歯磨き粉は、歯ブラシと一緒に使うことで、歯の清掃効果が高くなるものです。歯磨き粉には、歯垢の除去や口臭の予防、むし歯の抑制などの目的があります。
その目的に応じて、歯磨き粉に含まれる成分は異なります。歯磨き粉に含まれる成分の1つに研磨剤があり、歯の表面や汚れなどを除去するのが特徴です。
この記事では、研磨剤の特徴や研磨剤なしの歯磨き粉の効果、そのメリットやデメリットなどを紹介します。
歯磨き粉の研磨剤とは
歯磨き粉の研磨剤は、汚れや着色などを除去する成分です。以下で、歯磨き粉の研磨剤の効果や主な成分、注意点を紹介します。
歯磨き粉の研磨剤の効果
歯磨き粉に含まれる研磨剤の効果は、歯の表面は傷つけずに、プラーク(歯垢)やタンニン系色素の除去を行うことです。
タンニンは緑茶や紅茶、コーヒーなどに含まれる植物由来のポリフェノールで、歯の着色の原因になる色素成分です。
歯の着色は歯の表面に存在するペリクルと呼ばれるたんぱく質の層に、タンニンやタールなどの色素が吸収され、歯の石灰化で色が定着して起こります。
研磨剤入りの歯磨き粉は、歯の表面を削ることで汚れが除去できるため、歯が白くなる効果が期待できるでしょう。
研磨剤の主な成分
研磨剤には、歯磨き粉に含まれるフッ化物と反応しない無水ケイ酸や炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが使われています。
フッ化物は、自然界に存在する元素です。歯磨き粉に使われている理由は、この成分がむし歯への抵抗性を高めてくれるため、むし歯の予防になるからです。
無水ケイ酸はフッ化物との相性がよく、有効成分を配合させやすいため、歯磨き粉に使われることが少なくありません。
炭酸カルシウムは、大理石やサンゴなどの成分として自然界に存在しています。加工の手間が少なく、安価で歯の表面の汚れを隠す力があるのが特徴です。
ただし、phが高いためプラークの形成を促す恐れや、味が悪いなどの欠点があります。リン酸水素カルシウムは、炭酸カルシウムよりも有効成分との相性がよく、白さの度合いも高いのが特徴です。
研磨剤入り歯磨き粉の注意点
研磨剤入り歯磨き粉の注意点は、歯の表面を覆っている硬いエナメル質が削られる可能性があるため、むし歯や知覚過敏にかかりやすくなることです。
エナメル質の内側には、痛みを感じる象牙質があり、これが露出すると知覚過敏につながります。
研磨剤入り歯磨き粉では、研磨剤の影響で歯の表面が粗くなるため、プラークの付着や着色も起こりやすくなります。
研磨剤なしの歯磨き粉を使うメリット
研磨剤なしの歯磨き粉を使うメリットは、以下の3点です。
- 歯の表面を傷つけにくい
- 歯周病でも使いやすい
- 子どもの乳歯にも使える
以下で、詳しく紹介します。
歯の表面を傷つけにくい
研磨剤なしの歯磨き粉には、研磨剤の成分が含まれていないため、歯の表面は傷つきにくいです。研磨材は、エナメル質を傷つける可能性があります。
その傷にプラークが付着してむし歯につながったり、汚れや着色がより付きやすくなったりします。研磨剤なしの歯磨き粉では、歯の表面が傷つきにくいため、着色や汚れの悪化への心配は少なくてすむでしょう。
歯周病でも使いやすい
研磨剤入りの歯磨き粉の場合、歯肉ポケットに残った研磨剤の粒子が歯肉を傷つけることで、歯肉に悪影響を与える可能性が考えられています。そのため、歯周病が進行するリスクがあります。研磨剤なしの歯磨き粉であれば、歯肉に影響を与えにくく、歯周病の方でも使いやすいでしょう。
子どもの乳歯にも使える
研磨剤なしの歯磨き粉のメリットは、子どもの乳歯にも使える点です。子どもの歯は、むし歯になりやすいのが特徴です。
その理由に、歯の石灰化が進んでいないために十分に硬くなっていないことが挙げられます。大人の歯に比べて、歯の表面がやわらかい状態です。
そのような歯に研磨剤を含んだ歯磨き粉を使うと、歯の表面や歯肉などを傷つける可能性があります。研磨剤なしの歯磨き粉であれば子どもの歯にも使えるため、歯への心配が少なくてすむでしょう。
研磨剤なしの歯磨き粉のデメリット
研磨剤なしの歯磨き粉を使うことで起こりえるデメリットは、以下のとおりです。
- 歯垢が除去しにくくなる
- 汚れや色素沈着などが落ちにくくなる
- 歯の明るさや白さの度合が低下する
研磨剤には、歯に付着した歯垢や着色、汚れなどを除去する働きがあります。その働きにより歯本来の明るさや白さを持続させ、回復させる目的で歯磨き粉に研磨剤が配合されています。
しかし、研磨剤が配合されていないと、その効果も得られません。
研磨量の異なる歯磨き粉を使った実験で、歯磨き粉の研磨力と汚れや色素沈着などの除去量に関係があることが報告されています。
研磨剤なしの歯磨き粉では、研磨剤による歯の汚れや色素沈着などの除去効果を得られないため、歯の汚れが目立ちやすくなるでしょう。
また、歯垢の除去や形成の抑制に、研磨剤の量や性状が関係している可能性があります。そのため、研磨剤なしの歯磨き粉では、歯垢の除去や抑制効果が期待されにくいでしょう。
研磨剤なしの歯磨き粉がおすすめな方の特徴
研磨剤なしの歯磨き粉がおすすめな方は、歯周病がある方や知覚過敏がある方などです。以下で、詳しく紹介します。
歯周病がある
歯周病がある方には、研磨剤なしの歯磨き粉の方が向いているといわれています。歯磨き粉に含まれている研磨剤は、歯垢や着色の除去に効果を発揮するのが特徴です。
ただし、研磨剤の粒子によっては、歯周ポケットの深い部分に粒子が残ってしまう可能性があります。
残った場合、歯周ポケットから歯肉に悪影響が及ぶ可能性がでてくるでしょう。しかし、研磨剤なしの歯磨き粉であれば、研磨剤の粒子の影響が及ばずにすみます。
知覚過敏がある
研磨剤なしの歯磨き粉は、知覚過敏の方にも向いているでしょう。
知覚過敏は歯の摩耗や歯肉の退縮などで象牙質が露出した部分に、冷たい飲食物や甘いもの、歯ブラシの毛先や風が当たった際などに感じる一過性の痛みです。
通常であれば、象牙質はエナメル質に覆われているため、刺激が加わった際に痛みが生じることはありません。
しかし、歯がすり減ったり歯肉が退縮したりすると、少しの刺激で痛みが生じるようになります。
このような状態の歯に、研磨剤が入っている歯磨き粉を使用すると、歯の摩耗が促進される可能性があります。そのため、知覚過敏の方は、研磨剤なしの歯磨き粉を使うのがよいでしょう。
歯や歯茎への負担を減らしたい
研磨剤を含んだ歯磨き粉の場合、エナメル質に傷がつく可能性があります。硬いエナメル質に傷がつく可能性があるため、歯や歯茎にも負担がかかっていると考えられるでしょう。
そのため、歯や歯茎の負担を減らしたい場合には、研磨剤なしの歯磨き粉を使うとよいでしょう。
研磨剤なしの歯磨き粉の選び方
研磨剤なしの歯磨き粉の選び方は、以下の4つです。
- 研磨剤なしの歯磨き粉の見分け方
- むし歯予防ならフッ素配合
- 歯の白さを保ちたいならステイン除去成分配合
- 悩みに合った成分配合の歯磨き粉を選ぶ
以下で、詳しく紹介します。
研磨剤なしの歯磨き粉の見分け方
研磨剤の有無を見分ける方法は、商品のパッケージに注目するとよいでしょう。パッケージの成分表に研磨剤や清掃剤と記載されている場合は、研磨剤ありの製品です。
具体的な成分では、炭酸カルシウムやリン酸水素カルシウム、水酸化アルミニウムや無水ケイ酸などの名称が研磨剤に該当します。
研磨剤なしの歯磨き粉を探す際は、パッケージの成分表をしっかりと見てから購入しましょう。
むし歯予防ならフッ素配合
むし歯予防のための歯磨き粉を探している方は、フッ素の濃度に注目しましょう。
フッ素配合の歯磨き粉には、歯の脱灰の抑制や再石灰化の促進など、むし歯への抵抗性を高める作用があるためです。
フッ素配合の歯磨き粉によるむし歯予防効果は、24%とも報告されています。
また、フッ素の濃度が1,500ppmFの歯磨き粉では、1,000ppmFのものよりもむし歯予防の効果が6%も上がるとされています。
日本では、歯磨き粉のフッ素濃度は1,500ppmF以下と決められており、市販されている歯磨き粉では1,450ppmFや950ppmFの製品が少なくありません。
加えて、高齢者の歯の根元にできる根面むし歯に対しては、67%の予防効果があるとの報告もあります。
根面むし歯は、年齢を重ねると歯肉の退縮で起こりやすくなるため、今まで使用していた歯磨き粉を変更するのも選択肢のひとつです。
むし歯を予防したい場合には、配合されているフッ素の濃度に注目して購入するようにしましょう。
歯の白さを保ちたいならステイン除去成分配合
歯の白さを重視したい場合には、ステイン(着色汚れ)除去成分が配合されている歯磨き粉がよいでしょう。ステイン除去成分には、メタリン酸ナトリウムやピロリン酸ナトリウムがあります。
メタリン酸ナトリウムは、歯磨き粉やガムなどにも含まれている成分です。ハイドロキシアパタイトと結合して、ステインを除去していると考えられています。
メタリン酸ナトリウムは、ステイン除去以外に歯石の沈着防止や歯肉炎の予防などの働きがあります。
ハイドロキシアパタイトは、骨や歯を作っており、エナメル質の97%を構成している成分です。ピロリン酸ナトリウムは、ステインの除去や歯石形成の抑制などの働きをします。
ピロリン酸ナトリウムが持っている力で着色成分のカルシウムが分解されるため、ステインが除去されると考えられています。
悩みに合った成分配合の歯磨き粉を選ぶ
歯磨き粉を選ぶ際には、歯周病や口臭、知覚過敏など悩みに合った成分が配合されたものを選ぶようにしましょう。
歯周病で悩んでいる場合には、殺菌成分や抗炎症成分が配合されたものがよいでしょう。
口臭には、香味剤が作用します。香味剤で歯磨きの実感や口腔内の爽快感の増大が期待できます。
また、知覚過敏には、乳酸アルミニウムや硝酸カリウムなどが含まれている歯磨き粉が向いているでしょう。乳酸アルミニウムは、刺激が神経に伝わることを遮断します。硝酸カリウムは、神経の過敏反応を抑え、即効性が高いのが特徴です。
以上のように、個人の悩みに合った成分が配合されている研磨剤なしの歯磨き粉を選びましょう。
研磨剤なしの歯磨き粉の正しい使い方
研磨剤なしの歯磨き粉は、ジェルや液体、泡などさまざまな状態で販売されています。
液体タイプの場合、洗口液と同じように口腔内に含んでから、うがいをするように口腔内全体に浸透させます。
口腔内に行き渡ったら吐き出し、歯磨きを行いましょう。歯磨き後には、水ですすぐ必要はありません。
液体タイプは、ジェルに比べて、歯全体に成分が行き渡りやすいのが特徴です。研磨剤が入っていないため、歯を傷つける可能性が少なく、口腔粘膜や歯肉に炎症がある場合にも使えます。
ジェルタイプの歯磨き粉には、研磨剤と発泡剤が含まれていません。このタイプは、ペースト状の歯磨き粉と同じように使えます。発泡剤は、歯磨き粉を使った際に出てくる泡立ちをよくする成分です。
近年では、研磨剤なしでフッ化物の濃度が高い歯磨き粉も出ています。フッ化物配合の歯磨き粉はむし歯の予防に効果的です。
フッ化物配合の歯磨き粉の効果的な使い方は、以下のとおりです。
- 1日2回以上の歯磨きを行う
- 継続的に使用する
- 寝る前に歯磨きをする
- 0.5g以上使用する
- 歯磨き後の洗口回数を少なくする
- 歯磨き後の飲食を避ける
フッ化物配合の歯磨き粉を使って、1日の歯磨きの回数を1回から2回に増やすだけで、むし歯の予防率が14%増えるといわれています。
歯磨きは、寝る前に行うと、日中に行った際よりもフッ化物濃度が高い状態で保持されると報告されています。
フッ化物配合の歯磨き粉の適量は、0.5g以上で成人用の歯ブラシの毛先部分の半分ほどです。
フッ化物濃度1,000ppmFの歯磨き粉を0.5g以上使った場合、唾液中のフッ化物濃度が120分以上にわたり効果的な状態を維持できることがわかっています。
また、口腔内のフッ化物濃度を高い状態に保つため、歯磨き後のすすぎも重要です。
口腔内の歯磨き粉を洗い流そうとすすぎを何度も行ったり、すすぎ時間が長くなったりすると、唾液中のフッ化物濃度の低下が速い傾向にあります。
すすぐ量が少ないと、唾液中のフッ化物が保持されやすくなるため、すすぎは2〜3回程度に留めるように心がけましょう。
研磨剤の有無に関わらず、歯磨き粉自体は補助的なものです。
そのため、自身の悩みや状態に応じた成分が配合されている歯磨き粉を選んで、正しい方法で歯磨きを行うようにしましょう。
歯の磨き方はさまざまあり、むし歯予防では、歯の噛む面に対して歯ブラシの毛先を当てて小刻みに動かします。
歯の表と裏を磨く際には、歯ブラシを直角に当てて往復させるのがむし歯予防には適した方法です。
歯周病の予防の場合には、歯と歯肉の境目に歯ブラシが45度になるように当てて、弱い力で小刻みに動かします。
前歯の裏側を磨く際には、歯ブラシを縦にして歯の隙間を磨くようにすると、きれいに磨けるでしょう。
歯磨き粉の使い方や歯磨きの仕方で困った際には、歯科医師に聞いてみるとよいでしょう。
まとめ
歯磨き粉に含まれる研磨剤は、歯の表面は傷つけずに、プラークやタンニン系色素の除去を行う成分です。
研磨剤の影響で歯の表面が粗くなるため、プラークの付着や着色が起こりやすくなる可能性があります。
そのため、研磨剤なしの歯磨き粉も出ています。歯周病がある方や知覚過敏がある方に向いているのが特徴です。
研磨剤なしの歯磨き粉も、研磨剤入りの歯磨き粉同様に、目的や用途に応じて含まれている成分は異なります。
自分の悩みに合った歯磨き粉を選ぶと、歯の悩みも解消しやすくなるでしょう。自分の症状に合った歯磨き粉がわからない際には、かかりつけの歯科医師に相談してみましょう。
参考文献
- タンニン|公益社団法人 日本薬学会
- フッ化物利用(概論)|健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット
- 機械的歯面研磨によるヒトエナメル質の表面粗さの変化
- 研磨剤入り歯磨剤を用いたブラ ッシングのエナメル質と象牙質におよぼす影響
- 子供のむし歯の特徴と有病状況|健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット
- 歯磨剤における無機清掃基剤概論
- 歯磨剤および歯磨剤中の発泡剤が歯口清掃効果に及ぼす影響
- 各種歯磨剤を使用したブラッシングが外来性色素沈着による歯面の色調変化に及ぼす影響
- 歯周病メインテナンス期における顆粒配合歯磨剤の効果
- 乳酸アルミニウム配合液体 歯磨剤の象牙質知覚過敏症に対する緩和効果
- フッ化物配合歯磨剤|公益社団法人 日本歯科医師会
- ピロリン酸ナトリウムのステイン除去メカニズムに関する研究
- 漂白後エナメル質に対するメタリン酸ナトリウムの着色抑制効果と吸着性の評価
- ハイドロキシアパタイト|公益社団法人 日本薬学会
- 歯磨剤の成分と虫歯予防フッ化物の不思議
- 香味成分およびカフェインを添加した歯磨剤の神経生理学的効果について
- ステアリン酸亜鉛配合歯磨剤の象牙質知覚過敏症に対する有効性
- フッ化物配合歯磨剤の効果的な使用方法
- フッ化物配合歯磨剤|健康日本21アクション支援システム健康づくりサポートネット
- ブラッシング|公益社団法人 日本歯科医師会