入れ歯を使っている人のなかには、入れ歯安定剤を利用している人も少なくないでしょう。
入れ歯安定剤は入れ歯の安定や痛みの緩和などの利点がある反面、過敏症状が出たり、口腔内や入れ歯に安定剤が残ってしまったりするというマイナスの面もあります。
以下で、入れ歯で口腔内がべとべとする原因や安定剤の種類、使用時の注意点を紹介します。入れ歯安定剤を検討している人は参考にしてください。
入れ歯で口腔内がべとべとする原因
入れ歯安定剤の残存・過多な塗布量・口腔ケアが不十分などの原因が挙げられます。入れ歯安定剤を使うと自身の歯にも入れ歯にも安定剤が残ることが少なくありません。
除去せずにいると口腔内がべとべとした感じが続くでしょう。そのため、安定剤使用後は安定剤をきれいに除去することで、自身の歯も入れ歯も清潔に保つ必要があります。
塗布量が多すぎても口腔内のべたつきにつながるため、少ない量から塗布量を調整してみてください。塗りすぎた際には、除去も必要です。
口腔ケアが不十分な場合も口腔内のプラークが増えやすいため、口腔内がべとべとしていると感じやすいでしょう。
入れ歯安定剤の種類
入れ歯と歯肉の装着部に付ける安定剤の性質は、安定剤ごとに異なります。以下で、クッションタイプ・クリームタイプ・パウダータイプ・シートタイプの違いを紹介します。
クッションタイプ
酢酸ビニル樹脂とエタノールを主成分に作られている安定剤です。酢酸ビニル樹脂は、接着剤・コーティング剤・チューイングガムなどに使われています。
クッションタイプは名前のとおり厚みがあるため弾力性が増し、噛み合わせの際に生じる力を分散させることが可能です。
べたつきはありませんが、操作性が悪く患者さん自身で均等に塗るのは難しい面があります。また、均等に塗りにくいため、噛み合わせを変化させてしまう可能性があるでしょう。
クリームタイプ
パウダータイプを主成分に軟膏剤でクリーム状にしたタイプになります。入れ歯全体にまんべんなく塗ることができ、操作性に優れています。
装着して何度か噛み合わせると全体に広がり、厚みも薄いため歯肉との隙間が生まれにくいタイプの安定剤です。パウダータイプよりも唾液に流されにくく耐久性に富み、粘着力もあります。
入れ歯のがたつきが多少みられるものでも対応できるのがクリームタイプの特徴です。
パウダータイプ
パウダーを入れ歯の装着部に振りかけて使うタイプの安定剤です。安定剤自体の厚みはほとんどありませんが、唾液や水分でしっかりと吸着します。
パウダーのため、使用後は入れ歯を洗うと一緒に洗い流すことができ、手入れの手間が少なくて済むでしょう。
デメリットは、使用時にパウダーを毎回振りかけなければならない点や水分で流されやすく耐久性に劣る点です。
シートタイプ
主成分はパウダータイプとおおむね同じで、アルギン酸ナトリウムも含まれているシートです。アルギン酸ナトリウムは、海藻が原料の物質で食品の増粘剤・ゲル化剤などに使われている添加物です。
シートタイプでは、入れ歯の形態に似たシートを入れ歯に着け、余分な部分は切除して使用します。
使い方は簡単で吸着力もありますが、シート自体に少し厚みがあり、口腔粘膜と馴染みにくいのが難点です。入れ歯が不潔になりやすいため、使用するごとに取り替えて使うようにしましょう。
入れ歯安定剤の使い方
クリームタイプの場合、次のような流れになります。
- 入れ歯をよく洗い、水分を拭き取る
- 自身の歯肉から安定剤を除去する
- 入れ歯の装着部に安定剤を適量塗る
- 入れ歯を歯肉に押し当てて固定する
- 余分な安定剤を除去する
入れ歯を使う際には、まずは入れ歯がきれいな状態かどうか確認してから使いましょう。汚れや安定剤が入れ歯に付着している場合には、ティッシュペーパーや綿花で除去してください。
入れ歯をきれいにしたら、次は装着する自身の歯肉をきれいにしましょう。入れ歯を装着していた箇所に安定剤や食べ物が残っていることがあります。
安定剤や食べ物が残っていると、しっかりと装着されなかったり装着時の違和感につながったりします。自身の口腔内がきれいになったら入れ歯に安定剤を塗りましょう。
安定剤を付け過ぎると、装着時の不快感や使用後の除去に手間がかかるため、薄く一層塗る感じで少量から安定剤を塗るのがおすすめです。
パウダータイプの場合、装着前に入れ歯を濡らしておき、パウダーを装着部の全面に均等に振りかけるように意識してください。
余分に粉を付け過ぎると広がりにくく残ってしまうため、パウダータイプには少し慣れが必要です。入れ歯に安定剤が塗れたら、口腔内の定位置に入れ歯を入れ、手で数秒間押さえます。
はまったら何度か軽く噛み、安定剤が均一に広がるように馴染ませてください。入れ歯の縁からはみ出た場合はティッシュペーパーやガーゼなどで拭き取りましょう。
入れ歯安定剤の選び方
クリームタイプ・パウダータイプは、入れ歯に薄く均等に広がりやすく、噛み合わせの高さが変わったりずれたりが起きにくいのが特徴です。
唾液や水分などを吸収して粘着性が上がるため、義歯の安定性も増します。また、シートタイプは持ち運びには便利です。
しかし、入れ歯の上では均等に広がりにくく、口腔粘膜とも馴染みが悪いために噛み合わせがずれる可能性があります。
クッションタイプは、厚みがあるクッション性の安定剤のため、痛みが軽減できます。ただし、厚みがでるため歯の高さや噛み合わせが合いにくくなるでしょう。
市販されている安定剤でシェアが大きいのはクリームタイプです。
入れ歯安定剤を使用する際の注意点
長期間使い続けない・就寝時は使用しないなど、入れ歯安定剤を使用する際の注意点を5つ紹介します。
長期間使い続けない
入れ歯を長期間使い続けると、むし歯・歯周病・口内炎などになる可能性があります。そのため、毎食ごとに入れ歯を取り外して、口腔内も入れ歯もきれいに保ちましょう。
入れ歯と歯肉や歯の隙間などに食べかすが付着したまま長期間使っていると、細菌が繁殖してむし歯や歯周病になります。
また、長期間使い続けることで歯肉が痩せたり噛み合わせが悪くなったりもします。口腔内の衛生面や噛み合わせなどに影響が出る可能性があるため、長期で使う場合には歯科医師に相談してください。
入れ歯の材質によっては使用できない
リラインで入れ歯と口腔粘膜が接する箇所を、シリコーンのようにやわらかい材質で適合させる場合には、入れ歯安定剤は使用しない方がいいでしょう。
リラインは、入れ歯が合いにくくなった際にシリコーン系やアクリル系の材質で新たに適合を図る方法です。今まで使っていた入れ歯をそのまま使えるのが利点です。
現在の歯肉に適したシリコーン系やアクリル系の素材の上に安定剤を使用するため、シリコーンが剥がれたり、噛み合わせが合わなくなったりします。
口腔内に異常がある場合は使用しない
入れ歯安定剤を使って発疹・発赤・かゆみ・腫れなどが生じた場合には、使用を控えてください。
また、入れ歯が当たる箇所に痛み・傷・腫れなど気になる症状がある場合も使用しない方がいいでしょう。
入れ歯安定剤は口腔内に入れても無害な成分でできていますが、含まれている成分が合わず発疹・発赤・かゆみ・腫れなどにつながる可能性があります。
何らかの症状が現れた際には、使用を中止して歯科医師の指示を仰いでください。
就寝時は使用しない
就寝時には、入れ歯を外して水中で保管しましょう。寝ている間は、口腔内の粘膜や歯を回復させるために入れ歯を外すのがおすすめです。
また、夜間に入れ歯を装着すると粘膜異常・歯肉炎・義歯性口内炎などができやすくなります。
ただし、睡眠中の歯ぎしりで残存歯や顎関節に過剰に負荷がかかる場合や残存歯で歯肉が傷付く場合などには、就寝時に入れ歯を外すのが難しいケースもあります。
その際には、入れ歯も口腔内もきれいにしてから就寝するようにしましょう。
入れ歯安定剤が残らないように洗浄する
入れ歯安定剤が残ったまま入れ歯を使用すると、安定剤を除去していない箇所から細菌が発生し、口腔粘膜や歯肉の異常につながります。
安定剤が残っている箇所が硬くなり、粘膜を傷つける可能性もあるでしょう。安定剤は水分を含むと膨張し、粘着性が増して取れにくくなります。
そのため、入れ歯を外した際にはまず口腔内の安定剤を取り除くことが重要です。口腔内に安定剤が残っている場合は、口腔内を水で湿らせる前に乾いたガーゼやティッシュペーパーなどを使って、できる限り安定剤を取り除くようにしてください。
その後にやわらかめの歯ブラシやスポンジブラシを使って、口腔内の汚れや残っている安定剤を除去すると、スムーズに清掃が行えるでしょう。
口腔内の清掃が終わったら、ガーゼやティッシュペーパーで入れ歯の安定剤を拭き取り、入れ歯用ブラシで水洗いします。
熱湯で行うと入れ歯が変形する可能性があるため、注意してください。また、入れ歯安定剤をほとんど溶かしてくれる入れ歯洗浄剤を使用するのも1つの手です。
ただし、クッションタイプでは入れ歯洗浄剤の効果がないため、安定剤に合った除去方法で対応する必要があります。
口腔内のべとべとを放置した場合のリスク
口腔内がべとべとする原因には、入れ歯安定剤の残存・過多な塗布量・口腔ケアが不十分などが考えられます。放置すると口臭の悪化・歯周病やむし歯の発生などにつながるため、気になったら早期に対応しましょう。
口臭の悪化
入れ歯安定剤の除去や自身の口腔内の手入れを怠ると、入れ歯や自身の歯に細菌や歯石などが繁殖するため、口臭が悪化する可能性があります。
口臭は、口腔内の細菌が唾液・血液・食物残渣に含まれているアミノ酸などが分解や腐敗することで生じます。
入れ歯のバネの部分や入れ歯と自身の歯の間などは、特に汚れが溜まりやすい箇所のため、清掃時に丁寧に磨くようにしましょう。
歯周病・むし歯
入れ歯安定剤をしっかりと除去せずに使用すると、細菌が付着したまま入れ歯を使うことになります。
そのため、歯周病やむし歯になる可能性があるでしょう。入れ歯にも歯垢や口腔細菌などの汚れが付着します。
また、歯磨きをしないと口腔内がべとべとした状態に感じることがあります。これは、口腔内のプラークが水に溶けにくく粘着性があるためです。
プラーク自体は、食後数時間で歯の表面や歯間に作られ、うがいだけでは除去しきれません。そのため、歯ブラシやデンタルフロスなどを使って機械的に取り除く必要があります。
歯磨きを怠ると、プラークを除去しきれず、口腔内がべとついた感じが残ってしまいます。
入れ歯と自身の歯の隙間に食べかすなどが残りやすいため、入れ歯使用後は口腔内と入れ歯の汚れも取るように心がけましょう。
味覚障害
口腔内が入れ歯安定剤でべたついていると、味覚障害になる可能性があるでしょう。味覚は年齢を重ねると低下するとされており、味覚障害は加齢による生理的な現象でもあります。
入れ歯に慣れていない状態では、入れ歯を着けることで粘膜の異物感から心理的に味覚障害になるケースもあります。
なぜなら、入れ歯を着けることで口腔内の粘膜が覆われ、粘膜に対する舌の感触・温熱・食べ物の質感などの粘膜への刺激が低下するためです。
味覚は舌や軟口蓋にある味蕾が甘味・塩味などの特定の味を感知し、その情報が脳に送られることで味を認識しています。
軟口蓋は口蓋の喉側にあるやわらかい部分で、上顎の入れ歯で覆われることもあるため、味覚が低下しやすくなります。
また、入れ歯安定剤は軟口蓋と入れ歯の間に入るため、軟口蓋では味を感じにくくなるでしょう。
誤嚥性肺炎
汚れが付着したままの入れ歯や口腔内は、誤嚥性肺炎の一因になるでしょう。誤嚥性肺炎は、飲食物や唾液などが気管に入ることで、肺炎が起きる疾患です。
入れ歯安定剤の除去や歯磨きをせずに就寝した場合、これらの一部が唾液と一緒に気管に入ると、誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。
入れ歯と歯肉の間や歯間などに食べかすや歯垢は残りやすいため、食後の歯磨きや入れ歯の手入れはしっかりと行いましょう。
まとめ
入れ歯で口腔内がべとべとする原因や安定剤の種類、使用時の注意点を紹介しました。
入れ歯安定剤は唾液や水分を吸収して、膨張して粘着性が増します。そのため、入れ歯使用後に入れ歯安定剤を除去するのが困難になり、入れ歯にも口腔内にも残ることでべたつきを感じやすくなります。
入れ歯安定剤が除去しきれていない箇所から口腔細菌が繁殖して、口臭・歯周病・むし歯などにつながるでしょう。安定剤を使うことで、入れ歯の安定性が向上したり咀嚼時の痛みが軽減したりします。
入れ歯は食事や会話の際に重宝されますが、長期間や就寝時の使用は口腔内の状態の悪化や感染症、義歯性口内炎などの原因につながる可能性があります。
入れ歯安定剤の種類ごとの特徴や注意点を踏まえて、自身に合った入れ歯安定剤を使っていきましょう。
参考文献