入れ歯は、なくなった歯の代わりをしてくれる大事な装置です。
食事がしやすくなったり、歯がないことに対して恥ずかしさを感じたりせずにすむなど便利ですが、やはり自分の歯ではないのでふとしたときにはずれてしまうこともあるでしょう。
入れ歯がとれてしまう原因は、入れ歯自体にもお口の状態にもいくつか原因があり、ひとつずつ確認して対処していく必要があります。
この記事では、入れ歯がとれてしまう原因とその対処法、外れにくい入れ歯もあわせてご紹介します。
入れ歯がとれてしまうことで悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
入れ歯がとれる原因
入れ歯はなぜとれてしまうのでしょうか。
部分入れ歯も総入れ歯の場合も人によって原因が違うので、原因を把握しておくことが大切です。多く挙げられる原因を解説します。
サイズが合っていない
入れ歯を作るときにほかの歯や歯茎に合うように調整して作成しているはずなのに、使用しているうちにサイズが合わなくなってくる場合があります。
その理由としてまず挙げられるのは、顎の骨の変化です。
骨は通常、古い骨を分解する骨吸収と新しい骨を作る骨形成を繰り返していますが、高齢者は骨の新陳代謝が活発ではなく、骨形成よりも骨吸収の方が多く行われます。そのため、入れ歯の土台である骨が小さくなり、入れ歯が合わなくなってしまいます。
また、長く入れ歯を使っていると噛み合わせなどで入れ歯がすり減ってしまいサイズが合わなくなる可能性もあるでしょう。
ほかにも、入れ歯についたプラークからカンジダとかの菌類が侵入して入れ歯の素材が変質する、唾液に含まれるカルシウムが沈着して歯石のようになり、入れ歯の形が変わってしまうなどにより入れ歯のサイズが変化することもあります。
噛み合わせに問題がある
高齢者の場合、顎の関節や筋肉が衰えて不具合をおこし、上下の歯の噛みあわせが不安定になる場合が少なくありません。
噛み合わせが悪くなってしまうと、入れ歯が動きやすくなり、とれやすくなってしまいます。
また、入れ歯の人工歯と自分の歯の噛みあわせは異なります。総入れ歯は、前歯で強く噛むと一番後ろの奥歯から空気が入り込み、その圧で歯茎から入れ歯がとれやすくなってしまうのです。
そういったことを防ぐために、総入れ歯は前歯と奥歯の噛みあわせのバランスを調整し、空気が入らないように作られています。しかし、加齢により歯茎が衰えることで入れ歯の噛み合わせが不安定になり、はずれやすくなってしまいます。
唾液が少ない
唾液にはお口の中の汚れを洗い流してむし歯を予防したり、味覚を感じやすくしたり、食べ物の消化を助けたりする大切な役割があります。
ほかにも、お口の中を傷つけないように湿潤・保護作用もあります。入れ歯を着用したときに唾液は歯茎と入れ歯を密着させる吸盤のような働きをしてくれるので、唾液は入れ歯を装着するときにも欠かせません。
人にもよりますが通常、唾液は1日に1リットルから1.5リットル程お口のなかで分泌されます。しかし、加齢により唾液の分泌量が少なくなってくる傾向があり、唾液の量が少ないとやはり入れ歯がとれやすい原因になるでしょう。
対策として、お口のなかでも使用できる保湿剤を使用して定期的にお口のなかを湿らせた状態で入れ歯を使用する場合もあります。
金具がゆるい・フィットしていない
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歯茎にフィットさせる総入れ歯と比べて、部分入れ歯は残っている自分の歯にクラスプと呼ばれる金属の留め具をひっかけて使用するので、そこがゆるくなってしまうと入れ歯がはずれやすくなります。
部分入れ歯を長期にわたり何度も付けたりはずしたりを行うと金具がゆるくなりやすいでしょう。入れ歯を作成した歯科医院で金具を調整してもらえるので、金具がゆるくなったと感じたら早めに来院しましょう。
保険適用での総入れ歯は、ベース部分はプラスチックで作成される場合が多いです。総入れ歯のベース部分が歯茎にフィットしていないと当然ですがはずれやすくなってしまいます。
総入れ歯が歯茎にフィットしない原因として考えられるのは以下の通りです。
- 顎の骨や歯茎が痩せてしまう
- 総入れ歯と歯茎が合わず炎症を起こし歯茎が痛くなる
- 総入れ歯を作って間もない
作成したばかりの総入れ歯は、まだ慣れていないので何度か調整する必要があります。入れ歯の不具合で気になることがあれば歯科医院に相談するとよいでしょう。
歯茎が痩せている
入れ歯は歯茎とぴったりフィットするように作られています。そのため、歯茎が痩せてしまうと土台の部分が少なくなりクッション効果も薄れ、入れ歯がとれやすくなる原因となります。
歯茎が痩せることやお口のなかの環境が変わってしまうことは、歯周病などの口腔内トラブルが原因の場合もありますが、加齢が原因で起こることがほとんどです。
あまり心配する必要はありませんが、加齢による口腔内環境の変化も注意しておくことが大切です。
入れ歯がとれる場合の対処法
入れ歯がとれやすくなる原因はご紹介しましたが、ではその原因を解決するためにはどのような対処法があるのでしょうか。順番に解説いたします。
入れ歯を作り直す
入れ歯を作ったのに壊れてしまった・歯茎が痩せたり部分入れ歯の金具がゆるんでしまったりでサイズが合わなくなったなどの事態が起こった場合は、なるべく早めに歯科医院へ行きましょう。
修理や調整で済めばよいですが、それが難しいと判断された場合は作り直しになることも考えられます。
入れ歯を再度作り直すことになった場合、医療費が膨大になってしまうのを防ぐために再製作期間の制限が設けられていて、6ヵ月間は新しい入れ歯を作ることができません。
住んでいる地域の違いや紛失などの特例もありますが、基本的には入れ歯を作り直す場合は最初に入れ歯を作ってから6ヵ月は空けないと保険が適用されず自己負担になります。高額になってしまうので注意が必要です。
入れ歯をお掃除するときは落として傷つけたり壊さないために水を入れた容器やタオルをクッションにして行いましょう。
入れ歯を長く大切に使用するために、使いづらさを感じたら自分で対処しようとするのではなく、すぐに歯科医師へ相談するのが大切です。
唾液の分泌量を増やす
唾液は入れ歯をはずれにくくする効果だけでなく、むし歯予防や抗菌効果などお口の健康を保つ働きがあります。加齢により唾液の分泌量は減っていく傾向にありますが、日常生活のなかで以下の行動を心がければ唾液分泌量の促進が期待できるでしょう。
- 耳・顎の下にある唾液腺をマッサージする
- 食事のときに噛む回数を増やす
- 定期的に水分補給をする
- 口呼吸よりも鼻呼吸を心がける
- 唾液の分泌を促進させる食べ物を摂取する
食事のときに噛む回数を増やすのが難しい人はガムを噛むのも効果的です。水分は、お茶やコーヒーなど利尿作用があるものは避けましょう。
唾液の分泌を促進する食べ物は梅干しやレモンなどが有名ですが、アルギン酸が含まれる昆布やポリグルタミン酸が含まれる納豆にも唾液促進の効果があるので積極的に摂取するとよいでしょう。
入れ歯の内面に材料を足す
加齢や歯周病により歯茎が痩せてしまうと、入れ歯の土台と歯茎の間に隙間ができてしまいうまく入れ歯と歯茎がフィットしにくく、はずれやすくなってしまいます。
その場合は、歯科医師の判断のうえ足りなくなった入れ歯の土台部分の内面に材料を足して入れ歯の粘膜を覆う部分を増やして調整を行い、現在の歯茎の形にフィットさせます。
外れやすい入れ歯を使い続けるとどうなる?
入れ歯の使いづらさを感じても、時間がなかったり体調が悪かったりでなかなか歯科医院へ行けない人もいるでしょう。入れ歯がはずれやすいまま放置してして使い続けているとどのような症状が出るのでしょうか。詳しく解説していきます。
粘膜を傷付けやすい
はずれやすい入れ歯をそのまま使い続けてしまうと、本来力をかけなくてもよい場所の歯にまで力が加わってしまいがちです。
お口のなかで入れ歯がずれてしまうことによって歯が粘膜にあたってしまい、傷つきやすくなってしまいます。
一度傷ついてしまった粘膜は、入れ歯を調整または作り直しをしない限り同じ場所に傷がついてしまうので治りにくく、痛みも続きます。
傷から細菌が侵入して口内炎になる可能性もあるので、粘膜を傷つけてしまう前にはずれやすい入れ歯を直しておくことが重要です。
天然歯の寿命が縮まる
自分の歯(天然歯)が残っている場合、その歯を入れ歯の支えとして使うことがあります。そのため、多少の負荷はどうしても天然歯にかかってしまいます。
はずれやすく合っていない入れ歯を使い続けると、お口のなかで入れ歯と歯茎にずれが生じ、通常よりも大きな力が天然歯に加わりさらに天然の歯に多くのダメージを与えてしまうでしょう。
その結果、残っている健康な歯の寿命を縮めてしまい、歯を失ってしまう可能性もあるので注意が必要です。
顎関節症になりやすい
合わない入れ歯を使い続けると、歯だけでなく顎にも負担がかかります。
入れ歯と歯茎がずれてしまうことで、本来なら両顎で噛むところを片顎にだけ負担がかかってしまい噛みあわせが不安定になり、顎関節症を発症する可能性も考えられるでしょう。
顎関節症を発症すると、お口が開けにくくなる・顎を動かすと痛みが出る・お口を開けたときにカックンやガリガリなど関節雑音が聞こえるなどの症状があります。
顎の筋力が弱いぶん、女性の方が顎関節症になりやすいといわれています。
痛みが伴わない場合の関節雑音は治療の必要はありませんが、日常生活に支障が出る場合は早めに治療し、自分のお口に合うように入れ歯も調節してもらいましょう。
入れ歯安定剤の仕組みと使い方
入れ歯安定剤は、入れ歯が不安定ではずれやすいときや痛みがあるときに使用することで、痛みや入れ歯の動きを安定させる働きがあります。
市販されているので、歯科医師の診察を受けずに手軽に使用できて便利ですが、長い期間の使用で歯茎や顎骨に悪影響を及ぼす可能性があるので注意しましょう。
入れ歯安定剤にはお口のなかの水分を吸収し、ゲル状に変化する粉末タイプ・入れ歯の土台部分全体に均一に塗布が可能なクリームタイプ・入れ歯と似た形状に作成されたテープタイプがあります。
入れ歯安定剤の主な成分はカラヤガム・カルボキシルメチルセルロース・メトキシエチレン酸共重合体などの水を含ませることで膨張する水溶性高分子化合物などです。
入れ歯と粘膜の間で使用することで唾液を吸収して粘着性を発揮させるのが特徴です。
入れ歯安定剤の選び方
上記で紹介したとおり、入れ歯安定剤には3つのタイプがあります。
それぞれ違った特徴があるので、自分のお口の状態にあったタイプを選ぶことが重要です。 選ぶ基準のひとつとして入れ歯のがたつき具合があります。がたつきが多い場合は粘着力が強めのクリームタイプかテープタイプ、がたつきが少ない場合は粉末タイプが適しています。
ほかにも、好みの香りやお口のなかの不快感が少ないタイプも考慮してみるとよいでしょう。
入れ歯安定剤は、がたつきや痛みなど入れ歯の不具合を改善するために一時的に使用するのが理想です。
症状が落ち着き時間がとれたら、歯科医師の診察をうけるようにしましょう。
外れにくい入れ歯
入れ歯にはいくつか種類があります。ここからは、特殊な技術を使いはずれにくいといわれている入れ歯をご紹介します。
コンフォート入れ歯
コンフォート入れ歯は、やわらかい素材のシリコンが入れ歯の粘膜の部分を覆っていて、噛み締めたときでも歯茎に痛みが生じにくく、入れ歯と歯茎が安定して密着するのが特徴です。
保険適用外で費用は132,000円〜165,000円(税込)程となります。
マグネット式入れ歯
マグネット式入れ歯は、名前のとおり磁石の力を利用してはずれにくくする入れ歯です
わずかでも天然歯が残っていれば、磁石をはめ込めますが、残っている歯の状態によっては使用できない場合もあります。
また、MRI撮影のときに使用していると映像が乱れる場合があるので注意が必要です。
インプラントオーバーデンチャー
顎の骨にインプラントを複数本埋め込み、その部分を支持装置として入れ歯を固定する方法です。
顎骨から固定するのでとてもずれにくく、自然にとれてしまうリスクも少ないという特徴があります。
少ない数のインプラントで固定するため、1本でもトラブルが起きてしまうと使えなくなってしまうため、事前に患者さんのお口の状態に適した数を見極めるのが重要です。
まとめ
今回は、入れ歯がとれる原因とその対処法・入れ歯安定剤やとれにくい入れ歯についてご紹介しました。
歯茎が痩せたり、唾液の分泌が減ったりいろいろな原因がありましたが、対処法も多くあるので、できることは実践してみましょう。
入れ歯がはずれやすくなると日常生活にも支障をきたし、メンタルにも影響してストレスにもつながる場合があります。
健康的な生活を送るためにも入れ歯の不具合を感じたら、自分の判断で手を加えることは避けて、まずは歯科医院に相談することが大切です。
参考文献