知覚過敏は、冷たい水や歯磨きの刺激で強い痛みを感じます。すぐに治まるので軽視しがちですが、実は歯の表面のエナメル質がなくなり下の象牙質が現れた状態です。
自然治癒もありますが、多くはむし歯になりやすい状態なので、何らかの対応が必要です。原因の多くには歯ぎしりが関わり、そちらへの対応が大切になります。
本記事では知覚過敏の原因や治療、予防と歯ぎしりとの関係性を解説します。知覚過敏が心配な方は参考にしていただければ幸いです。
知覚過敏の原因と歯ぎしりとの関係
- 知覚過敏とはどのような状態ですか?
- 知覚過敏は、冷たいものや酸っぱいものを食べたとき、あるいは歯ブラシの毛がふれたり外気に当たったりした刺激でおきる一過性の痛みです。そして、むし歯や歯の神経に病変がない場合の痛みを指します。むし歯の痛みとよく似ていますが、むし歯がなくても痛むのが大きな違いです。そして、むし歯のように継続する痛みではなく一過性の痛みで、長くても10秒ほどで治まります。
知覚過敏の正式な名称は、象牙質知覚過敏症です。健康な歯の表面はエナメル質と呼ばれる硬い組織に覆われていて、神経がないため刺激に反応しません。しかし何らかの理由でエナメル質が失われ、痛みを感じる象牙質が露出し、刺激に対して痛みを感じるようになったのが知覚過敏です。
- 歯ぎしりによって知覚過敏が引き起こされる理由を教えてください。
- 知覚過敏の原因はさまざまで、歯ぎしりもその一つです。歯ぎしりは睡眠中におきる場合と、覚醒中におきる食いしばりもあります。いずれの場合も、強い力で噛みしめる動作が繰り返される現象です。やがてエナメル質がすり減って象牙質が露出し、痛みを感じやすくなって知覚過敏につながります。
また強い力によってエナメル質にひびが入ったり、歯の根元が破損するくさび状欠損が生じたりする場合があり、その結果刺激が内部に伝わりやすくなって知覚過敏がおこります。歯ぎしりや食いしばりの多くは無意識に行われ、自覚がありません。
朝起きると顎のだるさや痛みを感じたり、肩こりや頭痛があったりする場合は歯ぎしりをしている可能性があり、やがて知覚過敏になる恐れがあります。
- 歯ぎしり以外の知覚過敏の原因を教えてください。
- 知覚過敏のほとんどは象牙質の露出によっておこるものです。歯ぎしり以外に象牙質が露出する原因となるのは、以下のような事項が挙げられます。
- 歯茎の退縮
- 歯の破損
- 歯の摩耗
- エナメル質の溶融
- むし歯治療
- ホワイトニング
歯の下部にはエナメル質がなく歯茎で覆われた状態です。歯周病や加齢などで歯茎の退縮がおこると、象牙質が露出して知覚過敏の原因になります。ケガや歯ぎしりで歯が折れるなど、破損でも象牙質が露出します。
また、通常の生活下でも歯はわずかずつ摩耗し、食物中の酸に侵されておこるエナメル質の溶融も象牙質露出の原因です。さらに、歯を削るむし歯治療でも痛みを感じやすくなる例が見られ、ホワイトニングでも一時的な知覚過敏が見られます。
知覚過敏の治療
- 知覚過敏の受診の目安を教えてください。
- 冷水が滲みる、歯ブラシの先が当たると痛いなどの症状で、知覚過敏かもしれないと感じた場合、必ずしも受診が必要ではありません。丁寧に歯磨きを続けるうちに、自然に痛みが改善する場合もあるためです。
しかし、自然治癒への過剰な期待は危険です。通常の知覚過敏では痛みが一時的なものですが、これが長引いたり強くなったりした場合は歯科医師の診察を受けましょう。また、歯ぎしりや歯周病があったり歯の欠損があったりする場合も、歯科医師による治療を受けないと改善が見込めません。こうした状態なら、早めの受診をおすすめします。
- 知覚過敏は自然に治りますか?
- 原因にもよりますが、初期の知覚過敏であれば、露出した象牙質が覆われる再石灰化や第2象牙質の生成によって痛みが治まる場合があります。
再石灰化はだ液に含まれるリンやカルシウムが結晶化して、損傷したエナメル質が修復される現象です。これにフッ素が加わると、より強固な石灰化が期待できます。
また第2象牙質とは、ていねいな歯磨きの刺激によって、いったん知覚過敏になった象牙質の内部に新しい象牙質が生成される現象です。この第2象牙質は神経を刺激から遮断する膜のような役割を持ち、痛みを抑制する効果が期待できます。軽度な知覚過敏であれば、こうした現象によって自然に痛みが軽減される場合があります。
- 知覚過敏の治療法を教えてください。
- 歯科医院で行う知覚過敏への対応は2つです。痛みとなる刺激を神経に伝えにくくする方法と、痛みを感じにくくする方法に大別されます。刺激の伝達を抑制する方法の一つが、伝達経路となる象牙質内部の微小な空隙を薬剤などで封鎖する治療法です。
また、露出した象牙質の表面を接着剤で作った皮膜で覆う方法もあります。歯科医院で薬剤を塗布するのが一般的ですが、薬剤入りの歯磨き剤で自宅で行うことも可能です。痛みを感じにくくする方法では、神経がある歯髄を抜く治療が代表的です。この方法は痛みが激しい場合や、長時間継続する場合などに限定的に選択されます。
- 自宅でできる知覚過敏のケアはありますか?
- 知覚過敏のケアは自宅でもできます。できることは自宅での歯磨きによるケアです。1つ目は、リンやカルシウムを含む歯磨き剤で、エナメル質を再生する再石灰化が促進できます。2つ目は、ていねいな歯磨きの継続により刺激を遮断する第2象牙質の形成促進です。3つ目は、痛みを感じにくくする歯磨きです。
神経の周囲にカリウムイオンがあると、刺激が痛みとして伝達されされにくくなります。この効果を得る方法が、硝酸カリウムを入れた歯磨き剤を使うことです。この歯みがき剤を継続的に使うと、知覚過敏の改善に有効なことが確認されています。
知覚過敏の原因となる歯ぎしりの治療法と予防法
- 歯ぎしりの原因を教えてください。
- 歯ぎしりの原因は単純ではなく、さまざまな要因が関わっています。歯ぎしりの多くは睡眠中におこり、特に浅い眠りのときにおこりやすい現象です。また、日中でも無意識に行う食いしばりもあります。原因とされる要因は以下のとおりです。
- ストレス
- 性格
- 遺伝
- 服薬の影響
- 飲酒
- 喫煙
- 睡眠時呼吸障害
ストレスと歯ぎしりには明確な相関関係とまではいえませんが、一定の関連性が認められています。また、遺伝との関連性では、遺伝子解析で遺伝的要因の関与が示されました。
薬剤の影響では、セロトニン再取り込み阻害薬の副作用が挙げられます。アルコールとの関係では、摂取量と咬筋の活動性の研究で相関性が認められました。
- 歯ぎしりのセルフチェック方法を教えてください。
- 歯ぎしりや食いしばりは無意識のうちに行われるため、自覚に乏しいのが特徴です。しかし、知覚過敏への対応のためにも、歯ぎしりをしているかどうかを知る必要があります。セルフチェックの項目は以下のとおりです。
- 朝起きると顎がだるい
- 舌の縁に凸凹がある
- お口を開閉すると音がする
- 下顎の内側に硬い隆起がある
- 冷水が滲みる
- 歯ブラシが歯に当たると痛い
- 親族に歯ぎしりをする人がいる
- 詰め物やかぶせ物がよくはずれる
- 歯が動く
このような項目のうち、1個でもあてはまれば歯ぎしりの疑いがあります。放置すると知覚過敏や歯周病の悪化につながるので、何らかの対応が必要です。
- 歯ぎしりの治療法を教えてください。
- 歯ぎしりの原因は単純ではありません。患者さんによってそれぞれ違う原因で発症するため、治療方法も多種多様にならざるを得ません。
対応として、個別のストレス管理や使用している薬剤の変更、飲酒や禁煙の指導などで抑制が可能な場合があります。物理的な治療法にはマウスピースがあり、歯の摩耗抑制や顎関節の保護には有効な方法です。
ただし、歯ぎしり自体の抑制効果は短期的とされます。薬物療法では筋弛緩薬や抗不安薬、降圧剤が歯ぎしりを抑制しますが、副作用や依存性の問題から長期使用は困難です。
- 歯ぎしりを予防する方法はありますか?
- 歯ぎしりの多くにはストレスの関与が疑われています。そこで、できるだけストレスが少ない生活を心がけることが、歯ぎしりの予防につながるでしょう。寝る前にはスマートフォンを見ないでリラックスする、短時間でも軽く運動するなどのストレスコントロールが大切です。それに加え、就寝前に頬や顎関節周辺の筋肉マッサージも有効とされます。
また、知覚過敏につながる歯の摩耗を予防するためには、マウスピースが有効です。マウスピースは歯ぎしりに対しては短期間の対症療法ですが、詰め物など補綴装置や歯自体を歯ぎしりから守るためには簡単で的確な予防効果が見込めます。歯ぎしり対策用マウスピースは保険適用が可能です。
編集部まとめ
知覚過敏は歯の象牙質が露出して痛みを感じる症状です。原因はいくつかあり、歯ぎしりはその一つになります。
治療は露出した象牙質を薬剤で覆い、痛みを起こす刺激の伝達経路を塞ぐ手法です。痛みが強い場合は歯髄を抜いて痛みを感じないようにします。
一方で原因となる歯ぎしりへの対応も必要です。こちらの原因はさまざまで、対応もそれに応じたものになります。特に主要な原因とされるストレスへの対応が重要です。
治療や予防は簡単ではありませんが、知覚過敏の直接的な原因である歯の摩耗に対してはマウスピースが有効です。知覚過敏が心配な方は歯科医院で相談してみましょう。
参考文献