口腔は食べ物を摂取し、会話によってコミュニケーションを図るうえで不可欠な役割を担っています。また、呼吸器として空気の通り道としての機能も持ち合わせる重要な一面も担います。
お口のトラブルは誰もが経験があることでしょう。口腔粘膜疾患は、口腔粘膜にできる病気の総称で、原因や症状も多岐にわたります。
本記事では、口腔粘膜疾患の原因について種類や症状、治療法から予防法まで詳しく解説します。
口腔粘膜疾患が心配な方や予防に関心がある方の参考になれば幸いです。
口腔粘膜疾患について
- 口腔粘膜疾患とはなんですか?
- 口腔粘膜疾患とは、口腔内の粘膜に病変が生じる疾患です。口腔内の具体的な組織は、以下のようなものが挙げられます。
- 舌
- 口腔底(舌と歯茎の間)
- 歯肉(歯茎)
- 頬粘膜(頬の内側)
- 硬口蓋(お口の天井)
目で見てわかる肉眼的な病変に関しては、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 白斑
- びらん
- 水疱
- 潰瘍
- 腫瘤
痛みを伴うものから伴わないもの、悪性や良性の疾患など多岐にわたります。病変の肉眼的観察からは、悪性か良性かは完全に区別できません。最終診断は病理学的検査によって行われます。以下に原因について分類します。
- 物理的刺激や化学的刺激
- 感染
- アレルギーや自己免疫疾患などの全身疾患
上記のように口腔粘膜疾患は病変ができる場所や形色など、原因によってもさまざまです。詳しく見ていきましょう。
- よくみられる良性の口腔粘膜疾患の種類を教えてください。
- 良性の疾患とはどのようなものでしょうか。良性とは正常を意味することもありますが、すべてが正常とは限りません。良性とは、悪性つまりがんではないということです。良性の病気であっても、放置したり進行したりすると身体へ大きな影響を与えることもあります。良性の口腔粘膜疾患についてよく見られる種類を以下に挙げ、詳しく解説します。
- アフタ性口内炎
- カタル性口内炎
- ウイルス性口内炎
- 細菌性口内炎
- 真菌性口内炎
- 自己免疫性口内炎
- 白板症
口内炎が多く挙げられています。口内炎には局所的な原因が主である原発性口内炎と、全身性の病気が原因で生じる症候性口内炎に分かれます。アフタ性口内炎とカタル性口内炎は原発性口内炎です。その他の口内炎は全身の症状に注意が必要であり、治療もさまざまなものがあります。アフタ性口内炎は、口腔内粘膜に直径3〜5mmの境界明瞭な白い潰瘍ができます。カタル性口内炎は、お口のなかの粘膜が刺激により赤くなり、ざらざらする口内炎です。
口内炎は誰もが経験する口腔内に発生する厄介な痛みを伴う病気です。しかし良性の口腔粘膜疾患は全身の病気の重要なサインである場合もあります。自身で普段と異なる違和感に気付き、歯科医師に指摘された場合は、早めの受診が必要です。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患の種類を教えてください。
- 悪性の口腔粘膜疾患は口腔がんと呼ばれ、顎口腔領域に発生する悪性腫瘍の総称です。組織学的な分類(がんの種類)では、95%とほとんどが粘膜組織から生じる扁平上皮がんです。扁平上皮がんは、健常な扁平上皮から異形成と呼ばれる前がん病変を経て、転移や浸潤能を有する浸潤がんに進行します。発生部位によっては、以下に分類されます。
- 舌がん
- 口腔底がん
- 歯肉がん
- 頬粘膜がん
- 硬口蓋がん
このなかでもよくみられるのは舌がんで、半数の約50%です。硬口蓋がんは、口腔がんのなかで頻度が低く、約3%といわれています。口腔がんは男性が女性の約2倍なりやすく、好発年齢は60〜70歳代です。発生頻度は日本において、すべてのがんの約1%といわれています。
口腔粘膜疾患の原因や症状
- よくみられる良性の口腔粘膜疾患の原因を教えてください。
- 良性の口腔粘膜疾患の原因について、詳しく解説します。良性の口腔粘膜疾患は口内炎が多く、原発性の口内炎と症候性の口内炎に分類が可能です。原発性口内炎の原因は以下のようなものが挙げられます。
- ストレス
- 睡眠不足
- 偏食、ビタミン不足
- 外傷
- 口腔内の不衛生
- 不適合の義歯
一般的に局所に病気が留まるため、原因を改善したり、塗り薬などの対応が行われます。次に症候性の口内炎に関して感染性のよくみられるものを以下に挙げます。
- ウイルス性(風疹など)
- 細菌性(梅毒など)
- 真菌性(カビなど)
細菌性の梅毒による口内炎は、自覚症状も乏しくキスなどによる他者への感染リスクもあるため、注意が必要です。
感染症以外の原因による口腔粘膜疾患で重要なのが、白板症といわれています。白板症はカンジダ症などと異なり、剥離しない白色の病変が特徴です。白板症は喫煙や飲酒などの化学的刺激や、義歯の不適合などの慢性的な機械刺激が原因で生じます。白板症はがん化することがあるため、前がん病変として早期発見と早期治療が重要な口腔粘膜疾患といわれています。
- よくみられる良性の口腔粘膜疾患の症状を教えてください。
- 良性の口腔粘膜疾患の症状を、これまで触れてきた病気に分けて解説します。アフタ性の口内炎は痛みを伴い、食べ物によってシミることもあります。カタル性の口内炎は、痛みを伴い、口臭や粘り気のある唾液が増えることが違いです。
症候性の口内炎は種々の症状が生じる可能性があります。感染性の場合は、発熱や倦怠感などさまざまな症状が起こりえます。自己免疫疾患が原因の口内炎も、口腔内以外に種々な症状が起こる可能性として同様です。前がん病変として重要な白板症は、通常自覚症状はありません。白板症は4%〜18%にがん化するリスクがあります。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患の原因を教えてください。
- 悪性の口腔粘膜疾患の原因を以下に挙げ詳しくみていきます。
- 喫煙
- 飲酒
- 慢性的な機械刺激
- 口腔内不衛生
- 前がん病変
まず上記のなかでも多く報告があるのは喫煙です。喫煙はタバコに含まれている発がん性物質が口腔粘膜を損傷し、がん化のリスクを高めます。喫煙者の口腔がんのリスクは非喫煙者の5〜7倍といわれています。喫煙同様に粘膜を刺激するのは過度な飲酒です。
また、合わない義歯や詰め物などによってお口の粘膜に物理的刺激が長い年月をかけて加わることも発がんのリスクになります。炎症や細胞の破壊は細胞分裂を繰り返す要因になり、DNAに異常が蓄積し発がんの原因だからです。そのため、適切な歯科医院での治療は重要です。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患の症状を教えてください。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患として口腔がんについて解説します。口腔がんでは、がんができた粘膜の色が変色し、お口のなかに硬いできものがあらわれることがあります。痛みが伴わないことも珍しくありません。
歯肉がんの場合は、歯がぐらついたり入れ歯の噛み合わせが合わなくなったりします。がんが進行し、リンパ節に転移すると食事の飲み込みにくさや、話しづらいなどの症状が生じることもあります。
口腔粘膜疾患の治療法や予防法
- 医療機関ではどのような検査を行いますか?
- 口腔粘膜の状態を見るには、視診が一般的です。口腔内の粘膜や舌などを舌圧子を用いて観察します。注意深く観察する点は以下のような状態です。
- 粘膜の発赤や腫脹
- 白色病変の有無
- びらんや潰瘍の有無
- 乾燥の状態
舌に白色病変や硬い部分がある場合は舌がんが疑われます。痛みがほとんどないとされている潰瘍などがある場合は梅毒などの性感染症も検討が必要です。口腔内に乾いた所見が認められる場合は、シューグレン症候群などの自己免疫疾患も疑われます。
観察により医師が必要性を判断した場合は生検と呼ばれる病理組織学的検査が行われます。病理組織学的検査は、一部の採取した組織からプレパラート標本を作成し、顕微鏡で観察する検査です。顕微鏡で病理医が診断を行い、悪性の有無や病気の正体を報告します。
がんはもちろん、口腔粘膜の病気は早期発見と早期治療が重要です。自分でもお口のなかに違和感を感じた場合は、医師の診察をおすすめします。
- よくみられる良性の口腔粘膜疾患の治療方法を教えてください。
- 局所的な口腔のただれや炎症には、塗り薬などにより対応します。一般的なアフタ性口内炎は、通常1〜2週間で自然治癒することが主です。口腔内への化学的刺激に対しては禁煙や禁酒が有効であり、機械的刺激に対しては原因を取り除きます。
感染症に関しては、引き起こしている病原体を特定し、抗菌薬などの使用が有効です。口腔内を清潔に保つことが治療や予防にもつながるため、適宜歯科医師などを利用することが重要です。白板症などの前がん病変に対しては切除も検討されます。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患の治療方法を教えてください。
- よくみられる悪性の口腔粘膜疾患の治療方法を以下に挙げます。
- 外科的治療
- 放射線療法
- 化学療法
がんの治療はがんを早期に発見し切除する手術が標準治療です。転移や浸潤が進んだ進行がんには、より広範な切除や再建手術が行われます。化学療法や放射線療法も組み合わせて、患者さんによりよい医療が提供されます。口腔の手術は食事や会話へ影響が生じることもあるため、接触・嚥下支援チームや栄養サポートチームによるリハビリも重要です。
- 口腔粘膜疾患を予防する方法はありますか?
- 口腔粘膜疾患である口内炎や悪性腫瘍を予防するには、以下の方法が効果的です。
- 口腔内の清潔を保つ
- 喫煙と飲酒を控える
- 栄養バランスのよい食事
- 慢性的な刺激を避ける
- ストレス管理と免疫力向上
口腔粘膜疾患の予防には歯科医師による介入も効果的です。以下に具体的な方法を挙げます。
- 定期的な歯科健診
- 歯石除去とクリーニング
- 詰め物や義歯の調整
- 口腔衛生指導
上記のように自身で生活習慣に気をつけながら、歯科医院でも適切な介入を受けることで、良性と悪性双方の口腔粘膜疾患の予防に重要です。
編集部まとめ
口腔粘膜疾患は口腔内の粘膜に生じるさまざまな病変の総称です。原因は刺激や感染症、全身疾患など多岐にわたり、症状や良悪性の有無もさまざまです。
良性疾患としては口内炎が代表的で、局所的なものと全身疾患の症状の一部としてあらわれるものと大きく2つに分類されます。
良性疾患のなかには、前がん病変である白板症もあるため注意が必要で、治療は原因の除去や薬物療法が中心です。
口腔内に生じる悪性疾患は口腔がんと呼び、舌がんが多く原因は喫煙や飲酒などが主な原因です。粘膜の変色やしこりが症状としてあらわれ、進行すると飲み込みや会話が困難になることもあります。
予防には生活習慣の改善や口腔内の清潔保持、歯科医院の受診が重要です。お口は食事や会話にとても重要な機能を担っています。この記事が健康な口腔を維持し長くよりよい食事や生活を営むことに役立てば幸いです。
参考文献