むし歯の痛みが出てきたらなるべく早めに歯科医院にかかりたいところですが、すぐに受診できない場合はせめてしっかりとした応急処置をしたいですよね。
この記事では、そもそもなぜむし歯は痛みが出るのかについてや、むし歯による痛みなどの症状に対する応急処置としてやるべきこと、その逆にやってはいけない行動などを紹介します。
むし歯はなぜ痛くなる?
皆さんは、そもそもなぜむし歯になると痛みが出るのかをご存じでしょうか。
まずは、むし歯の痛みがなぜ発生するのか、そして痛みが自然とおさまることがあるのかなどについて解説します。
痛みが出るむし歯はすでに症状が進行している
むし歯は、お口のなかにいる細菌が作り出した酸によって、歯が溶かされてしまう病気です。
むし歯の原因になる細菌としてはミュータンス菌が知られていますが、それ以外にもラクトバチルス菌などさまざまな細菌がむし歯の原因になります。
ミュータンス菌やラクトバチルス菌などの、常在菌として元々存在している細菌は、糖を分解する際に酸を作り出します。
細菌が作り出した酸には物質を溶かす性質があるため、お口のなかに糖がたくさんあったり、細菌がたくさん存在していたりすると、酸が大量に作られ、歯が溶かされていってしまいます。 歯の頭(歯冠)は表面側からエナメル層、象牙質、歯髄という構造になっていますが、むし歯は表面のエナメル層で発生し、歯を溶かしながら少しずつ象牙質、そして歯髄へと進行していきます。
そして、持続的な痛みを感じるようになるのは、むし歯が歯髄に達したときです。
エナメル質には痛みを感じる神経がとおっていないため、この部分が溶かされていても、歯に痛みなどは感じません。
また、象牙質までむし歯が進行すると、冷たいものをお口に含んだ際の刺激などが、象牙細管という中空構造から歯髄に伝わって痛みが生じることがあるものの、こうした痛みは数秒でおさまります。
一方で、歯髄は神経が集中している部分なので、歯髄にまでむし歯が進行すると、神経が酸による刺激にさらされ、持続的に強い痛みが生じるようになります。
つまり、歯に持続的な痛みが出ているようなむし歯は、すでにかなり症状が進行してしまっている状態であり、その分治療も難しくなる可能性があります。 なお、むし歯が象牙質あたりまでしか進行していない場合でも、冷たい水をお口に含んだときなどには、歯がしみるような痛みを感じる可能性があります。
これは、冷たさなどの刺激が歯髄にある神経に伝わるために生じるもので、知覚過敏と同じ状態です。
むし歯になっていない歯であれば、エナメル質で冷たさなどの刺激が内部に伝わりにくいのですが、むし歯によってエナメル質が溶かされていると、象牙質には細かい穴がたくさんあいているため、刺激が伝わりやすいのです。
今まで知覚過敏に悩んだことがなかったという方が、急に冷たいものや甘いもの、酸っぱいものなどをお口に含んだときに、しみるような痛みを感じるようになったら、むし歯が進行している可能性もあります。
むし歯は早めに歯科医院を受診することが重要
上述のように、むし歯は歯を溶かしながら少しずつ進行していく病気です。
また、元々お口のなかにいる常在菌が原因であり、市販の薬やマウスウォッシュなどによるセルフケアなどでむし歯を治すということは困難です。
むし歯を治療するためには、歯に付着した細菌を徹底的に取り除き、再度感染によるトラブルが起こらないように、詰め物や被せ物といった治療を行う必要があります。
つまり、むし歯は歯科医院での治療を受けなければ治すことができず、治療が遅くなるほど症状が悪化していくだけになってしまいますので、とにかく早めに歯科医院を受診することが重要です。
早く歯科医院での治療を受ければ、治療も簡単な内容で済み、肉体的にも経済的にも負担の少ない治療で治せる可能性が高まります。 なお、むし歯によって歯に痛みが出ても治療を行わず、放置を続けているとやがて痛みがなくなる場合があります。
これはむし歯によって歯の神経が死んでしまったためで、痛みを感じる神経がなくなっているため、痛みそのものがなくなります。
ただし、これはむし歯が治っているわけではないため、放置していれば歯はどんどんボロボロになっていきますし、ほかの歯でもむし歯が進行して、再度強い痛みにつながる場合があります。
場合によっては歯の根っこの先に膿が溜まり、この膿が歯茎を内側から圧迫することで、とても強い痛みを生じる可能性もあります。
さらに、お口のなかの細菌や、細菌によって作り出された毒素が歯茎から血管に入り込み、それが全身のほかの部位に到達することで、敗血症などさまざまな症状につながるケースもあります。 むし歯はときには生命に関わる症状になることもありますので、とにかく早めに歯科医院を受診して、しっかりと治すようにしましょう。
むし歯の痛みに対する応急処置
むし歯による痛みがあり、まずは痛みを何とかしたいという場合は、下記のような応急処置を行いましょう。
鎮痛剤を服用する
むし歯の痛みを抑える効果が発揮されやすい応急対応の一つが、鎮痛剤の服用です。
ドラッグストアなどで市販されている鎮痛剤でよいので、用法や容量を守って適切に服用しましょう。
痛みを抑える効果が強い薬剤としては、ロキソプロフェンやイブプロフェンが配合されたものを選ぶとよいでしょう。一方、胃への負担が心配な方や、空腹時に薬を服用したい方はイブプロフェンが配合されたものがおすすめです。
患部を適度に冷やす
痛みを抑える応急処置としては、患部の冷却も有効です。
患部を冷やすと血管が収縮して血流量が減少し、炎症による神経の圧迫などが少なくなるため、痛みの軽減につながります。
ただし、例えばお口のなかに氷を入れてむし歯を直接冷やすというような行為は、かえって強い痛みにつながる可能性もあるため注意が必要です。
保冷剤などを使用して、頬のうえから適度に冷やすようにしましょう。
よく歯磨きをする
お口のなかが不衛生な状態だと、細菌が新しく酸を作り出して、むし歯がさらに進行したり、痛みが生じやすくなったりします。
歯が痛いのに歯磨きをしたくないと感じるかもしれませんが、痛みを防止するためにも、歯磨きは丁寧にしっかりと行うようにしましょう。
ただし、強くブラシを当ててしまうと痛みが出やすいので、やわらかい歯ブラシを使って、力を入れすぎないように歯磨きをすることが大切です。
マウスウォッシュなどを使用してうがいする
殺菌作用があるマウスウォッシュを使用したうがいは、むし歯の痛みを軽減する応急処置としても有効です。
丁寧な歯磨きと合わせて行い、むし歯の原因である細菌の増加を防ぎましょう。
ただし、アルコールなどが配合された刺激の強いマウスウォッシュは、痛みを悪化させてしまう可能性があります。刺激が少なく、しっかりとした殺菌作用があるマウスウォッシュを選ぶようにしましょう。
痛みを軽減するツボを押す
手の甲の親指と人差し指の付け根にある合谷(ごうこく)と呼ばれるツボや、足裏にある湧泉(ゆうせん)と呼ばれるツボなど、痛みを軽減するとされるツボを、応急処置として刺激してみましょう。
ツボを刺激する際は、強く押すのではなく、気持ちいいと感じる程度の力加減で、ゆっくりと押し、ゆっくりと離すとよいでしょう。
むし歯の応急処置としてやってはいけないこと
むし歯で痛みを感じた場合に、下記のような行為はやってはいけません。
アルコールを摂取する
アルコールには殺菌作用があることから、むし歯になったときに、消毒といってアルコールの含まれたお酒を飲む方がいますが、これはNG行為です。
お酒に含まれる程度のアルコールにはむし歯の原因菌に対する殺菌や消毒の効果はありませんし、アルコールの刺激でむしろ痛みが増加する可能性があります。
また、アルコール摂取によって免疫力が低下するとむし歯が進行しやすくなるため、症状を悪化させてしまうことも考えられます。
アルコールによって酩酊状態になって痛みが気にならなくなるという場合はあるかもしれませんが、基本的には状況を悪化させるだけなので、応急処置としてアルコールを摂取することはやめておきましょう。
患部を刺激する
痛みが出ている場所が気になるからといって、舌などで触ったりして刺激するのは、避けるべき行為の一つです。
患部を刺激すると、やはりむし歯が悪化しやすくなる可能性があります。
患部や身体を温める
患部や身体が温まると、血流が増加するため、炎症が広がって神経が圧迫され、より強い痛みにつながりやすくなります。
風邪を引いたときなどは体調を整えるために身体を温めることが有効になるケースもありますが、むし歯には逆効果ですので、身体を温めるような応急処置やケアは避けましょう。
むし歯を悪化させる行動や習慣
むし歯は下記のような生活習慣によって悪化しやすい病気です。
喫煙の習慣
喫煙は、むし歯を悪化させてしまう大きな要因の一つです。
煙草に含まれる有害物質が口腔内の免疫力を低下させたり、唾液量の減少を引き起こして歯の再石灰化が起こりにくい状態に変えてしまったりというリスクがあります。
さらにはヤニと呼ばれる粘着性の物質によって、むし歯菌が除去されにくく、繁殖しやすい状態にしてしまうため、むし歯予防の観点では喫煙は控えた方がよいといえます。
刺激の強い食事
辛みが強い食べ物など、刺激の強い食事は患部を刺激してしまい、むし歯による痛みを誘発したり、強めたりする可能性があります。
糖分や酸の多い食事
むし歯はお口のなかの常在菌が、糖を分解して作り出す酸によって進行します。
そのため、糖分が多い食事はむし歯を悪化させやすく、また酸性の食事も、お口のなかを酸性に傾けてしまい、むし歯が進行しやすい状態につながる可能性があります。
歯科医院での治療
むし歯が見つかったら、応急処置ではなく歯科医院できちんとした治療を受けることが重要です。
歯科医院で行われる治療内容を紹介します。
むし歯には感染部位を削る治療が基本
むし歯はお口のなかに元々存在している常在菌によって生じる病気であり、さまざまな細菌が原因であるため、薬だけでの治療は難しいという特徴があります。
そのため、むし歯の治療は感染部位を物理的に除去する方法が基本で、専用のドリルやレーザーなどを使用して、感染箇所を徹底的に削ります。
細菌の感染を除去すれば、それ以上にむし歯が進行していくことはなくなるため、むし歯の悪化を食い止めることができます。
歯を削った場所は詰め物や被せ物で補う
歯を削った後、そのままの状態で放置をしてしまうと、再度そこに細菌が付着してむし歯が再発してしまいます。
そのため、むし歯を削った後には詰め物や被せ物を行い、むし歯の再発を防止します。
詰め物や被せ物で歯の形を回復させることで、良好な噛み合わせを取り戻すことができます。
痛みが出ている場合は根管治療も必要
むし歯が歯の神経にまで到達し、何もしていなくても痛みが続くというような場合には、痛みの原因である神経を取り除く治療が必要になります。
歯の神経は根管と呼ばれる、歯の根っこ部分の細い管をとおっていて、この部分に対して行う治療であることから根管治療とも呼ばれます。
根管治療は、神経を取り除く抜髄と、歯の内部にある感染部位の除去を行うもので、根管治療を行うことで、進行したむし歯でも歯を抜かずに治療することができます。
症状が悪化すると抜歯が必要な可能性もある
ある程度進行してしまったむし歯でも、根管治療を行えば歯を残したまま治療可能ですが、なかなか歯科医院での治療を受けられず、症状が悪化してしまった場合は抜歯が必要になることもあります。
むし歯に悩まされないために
むし歯に悩まされずに過ごすためには、むし歯になってから応急処置や治療を行うのではなく、そもそもむし歯にならないように過ごすことが大切です。
むし歯をしっかり予防するためのポイントを紹介します。
セルフケアをしっかりと行う
むし歯予防は、しっかりとしたセルフケアが重要です。
むし歯はお口のなかの細菌が糖から作り出した酸が原因の病気なので、食べた後にしっかりと歯磨きを行い、糖が含まれる食べかすなどを除去すれば、むし歯のリスクを抑えられます。
お口のなかを隅々まで清潔に保つためには、正しい歯磨きはもちろん、汚れが残ってしまいやすい歯と歯の間を掃除する歯間ブラシやフロスを利用し、口腔内の細菌の増殖を抑えるマウスウォッシュを利用するといったケアも取り入れるようにしましょう。
定期的な歯科検診を受ける
しっかりとセルフケアを行っている方でも、ある程度の時間が経過すると、細かい部分に歯垢や歯石が蓄積してしまう可能性があります。
定期的に歯科検診を受けるようにすると、こうした細かな汚れを専門的なクリーニングによって除去できるほか、万が一むし歯ができていても早期の段階で見つけることが可能になるため、負担の少ない治療で治せるようになります。
むし歯は進行してから治すより、症状が軽いうちに対応することが重要な病気なので、3ヶ月に1回くらいは歯科検診を受けるようにしましょう。
気になることがあれば早めに歯科医院を受診する
もしかしたらむし歯かもといったような心配がある方は、とにかく早めに歯科医院を受診することが大切です。
実際にむし歯があるのであれば早めの治療が行えますし、むし歯がなければそれはそれでよいことであり、お口のなかを清潔に保つためのクリーニングなどを受けることもできますので、気になることがあれば、躊躇せずに歯科医院を受診するようにしましょう。
まとめ
むし歯で歯が痛いと感じたら、市販の鎮痛剤の服用や、患部を冷やすといった応急処置が有効です。
ただし、応急処置はあくまでも痛みなどの症状を軽減するだけのものであり、むし歯そのものを治すものではありません。
むし歯を治すためには歯科医院で専門的な治療を受ける必要がありますので、歯が痛い方や、痛みはないけれどむし歯の疑いがあるというような方は、とにかく早めに歯科医院を受診するようにしてください。
参考文献