噛み合わせは、口腔の健康を維持するうえでとても重要です。仮に1本1本の歯が健康であったとしても、噛み合わせに問題があれば、歯の痛みや顎の異常を引き起こしかねません。歯が持つ本来の機能である咀嚼も十分に行えなくなることもあるでしょう。ここではそんな噛み合わせと歯の痛みの関係や原因、対処法について解説します。悪い噛み合わせが原因で歯が痛くなっている人は参考にしてみてください。
噛み合わせについて
- 正常な噛み合わせとはどのような状態ですか?
- 上下の歯が正しい位置で噛み合っている状態です。専門的には1歯対2歯咬合(いっしたいにしこうごう)と呼ばれる状態で、噛む機能が正常に発揮できると同時に、歯にかかる負担をできる限り抑えられる噛み合わせです。ただし、1歯対2歯咬合はあくまで理想的な噛み合わせであり、必ずしもそれだけを目指す必要はありません。正常な噛み合わせで大切なのは、食べものを効率よく噛めて、歯や歯周組織に不要なダメージを与えないことです。歯の大きさや本数、顎の骨の形には個人差があるため、現実的にはそうした噛み合わせを正常と呼んでも差し支えはないでしょう。
- 噛み合わせが悪いとはどのような状態ですか?
- 噛み合わせが悪い状態というのは、上段の正常な噛み合わせの条件を満たしていない状態を指します。具体的には、上下の歯列が1歯対2歯咬合の関係にない、あるいは噛み合わせの異常によって日常生活に何らかの支障をきたしている場合は、噛み合わせが悪いといえるでしょう。ちなみに、悪い噛み合わせには以下のような種類があります。
◎上顎前突
上顎が前方に突出している状態で、噛み合わせが不安定になり、歯や顎に負担がかかります。
◎下顎前突
下顎が前方に突出し、噛み合わせが悪くなる状態です。食事や発音に支障をきたすことがあります。
◎上下顎前突
上下の前歯がともに前に出ている状態で、見た目だけでなく、発音や食事にも影響を及ぼします。
◎空隙歯列(くうげきしれつ)
歯と歯の間に隙間がある状態で、食べ物が挟まりやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
◎開咬(かいこう)
奥歯は噛み合っているが、前歯が閉じない状態で、発音や食事が困難になることがあります。
◎叢生(そうせい)
歯が重なり合って生える状態で、歯磨きが難しく、むし歯や歯周病の原因になります。
◎交叉咬合(こうさこうごう)
上下の歯が正常に噛み合わず、一部の歯が交差している状態で、歯や顎に不均等な負担がかかります。
◎鋏状咬合(はさみじょうこうごう) 上下の歯が鋏のように噛み合わない状態で、特定の歯や顎に負担が集中し、痛みを引き起こします。
- 噛み合わせが悪いときにでる症状を教えてください
- 噛み合わせが悪いと、食べものを噛み切りにくい・すり潰しにくい、特定の歯が不必要に当たる、上下の歯列間に不要な隙間があってしゃべりにくい、歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい、歯ぎしり・食いしばりを習慣的に行ってしまうなどの症状が見られます。ケースによっては、噛み合わせが悪いことで、歯が痛いと感じることもあるでしょう。悪い噛み合わせと歯の痛みの因果関係については、後段で解説します。
噛み合わせで歯が痛い関係について
ここからはメインテーマである悪い噛み合わせと歯の痛みとの関係についてです。
- 噛み合わせが悪いと歯が痛くなる原因を教えてださい
- 悪い噛み合わせで歯が痛くなる主な原因は、特定の歯が強く当たるためです。正常な噛み合わせでは、上下の歯列全体が均等に接触するため、歯や歯周組織、顎関節にかかる負担も少なく抑えられますが、悪い噛み合わせでは早期接触(そうきせっしょく)という、特定の歯だけ先に当たったり、そもそも一部の歯でしか噛むことができなかったりします。あるいは、悪い噛み合わせによって歯ぎしり・食いしばりが習慣化することもあります。これらの影響が蓄積することで、歯や歯周組織にダメージがおよび、歯が痛いという症状を引き起こすことがあります。そのなかでも特に注意が必要なのが咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)という症状です。
- 咬合性外傷とはなんですか?
- 咬合性外傷とは、噛み合わせの異常が原因で歯や周囲の組織に負担がかかり、痛みや不快感を引き起こす状態を指します。主に噛み合わせが不均衡な場合や、歯ぎしり・食いしばりなどが原因で生じることがあります。咬合性外傷の特徴としては、歯が浮いたような感じや、噛むときの痛みが挙げられます。これは、過剰な力が歯に加わることで歯の根元の組織が炎症を起こし、歯が痛むメカニズムです。
◎咬合性外傷の種類
咬合性外傷には、1次性と2次性があります。1次性咬合性外傷は、健康な歯周組織に過剰な力がかかることによって起こるもので、特に不正咬合や外傷性咬合が原因で生じます。一方、2次性咬合性外傷は、すでに歯周病などで歯周組織が弱っている状態において、通常の咬合力でも歯や歯周組織に損傷を与える場合を指します。
いずれのケースでも、適切な噛み合わせ治療を行うことで、症状の改善が期待できます。
噛み合わせによって歯が痛いときの対処法と注意点
ここでは、悪い噛み合わせによる痛みへの対処法と注意点を解説します。
- 噛み合わせが原因で歯が痛いときの対処法を教えてください
- 悪いが噛み合わせが原因で歯の痛みが生じている場合は、まず歯科を受診してその原因を突き止めてください。そのうえで原因に応じた歯科治療を受けることが大切です。具体的には、以下の方法で対処します。
【対処法1】噛み合わせの調整(咬合調整)
噛み合わせが悪いと、歯に過度な力がかかり、痛みを引き起こすことがあります。この場合、歯科医院で咬合調整を行うことで、歯の位置や高さを微調整し、噛み合わせを正しくします。これにより、歯への負担が軽減され、痛みが改善されることが期待できます。
【対処法2】適合の悪い詰め物・被せ物を作り直す
適合の悪い詰め物や被せ物は、噛み合わせのバランスを崩し、歯に痛みを引き起こすことがあります。このような場合、詰め物や被せ物を新しく作り直すことで、噛み合わせが改善され、痛みが軽減します。定期的な検診で問題を早期に発見し、対処することが重要です。
【対処法3】歯ぎしりをマウスピースで治療する(スプリント療法)
歯ぎしりや食いしばりが原因で歯が痛む場合、スプリント療法と呼ばれるマウスピースの使用が有効です。マウスピースを装着することで、歯への過剰な力が抑えられ、歯や顎の負担が軽減されます。スプリント療法は、夜間に歯ぎしりをする患者さんに特に効果的です。
- 自分でできる歯が痛いときの対処法はありますか?
- 歯が痛いときは、次の方法で応急的に対処しましょう。いずれも自宅で行うことができます。
【対処法1】市販の鎮痛剤を服用する
噛み合わせが原因で歯が痛い場合、一時的に市販の鎮痛剤を服用することで痛みを和らげることができます。鎮痛剤は痛みの感覚を抑える効果がありますが、根本的な治療にはならないため、痛みが続く場合は歯科医院での診察が必要です。
【対処法2】患部を適度に冷やす
痛みが強い場合、患部を適度に冷やすことで痛みを緩和できることがあります。患部を冷却することで、炎症が軽減され、痛みが和らぐ効果があります。ただし、冷やしすぎると逆効果になる場合もあるため、患部を間接的に冷やすのが安全です。
【対処法3】口腔内を清潔に保つ
口腔内を清潔に保つことも重要です。食べかすやプラークが細菌の活動を促進し、痛みを悪化させることがあるため、食後はしっかりと歯磨きを行い、歯間ブラシやデンタルフロスを使用して歯の間も清潔に保ちましょう。むし歯や歯周病の予防にもつながり、痛みの原因を減らすことが期待できます。
- 歯が痛いときにやってはいけないことはありますか?
- 歯が痛いときは、以下の行為を控えましょう。
◎患部を刺激する
歯が痛むときは、患部を舌で触ったり、無理に噛んだりするのは避けましょう。刺激を与えると、痛みが悪化したり、炎症が進んだりすることがあります。
◎激しい運動をする
激しい運動を行うと、血流が増加し、痛みが強くなる可能性があります。特に噛み合わせが原因で歯が痛む場合、運動による体への負担がさらに症状を悪化させることがあります。痛みがあるときは、安静を保つことが大切です。
◎喫煙する
喫煙は歯や歯茎に悪影響を与え、歯の痛みや炎症を悪化させる可能性があります。タバコに含まれる有害物質は、治癒を遅らせることもあるため、歯が痛むときは禁煙を心がけることが重要です。
編集部まとめ
今回は、噛み合わせと歯の痛みの関係や原因、対処法について解説しました。噛み合わせが悪いと、歯と歯が強く接触したり、歯ぎしり・食いしばりを誘発したりすることから、口腔組織に過剰な負担がかかります。その結果として歯や歯茎にダメージが及んで歯痛などの症状が現れるのです。そうした悪い噛み合わせによる影響は、咬合調整や適合の悪い詰め物・被せ物の作り治し、歯ぎしりの治療などによって改善できることがほとんどのため、不正咬合で歯が痛いと感じている人はまず歯科を受診することをおすすめします。
参考文献