むし歯は予防が大切です。むし歯予防にはフッ素の塗布が効果的だと知っている方は少なくないでしょう。
子どもの検診や歯科検診で実際にフッ素塗布を行った経験がある方も少なくないかもしれません。なんとなく効果があるのだろうと受けているものの詳しくはどのような効果があるのでしょうか。
フッ素塗布というと歯科医院で受けるものというイメージがありますが自宅でできるフッ素活用法もあります。塗布の方法や注意点を解説します。
効果的なフッ素塗布でむし歯を予防しましょう。
フッ素のむし歯予防への効果
フッ素にむし歯予防に効果があることは広く知られています。むし歯予防に使用されるフッ素は、正確にはフッ化物と呼ばれます。
具体的にどのような効果があるのでしょうか。フッ素には、歯の表面の歯質を強くするむし歯予防薬のような働きがあります。ここからは、フッ素が持つむし歯予防への3つの効果について解説します。
歯を強くする
フッ素による一つ目の効果は、歯を強くすることです。歯は毎日さまざまな刺激にさらされていて、飲食時に噛んだり飲み込んだりする過程で歯のエナメル質は酸によりダメージを受けています。
エナメル質は酸に弱く、清涼飲料水やお酢、レモン果汁など酸性の強いものが付くと溶けてしまうことがあります。この状態を脱灰と呼び、むし歯のようにエナメル質がダメージを受け、カルシウムやリンが溶け出している状態です。
フッ素が取り込まれることで、エナメル質は酸に溶けにくい性質に変化します。
フッ素が歯の修復を助けるとき、エナメル質がフルオロアパタイトと呼ばれる構造になるためです。一般的なエナメル質はハイドロキシアパタイトと呼ばれる構造からなっていますが、フルオロアパタイトに置き換わると日常的に受けるさまざまな刺激に対してさらに強い性質を持つようになります。
このようにフッ素は歯を強くする効果があるといえます。
歯の石灰化を促す
フッ素は歯から溶け出したミネラル成分を歯に戻す再石灰化を促進し、歯を修復します。再石灰化とは前述の脱灰の逆の現象です。
初期むし歯の病巣のように弱くなった歯の表面にフッ素が沈着するとカルシウムやリンが取り込まれ、再石灰化が促進されるからです。初期のむし歯であれば、自然修復を促す効果が期待できます。
フッ素は、毎日の飲食でダメージを受けたエナメル質を石灰化を促すことで修復する働きがあります。
むし歯菌を抑制する
フッ素の3つ目の効果は、むし歯の原因菌の活動を押さえ、酸再生能力を抑制することです。むし歯の原因菌でよく知られている菌は、ミュータンス菌です。
このミュータンス菌をはじめとする原因菌は、私たちが摂取する食べ物に含まれる糖分を栄養にして増殖し、グルガンという物質に包まれた細菌の塊(プラーク)を形成します。
プラークのなかでは酸が発生し、酸によって歯の表面にあるカルシウムなどのミネラルが溶け出してしまうため、酸に接する歯はむし歯になるリスクが高まります。
フッ素がむし歯の原因菌を抑制するのは、歯石中に蓄積し、ミュータンス菌が酸を生成する過程を妨げるためです。また、抗菌作用だけでなくフッ化物の蓄えとしても機能します。
フッ素塗布の方法
フッ素を塗布する方法はいくつかあります。
使用する用具により少し異なる点がありますが、基本的には歯のクリーニングと歯の表面の乾燥ののちそれぞれの用具を使用し、塗布を行います。
歯科医院でのフッ素塗布はどの方法でも数分で完了し痛みもありません。フッ素塗布の方法を把握し、フッ素塗布を受ける際の不安の解消になれば幸いです。
歯ブラシ法
一つ目は歯ブラシを使用する方法です。歯ブラシでフッ素を塗布する場合はゲル状の薬剤を使うことが一般的です。
歯科医院でのフッ素塗布で使われるフッ素は2%フッ化ナトリウム溶液やリン酸酸性フッ化ナトリウムです。市販品より高濃度で対象年齢やお口の状態により容量や方法が異なります。
歯ブラシは家庭での歯磨きで日常的に使用するため、歯科医院やフッ素塗布に不安感がある方でも無理なく受けられるでしょう。特に小児のフッ素塗布に向いているといわれています。
歯のクリーニングと歯の表面の乾燥の後、歯ブラシに少量ずつ薬剤をつけ歯に塗り付けます。塗布してから1分程度経過後余剰のゲルを拭き取り防湿のロール綿を除去し歯ブラシ法完了です。
綿球法や綿棒法
二つ目は、綿球または綿棒を使って塗布する方法です。この方法はフッ素塗布のなかでよく行われる方法です。
歯のクリーニング後、ロール綿で簡易的に防湿します。次にエアーを吹きかけ歯の表面を乾燥させます。エアーが使えない場合は、綿球で拭くだけでも乾燥は可能です。
綿球や綿棒を薬液に浸し、歯の表面に優しく塗布します。3~4分間歯の表面が濡れている状態に成るよう繰り返し塗布することでフッ素塗布の効果がより高まるといわれています。
お口のなかに残った余剰液を綿球で軽くぬぐい綿球法または綿棒法は完了です。
トレー法
3つ目にトレーを使った方法です。トレーとはマウスピースのような形状のものです。
患者さんの歯列にあったトレーを選び、そのなかに薬剤を入れます。
トレー法でも、まずは歯のクリーニングをし、次に歯の表面を乾燥させます。フッ素塗布の効果を高めるため、いずれの方法でもクリーニングと歯の表面の乾燥は重要です。
薬剤が入ったトレーを歯に装着し、数分噛んだまま薬剤が歯に浸透するのを待ちます。この方法では薬剤が歯にしっかり密着するメリットがあります。
数分後にトレーを外し、お口のなかの必要な清掃を行い、トレー法は完了です。
フッ素塗布の流れ
フッ素塗布の流れがわかっていると、初めて受ける際や歯科医院が苦手な方は、安心感がもてるのではないでしょうか。
フッ素塗布は、歯のクリーニングの後、歯の表面の乾燥をしてフッ素塗布という手順で進みます。それぞれの内容について以下で詳しく解説します。
歯のクリーニング
歯のクリーニングでは、自宅での歯磨きだけでは落とせない汚れを除去します。歯垢や歯石を取り除き、フッ素塗布の効果がしっかりと出るように準備するためです。
自宅での歯ブラシを丁寧にしていても、すべての汚れを落としきることは難しいです。歯科医院では歯科医師や歯科衛生士が行う、歯垢や歯石の除去を中心とした口腔内のケアを受けられます。
歯のクリーニングをすることでフッ素塗布の効果を高めるだけでなく、むし歯と歯周病予防や口臭の改善と予防、本来の歯の色を取り戻せるなどのメリットもあります。
歯石を摂るときに歯と歯茎の境目に器具が当たるとチリチリした感じがすることがありますが、通常、痛みはほとんどないでしょう。
お口のなかにトラブルがない状態での所要時間は30~45分程度とされていますが、この時間にはフッ素塗布までの時間が含まれていることがあります。歯科医院でのフッ素塗布の際には、まず歯のクリーニングが行われるでしょう。
歯の表面の乾燥
歯のクリーニングが完了したら、次に歯の表面を乾燥させます。フッ素塗布の効果を高めるためには、歯の表面にフッ素が密着することが重要です。
そのため、汚れや水分を除去することが必要です。歯を乾燥させるには、ロール綿を歯茎の横にはさんで防湿したり、綿球で歯の表面を拭き取ったりします。
専用の機械でエアーを吹き付け歯の表面を乾燥させます。しっかり乾燥させることで、フッ素が歯の表面にとどまり、しっかりと効果が得られるでしょう。
エアーを吹きかける際は、歯科医院の専用の風が出る機械を使います。数秒風を当てて歯の表面を乾かすもので痛みはありません。
防湿や綿球でのふき取りなども含め、数分程度で完了します。
フッ素塗布
汚れを落とし乾燥した状態の歯にフッ素を塗布します。前述したように、フッ素塗布は歯ブラシまたは綿棒や綿球、専用のトレーなどを使って行います。
どの塗布の方法も数分で完了し、痛みなどもありません。歯科医院で使用するフッ素は、市販品より高濃度なものを使用します。液体やジェル状のものなどがありますが、フッ素濃度は9000ppmと定められており、大きな違いはありません。
塗布後はお口のなかの余分なフッ素を綿球などで拭き取ります。歯科医院で使用するフッ素は高濃度なため3〜4ヶ月程度、効果が持続するでしょう。
しかし、フッ素塗布で完全にむし歯にならないわけではありません。日頃のケアや定期検診なども丁寧に行いましょう。
自宅でフッ素を活用する方法
ここまでで歯科医院で受けられるフッ素塗布の流れについて解説しました。しかしフッ素は自宅でも活用できます。自宅でのセルフケアにフッ素を取り入れて上手にむし歯予防の効果を高めましょう。
フッ素配合の歯磨き粉を選ぶ
毎日使う歯磨き粉は、フッ素配合のものを選ぶとよいでしょう。歯磨き剤にはフッ素が配合されているものとそうでないものがあり、配合されているものは医薬部外品の表記があります。商品の裏にある成分表にも明記してあるでしょう。
高濃度のものでは1500ppmのフッ素が配合されており、500ppm高くなるごとにむし歯の予防効果が6%上がるといわれています。
フッ素は年齢により推奨される濃度や使用量が異なります。フッ素濃度が1000ppmを超える歯磨き剤は6歳未満の乳幼児には使用できません。
成分表示のなかに表記があるので、よく確認して正しく使用しましょう。フッ素配合の歯磨き剤の使用後は、少量の水で1回のみのうがいで済ませると効果的です。
フッ素配合洗口液でうがいをする
フッ素配合洗口液でうがいをすることも自宅でフッ素を活用する方法です。うがいができることが前提になります。
ぶくぶくうがいができるようになる4歳頃からフッ素配合洗口液でうがいをしてみてはいかがでしょうか。うがいの回数の目安は、就学前までは1日1回、小中学校では1週間に1回の使用が推奨されています。
フッ素は継続して使用することで効果が高まります。うがいができるようになったらフッ素配合の洗口液でのうがいを習慣にするとよいでしょう。
歯磨き剤と同様にフッ素配合洗口液もさまざまな種類があります。成分表をよく確認の上、使用しましょう。
フッ素を塗布した後の注意点
フッ素塗布は短時間で痛みもなく受けられる効果的なむし歯予防法です。
以下で、安全性に配慮しつつ十分な効果を得るための注意点を解説します。注意点を把握し、フッ素塗布によるむし歯予防効果を高めましょう。
フッ素塗布後30分間は飲食やうがいを避ける
フッ素塗布後は30分程度は飲食やうがいを避けましょう。フッ素は歯の表面でフッ化カルシウムというものを作ります。
このフッ化カルシウムが歯のエナメル質と徐々に反応して歯が丈夫になるため、フッ素塗布の後に飲食やうがいをすると歯の表面にとどまらず、フッ素塗布による予防効果が低下してしまうからです。
そのためフッ素塗布後30分は飲食やうがいを避けましょう。しかし、うっかり飲食やうがいをしてしまった場合でも効果がゼロになるわけではないので心配しすぎないでよいでしょう。
唾液は吐き出す
フッ素塗布後の唾液は吐き出しましょう。
フッ素は大量に飲み込むと、歯のフッ素症の発現率とその症状が高まることが懸念されています。
WHOをはじめとする関連する団体は、6歳未満児のフッ化物配合の歯磨き剤の使用に関するガイドラインを提示しています。ガイドラインに基づき、使用量は豆粒大とし3歳未満は1日1回、3歳以上は1日2回までとしましょう。
1日2回なら、うち1回は就寝前がおすすめです。歯の石灰化やむし歯の原因となる菌は就寝中に増殖する傾向があるためです。
また、幼児期には歯磨き剤を好んだり、飲み込んでしまったりすることが考えられます。保護者が監督することもWHOが提示している注意点です。歯磨き剤や唾液を吐き出せるよう、水で洗口練習をさせることも大切です。
とはいえ、フッ素配合の歯磨き剤や洗口液に含まれるフッ素の量は健康状態に問題がない容量が定められています。
歯科医院で使用するものより市販品のフッ素配合量は低濃度となっており、自宅でのケアにおいても使用年齢の目安を守れば、心配せず継続使用して問題ありません。
歯医者でフッ素塗布をしてもらうメリットと費用
歯科医院でフッ素塗布を受けるメリットは、高濃度に調整されたフッ素が使用される点、短時間で効果を発揮する点です。
歯科医院でのフッ素塗布に使用される薬剤は、フッ素配合の歯磨き剤の濃度より高くなっておりセルフケアよりも高い効果が得られるでしょう。
高濃度のフッ素とはいえ、歯科医師または歯科衛生士によって行われるため、過剰に使用してしまうリスクはとても低く、安全性に配慮して受けることができます。
また、歯科医院ではフッ素塗布の前にプラークを除去します。フッ素塗布と同時に歯のクリーニングを受けられる点もメリットになるでしょう。
フッ素塗布は保険が適用されます。費用は年齢に関わらず1,100円程度です。安い費用で簡単にむし歯予防ができるため大きなメリットがあるといえるでしょう。
また、歯科医院を受診することで、むし歯やそのほかのお口のトラブルなどの早期発見につながるメリットもあります。間食や歯磨き方法など、口腔ケアについての指導も受けられるでしょう。
6ヶ月に一度程度の頻度で定期的に歯科医院でフッ素塗布を受けることをおすすめします。
まとめ
フッ素塗布の効果は、歯を強くすることと石灰化を促すこと、むし歯の原因となる菌を抑制することです。フッ素がしっかり歯に密着し、一定の時間歯の表面にとどまることでしっかりと効果が得られます。
フッ素塗布というと歯科医院で受けるものというイメージがありますが、自宅でもフッ素を取り入れたむし歯予防が可能です。フッ素配合の歯磨き剤や洗口液を使うことです。
フッ素は継続して使用することが大切で、歯科医院でのフッ素塗布と合わせて自宅でもフッ素を使ったケアをおすすめします。
フッ素塗布後、30分程度は飲食やうがいを避けましょう。飲食やうがいによりフッ素が流れてしまうと効果が薄れる可能性があるからです。
フッ素塗布後の唾液には余剰な薬剤が含まれています。むし歯予防として使用される薬剤は、飲み込んでしまっても健康上問題のない量のフッ素濃度にしてありますが、余剰分は唾液と一緒に吐き出すようにしましょう。
歯科医院でのフッ素塗布は、市販品より高濃度な薬剤での塗布が安全性が高い環境で受けられます。フッ素塗布と同時に、お口の状態のチェックや歯のクリーニング、口腔ケアの指導も受けられるメリットもあります。
歯科医院で定期的にフッ素塗布を受け、自宅でのケアと合わせてフッ素でむし歯予防を目指しましょう。
参考文献