療について
コーヌスデンチャーの具体的な治療の流れや、費用の目安などについてご紹介します。
治療期間
コーヌスデンチャーによる治療は、1ヶ月から6ヶ月程度の治療期間が目安です。
残っている歯の状態や、作成する入れ歯の形状によっても治療期間が変わるため、症例によって治療期間に差が生じます。
治療の流れとしては、まずは型取りを行って内冠を作り、内冠を歯に取り付けた状態で再度精密な歯型を採取して外冠を作ります。
こうすることで、内冠をつけた状態の歯にぴったりとあった入れ歯を用意することが可能となり、被せるだけでしっかりと安定感のある入れ歯を実現できます。
治療費用の目安
コーヌスデンチャーは自費診療のため、治療費用は歯科医院によって大きく異なります。
目安の金額としては15万円から50万円ほどですが、100万円を超えるような治療となるケースも多くあります。
インプラント治療を併用する場合はさらに治療費用が高くなりやすいため、まずはコーヌスデンチャーを取り扱う歯科医院で、どの程度の費用がかかるかを相談してみるとよいでしょう。
治療に伴うリスク
コーヌスデンチャーは、土台として内冠を被せる歯を削る必要があるため、これによって歯が脆くなるリスクがあります。
また、歯を削ることで刺激が神経に伝わりやすくなるので、冷たいものを口に含んだときに刺激を感じるようになるなど、知覚過敏が生じるリスクも考えられます。
まとめ
コーヌスデンチャーは、自然な見た目や安定感のある噛み心地を実現しやすく、快適に利用しやすい入れ歯の一つです。
保険適用とならず、ある程度高額な治療費用になりやすい治療法ではありますが、しっかりと食事を楽しみ続けやすい治療法ですので、治療が気になる方は、コーヌスデンチャーを取り扱う歯科医院で一度相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献