年を重ねると、さまざまな心身の機能の衰えを感じる方は少なくありません。口腔機能低下症もその一つです。
食事中むせやすくなったりお口のなかが乾いたりなどの症状がある方は、口腔機能低下症の可能性があります。
放置すると、全身状態に悪影響を及ぼすため、早めに歯科医院を受診することが重要です。
本記事では、口腔機能低下症の原因や診断に必要な検査について解説します。オーラルフレイルと口腔機能低下症の違いにも触れます。
口腔機能低下症について知りたい方は、本記事を参考にしてみてください。
口腔機能低下症の原因やオーラルフレイルとの違い
- 口腔機能低下症とはどのような病気ですか?
- 口腔機能低下症とは、加齢に加えて病気や障害などさまざまな要因によって口腔の機能が低下する状態です。低下する機能には咀嚼や嚥下、唾液の分泌、発話、口腔の清潔維持などが挙げられます。いずれかの機能の一つのみ低下するわけではありません。
これらの機能は、複数が同時に、あるいは互いに影響し合って機能が低下します。放置すると、咀嚼障害や摂食嚥下障害など口腔機能障害を引き起こします。自分のお口で飲食がしにくくなると活動量が減り、筋力も低下して、やがて寝たきりになるリスクが高まるでしょう。
- 口腔機能低下症とオーラルフレイルの違いを教えてください。
- 口腔機能低下症は医学的な疾患名であり、基準に基づいて診断されます。一方でオーラルフレイルとはむせや食べこぼし、滑舌の低下など、口腔機能の軽度な衰え状態を指します。
つまりオーラルフレイルは口腔機能低下症の前段階とされることがありますが、どちらにも共通する部分があり、明確に区別するのは難しいでしょう。日常生活でオーラルフレイルの状態に気付いたら、早めに歯科医院で口腔機能低下症の検査を受けることをおすすめします。
- 口腔機能低下症の原因を教えてください。
- 口腔機能低下症の原因の一つが加齢です。年を重ねると身体のさまざまな機能が衰え、口腔の感覚や咀嚼、嚥下、唾液分泌なども徐々に低下します。
さらに、日常的に口腔ケアを適切に行わないと、むし歯や歯周病が進行しやすくなります。その結果、歯の喪失や義歯の不具合が起こると、口腔機能にも悪影響を及ぼすでしょう。そのほかにも服用中の薬による副作用や栄養不足、口腔乾燥などが重なって、口腔機能のさらなる低下を引き起こすことがあります。
- 口腔機能低下症の症状を教えてください。
- 口腔機能低下症には、次のような症状があります。
- 口腔衛生状態不良
- 口腔乾燥
- 咬合力低下
- 舌口唇運動機能低下
- 低舌圧
- 咀嚼機能低下
- 嚥下機能低下
初期の段階では自覚が少ない場合もあります。しかし放置すると食事や会話、飲み込みなどが困難になり、日常生活に支障が出る可能性があります。例えば硬いものが噛みにくい、食べ物や飲み物でむせる、うまく話せないなどの症状が現れた場合は早めに歯科医院を受診することが重要です。
口腔機能低下症の検査について
- 口腔機能低下症の検査について教えてください。
- 口腔機能低下症は口腔衛生状態不良や口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能低下、嚥下機能低下を確認する7つの検査によって診断されます。まず口腔衛生状態は視診により舌苔(ぜったい)付着度(TCI)を評価します。口腔乾燥は、口腔水分計による粘膜湿潤度、あるいはサクソンテストによる唾液分泌量を測り評価する検査を行うのが一般的です。
サクソンテストは、ガーゼを2分間一定のリズムで咬み、ガーゼに浸み込んだ唾液量を測る方法です。咬合力低下は、視診で残存歯数を確認し、感圧フィルムを思い切り噛んで咬合力を評価します。舌口唇運動機能低下はオーラルディアドコキネシスを使用し、パ・タ・カなどの音節を繰り返し発声させ、速さとリズムを評価します。舌圧計を使用して測定するのは、舌圧の低下についてです。
咀嚼機能低下は、咀嚼能力検査システムによるグミ咀嚼後のグルコース溶出量の測定、あるいは咀嚼能率スコア法による咀嚼後の視覚的粉砕度で判定します。最後に、嚥下機能低下は主観的評価として質問票を用いて評価します。必要に応じて、嚥下造営検査や嚥下内視鏡検査などの精密検査を行う場合もあるでしょう。
- 口腔機能低下症はどのように診断されますか?
- 口腔衛生状態不良と口腔乾燥は、口腔内環境を評価しています。咬合力低下や舌口唇運動機能低下、低舌圧は個別的機能を、咀嚼機能低下と嚥下機能低下は総合的機能の評価をするための検査です。それぞれの判定基準は以下のとおりです。
- 口腔衛生状態不良:舌苔付着が50%程度
- 口腔乾燥:粘膜湿潤度が27.0未満、唾液量が2.0g/2分以下
- 咬合力低下:感圧フィルムによる咬合力が500N未満、残存歯20本未満
- 舌口唇運動機能:パ・タ・カのいずれか1つでも6回/秒未満
- 低舌圧:舌圧測定器で30KPa未満
- 咀嚼機能低下:グルコース溶出量が100mg/dL、視覚的粉砕度のスコアが2以下
- 嚥下機能低下:自記式質問用紙で3点以上、質問紙法でAが1つ以上
これら7項目のうち3項目以上に該当する場合、口腔機能低下症と診断されます。また、この状態はお口からの摂取量が減ることにより、身体が必要とする栄養素が不足している状態(低栄養)を伴っている可能性もあります。
口腔機能低下症と診断された場合の対処法
- 口腔機能低下症と診断された場合の正しい口腔ケア方法を教えてください。
- 口腔内を清潔に保つことは、口腔機能の維持において重要です。歯磨きは1日2回以上行いましょう。歯間ブラシやフロスを1日1回以上使うことも大切です。
また歯だけでなく、舌の汚れや義歯の汚れを丁寧に清掃することも意識しましょう。マウスウォッシュを併用すればさらに清潔に保ちやすくなります。
- 口腔機能低下症の対策に効果的な食べ物を教えてください。
- 1日3食、主食・主菜・副菜をバランスよく摂ることが重要です。咬合力が低下すると摂取しやすいお粥やうどんなどの炭水化物を食べることが増える一方で、肉や魚、野菜などの摂取量が低下します。タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しやすくなるため、注意しましょう。
噛みにくい食品があると食べることが億劫になる傾向があるため、食べやすい形状にするといった工夫が必要です。例えば肉が硬くて食べにくい場合は、筋を切り肉全体を包丁の背で軽くたたいたり、薄切り肉やひき肉などを代用したりします。
食事量が減っている場合は、主食や主菜を優先して食べることで栄養素の摂取が期待できます。ただし咬む筋力を鍛えるために、干し芋やスルメイカ、ドライフルーツなど歯ごたえのあるものを食べることも心がけましょう。
- 口腔機能低下症で口腔内が乾燥している場合の対処法を教えてください。
- 口腔内が乾燥している場合は、こまめな水分摂取を心がけましょう。適度なうがいやスプレータイプの保湿剤も効果的です。
乾燥がひどい場合は、ジェルタイプの保湿剤を使用すると保湿効果が高まります。乾燥したままでいると、痛みが生じたり口腔内を傷つけたりすることがあるため、注意しましょう。
- 口腔機能低下症に効果的な体操やトレーニングがあれば教えてください。
- 唾液をしっかりと出すために、唾液腺マッサージが効果的です。唾液腺マッサージは耳下腺と顎下腺、舌下腺の3つの部位それぞれで行います。まず、耳下腺(耳の横)を手指で後ろから前に向かって回すようにマッサージをします。次に、指を顎の骨の内側にあるやわらかい部分にあて、耳の下から顎の下まで5ヶ所程度順番に1~2秒押しましょう。最後に両手の親指をそろえ、顎の真下から舌を突き上げるようにぐっと押します。これを食事の前に10回行うことが大切です。
また、ほかにも口腔機能向上を目的とした訓練があり、患者さんの好きなことや意欲に合わせて選ぶことがおすすめです。例えば、道具を使用する場合は舌抵抗訓練や口唇閉鎖力訓練があります。道具を使用しない訓練には舌を上下左右に動かす運動や頬のふくらまし、お口を開けたり閉じたりする開口訓練、舌を頬に突き出す舌抵抗訓練などがあります。
さらに、ガムを食べる際に噛む訓練や、吹き戻しというおもちゃも活用可能です。口腔機能訓練は、継続することが重要です。気軽にできる訓練からやることで、「自分にもできそう」と意欲が出るでしょう。
編集部まとめ
口腔機能低下症は、加齢や病気などにより口腔機能が衰える状態です。オーラルフレイルはその前段階とされますが、明確な境界線はありません。
特に影響を受けやすいのは咀嚼や嚥下、唾液の分泌、発話といった基本的な機能です。むせたり話しづらくなったりなどの変化に気付いた場合は、早めに歯科医院で検査を受けましょう。
口腔衛生状態や口腔乾燥、咬合力、舌口唇運動機能、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能を確認する7つの検査を行います。このうち3つ以上に該当した場合は口腔機能低下症と診断されます。
もし診断されたら、毎日の適切な口腔ケアと食生活の見直しが重要です。
口腔機能が低下すると栄養不足や低栄養にもつながります。食事をしにくくなるため食事が偏るおそれがありますが、意識してバランスのよい食事を摂るようにしましょう。
「加齢だから仕方ない」とあきらめず、前向きに口腔トレーニングや体操を継続することが健康に長生きするための第一歩です。
参考文献