むし歯は、一度できてしまうと進行を止めるのが難しいと思われがちですが、塗り薬で進行を抑える方法があることをご存じですか?
本記事ではむし歯の進行を止める塗り薬について以下の点を中心にご紹介します。
- むし歯について
- むし歯の進行を止める塗り薬について
- むし歯の予防について
むし歯の進行を止める塗り薬について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
むし歯の基礎知識
- むし歯について教えてください
- むし歯は、口腔内に常在する細菌が食事や飲み物の糖分を利用して酸を生成し、その酸によって歯の表面が徐々に溶かされる疾患です。唾液には歯の表面を修復する働きや、酸を中和する役割がありますが、糖分の摂取頻度が多いとこれらの防御機能が追いつかず、歯が脱灰されたままの状態が続きます。
- その結果、歯質が崩れ穴ができ、むし歯が進行します。むし歯は罹患率の高い疾患のひとつとされていますが、初期の段階では自覚症状がほとんどなく、気付かないうちに進行してしまうことが多い傾向にあります。
- むし歯は自然に治ることはなく、治療には歯科医院での詰め物や被せ物が必要となります。さらに進行すると歯の神経まで細菌が達し、激しい痛みや炎症を引き起こし、歯の根元まで達した場合は歯肉から膿が出ることもあります。
- 子どものむし歯の特徴を教えてください
- 子どものむし歯は、進行が早い点が特徴です。乳歯は大人の歯に比べて有機質が多く、まだ十分に硬化していないため、むし歯菌によるダメージを受けやすく、症状が急速に進みます。
- また、乳歯は歯全体に占める神経の割合が高いとされているため、むし歯が進行すると痛みが強く出やすいとされています。
- さらに、初期のむし歯は白っぽく見え、穴が空いていない状態でも脱灰という段階で歯が溶け始めているため、注意深く観察することが必要です。子どものむし歯は年齢によって発生しやすい部位が変わり、1歳頃の前歯は上の歯の外側や隣接面にできやすく、2〜3歳頃には奥歯の噛み合わせの溝に、4〜5歳頃には奥歯の歯間部で発生しやすい傾向があります。
- また、親から子へのむし歯菌の感染リスクもあり、食器の共有や食べ物を冷ます際の息吹きかけなどから細菌が移ることがあります。子どものむし歯予防には早期からの適切な歯磨き指導や生活習慣の改善、定期的な歯科検診が重要です。
- 大人のむし歯の特徴を教えてください
- 大人のむし歯は主に3つのタイプに分類され、それぞれ特徴が異なります。
- まず、子どもと同様に歯の溝や歯間、歯茎の近くから発生するむし歯があります。次に、過去に治療した詰め物や被せ物の隙間から細菌が入り込み、新たにむし歯ができる二次むし歯です。これは見つけにくく、進行が早いため神経まで達しやすく、治療が難しくなることがあります。さらに、歯周病の進行などで歯茎が下がり、歯の根元の象牙質が露出すると根面むし歯が発生します。根面はエナメル質よりも軟らかく、特に高齢者に多く見られ、発見が遅れやすい特徴があります。
これらのむし歯は気付きにくいものも多く、早期発見と定期的な歯科検診が重要です。
むし歯の進行を止める塗り薬
- むし歯の進行を止める塗り薬の成分と作用を教えてください
- むし歯の進行を抑える塗り薬として代表的なフッ化ジアンミン銀は、透明な液体で、高濃度のフッ素と銀イオンを主成分として含みます。フッ素には歯質を強化しむし歯の進行を予防し、銀は強い殺菌作用を持つため、両者の相乗効果でむし歯の進行を止めることができます。さらに、知覚過敏の症状を和らげる作用もあり、歯の神経に刺激が伝わりにくくすることで、しみや痛みの軽減にも役立ちます。
- フッ化ジアンミン銀はどのような方が対象ですか?
- フッ化ジアンミン銀は、小児から高齢者まで幅広い年齢層で使用されており、健康保険の適用も認められています。
- これまでは主に3歳未満の小児を対象としていましたが、現在では13歳未満の子どもや、大人のむし歯治療にも保険が適用されています。
- なかでも、歯磨きが十分にできない子どもや口腔ケアが難しい要介護者、唾液の減少がみられる患者さん、高齢者の歯根が露出した部位のむし歯治療などに用いられています。
- フッ化ジアンミン銀の治療方法を教えてください
- フッ化ジアンミン銀の治療は、負担が少なく短時間で行えるのが特徴です。まず、薬剤の効果を高めるために歯の表面の汚れやプラークを丁寧に取り除きます。その後、歯面をしっかり乾燥させ、周囲の歯茎には薬剤が付かないよう保護剤を塗布します。次に、綿球などに薬液を含ませ、むし歯部分に局所的に塗布します。塗布後は一定時間そのまま置き、薬剤が浸透するのを待ちます。治療後は、薬剤が口腔内に残らないように十分に水で洗い流します。症状や年齢により異なりますが、2〜7日間隔で数回(3〜4回程度)通院して塗布を繰り返し、むし歯の進行や知覚過敏の改善を観察しながら治療を進めます。
このように、治療自体は数分程度で終了します。
- フッ化ジアンミン銀のデメリットは何ですか?
- フッ化ジアンミン銀にはむし歯進行抑制作用がありますが、いくつかの注意点やデメリットも存在します。まず、薬剤がむし歯の部分に付着すると、その箇所が黒く変色するため、目立つ永久歯の前歯には使用されません。また、口腔内の清掃状態が不十分だと、再度むし歯が進行することがあるため、定期的な歯科検診や適切なケアが必要です。
また、治療時に薬剤が歯や粘膜以外の場所に付くと、皮膚や舌、口唇が黒ずむことがあり、粘膜に付着すると苦みを感じて治療を嫌がる子どももいます。
さらに、むし歯が深く進行している場合には、フッ化ジアンミン銀だけで進行を抑えきれないことがあり、歯科医師の判断による適切な治療が求められます。これらの点を理解して、治療を受けることが大切です。
むし歯予防とフッ素(フッ化物)について
- むし歯予防に用いられるフッ素について教えてください
- フッ素は自然界に広く存在する元素で、海水や食品にも微量含まれており、私たちの歯や骨にも含まれています。フッ素は歯の表面を再石灰化させて強化し、同時にむし歯菌の増殖を抑制する作用があります。
- 歯科医院で使用されるフッ素は高濃度(約9,000ppm)で塗布されますが、市販の歯磨き粉に含まれる濃度は1,450ppm以下と規制されています。歯科医院での塗布はむし歯の予防に効果が期待されていますが、すでに穴の空いたむし歯の進行を止める効果は限定的です。
- フッ素の歯への応用方法を教えてください
- フッ素はむし歯予防に効果があるため、さまざまな方法で歯に応用されています。代表的な方法の一つがフッ化物歯面塗布で、歯科医師や歯科衛生士などが直接歯の表面に高濃度のフッ素溶液を塗布する方法です。特に幼児や子どもに対するむし歯予防として長く用いられてきました。次にフッ化物洗口は、低濃度のフッ素水溶液を用い、ぶくぶくうがいを頻繁に行うことで歯にフッ素を作用させる方法で、集団や学校などで広く実施されています。
さらにフッ化物配合歯磨剤は、毎日の歯磨き習慣でフッ素を取り入れる手軽な方法として、個人で継続しやすい利点があります。
これらの方法は、フッ化物洗口は約50~80%、歯面塗布で約30%、配合歯磨剤で約20~30%のむし歯予防効果があるといわれています。
- フッ化物洗口液とデンタルリンスなどの洗口液にはどのような違いがありますか?
- フッ化物洗口液とデンタルリンスなどの洗口剤は、それぞれ目的や成分が異なります。
- フッ化物洗口液はフッ素を主成分とし、歯の表面を強化してむし歯予防を目的に作られた専用の液体です。このため、フッ化物洗口液は歯質の再石灰化を助け、むし歯の発生を抑える役割を担っています。
- 一方で、デンタルリンスなどの洗口剤は、主に殺菌成分を含み、口腔内の細菌を減らして口臭予防や歯周病対策を目的とした液体歯磨き剤に分類されます。そのため、使用目的に応じて使い分けることが大切です。
編集部まとめ
ここまでむし歯の進行を止める塗り薬についてお伝えしてきました。むし歯の進行を止める塗り薬の要点をまとめると以下のとおりです。
- むし歯は、口腔内に常在する細菌の酸によって歯の表面が徐々に溶かされる疾患
- むし歯の進行を抑える塗り薬として代表的なフッ化ジアンミン銀は、透明な液体で高濃度のフッ素と銀イオンを主成分として含んでいる
- むし歯予防には、日頃の口腔ケアや定期的な歯科受診のほか、フッ素を用いた方法などもある
むし歯の進行を止める方法は、削る治療だけではありません。塗り薬や日々の予防ケアを組み合わせることで、健康な歯を長く保ちましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。