何らかの原因で入れ歯(義歯)を必要としている方のなかには、悩みや要望を持っている方も多いのではないでしょうか。
そのニーズは幅広く、力がかかった際に外れないかといった機能面での不安を持っている方から、見た目が目立ちにくいようにという審美性を気にされる方までさまざまです。
この記事では、より自然な見た目に近付けやすいノンクラスプデンチャーや、噛みやすさを備えた目立ちにくい入れ歯について紹介しています。
ノンクラスプデンチャーは金属を使うケースもあるため、目立ってしまう場合もありますが、この記事では目立ちにくいノンクラスプデンチャーに限定して説明します。
目立ちにくい入れ歯のメリットやデメリットについても触れていますので、入れ歯を検討するにあたって審美性を気にされている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目立ちにくい入れ歯(義歯)にできる?
歯にはさまざまな役割があります。イメージしやすいものを挙げると、食事の際に自分の力で噛む役割や、声を出す際に正しく発音できるという機能的な役割が一般的でしょうか。
入れ歯は失われた歯の代わりに、これらの役割を補うためのものです。またご自身の歯を失った状態でも、全歯揃った状態に見えるという機能も重要です。
厚生労働省の歯科疾患実態調査によると、歯の喪失は年齢が高くなるにつれて進み、後期高齢者の約3割の方が総入れ歯を使っているといわれています。
これまでと比較し歯の喪失は改善傾向にはあるものの、やはりご自身の歯を失った際の選択肢として入れ歯を検討するケースは少なくありません。
複数の機能を持つ入れ歯ですが、できれば自然な見た目で過ごしたいという考えを持たれる方もいるでしょう。口腔内に金属が見えてしまうことで入れ歯だと周りにわかってしまうことに対する気後れを感じることもあるでしょう。
入れ歯にする歯の本数や場所によっても適した方法は異なりますが、今回はノンクラスプデンチャーという方法を紹介します。
目立ちにくいノンスクラプデンチャーの特徴
ノンクラスプデンチャーとは、ノンクラスプ、つまり金属のバネを使用していない入れ歯の総称です。
通常の保険診療で使用する入れ歯には、クラスプと呼ばれる金属のバネがついています。これは残っている歯に、入れ歯を固定するための留め具のような役割を果たしています。
入れ歯を快適に使用するためには必要な部品ですが、金属部品を引っかけるということは、どうしても周囲の人が見たときに金属のクラスプが見えてしまうという懸念があります。
ノンクラスプデンチャーはこのバネを使用せず、弾力性のある素材の密着する力を使用し入れ歯を固定する方法です。そのため見た目が自然になるというメリットがあります。
ノンスクラプデンチャーの主な種類
ノンクラスプデンチャーは金属のバネを使用していない入れ歯の種類全体を表す言葉です。ノンクラスプデンチャーのなかにもさまざまな種類があり、材質や固定方法が異なります。
それぞれの種類に特徴があるので、ここでは具体的な製品を3点紹介します。あなたに合ったノンクラスプデンチャーを探す際の参考にしてみてください。
ナチュラルデンチャー
ナチュラルデンチャーは、株式会社成田デンタルが取り扱うノンクラスプデンチャーです。
通常の入れ歯のクラスプの部分を弾力性のある樹脂を用いて維持させる入れ歯です。歯肉と同じ色の樹脂を用いるため、見た目も自然で外出時にも使いやすいといえるでしょう。
軽量でやわらかいだけでなく、金属アレルギーを心配する必要もありません。適合が良く、装着感に優れ、調整も優しい点が魅力といえるでしょう。
スマイルデンチャー
スマイルデンチャーは、株式会社三和デンタルが取り扱うノンクラスプデンチャーです。
プラスチックに似たナイロン製の樹脂で作られています。スマイルデンチャーの特徴はしなやかさと薄さを兼ね備えた、軽い素材でできていることです。
割れにくく、装着していてもあまり違和感を感じさせない点も大きな魅力です。また落としてしまったり誤って踏んでしまっても壊れにくいため、安心して使うことができるでしょう。
ミラクルデンチャー
ミラクルデンチャーはミラクルラボ株式会社が取り扱うノンクラスプデンチャーです。歯肉に近い歯の根元にあたる場所の側面に、入れ歯を固定するための装置がついています。
周囲の人からは入れ歯であることが認識されにくくなる特徴を持つほか、固定に必要な部品が表面に出てこない点も快適に過ごせる理由です。
ミラクルデンチャーの開発からの歴史は長く、20年以上にわたる歴史のある製品です。長い歴史があるということは、それだけの症例があるということを表しています。
このように利用している方が少なくない点も安心できる要素の1つといえるかもしれません。
目立ちにくい入れ歯のメリット
目立ちにくい入れ歯を利用したいと考える人の多くは、そのメリットとして見た目の自然さを挙げるのではないでしょうか。
一方で目立ちにくい入れ歯には機能面や身体的な面でもメリットがあります。審美性以外のメリットにはどのようなものがあるか、早速見ていきましょう。
審美性が高い
冒頭でも紹介したとおり、目立ちにくい入れ歯を利用するメリットとしては何より審美性のイメージが大きいのではないでしょうか。
一般的な入れ歯の場合、金属のバネを利用するため、お口を開けたときに周囲の人から見える位置で使っている場合には金属部分が見えてしまうことも少なくありません。
入れ歯であることを気にしている患者さんのなかには、この金属部分が見えてしまうことがコンプレックスにつながってしまい、なかなかお口を大きく開けて笑えないという方もいます。
ノンクラスプデンチャーの場合にはこれらのコンプレックスの解消につながるでしょう。自然な見た目となることが多くなるため、日常生活での笑顔に躊躇することも減るのではないでしょうか。
金属アレルギーの心配が少ない
ノンクラスプデンチャーは先述のとおり、金属のバネを使わず素材の弾性を利用します。金属部品を使用していないので、金属アレルギーに対応できることもメリットの1つといえるでしょう。
特に入れ歯は長時間にわたって装着する点が特徴です。そのため金属アレルギーが陽性の方からすると、装着が難しくなるという懸念があります。
また金属アレルギーは金属と接触している部分での炎症が特徴です。口腔内というデリケートな場所で炎症が起きてしまうと、日常生活に支障をきたしかねません。
ノンクラスプデンチャーを用いることでそれらのリスクを軽減できることは、大きな魅力です。
残存歯への不安が少ない
入れ歯を大きく2つにわけると、すべての歯を入れ歯にする総入れ歯とご自身の残っている歯に取り付けて失った歯の機能を補う部分入れ歯にわかれます。
後者の部分入れ歯の場合には、懸念される点がいくつかあります。残っているご自身の歯に負担がかかってしまうことや、手入れが行き届かないことが代表的です。
ノンクラスプデンチャーの場合には、弾力性のある素材を使用し、歯茎を包み込むように装着します。そのため残存歯への影響が軽減されるというメリットがあります。
身体への負担を軽減できる
歯の健康は身体の健康という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。残存歯への影響もさることながら、口腔内で負担のかかる入れ歯は、噛むことや食生活への意欲の低下をもたらします。
食生活が豊かであることは、健康の維持や病気の予防にもつながるといえるでしょう。そのため残存歯の健康を保ち、快適な入れ歯を使用することは身体への負担の軽減にも影響があるといえます。
また笑顔と健康や疾病の関連については、近年さまざまな研究が行われています。見た目に違和感の少ないノンクラスプデンチャーによる入れ歯は、お口を開けて笑うことに対してのコンプレックスを軽減する可能性があります。
この効果からも、身体的にもよい影響があると考えることができるでしょう。
目立ちにくい入れ歯のデメリット
たくさんのメリットがあるノンクラスプデンチャーですが、いくつかのデメリットがあります。
事前に知っておくべきデメリットを3点挙げますので、ノンクラスプデンチャーを検討している方はぜひ参考にしてみてください。
保険適用外となる
ノンクラスプデンチャーは、保険診療の適用となりません。そのため保険診療と比較すると費用が嵩む傾向にある点はデメリットといえるでしょう。
もちろん保険適用外の診療を利用することで、希望にかなう治療を受けやすい側面もあるため、コストと天秤にかける必要があります。
また保険診療の適用とならない場合には、それぞれの歯科医院で費用が異なる点も特徴です。ある歯科医院が、当院ではノンクラスプデンチャーを税込11万円で診療できます、とホームページで謳っていたとしてもほかの歯科医院でも同様の金額で診療を受けられるとは限りません。
また同じ歯科医院でも、特殊な治療を必要とする場合には想定より費用がかかる場合もあります。歯科医院での治療は長期にわたることが少なくありません。
そのため納得できる治療内容や費用感であるかを、慎重に確認してから治療に入ることをおすすめします。
修理が難しい
ノンクラスプデンチャーのなかでも、やわらかい素材のものは修理が難しくなることがあります。特に変形や大きな破損といったケースでは再作成が必要となることもあり、注意が必要です。
長い期間使用する間に緩んできた場合にも、保険診療のように金属のバネを締め付けて調整することができないため修理が難しいといえるでしょう。
再作成が必要となる場合には、修理と比較してコストがかかる点も念頭におくことをおすすめします。
寿命が短い
ノンクラスプデンチャーは使用している材質の特性上、保険診療で作成する入れ歯よりも寿命が短いというデメリットがあります。
寿命を大きく超えて使用すると、強度が著しく低下するだけでなく、細菌が混入するリスクもあるため注意が必要です。
また寿命が短いということは、再作成を必要とする頻度が高いことを表します。都度新しいノンクラスプデンチャーを作成することを考えると、やはりこちらもコストの増加につながりますので、念頭において入れ歯の方法を検討することをおすすめします。
噛みやすさを備えた目立ちにくい入れ歯の種類
ノンクラスプデンチャーは金属のバネを使わず素材の弾性を利用するため、過度な衝撃に耐えきれないケースがあります。
噛みやすさと目立ちにくさを兼ね備えた入れ歯があるに越したことはないでしょう。ここではほかの方法を3つ紹介します。
これらの方法に共通する特徴として、歯の根元が残っていなければならない点が挙げられます。完全に歯を失った場合には別の治療法を検討する必要がありますのでご注意ください。
磁性アタッチメント義歯
磁性アタッチメント義歯は、入れ歯をしっかり固定するために磁石を利用した義歯のことです。
この義歯は、歯の根に小さな金属を埋め込み、その金属に入れ歯側の磁石が吸着する仕組みになっています。磁力を使って入れ歯を固定するため安定感があり、ズレにくいのが特徴です。
この方法は特に部分入れ歯に適しています。残っている歯の根を活用するため、入れ歯がしっかりとフィットしやすく、噛む力も自然に伝わります。入れ歯を装着したり取り外したりするのが簡単で、お手入れも楽です。
さらに、金属の留め具が見えないため、見た目が自然であるというメリットもあります。
インプラントオーバーデンチャー
インプラントオーバーデンチャーは入れ歯の一種で、インプラントを利用して入れ歯を固定する方法です。
通常の入れ歯は歯茎に直接装着されますが、インプラントオーバーデンチャーでは顎の骨にインプラントを埋め込み、インプラントに特別な留め具を取り付けて入れ歯を固定します。
インプラントオーバーデンチャーの大きなメリットは、安定性が高く、噛む力が強いことです。通常の入れ歯はズレやすかったり、食事中に外れたりすることがありますが、インプラントで固定されているためズレや外れる心配が少なくなります。
また、顎の骨にしっかりと固定されているため、入れ歯のズレによる不快感も軽減されます。
コーヌスクローネ義歯
コーヌスクローネは、摩擦力を利用して入れ歯を固定する方法です。残っている歯を土台として、その歯に内冠と呼ばれる部分を装着します。その上から入れ歯と一体となった外冠を被せ、密着させます。
摩擦を利用して、歯にかかる力がまっすぐ縦方向となることから入れ歯を安定させることができる点が特徴です。
内冠と外冠が密着していることから隙間に汚れが付着することも抑えられ、清潔に保ちやすいといったメリットも持ち合わせています。
まとめ
この記事では目立ちにくい入れ歯という、審美性の観点から入れ歯の種類やメリット・デメリットを紹介しました。
もちろん目立ちにくい入れ歯にもデメリットは存在します。入れ歯を検討する際にはたくさんの選択肢があります。噛みやすさや耐久性、価格面といったさまざまな点から、あなたの大切にしたい口腔内のニーズに合わせて選ぶことが大切です。
それぞれの治療法が症例とともに紹介されているので、ご自身の状況と併せて調べてみるといいでしょう。
またそれぞれの歯科医院には、得意分野や自信をもって取り組まれている治療方法がありますので、気になる治療法を取り扱っている歯科医院で相談してみることをおすすめします。
参考文献