歯科治療では、いくつかのケースで抜歯を行うことがあります。重症化した歯周病やむし歯、トラブルが起きている親知らずなどは、抜歯が適応される典型的な症例といえます。そんな抜歯をした後には、抗生物質が処方されることを皆さんもよく知っているかと思いますが、その理由や正しい飲み方については、詳しくならないという方もいるのではないでしょうか。ここではそうした抜歯を行った後の抗生物質の必要性や服用する際の注意点などを詳しく解説します。抜歯後の抗生物質の取り扱いに迷っている方は参考にしてみてください。
抜歯後に抗生物質が処方される理由
まずは抜歯後に抗生物質が処方される理由について確認しておきましょう。
- なぜ抗生物質が処方されるのですか?
- 抗生物質は、抗菌薬とも呼ばれる薬剤で、その名のとおり細菌の感染を防ぐ作用が期待できます。抜歯をした口腔内は、大きな傷を負っているのと同じ状態なので、普段よりも細菌感染のリスクが大きく上昇するため、あらかじめ備えておく必要があるのです。
抜歯をした穴に骨がむき出しとなるドライソケットが、細菌感染して化膿させない目的でも抗生物質は処方されます。
- 処方されない場合もありますか?
- 口腔内の状況によっては抜歯後に抗生物質が処方されないこともあります。抜歯後の細菌感染やドライソケットのリスクが低いと考えられるようなケースです。
例えば、歯根が短く抜きやすい歯で、出血などもほとんど起こらないような症例では、抜歯後の細菌感染リスクは極めて低いと考えられます。そのため、抗生物質が処方されないことがあります。抗生物質というのは、細菌感染のリスクを低減するうえで有用なのですが、少なからず副作用があります。飲みすぎると耐性ができて効きにくくなったりすることから、必要以上に服用するのは推奨されていません。
- 抗生物質を飲むことが必須であるケースを教えてください
- 抜歯後の細菌感染のリスクが高いケースでは、抗生物質の服用が必須となります。例えば、全身の免疫力が低下している高齢者や重篤な全身疾患を患っている方などは、抗生物質で細菌感染のリスクを低減しておく必要があります。さまざまな理由で口腔衛生状態が不良となっている方も抜歯後に感染しやすくなっていることから、抗生物質の必要性が高くなります。
- ほかに抜歯後の注意点があれば教えてください
- 抜歯をした後は、以下の4つの点に注意しましょう。
【注意点1】激しい運動はしない
抜歯後しばらくは、激しい運動を控えましょう。体を激しく動かすスポーツやランニング、筋力トレーニングなどを行うと傷口が開く恐れがあります。特に抜歯直後は出血が止まらなくなったり、細菌に感染するリスクが高まったりするため、激しい運動は絶対にNGです。熱い湯船に浸かるのも全身の血流がよくなるため、抜歯直後は控えることが大切です。
【注意点2】飲酒や喫煙は控える
飲酒は全身の血流が良くなることで出血が促され、傷口が開く恐れがでてきます。タバコに含まれる成分は、歯周組織の血流を悪くすることで傷の治りを遅らせ、細菌感染のリスクも高めます。いずれも抜歯後はしばらく控える必要があります。
【注意点3】うがいをしすぎない
抜歯後は、出血や傷口のうずき、違和感などから、うがいをしたくなるものですが、口をゆすぐのはできるだけ控えるようにしてください。ブクブクと強めにうがいしたり、繰り返し口をゆすいだりしていると、抜歯の穴にできたかさぶたが流れてドライソケットのリスクが高まります。ドライソケットは、抜歯の穴にかさぶたが形成されず、骨がむき出しとなる症状で、抜歯後の強いうがいが主な原因となっています。
【注意点4】患部を刺激しない
抜歯をした部分を舌で触ったり、歯ブラシで強く磨いたりすると、傷口を悪化させてしまいます。熱い食べものや辛い食べものも患部を刺激して感染のリスクを高めるため、抜歯後は、食事をはじめとした生活習慣にまで細かく配慮した方がよいです。
抗生物質の正しい飲み方
次に、抗生物質の服用の仕方や副作用について解説します。
- 抗生物質の正しい飲み方を教えてください
- 抗生物質は、処方された量をすべて飲み切る必要があります。単にすべて飲み切ればよいというものではなく、歯科医師や医師の指示どおりの用法用量を厳守しなければなりません。
例えば、朝晩の2回服用する抗生物質で、朝の分を飲み忘れたからといって、夜に2回分飲んではいけません。用法用量を守らない薬の服用は、副作用の方が大きくなる可能性が高くなることから、この場合は夜も1回分だけ飲むようにしましょう。
- ほかの薬を服用している場合は、歯科医師に相談が必要ですか?
- 必要です。常飲している薬剤の種類によっては、抗生物質と好ましくない相互作用が生じるかもしれません。薬の飲み合わせによる弊害は、歯科医師のような専門家でなければ判断できませんので、必ず治療を受ける前に常飲している薬剤を申告しておきましょう。
- 抗生物質の服用で起こりうる副作用について教えてください
- 一般的な抗生物質の服用では、下痢や吐き気、めまいなどの副作用がでることがあります。その他にも、発疹や胃のむかつき、口内炎などの症状が現れる場合もあります。重症例では、肝障害やアナフィラキシーショックなども見られることもありますが、それは極めて稀なケースといえるでしょう。
抗生物質と痛み止めについて
抗生物質と痛み止めの関係について解説します。
- 抗生物質と痛み止めの違いを教えてください
- 歯科で抜歯をした後には、抗生物質のほかに痛み止めが処方されことがあります。痛み止めは文字どおり痛みを抑えるための薬剤なので、抗生物質とは根本的に作用が異なります。代表的な痛み止めとしては、ロキソニン、カロナール、ボルタレンなどが挙げられ、それぞれ鎮痛作用の強さや効果時間の長さ、即効性などに違いが見られます。
どの痛み止めが処方されるかは患者さんの体の状態や歯科医師の治療方針などによって変わります。また、抗生物質とは異なり、痛み止めは処方された分をすべて服用しなくても問題ありません。あくまで痛みが生じた場合に限り、指示された方法で服用することが求められます。
- 抗生物質と痛み止めの併用は可能ですか?
- 基本的には可能です。抜歯後に抗生物質と痛み止めの両方を処方された場合は、歯科医師の指示どおりに併用してください。抗生物質のみ処方された場合で、市販の痛み止めを併用を検討している場合は主治医に相談が大切です。患者さんの体の状態や薬剤の種類によっては、好ましくない相互作用が現れる場合もあります。
- 痛み止めを飲む場合の注意点を教えてください
- 歯科医師の指示および用法用量を守って服用することが前提となります。そのうえで痛み止めによる副作用が生じ、許容範囲を超えるような腹痛や吐き気、胃腸障害などが現れた場合は、すぐに服用をやめて主治医へ相談してください。そのまま飲み続けると、より重篤な副作用がでる可能性が高まります。
抜歯後の痛みや腫れが軽度にとどまる場合は、処方された痛み止めを無理に服用する必要はありません。そのまま安静に過ごして、傷口が治癒するのを待ちましょう。
- 痛み止めを飲んでも腫れや痛みが引かない場合はどうしたらよいでしょうか?
- 抜歯後の痛みは、処置から2〜3日をピークに減弱していきます。それまでは、痛み止めを服用しても、十分に抑えることができないことがあります。
痛み止めを服用しているにも関わらず、食事や睡眠など、日常生活に大きな支障をきたすような強い痛みや腫れがある場合は、患部に何らかの異常が考えられるため、まずは主治医に相談してみましょう。抜歯から4〜5日経過しても痛み止めが効かない、あるいは痛みが強くなっている場合は、ドライソケットなどのトラブルが考えられます。
編集部まとめ
今回は、抜歯後に抗生物質が処方される理由と正しい飲み方、注意すべきポイントなどを解説しました。抜歯後には、感染症予防やドライソケットのリスク低減、化膿止めなどの目的で抗生物質が処方されることがあります。歯科医師や医師から処方された抗生物質は、基本的にすべて飲み切ることが前提となるため、痛み止めとは扱いが異なる点に注意が必要です。また、抗生物質特有の副作用が生じることもあるため、服用する前には必ず正しい知識を頭に入れておいて、歯科医師の指示どおりに飲むことが大切です。
参考文献