入れ歯がゆるいと、食事や会話に支障が出てしまい、不快な思いをすることも多いのではないでしょうか。実は入れ歯がゆるくなる原因はさまざまで、放置すると口腔内のトラブルにつながることもあります。
本記事では入れ歯がゆるいと感じたらどうすればよいのかについて以下の点を中心にご紹介します。
- 入れ歯がゆるくなる原因
- 入れ歯がゆるいと起こりうる症状
- 入れ歯がゆるくなったときの対策
入れ歯がゆるいと感じたらどうすればよいのかについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
入れ歯がゆるくなる原因
入れ歯がゆるくなる原因にはどのようなことが考えられるのでしょうか。 以下で解説します。
歯茎の萎縮
歯が抜けた部分をブリッジや入れ歯で補う際、その支えとなる隣接する歯には大きな負担がかかります。さらに、歯ぎしりや食いしばりなどによる過度な力が加わることで、支えている歯の周囲の顎の骨が徐々に減少してしまうことがあります。
体内の骨の新陳代謝のバランスが崩れることで“骨吸収”が起こる場合があります。入れ歯使用によって骨への刺激が不足すると、新しい骨の生成が減りつつ、古い骨は分解され続けるため、結果的に顎骨の量が減少してしまいます。また、長期間にわたって入れ歯を使用することで、相対的に歯茎の厚みも薄くなっていくように見えることがあります。
入れ歯の変形・摩耗
入れ歯は使用し続けると徐々にすり減っていきます。特に噛む力が強くかかる部分はプラスチック素材が摩耗しやすく、それが原因で入れ歯のフィット感が悪くなることがあります。そのため、定期的に歯科医院で検査を受け、摩耗の程度に応じて修理や交換を検討することが大切です。
また、入れ歯の保管方法も変形や劣化を防ぐうえで大切です。直射日光のあたる高音な場所に置くと素材が変質し、形状や使用感に悪影響が出ることがあります。使用しないときは専用のケースに入れ、水に浸して乾燥を防ぎながら保管するのが望ましいでしょう。
入れ歯の歯茎に当たる部分には“レジン”という吸水性の高い素材が使われています。この特性から、お口のなかにある間は唾液で適度に湿っていますが、長時間乾燥させると素材が変形したり割れやすくなったりする恐れがあります。使用後すぐに洗浄ができない場合でも、水を張った容器に入れておくだけで乾燥を防げます。
なお、入れ歯の素材によっては熱湯による変形リスクもあります。熱に強い素材もありますが、できれば熱湯を避け、入れ歯を製作した歯科医師に取り扱い方法を確認することが推奨されます。
入れ歯の寿命
入れ歯の耐用期間は使用方法や素材によって異なりますが、4〜5年程度とされています。理由は、噛んだり話したりする日常の動作で徐々に摩耗が進むことや、丁寧に手入れしても素材自体が劣化してしまうためです。
さらに、入れ歯そのものが劣化しなくても、ほかの歯の動揺や抜歯、歯並びの変化、顎骨の吸収による歯茎の痩せなど、口内の環境変化が原因で入れ歯の適合や安定性が損なわれる場合があります。
また、入れ歯の取り扱いや保管方法に問題があると、変形や破損が早まり、寿命はさらに短くなることもあります。天然歯と連結する金具付きの入れ歯では、支えとなる歯を削ると金具の固定が困難になり、作り直しが必要になるケースもあります。
入れ歯のメンテナンス不足
入れ歯も天然歯と同様に、正しいお手入れとメンテナンスが欠かせません。日常的にお手入れを怠ると、入れ歯の表面にプラーク(歯垢)が付着し、やがて歯石へと変わってしまいます。特に、入れ歯の床部分(口腔粘膜に接する箇所)に歯石が溜まると、入れ歯の形が変わってしまい、フィット感が悪くなる原因となります。
食事のたびに付着する汚れは、初めはやわらかいため簡単に洗い流せますが、数日間放置すると唾液の作用で硬い歯石へと変化します。この歯石はいつもの歯磨きでは落とせず、入れ歯と歯茎の間の密着を妨げてしまいます。結果、入れ歯が外れやすくなったり、噛み合わせが悪くなったりするトラブルにつながります。
さらに、入れ歯に歯石がつくと見た目にも影響が出るほか、口内の細菌が繁殖しやすくなり、不快な臭いや感染リスクも高まります。
入れ歯がゆるいと起こりうる症状
入れ歯がゆるいと起こりうる症状にはどのようなことがあるのでしょうか。 以下で解説します。
口内炎ができる
入れ歯が合わなくなると、入れ歯と歯茎の間に隙間ができたり、噛む際の力が特定の部分に集中したりする場合があります。不均一な圧力が原因で、入れ歯と接する粘膜に炎症が起こり“義歯性口内炎”が発症することがあります。義歯性口内炎は、痛みや腫れ、白っぽい丸い潰瘍や出血などの症状を伴います。
特に、入れ歯の形状が歯茎に合っていない状態で使い続けると、粘膜が常に圧迫や擦れにさらされ、炎症が進みやすくなります。痛みを我慢して入れ歯を装着し続けることで、粘膜が傷つき、発赤や潰瘍形成に至るケースも少なくありません。
このような問題は、入れ歯の調整が不十分であることが大きな原因です。噛む力が均等に分散されず、一部の歯茎に過度な負担がかかっている場合や、入れ歯と歯茎がしっかり密着していない場合に起こりやすくなります。
歯茎がぶよぶよになる
長期間、合わない入れ歯を使用し続けると、歯茎に過剰な刺激が加わり“フラビーガム”と呼ばれるやわらかくブヨブヨとした状態になることがあります。この状態になると入れ歯の安定性が低下し、外れやすくなるため、場合によっては外科的に肥厚した歯茎を切除する必要が生じることもあります。
特に、上が総入れ歯で下が両側の奥歯だけの部分入れ歯といったケースで起こりやすいため、気になる方は自身の歯茎の状態を注意深く観察してみてください。フラビーガムが確認された場合には、過剰に増殖した組織を手術で取り除くか、入れ歯の裏打ちの材料を置き換えて装着感の改善を図る治療が行われることがあります。
痛みや吐き気を感じる
入れ歯が歯茎にしっかり合っていない場合、口腔内の粘膜が刺激されて傷つきやすくなり、噛んだときに痛みを感じることがあります。また、誤った装着はお口のなかに不快感を生じさせ、炎症や傷の原因となる場合もあるため注意が必要です。
さらに、入れ歯のベース部分が大きすぎたり長すぎたりすると、喉の粘膜を刺激して吐き気を引き起こすことがあります。特に上顎の義歯床が過剰に広い場合や、下顎の入れ歯に不要な部分がある場合にこの症状が現れやすいとされています。
食べにくい・喋りにくい
入れ歯が合わないと“噛む”、“飲み込む”、“話す”などの基本的なお口の機能が低下し、日常生活にさまざまな支障が出ることがあります。例えば、滑舌が悪くなったり、食べ物の味や温度を感じにくくなったり、入れ歯と歯茎の間に食べ物が詰まりやすくなるといった問題が起こりやすくなります。
特に総入れ歯(全部床義歯)は口内の広範囲を覆うため、味覚や温度感覚が鈍ることがあります。保険適用のプラスチック製入れ歯は厚みが出やすく、口内の粘膜まで食べ物の温度や風味が伝わりにくくなることが多いようです。その結果、食事の楽しみが減ってしまうことも少なくありません。
また、入れ歯が適切にフィットしていない場合は発音にも影響が出やすく、不快感や痛みがあると明瞭な発声が難しくなります。入れ歯がずれてしまうと話しづらさや口内での音の発生も起こりやすく、特に“サ・タ・ラ行”の発音に違和感を覚えることがあります。
顎関節症になる
噛み合わせの悪い入れ歯を長期間使い続けると、顎関節に過度な負担がかかり、顎関節症を引き起こすリスクが高まります。特に、片側の入れ歯で噛むことを避けてしまうと、咀嚼のバランスが崩れ、顎の骨や筋肉に不均衡な負荷がかかるため、顎関節のズレや痛みが生じやすくなります。
この状態が進行すると、顎関節だけでなく頭痛や肩こり、首の痛みなど全身の健康にも影響を及ぼす恐れがあります。また、入れ歯の違和感や痛みから硬い食べ物を避け、やわらかいものばかり食べるようになることで咀嚼回数が減少し、顎の筋力が低下してしまう可能性もあります。
入れ歯がゆるくなったときの対策
入れ歯がゆるんだときはどうすればいいのでしょうか。 以下で解説します。
入れ歯安定剤を使用する
入れ歯の清掃をしっかり行った後は、市販の入れ歯安定剤を活用して、装着時のフィット感を一時的に向上させる方法があります。入れ歯安定剤は大きく分けて“テープタイプ”と“粉末タイプ”、“クリーム(ペースト)タイプ”の3種類があり、それぞれに特徴とメリット・デメリットがあります。
テープタイプは水を付けて使う簡単な方法ですが、効果の持続時間が短く、こまめな交換が必要です。粉末タイプは薄く塗れるうえに吸着力が強いものの、やはり持続性に課題があります。一方、クリームタイプは強力な粘着力で長時間の安定を期待できるため、使い勝手がよいとされています。
特に顎の骨(顎堤)が大きく痩せてしまうと、入れ歯が顎の上で動きやすくなり安定しにくくなります。このような場合に、入れ歯安定剤は補助的な役割としておすすめです。ただし、顎堤がしっかりしている状態で安定剤を過剰に使うと、逆に顎骨の吸収を促進する恐れがあるため注意が必要です。
歯科医院を受診する
入れ歯の不具合に対して市販の安定剤や一時的な対処法は根本的な解決にはなりません。そのため、入れ歯を作製したかかりつけの歯科医師に相談し、専門的な診察を受けることが大切です。歯科医師による調整や修理で、現在の入れ歯を快適に使い続けられる場合もありますが、状態によっては新しい入れ歯の作り直しを検討する必要があります。
入れ歯がゆるい場合はどうすればよい?
入れ歯がゆるい場合はどうすればよいのでしょうか。 以下で解説します。
歯茎が痩せた場合
歯茎が痩せて入れ歯との密着が悪くなると、その状態に応じて対処法が異なります。痩せ具合が大きい場合は新しい入れ歯を作り直すことがあります。痩せ具合が中程度であれば、入れ歯の裏側に材料を足して隙間を埋める修理で対応できることもあります。
歯茎の痩せが軽度の場合は調整のみで済むこともありますが、かなり痩せてからでないと気付きにくく、調整だけで対応できるケースは多くありません。
入れ歯と歯茎の間の隙間の状態は、適合検査によって確認します。隙間の厚みが大きい場合は、裏打ち補修か新製のどちらかの方法を選択し、噛み合わせの状態によっては新しい入れ歯を作る方がいい場合もあります。
入れ歯の摩耗や噛み合わせの不適合がある場合
入れ歯の噛み合わせが悪化すると、噛むたびに入れ歯が動いて緩く感じるようになります。軽度の不適合であれば調整によって改善できることが多いようですが、状態が進行し入れ歯の歯が摩耗してしまうと、新たに入れ歯を作り直す必要があります。
例えば、20年ほどの長期間使用した入れ歯は、歯の部分がすり減って平らになり、歯ぎしりをした際に入れ歯が簡単に動いてしまいます。結果、外れてしまうリスクも高まります。
特に部分入れ歯の場合は、噛み合わせが悪いと同じ部分に過度な負担がかかり、その部分の摩耗や劣化が早まります。さらに、片側だけで噛む癖や噛み方の偏りがあると、入れ歯の一部が不均一にすり減ることも少なくありません。
部分入れ歯の金具が壊れた場合
部分入れ歯には、歯に固定するための金具(クラスプ)が取り付けられていることがあり、この金具が入れ歯をしっかりと支えています。しかし、長期間の使用や負荷によって、この金具が折れたり外れる場合があります。
単に金具が外れただけであれば、入れ歯に再装着することで対応できますが、金具が折れて破損した場合は修理が必要です。金具の破損は、型取りをして新しい金具を製作し取り替えることが多く、修理には数日〜1週間ほどかかることがあります。場合によっては、入れ歯自体の作り直しが必要となるケースもあります。
また、金具が壊れたように見えても、修理可能な場合もあります。そのため、金具に異常があった際は、すぐに入れ歯を持参して歯科医院で診てもらうことが重要です。
ゆるい入れ歯は使い続けないことが大切
合わない部分入れ歯を無理に使い続けることは、お口のなかだけでなく全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。特に、ゆるい入れ歯は残っている歯や歯茎に過剰な負担をかけ、痛みや歯茎の萎縮を招き、歯周病の悪化を助長してしまいます。さらに、長期間同じ部分に刺激が続くことで、まれに口腔がんのリスクが高まる可能性もあるとされています。
また、入れ歯の不適合により食べ物を十分に噛めなくなると、消化不良を起こしやすくなり、胃腸の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。噛み合わせが合わない状態が続くと、顎やその周囲の筋肉に負担がかかり、肩こりや頭痛などの症状が出ることも少なくありません。
精神面でも、痛みや不快感が続くと食事や会話への意欲が低下し、社会的な交流を避けるようになってしまうことがあります。これはストレスの増大につながり、生活の質を大きく損なう原因となります。
特に部分入れ歯は、残存歯にかかる負担が大きく、ゆるい入れ歯を使い続けることで歯の寿命が短くなるリスクもあります。歯を支える力が弱まれば入れ歯の安定性も低下し、使い心地がさらに悪くなる悪循環に陥ってしまいます。
まとめ
ここまで、入れ歯がゆるいと感じたらどうすればよいのかについてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
- 入れ歯がゆるくなる原因には、歯茎の萎縮、入れ歯の変形・摩耗、入れ歯の寿命などがある
- 入れ歯がゆるいと起こりうる症状には、口内炎ができたり、歯茎がぶよぶよになったりすることが挙げられる
- 入れ歯がゆるくなったときの対策は、入れ歯安定剤を使用したり歯科医院を受診したりすることが挙げられる
入れ歯がゆるいと感じたら、そのまま放置せず早めの対処を心がけてください。歯科医師による調整やケアによって、快適な入れ歯生活を取り戻すことができるでしょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。