時間とお金をかけて入れ歯を作っても、痛かったり食べにくかったりすると残念な気持ちになりませんか。
お口の中は知覚神経が集中しているため、とても敏感な場所です。
そんなお口の中に人工物である入れ歯を入れるため、違和感を覚えるのは当然のことだといえるでしょう。
それでも、おいしい食事を楽しんだり、滑らかに会話したりできるようになりたいと考える方も多いです。
この記事では、入れ歯に慣れる方法やコツ、慣れるまでの期間や注意点を詳しく解説します。
この記事を読むことで、入れ歯を使用することが億劫になってしまっている方やこれから入れ歯を作ろうと思っている方の参考になれば幸いです。
入れ歯に慣れる方法とコツ
お口の中は、髪の毛一本でも認識できるほど敏感な場所です。
そのため、初めて入れ歯を入れると、違和感や痛みを覚える方はとても多いです。
せっかく入れ歯を作ったのに、上手に使えないと気分は落ち込むどころか、使う機会を遠ざけてしまうことになりかねません。
ここでは、入れ歯に慣れる方法とコツを紹介します。自分のペースで、しっかりと慣らしていきましょう。
着脱の練習をする
はじめに、入れ歯の着脱の練習をしましょう。
入れ歯は、総入れ歯と部分入れ歯の2種類があります。
総入れ歯の着脱方法のコツは以下のものが挙げられます。
- 上から装着する
- 下から外す
- お口よりも入れ歯が大きいため斜めに出し入れ
- 前歯の部分をつまんで着脱
- 粘膜に沿って静かに押し込み吸着させる
- 外すときは奥歯の方から外す
総入れ歯には義歯床というものがあり、大きく見えるため、初めて見る方はその大きさにびっくりするかもしれません。
しかし、ちょっとしたコツさえつかめば着脱は簡単にすることができます。
入れ歯は繊細な装置なので、静かに優しく扱うようにしましょう。お口にも入れ歯にも余計な負担をかけないことが大切です。
部分入れ歯の着脱方法のコツは以下のものが挙げられます。
- 金具部分を使い着脱
- 入れるときは金具部分を歯にかけ金具が安定するまで静かに押し込む
- 二つ金具がある場合は同じタイミングで力をかける
- 外すときは金具を指で引っかけて外す
部分入れ歯はいろいろな金具がついていて、一見扱いが難しいように思えるでしょう。
誤った扱い方は、入れ歯の誤飲や金具で口腔内を傷つけてしまう原因にもつながるので注意が必要です。
咀嚼や嚥下の練習をする
入れ歯をつけたら、咀嚼や嚥下の練習をしましょう。
最初から硬いものや大きいものを口にするのは、お口の中を傷めたり力加減がわからず入れ歯を傷つけてしまったりするリスクがあるため、小さいものややわらかいもので試すことをおすすめします。
奥歯でゆっくり噛むことを意識しつつ、両側の歯を均等に使いながら咀嚼しましょう。
嚥下をするときも、少量ずつ試すことが大切です。固形物が不安な場合は、水を飲むところから始めるのもよいでしょう。
話す練習をする
入れ歯を装着すると、話しにくさを感じることがありますが、10日ほど使うとなれてくる場合がほとんどです。
スムーズに話すために、発音の練習をしましょう。
発音練習は、入れ歯を入れていると発音しにくいといわれているサ行タ行を中心に行うと効果的です。
また、本や新聞を声に出して読むのもよいでしょう。鏡の前で表情を観察してみるのもおすすめの方法です。
装着時間を徐々に増やす
入れ歯に慣れるためには、装着時間を少しずつ延ばすことが重要です。
食事をするときだけの装着だと、入れ歯が安定しない可能性があります。
どのくらいの時間入れ歯を装着しておくべきかは、主治医の指示に従い、安定するまでの間はしっかりと着装するように心がけましょう。
また、安定した後は就寝のときには外すように指示されることがあります。これは、歯と歯茎を休ませるためです。ただ近年では就寝前に洗って、装着したまま就寝する方法も多くなっています。
入れ歯に慣れるまでの期間や違和感
入れ歯を作っても、慣れるまでの期間や違和感に不安を感じる方は少なくありません。
最初は、入れ歯の違和感が大きく、本当にこのまま生活していけるのだろうかと思う方もいるでしょう。
しかし、入れ歯に慣れると、生活に欠かせない大切な身体の一部となるでしょう。
ここでは、入れ歯に慣れるまでの期間の目安や、どのような違和感があるのか紹介していきます。
慣れるまでにかかる期間の目安
入れ歯の違和感を強く感じるのは、最初の1週間くらいといわれています。
お口にとって入れ歯は異物なので、違和感を覚えるのは仕方がありません。最初から違和感のない入れ歯はほとんど存在しないといえるでしょう。
しかし、1ヶ月もするとだいぶ入れ歯に慣れて、不自由なく生活することができるようになります。
一度慣れてしまった入れ歯は、その後違和感を覚えることはほどんどないでしょう。
入れ歯に慣れるためには根気よく装着し、慣らしていくことが大切です。
慣れるまでの主な違和感や症状
入れ歯に慣れるまでの主な違和感は以下のものが挙げられます。
- 痛み
- 圧迫感や不快感
- 話しにくい
- 食事がしにくい・味覚を感じにくい
痛みは、金具や義歯床が粘膜を刺激したり、歯茎との摩擦によって起こったりすることがあります。
圧迫感や不快感は、入れ歯が大きかったり、喉に近い部分が入れ歯で覆われたりすることで感じることがあるでしょう。
話しにくさでは、入れ歯の厚みにより、舌の動きが制限されることで発音や滑舌がしにくくなる可能性があります。
食事をとる際には、噛み合わせが慣れず咀嚼が難しかったり、入れ歯が粘膜を覆うことで味蕾への刺激が減ったりするため食事の不便さが出ることがあるでしょう。
違和感には個人差がありますが、お口の中に大きな異物が入っているため、自然な反応といえます。
入れ歯に慣れるための注意点
入れ歯に慣れるためには、着脱や発音の練習に加えて、注意すべき点があります。
入れ歯やお口の中を健康に長持ちさせるためにも、注意点をしっかり理解しましょう。
入れ歯のお手入れをしっかり行う
入れ歯は人工の歯なのでむし歯になることはありませんが、お手入れを怠ると菌が繁殖し、黒ずみや口臭の原因になることがあります。
長持ちさせるためには、正しいお手入れは必要不可欠です。
お手入れの頻度は歯磨きのように毎食後に行うことが理想ですが、毎食後が厳しい方は、寝る前に1日1回は丁寧に洗いましょう。
毎日のお手入れは、入れ歯専用のブラシを使い、水を使って洗い流します。
外している間は、洗った後に水の中に入れて保管しましょう。
清潔に保つためにも水は毎日取り替えるようにし、3日に1回は入れ歯専用の洗浄液につけてお手入れすることが大切です。
定期的に歯科医院でメンテナンスを受ける
一般的に、入れ歯を使用している方は、半年に1回の頻度でメンテナンスを受けましょう。
自身のお手入れだけでは取り除けない汚れを、プロの手によって取り除くことが大切です。
入れ歯を入れるとお口の中の唾液が回りにくくなり、そのため歯垢が付きやすくなります。
入れ歯に残っている歯垢は、残っている歯をむし歯や歯周病にする原因にもなるため注意が必要です。
また、入れ歯のズレの調整を行うことで、噛み合わせが直ったり痛みが改善したりする機会にもなります。
入れ歯が合わないときの受診目安
入れ歯の使い始めは違和感がありますが、一般的には、1週間ほどで入れ歯に慣れてくるといわれています。しかし、1週間経ってもなお、違和感や痛みが続く場合は歯科医院を受診しましょう。
金具の位置や義歯床の調整が必要になることもあります。
入れ歯が合わないまま長期間使用していると、歯茎を傷つけたり天然の歯に負担をかけたりと口腔内の健康を損なうおそれもでてきます。
入れ歯のメリット
入れ歯と聞くと、失くした歯を補うための道具というイメージが湧く方は多いでしょう。
たしかに、入れ歯はむし歯や歯周病で失った歯の代わりをすることですが、実際はそれだけではありません。
入れ歯を使用することで、ほかにどのようなメリットがあるのかを知り、お口の健康だけでなく身体全体の健康を保ちましょう。
全身の健康維持に役立つ
むし歯や歯周病で失った歯をそのままにしておくと、硬いものが食べにくくなったり咀嚼そのものが減ってしまったりする可能性があります。
入れ歯を使用することで失った歯をカバーするとともに、食事の際の咀嚼回数が増え、生活習慣病の一つである肥満の予防に役立つでしょう。
また、よく噛むことで唾液がたくさん分泌され、消化を助けてくれる働きもあります。栄養の吸収もよくなるでしょう。
その他にも、お顔や顎の筋肉を動かすことで血流が促進され、脳に酸素や栄養が届きやすくなり、脳細胞の活性化が期待できます。記憶力や集中力も上がることが期待できるでしょう。
残っている歯を守れる
入れ歯を使用せずに失った歯をそのままにしておくと、食事の際に残った歯だけで咀嚼をすることになります。
噛む力に偏りが出てしまい、天然の歯や顎にかかる負担が大きくなるでしょう。
入れ歯を使用することで、均等に力をかけることができるようになり、咀嚼の回数も増えます。
よく噛むことで唾液がたくさん出ると、お口の清潔を保ち、むし歯や歯周病の予防になり残っている歯を守ることにもつながります。
食事を楽しめる
食事は生涯にわたって続く基本的な営みです。毎日行われる食事という行為に、食べづらさや痛みが生じると食事が億劫になってしまいます。
しかし、入れ歯を使用することでよく噛んで食べられるようになり、食材本来の味を感じることができます。
また、しっかりと咀嚼できるようになるため、食べ物の制限が少なくなるでしょう。
食事をする目的は単に栄養をとるだけではありません。食事の場はコミュニケーションの場としてもとても重要な役割を担っています。
家族や友人と食事をするときも、同じ物を同じように食べることができ、会話も増えるでしょう。
会話をしながら食事をとることで、脳の活性化も促します。
入れ歯以外の治療方法
入れ歯についての慣れる方法やメリットなどを説明してきましたが、入れ歯以外にも治療法はあるのか、と疑問を持つ方は少なくありません。
入れ歯以外にも失った歯を補う治療法はいくつかあります。
ここでは、以下の2つの治療法について詳しく解説します。
- インプラント
- ブリッジ
メリットとデメリットを考慮して、自分に合った治療法を見つけましょう。
インプラント
歯を失った際の治療は、入れ歯やブリッジが主流でしたが、第3の治療法としてインプラントが注目されています。
歯科でいうインプラントは、歯を失った顎の骨に身体に馴染みやすい材料で作られた歯根の一部あるいは全部を埋め込み、それを土台にセラミックなどで作った人工歯を取り付けた物です。
インプラントの材質はチタンまたはチタン合金やジルコニア、セラミック、レジンなどが使用されています。
インプラント治療のメリットとして、以下のものが挙げられます。
- 天然の歯への負担が少ない
- 天然歯に近い機能や審美性がある
- 金属アレルギーが起こりにくい
- 義歯よりも異物感が少ない
インプラント体を顎の骨に埋め込むため、入れ歯のように残っている歯を支えにせず負担が減ります。
加えて、天然の歯に近い機能性を持ち、見た目もほとんど変わらないため目立つことが少ないです。
また、金属アレルギーがある方でも、チタンやジルコニアを使用することでアレルギー反応を起こす可能性を低くすることができます。
インプラント治療のデメリットとして、下記のものが挙げられます。
- 治療費が高額
- 治療期間が長い(手術がある)
- 骨量や骨質の影響を受ける
インプラント治療は自費診療になるため、医療費が高額になります。
また、インプラント体を埋め込むために検査や手術が必要になるため、治療期間が長くなるでしょう。
加えて、治療を受ける方の健康状態によっては治療を受けることが難しい可能性もあります。
ブリッジ
ブリッジ治療は、失った歯の両隣の歯を土台にして人工の歯で補う治療法です。
入れ歯のように取り外しができず、常に口腔内に固定されます。固定式の義歯なので、天然の歯と同じように日々の口腔ケアができます。
ブリッジ治療のメリットとしては、保険適用されるので治療費を抑えることができます。手術の必要がないため治療期間が短いです。
また、見た目が気になる方は、セラミック素材を使用したブリッジ治療を行っている歯科医院も多くあります。その際は治療費が高くなる可能性があるため注意しましょう。
ブリッジ治療のデメリットとしては、支えとなる両隣の歯に極端な負担がかかる可能性がある点です。
両隣の歯を削る必要があるので、削った部分がむし歯や歯周病になったり、噛む圧でその歯が割れてしまったりする可能性が高くなります。
まとめ
食事や会話を楽しむために、入れ歯は重要な役割を担う存在です。
入れ歯は口腔内にとって異物ですが、繰り返し装着したり、食事の練習を重ねたりすることで徐々に慣れていきます。
治療から1週間以上経っても違和感や痛みが続く場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
お口の中の健康は、身体全体の健康にもつながります。
日々のケアを大切にし、定期的な受診でお口の清潔と健康を守りましょう。
参考文献
- 歯が原因ではない痛み(歯科恐怖症)|日本歯科医師会
- 2.Q.義歯の取り外しのコツを教えて下さい。|愛知学院大学
- 総義歯外来|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- 部分入れ歯の上手な付き合いかた|東京科学大学
- 入れ歯の話|一般社団法人 吹田市歯科医師会
- 入れ歯のお手入れ法|一般社団法人 日本訪問歯科協会
- 訪問歯科で入れ歯のメンテナンス|一般社団法人 日本訪問歯科協会
- 3月 よく噛んで、ずっと元気に!|全国健康保険協会
- みんなと楽しく食べること|農林水産省
- 一緒に食べよう|大阪市
- インプラント|日本歯科医師会
- 差し歯・冠|日本歯科医師会
- 入れ歯の調整はなぜ必要?|岩手医科大学歯学部 歯科補綴学講座 有床義歯補綴学分野
- 保健センターだより
- 入れ歯治療|愛知学院大学歯学部附属病院
- クラウン・ブリッジ科|日本大学歯学部付属歯科病院