歯ぎしりの治療法はひとつではなく、なかには自分でできる対策もあります。歯科医院での対症療法も有効ですが、根本的な治療には患者さん自身の取り組みが大切です。
歯ぎしりを放置すると、歯の寿命が縮んだり顎関節症になったりして、生活の質が大きく低下します。
本記事では、歯ぎしりの原因や影響と、自分でできる歯ぎしりの対策を解説します。
歯ぎしりに悩んでいる方が、効果的に治療を進める参考になれば幸いです。
歯ぎしりの種類
歯ぎしりの定義は、過度の覚醒活動に関連する睡眠中の歯のグラインディングまたはクレンチングを特徴とする口腔異常機能とされています。
歯ぎしりは睡眠中に起こるものであり、日中に無意識に行われる食いしばりとは別です。
1日3回の食事で上下の歯が接触する時間は合計15分程度といわれており、それを超える負荷は歯や歯周組織を痛める原因となります。
医学的には睡眠時ブラキシズムと呼ばれており、特徴的な症状によって分類されています。
歯ぎしりの種類は、主に以下の3つです。
- グラインディング
- クレンチング
- タッピング
それぞれの内容を解説します。
グラインディング
グラインディングとは、上下の歯を強く食いしばりながら、こすり合わせるように顎を動かす症状です。
歯が石臼のようにこすり合わさることで、ギリギリと音が鳴ります。就寝中に騒がしくなり、同居家族からの指摘で気付くケースが少なくありません。
グラインディングは歯に強い摩擦力がかかるため、歯が削れたり割れたりする危険が高まります。
クレンチング
クレンチングとは、無意識に上下の歯を強く食いしばる症状です。
グラインディングのようにこすり合わせる音がしないため、日中でも気付かずに起こってしまう場合があります。
クレンチングは昼夜問わずに起こる症状です。口腔内に慢性的に強い負荷がかかるため、歯や歯周組織の炎症も起こりやすくなります。
タッピング
タッピングとは、上下の歯を小刻みに接触させる症状です。
歯が打ち付けられるたびにコツコツと音がなるため、同居家族にとってもストレスになるケースが少なくありません。
繰り返しの刺激によって、歯や歯周組織への負担が蓄積していきます。
歯ぎしりの主な原因
歯ぎしりの原因ははっきりとわかっておらず、さまざまな原因によって起こりうる多因性の障害と考えられています。
複数の要因が合わさって歯ぎしりが起きている場合もあり、同じ症状でも患者さんによって原因は異なるケースも少なくありません。
国際的な調査によると、歯ぎしりの発生率は小児で10~20%、成人で5~8%、高齢者で2~3%となっており、大きな差はありません。
加齢によって自然と改善されるケースもありますが、原因に心当たりがあれば、改善を意識しましょう。
歯ぎしりの原因と考えられているのは、主に以下の4つの因子です。
- ストレス
- 噛み合わせの悪さ
- 飲酒や喫煙などの習慣
- 睡眠障害
それぞれの内容を解説します。
ストレス
歯ぎしりは、睡眠中の大脳上位中枢の興奮によって起こる現象と考えられており、日中のストレスとの関連が示唆されています。
身体的・精神的ストレスに慢性的にさらされていると、睡眠中も脳の興奮が収まらず、歯ぎしりが生じると考えられています。
慢性的なストレスの自覚がある場合は原因を解消したり、心身をリラックスさせたりする工夫が必要です。
噛み合わせの悪さ
噛み合わせが悪いと、顎の筋肉に負担がかかり、過度の緊張状態が続く場合があります。
この過緊張が歯ぎしりを引き起こし、顎の負担が増す悪循環を起こすことが少なくありません。
歯科治療後の詰め物の調整が不十分のため、噛み合わせの不快感から歯ぎしりを生じる場合もあります。
従来では、歯ぎしりの原因は噛み合わせの悪さだと考えられてきましたが、現在ではほかにも原因があることがわかっています。
しかし、噛み合わせの悪さが歯ぎしりの原因のひとつとなることは、現在でも否定されていません。
飲酒や喫煙などの習慣
飲酒や喫煙には歯ぎしりのリスクを高める可能性が指摘されています。
過度の飲酒や喫煙によって脳へのストレスが増大し、歯ぎしりの原因となる可能性はあるでしょう。
また、飲酒や喫煙は歯肉の毛細血管を萎縮させるため、歯ぎしりによって起こる歯周炎を悪化させる可能性もあります。
睡眠障害
歯ぎしりの大半は、眠りの浅いノンレム睡眠中に起こっており、睡眠障害との関連も示唆されています。
咀嚼筋の疲労により、強いいびきや睡眠時無呼吸症候群を併発するケースも少なくありません。睡眠の質の低下が歯ぎしりの原因となる場合もあります。
睡眠障害は慢性的なストレス因子となるため、睡眠の質を改善することで歯ぎしりがよくなる場合もあるでしょう。
歯ぎしりがもたらす悪影響
睡眠中の歯ぎしりは、ほとんどが無自覚に生じており、同室で寝ている家族に指摘されなければ気付かないケースもあります。
歯や歯周組織への負担が蓄積して、お口の健康に悪影響を及ぼす場合も少なくありません。
歯ぎしりを改善するには患者さん自身の主体的な努力が必要です。歯ぎしりによって起こりうる主なリスクは以下の4つです。
- 歯の破折やすり減りが起こる可能性がある
- 歯周病が悪化する可能性がある
- 顎関節症になる可能性がある
- 歯並びが悪くなる可能性がある
それぞれの内容を解説します。
歯の破折やすり減りが起こる可能性がある
歯ぎしりの悪影響として第一に挙げられるのは、歯が割れたりすり減ったりするダメージです。
歯の表面がすり減ると、むし歯や知覚過敏になりやすく、歯の寿命を縮めてしまいます。
歯科治療後の詰め物が、歯ぎしりによって取れてしまうケースも少なくありません。
歯が割れてしまった場合には、速やかな治療が必要です。
ひび割れが歯の神経まで到達して細菌に感染すると、神経を除去しなくてはいけない場合もあります。
一度除去した神経は再生しないため、自分の歯を長く残すためにも歯ぎしりは早めに対策しましょう。
歯周病が悪化する可能性がある
歯ぎしりによってダメージを受けるのは、歯だけでなく歯周組織も同じです。
歯は歯槽骨と歯肉によって支えられており、歯周組織に負担が蓄積すると歯周病が悪化する可能性があります。
歯周病が進行すると、歯槽骨や歯肉が退縮して、抜歯せざるを得なくなるケースも少なくありません。
日本人が歯を失う原因の第1位が歯周病であるため、歯周病予防のためにも歯ぎしり対策は重要です。
顎関節症になる可能性がある
歯ぎしりは顎関節にも強い負担がかかるため、顎関節の痛みで歯ぎしりに気付くケースも少なくありません。
お口を大きく開いたときに痛みが生じたり、大きく開けなくなったりした場合には、顎関節症の可能性があります。
顎関節症が進行すると、顎の骨が変形して顎変形症となる場合もあり、骨を切る手術が必要になることもあります。
歯並びが悪くなる可能性がある
歯ぎしりによって歯に強い力がかかり続けた結果、歯が移動して歯並びが乱れるパターンが珍しくありません。
グラインディングによって、歯に横方向の力がかかると歯が外側に傾いて歯と歯の隙間が広くなってしまいます。
歯並びの乱れによってむし歯になりやすくなったり、さらに歯ぎしりが悪化したりするケースもあるため、早めの対策が必要です。
歯ぎしりのセルフチェック方法
睡眠中の歯ぎしりは、自覚症状がなく、気付かないケースも少なくありません。
同室で寝ている家族がいる場合には指摘される場合もありますが、そうでない場合にはセルフチェックをしてみましょう。
以下のような症状がある場合には、睡眠中に歯ぎしりをしている可能性があります。
- 起床時に顎や歯の痛みがある
- 歯の表面がすり減っている
- 知覚過敏が悪化している
- 歯茎に骨隆起という白い膨らみが見える
上記のような症状があり、歯ぎしりが疑われる場合には、早めに歯科医院を受診しましょう。
歯ぎしりの可能性が疑われた場合には、睡眠時に歯に薄いシートを装着して歯ぎしりをチェックします。
また、近年では睡眠中の音を記録して歯ぎしりやいびきをセルフチェックできるスマートフォンアプリが登場しています。
自分でできる歯ぎしり対策
歯ぎしりの原因はさまざまあり、その治療方法や対策もひとつではありません。
原因が特定できても、すぐには改善しないケースもあります。歯ぎしりの治療には、根気よく取り組む姿勢が重要です。
歯科医院での治療のほかにも、患者さん自身が取り組める対策として、以下のような方法があります。
- ストレスを上手に解消する
- 過度な飲酒や喫煙を避ける
- 顎や頬周辺の筋肉をマッサージする
それぞれの内容を解説します。
ストレスを上手に解消する
ストレスは歯ぎしりの大きな原因のひとつとなるため、できる限り解消するように努めましょう。慢性的なストレスは歯ぎしりだけでなく、さまざまな病気や体調不良の原因となります。
ストレスの原因は一つではなく、仕事や人間関係による場合もあります。そのため、問題の解決が難しいことも少なくありません。
原因から離れることが難しい場合は、ストレスを忘れられる別のことを見つける対応がおすすめです。運動やストレッチなどをして体を動かしたり、自分の好きなことをする時間を作ったりして苛立ちを発散しましょう。
好きな音楽を聞いたり、好きなものを食べたりして、上手にストレスを解消していくことが大切です。
過度な飲酒や喫煙を避ける
飲酒や喫煙は身体的なストレスを増幅し、睡眠の質を下げて歯ぎしりの原因となる場合があります。
飲酒量や喫煙量が歯ぎしりの発生率と相関するとの研究結果もあるため、できる限り控えるようにしましょう。
また、喫煙は歯周病を悪化させる原因のひとつです。歯ぎしりによる歯周病の悪化を防ぐためにも、しっかり禁煙することが重要です。
飲酒や喫煙がリフレッシュの方法になっている方も少なくありませんが、むしろ身体的なストレスが増してしまうことを理解しておきましょう。
顎や頬周辺の筋肉をマッサージする
歯ぎしりによって顎関節の痛みや疲労感がある場合には、筋肉のマッサージをして症状を軽減しましょう。
耳の下側にある顎関節周辺を指でさするようにして、こわばった筋肉をほぐしていきます。
筋肉の過緊張を和らげることで、精神的なストレスが軽減される方も珍しくありません。
顎の痛みがストレスになって、さらに歯ぎしりを悪化させる場合もあるため、顎関節のケアは定期的に行いましょう。
歯科医院での歯ぎしりの治療方法
歯科医院では、歯のすり減りや顎関節の過緊張状態などから、総合的に判断を下します。
歯ぎしりと診断された場合は治療を行いますが、歯ぎしりの原因はひとつではないため、治療方法も画一的ではありません。
いくつかの治療方法を試しながら、患者さん自身の主体的な取り組みを促して、歯ぎしりの原因を解消する方針で進められます。
歯科医院で一般的に行われる歯ぎしりの治療は、大きく分けて以下の2つです。
- スプリント療法
- 薬物療法
スプリント療法とは、患者さんの歯に合わせたマウスピースを装着して、歯を物理的に保護する治療方法です。
睡眠時のみ着用するマウスピースは、ナイトガードとも呼ばれ、歯ぎしりによる歯の摩耗を軽減します。
また、顎関節や歯周組織への負担を軽減し、身体的ストレスを解消する役割もあります。
症状が改善しない場合でも、歯ぎしりが引き起こす心身に対する悪影響を緩和する効果が期待できます。
薬物療法は、主に咀嚼筋の過緊張を緩和する筋弛緩剤を用いる治療法です。
顎関節症の症状が見られる場合には、炎症を鎮める薬を用いて顎の痛みを緩和します。
これらの治療はあくまでも対症療法であるため、歯ぎしりの原因となるストレスや過度の飲酒喫煙については、患者さん自身で対策することが不可欠です。
対症療法によって悪影響を軽減しながら、自分でできる歯ぎしり対策にも努めましょう。
まとめ
歯ぎしりの原因や悪影響と、自分でできる歯ぎしり対策を解説してきました。
歯ぎしりの原因は、歯科医療の歴史のなかで長く研究されており、さまざまな原因によって起こることがわかっています。
噛み合わせの悪さのようにお口のなかの原因もあれば、ストレスや睡眠障害など脳に由来する場合も少なくありません。
歯ぎしりを放置すると、歯が摩耗したり歯周病を悪化させたりして、歯の寿命を縮めてしまいます。
また、顎関節症や顎変形症になると、食事や会話に大きな支障をきたすでしょう。
歯科医院での歯ぎしり治療は対症療法がほとんどのため、患者さん自身でのストレス対策や禁煙などが重要になります。
「自分は歯ぎしりをしているかも」と疑っている場合は、早めに歯科医院を受診して検査を受けることも大切です。
自分でできる対策をしっかり行いながら、歯科医院で歯を守るための治療も併行しましょう。
参考文献