毎日丁寧に歯磨きしていても、気がつかないうちに歯にこびりついてしまうのが歯石です。
歯石は歯の表面に固く付着し、見た目が悪くなるだけでなく、むし歯や歯周病や口臭の原因にもなります。歯石は自分では取り除けないため、歯科医院での定期的なケアが欠かせません。
本記事では、歯石ができるメカニズムから、歯科医院での歯石の取り方や費用、頻度また自分で取るリスクを詳しく解説します。歯と歯茎の健康を守るために、正しい知識を身につけましょう。
歯石ができるメカニズム
歯石とは、歯の表面にたまった歯垢(プラーク)が、唾液に含まれるカルシウムなどの成分によって硬くなったものです。
歯垢は食後にできる細菌のかたまりで、取り除かずに放置しておくと、わずか1〜3日ほどで歯石に変わってしまいます。一度歯石になると自分の歯磨きでは取れず、歯科医院での専用の器具による除去が必要になります。
この歯石がたまりやすい代表的な場所の一つが、下の前歯の裏側です。ここは歯ブラシが届きにくく、動かしにくいため、磨き残しが出やすい箇所といえます。
また上の奥歯の外側も意外と歯石がつきやすい場所です。表側なので磨きやすそうに思えますが、ブラシの角度や動かし方次第で汚れが残ってしまうことがあります。
これらの部位は、唾液腺の出口が近くにあります。唾液に含まれるミネラルが、歯垢に作用して石灰化を引き起こすため、特に歯石ができやすいのです。
歯石は、虫歯や歯周病の原因になります。ざらついた表面には歯垢が付きやすく、歯ぐきの境目に入り込むと炎症や出血を招くことがあります。こうしたトラブルを未然に防ぐには、毎日のセルフケアが欠かせません。
歯ブラシで歯と歯ぐきの境目や歯の裏側まで、ていねいに磨くことが大切です。小刻みに動かして毛先をしっかり当てることで、歯垢を効率よく落とせます。
加えて、デンタルフロスや歯間ブラシを活用しましょう。歯ブラシだけでは届きにくい歯と歯の間にある汚れを、取り除くことができます。すき間が狭い場合はフロス、広い場合は歯間ブラシがおすすめです。
さらにフッ素入りの歯みがき剤を使うと、虫歯の予防効果が高まります。フッ素は歯の表面を強くし、初期の虫歯を修復する働きもあります。磨いた後のすすぎは少量の水で軽く行い、フッ素を口の中にとどめるようにすると良いでしょう。
また入れ歯を使っている場合も注意が必要です。入れ歯にも歯垢は付着し、これをデンチャープラークと呼びます。そのままにしておくと、歯石のように硬くなり、口臭や炎症の原因になります。入れ歯も毎日しっかりと洗浄し、清潔を保つことが大切です。
歯石の予防は、毎日のちょっとした心がけから始まります。正しいケアを習慣にして、いつまでも健康な口元を保ちましょう。
定期的に歯石を取った方がよい理由
歯石除去は、見た目を整えるだけでなく、口腔内の健康維持にも大きく役立ちます。歯石を放置すると、むし歯や歯周病、口臭などのトラブルを引き起こす原因になります。
このため、厚生労働省の指針でも、定期的に歯科医院でクリーニングを受けることが推奨されているのです。ここでは、歯石除去によって得られる主なメリットをご紹介します。
むし歯予防につながる
歯石の表面はざらついており、細菌が付着しやすい状態になります。歯石があると、歯と歯の間や歯の根元に汚れが溜まりがちです。歯垢が残ると細菌が繁殖し、酸を生成して歯を溶かし、むし歯の原因となります。
定期的な歯石除去によって、歯の表面が滑らかになり、汚れがつきにくくなります。その結果、むし歯の発生を抑えることが可能です。
奥歯の溝や歯の根元、歯と歯の間は、若年層に歯石ができやすい傾向があります。
一方、成人は以前の治療で詰めた材料と歯の境界付近や、歯肉の後退により露出した歯根部分がリスクが高くなる部分です。特に歯根部では酸に弱い象牙質が露出しているため、むし歯のリスクが高まります。
歯周病予防につながる
歯石は歯周病を引き起こす主な原因です。歯石の表面はざらついており、細菌が付着しやすいため、歯茎に炎症を起こしやすくなります。
放置すると歯肉が腫れて出血し、やがて歯を支える骨が溶ける歯周病へと進行します。
細菌の温床となる歯石を除去し、歯周病の進行を食い止めることが重要です。歯茎の健康を維持するには、歯科医院での定期的なメンテナンスが不可欠です。
口臭予防につながる
口臭の原因の多くは、口腔内の細菌によるものです。歯石の表面には細菌が付着しやすく、硫化水素やメチルメルカプタンなどの悪臭成分を生じさせます。これらのガスが、強い口臭の原因となります。
定期的に歯石を除去することで、細菌の繁殖を抑え、口臭の発生を抑えることが可能です。特に人と接する機会の多い方にとっては、口臭予防は大切なエチケットです。
歯の見た目を美しく保てる
歯石は黄色や茶色に変色し、歯の見た目に悪影響を及ぼします。特に前歯に歯石が付着していると、人に不潔な印象を与えてしまうでしょう。
定期的に除去することで、歯の白さや清潔感を保つことができ、笑顔にも自信が持てます。
また歯石の除去後に行われる研磨処置により、歯の表面が滑らかになり、光を反射してより美しく見えるようになります。
自分で歯石を取るのは危険?
歯石が気になると自分で取りたくなることもありますが、専門的な知識や器具なしに行うのは危険です。
近頃では、インターネット通販などで歯石除去用の器具を手軽に購入できるようになっています。しかし、自己流での歯石除去には、さまざまなリスクがあり、メリットはほとんどありません。
以下では、自分で歯石を除去しようとする際に考えられるリスクを紹介します。
歯茎を傷つける可能性
歯石を除去するには鋭利な器具が必要ですが、扱いに慣れていないと歯茎を傷つけてしまうリスクがあります。
歯茎を傷つけると、傷口から細菌が侵入して炎症を引き起こし、かえって症状を悪化させることになります。
また誤って歯茎を突いてしまうと、出血や痛みの原因にもなり危険です。正しい技術と知識を持たないまま自己処理を行うのは避けるべきです。
エナメル質を削ってしまう可能性
歯の表面はエナメル質という硬い層で覆われていますが、無理に力を入れて歯石を削ろうとすると、このエナメル質まで削ってしまう可能性が高く危険です。
エナメル質が削れると、知覚過敏やむし歯のリスクが高まります。自宅でのケアでは、どの程度の力加減が適切かを判断するのが難しく、取り返しのつかないダメージを与える可能性も否定できません。
歯周病が悪化する可能性
歯周ポケットの奥深くに付着した歯石は、専門知識がないと取り除くのは困難です。歯周ポケットの奥に器具を差し込むと、かえって歯茎を傷つけて炎症を悪化させるおそれがあります。
また、歯周病が進行している場合、不用意に触れることで炎症が広がる可能性もあります。専門的な知識がない状態で歯周ポケット内部を触ることは、症状の悪化を招くリスクがあるため避けるべきです。
見える部分の歯石だけを除去しても、歯周ポケット内に歯石が残っていると、歯周病が進行する可能性があります。
歯石を取りきれない可能性
自己処理では、歯と歯の間や歯の裏側などの見えにくい部位の歯石を完全に除去するのはとても困難です。
取り残された歯石は再び歯垢を引き寄せ、数日以内に再石灰化します。そのため、自己処理では十分な効果が得られないことがあります。歯石を完全に除去するには、専門的な器具と技術が不可欠です。
すぐに歯石が付いてしまう可能性
歯石を中途半端に削ると、歯の表面が荒れ、かえって歯垢が付着しやすくなります。
それにより、歯石が短期間で再形成されやすくなるのです。結果的に除去の効果が薄れ、かえって、より頻繁な除去が必要になる場合もあります。
歯科医院での歯石の取り方
毎日丁寧に歯を磨いているつもりでも、少しずつ蓄積してしまうのが歯石です。この歯石は一度できてしまうと、通常の歯磨きでは取り除くことができません。放置すればむし歯や歯周病の原因となることがあります。
歯石を効果的に除去するには、歯科医院での専門的なクリーニングが必要です。専門家の手によって安全に、正しく歯石を除去してもらいましょう。
歯や歯石の状態を確認する
まずは、歯科医師または歯科衛生士が、歯や歯茎の状態、歯石の付着場所や量をチェックします。必要に応じてレントゲンを撮影し、歯周ポケットの深さや歯槽骨の状態も確認します。この診断結果をもとに、適切な歯石除去の方法を選択して施術を進めていくのです。
超音波スケーラーやハンドスケーラーで歯石を取る
歯石除去には、主に超音波スケーラーと呼ばれる器具が使用されます。高周波の振動により歯石を効率的に粉砕かつ除去できる機器なので、痛みも少なくすみます。
細かい部分にはハンドスケーラー(手動の器具)を使うことで、歯と歯の間や歯肉のなかにある歯石まで丁寧に取り除くことが可能です。
歯間や歯肉の汚れを除去する
歯石だけでなく、歯間に溜まった食べかすやバイオフィルムと呼ばれる細菌の膜も除去します。
これにより、再び歯垢が溜まりにくい状態を保つことが可能です。歯周ポケットの深い部分にある歯石や汚れは、キュレットと呼ばれる特殊な器具を用いて取り除きます。
歯の表面を研磨する
歯石を取り終えた後は、専用のペーストやブラシを使って歯の表面を丁寧に研磨します。この工程はポリッシングと呼ばれ、歯の表面に付着した微細な汚れや着色を取り除くことが可能です。
同時に歯面をなめらかに整える役割もあります。表面が滑らかになることで、歯垢が付きにくくなり、再び歯石ができるのを防ぐ効果が期待できます。
また、研磨処置には見た目への効果もあり、自然な光沢が戻ることで、清潔感のある印象になるでしょう。
歯科医院での歯石除去は、単に歯石を取り除くだけでなく、予防と審美面にも配慮された総合的なケアです。
歯科医院での歯石取りの頻度
歯石が再び付着するスピードには個人差がありますが、一般的には3〜6ヶ月に1回の頻度で歯科医院でのクリーニングを受けることが理想的です。
以下に該当する方は、より短い間隔でのケアが推奨されます。
- 歯周病の既往がある
- 歯並びが悪く、磨き残しが多くなりやすい
- 喫煙習慣がある
- 糖尿病など全身疾患を抱えている
- 歯石が付きやすい体質(唾液の性質など)
毎日のケアで歯磨き方法やフロス、歯間ブラシを丁寧に行えば、歯垢の付着を抑えることが可能です。
歯垢の付着を抑えられている方は、半年に1回の頻度でも十分な場合があります。まずは歯科医師の診断を受け、自分に適した通院間隔を相談することをおすすめします。
歯科医院での歯石取りの費用相場
歯石除去にかかる費用は、保険診療か自由診療かによって大きく異なります。
保険診療の場合、歯石除去の費用は1回あたり約3,000円です。 ただし歯周病が進行していてスケーリングやルートプレーニングなどの処置が必要になると、数回に分けて通院が必要です。
その場合は、合計で7,000円〜20,000円程度かかることもあります。この中には歯石の除去だけでなく、歯の清掃やむし歯と歯周病の検査、必要に応じたレントゲン撮影なども含まれます。
歯石取りは単独で行われるのではなく、病気の治療や予防の一環として総合的に実施されることが前提です。
口腔内の状態によって若干費用が上下することはありますが、保険診療であれば上記の価格で受けることが可能です。
一方、自由診療で歯石除去を希望する場合は、費用が大きく異なります。こちらは保険が適用されないため、料金は歯科医院ごとに自由に設定されています。
1回につき7,000~20,000円(税込)程度が一般的です。費用に差がある理由は、各医院で採用される治療法や使用される材料、施術の専門的な技術レベルが異なるためです。
さらに、自由診療では保険診療に比べて細かくカスタマイズされた治療が可能で、患者一人ひとりのお口の状態に合わせた内容となることから費用が増えるケースもあります。
そのため、自由診療を希望する場合には、事前に各歯科医院のホームページや説明資料で料金やサービス内容を確認しておくことが大切です。
保険診療では得られない付加価値がある一方で、費用面では大きな違いがあるため、自身の希望や予算、口腔の状態に応じて選択することが求められます。
まとめ
歯石は見た目だけでなく、口腔内の健康にも大きな影響を与える存在です。自宅での歯磨き方法だけでは歯石を完全に防ぐことは難しく、定期的に歯科医院でメンテナンスを受けることが不可欠です。
歯石除去は、むし歯や歯周病、口臭の予防に効果があるだけでなく、清潔で美しい口元を保つためにも重要です。
安全性の高い効果的な処置を受けるためにも、自己判断での歯石除去は避け、歯科医院でのケアを受けましょう。
健康な歯と歯茎を保つためには、定期的な通院を習慣にすることが、口腔の健康維持への近道です。
参考文献