歯医者の治療は痛くて苦手だと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。痛みだけではなく、キーンと頭に響く機械音や歯医者独特の雰囲気に緊張してしまう方は少なくありません。
歯科治療が苦手な方は、受診を先延ばしにして症状を悪化させてしまいがちです。今回は、歯医者で痛みが少ない治療を受けるポイントを解説します。
麻酔の種類や費用・リスクも解説しますので、痛みの少ない歯科治療の方法をお探しの方はぜひ参考にしてください。
痛くない歯医者はある?
- 歯科治療に痛みが伴うのはなぜですか?
- 抜歯・抜髄・歯肉切開など歯や歯肉組織を断裂する歯科治療には、痛みが伴います。お口は、生命を維持する呼吸器や消化器の入口です。そのため、お口の中の感覚は敏感で、危害が加えられると本能的に恐怖を感じるとされています。麻酔の針が刺さり、薬が注入されるときの痛みや治療中の振動・呼吸のしづらさに不快感を感じる人は少なくありません。以前に受けた歯科治療が精神的な負担になり、不安や緊張から痛みをより強く感じる患者さんもいます。
- 治療の痛みが怖くてむし歯を放置した場合のリスクを教えてください。
- ある程度まで大きくなったむし歯は自然には治りません。放置していると、歯の神経である歯髄に達して炎症を起こします。我慢できない程度の痛みを生じる歯髄炎は、歯の神経を抜く治療が必要です。さらに放置すると、歯の根元に細菌の病巣ができて歯肉から膿が出る場合や、歯がぐらぐらする場合があります。また、むし歯を放置した結果、噛む機能が低下しているご年配の患者さんは少なくありません。噛みづらさから軟らかい食べ物を好んで摂取するようになるため、噛むための筋肉を使わなくなるからです。食べ物の選択肢が狭まり、栄養バランスが偏って心身機能の低下につながるとされています。
歯医者の痛みと麻酔について
- 歯医者で行われる麻酔の種類を教えてください。
- 歯科治療で行われる麻酔方法は、以下のとおりです。
- 局所麻酔法
- 精神鎮静法
- 全身麻酔法
局所に麻酔薬を作用させて一時的に感覚を消失させる局所麻酔には、表面麻酔法や浸潤麻酔法、伝達麻酔法があります。一般的にイメージする局所麻酔は、浸潤麻酔法です。下顎の奥歯など麻酔が効きにくい場所は、浸潤麻酔法に伝達麻酔法を追加します。局所麻酔の注射前に麻酔薬を歯茎に塗り、表面の感覚を麻痺させるのが表面麻酔法です。精神鎮静法には、吸入鎮静法と静脈内鎮静法があります。笑気ガスを吸入してリラックスした状態で治療を受けるのが吸入鎮静法です。静脈内鎮静法は、笑気ガスよりリラックスする効果が高い鎮静薬を血管内に注入します。全身麻酔法は麻酔を吸入する方法と麻酔薬を点滴で投与する方法、両者を組み合わせた方法があり、歯科麻酔医が麻酔計画を立てて麻酔中の全身状態を管理する麻酔法です。全身麻酔中は、気管内にチューブを挿入します。
- 歯科恐怖症で局所麻酔をしても痛みが心配なのですが…。
- 歯科治療の痛みに恐怖を感じる患者さんには、精神鎮静法がおすすめです。リラックスした状態で治療を受けられるため、恐怖心が軽減します。治療中も会話ができて、入院の必要もありません。
- 全身麻酔なら治療中も痛くないですか?
- 意識がなくなる全身麻酔は、完全に眠っている状態になります。しかし、完全に痛みを制御することはできません。痛みを制御したい場合には、局所麻酔を注入する必要があります。
- 全身麻酔が行われるのはどのようなケースですか?
- 全身麻酔法が行われるケースは、以下のとおりです。
- 外科手術が必要な歯列矯正治療
- 治療に協力できない障害のある患者さん
- 治療に協力できない子ども
- 嘔吐反射などで治療ができない患者さん
- 過去にお口の治療中に気分が悪くなったり、意識を失ったりしたことがある患者さん
歯科治療のストレスによって全身状態が悪化する心臓疾患や高血圧症などの患者さんには、全身麻酔を行うケースもあります。日帰り全身麻酔では治療当日の朝に来院し、当日中の帰宅が可能です。
- 全身麻酔による歯科治療を行うと費用が高くなりますか?
- 保険適用の治療の際に行った全身麻酔は健康保険の適用となり、保険適用外診療の際に行う全身麻酔には健康保険が適用できません。保険適用の場合は、3割負担の患者さんで30,000〜40,000円が全身麻酔の費用として別途必要になります。入院して全身麻酔による歯科治療を行う費用の目安は、100,000〜150,000円です。保険適用外の全身麻酔は自費診療となります。基本時間を2時間以内として110,000円(税込)や1時間以内143,000円(税込)など費用はさまざまです。また、事前検査・薬材料・基本時間超過分の費用が別途かかる歯科医院もあります。
- 歯医者の麻酔にはリスクがありますか?
- 局所麻酔薬には、麻酔の効果を高める目的でアドレナリンを含む薬剤があります。アドレナリン麻酔薬による血圧の上昇や動悸を起こすリスクがあるのは、高血圧や心臓疾患のある患者さんです。アドレナリンを含まない麻酔薬もあるため、高血圧や心臓疾患のある患者さんは、治療前に歯科医師にご相談ください。局所麻酔薬によるアレルギーは稀で、気分が悪くなる原因の多くは緊張や不安による精神的反応だとされています。
笑気ガスによる吸入鎮静法は、体内で分解されずに排出されるため呼吸器や代謝系臓器への負担がほぼない治療法です。ただし、意識低下による誤嚥や舌根沈下による窒息の危険性があるため、全身管理をする麻酔科医の配置がのぞましいとされています。静脈内鎮静のリスクは、以下のとおりです。- 呼吸抑制・気道閉塞・低酸素症などの呼吸器合併症
- 血圧や脈拍の変動・心停止・不整脈などの循環器合併症
- 悪心・嘔吐
- 血管痛静脈炎
- アナフィラキシー
静脈内鎮静法を行う際は、全身麻酔に準じた設備と歯科麻酔に精通した医師、または学会から認定を受けている専門の歯科医師による全身管理が必要となります。全身麻酔のリスクは、以下のとおりです。
- 誤嚥性肺炎・気管支痙攣などの呼吸器合併症
- 悪性高熱症
- 肺塞栓症
- 心臓・肺・肝臓・腎臓などの機能低下
- 脳・脊髄・神経系の障害
- 血流障害による多臓器不全
- アナフィラキシー
麻酔にはリスクがありますが、医療技術の進歩により全身麻酔を原因とした死亡率は大きく低下しています。日本麻酔科学会の偶発症例調査によると、 2009〜2011年の3年間で麻酔管理が直接の原因になる死亡率は1万症例あたり0.07でした。つまり、10万例に1例以下です。リスクを回避するには、特に事前の診察と検査、歯科麻酔に精通した歯科医師による術中の全身管理が重要です。患者さんにも、禁煙や絶食などの術前指示を正確に守っていただく必要があります。
歯医者で痛くないように治療を受けるポイント
- 痛くないように麻酔を行ってくれる歯医者はありますか?
- 全身麻酔法や精神鎮静法による方法以外に、局所麻酔法でも極力痛みを軽減するための治療を行っている歯科医院はあります。麻酔針を刺すときの痛みが苦手な患者さんは、針を刺す前に表面麻酔をすると局所麻酔の痛みが軽減されます。また、麻酔薬を注入するときの痛みの軽減には、注入速度を制御するフルオートマチックインジェクターの利用も有用です。麻酔薬を体温に近づけたり、細い麻酔針を使用したりして刺激を少なくする工夫をしている歯科医院もあるので、相談してみてください。
- 痛くないように治療を受けるポイントを教えてください
- 初期のむし歯は、適切な歯みがき方法とフッ化物を活用した再石灰化治療により元の状態に戻る可能性があります。つまり、歯を削らずに済む初期のむし歯治療は、痛みが少ない傾向にあります。また、穴があいたむし歯治療の痛みを軽減するには、病巣部を除去した後に歯科用接着剤でコンポットレジンを詰める方法がおすすめです。人工材料を詰めたり、被せたりするよりも歯を削る範囲が少なくなり、痛みを感じにくいとされています。歯科恐怖症の患者さんは、スタッフに不安に思うことをお気軽にお伝えください。口腔清掃から開始して段階的に治療に慣れてもらったり、治療内容を丁寧に説明したりして緊張が和らぐように対応します。歯科治療の音やタービンの音が怖い患者さんには精神鎮静法、パニックで体動が激しくなる患者さんには全身麻酔法も選択肢となるでしょう。
編集部まとめ
痛みが怖くて歯科治療をせずに放置してしまうと、症状の悪化を招き、日常生活に支障をきたしてしまいます。
むし歯をはじめとした歯の疾患は早期発見と治療が重要です。早ければ早い程、治療の負担が軽減し、痛みが少なくなる傾向があります。
歯科治療への不安を歯科医師やスタッフに伝えることも大切です。リラックスした状態で治療を受けられたり、眠っている間に治療が終わったりする麻酔を希望される方は自分に合う方法を歯医者さんに相談してみましょう。
参考文献
- むし歯の特徴・原因・進行|e‐ヘルスネット[情報提供]厚生労働省
- 歯の神経の治療(根管治療)|e‐ヘルスネット[情報提供]厚生労働省
- これってオーラルフレイル? ー心身の衰えはお口からー|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
- むし歯科|北海道大学病院
- 全身麻酔で行う歯科治療について(歯科・障害児歯科)|群馬県立小児医療センター
- 麻酔方法の種類|公益社団法人 日本麻酔科学会
- 口腔インプラント|独立行政法人労働者健康安全機構 新潟労災病院
- 自費診療にかかる料金一覧(税込表示)
- 歯科麻酔に関連する薬剤の基礎的知識と安全な使用について
- 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 Ⅳ 吸入麻酔薬
- 歯科診療における静脈内鎮静法のガイドライン
- 術中心停止に対するプラクティカルガイド
- 麻酔のための準備|公益社団法人 日本麻酔科学会
- 歯科治療Q&A|北海道大学病院
- むし歯の治療法|日本歯科医師会
- 歯科恐怖症患者への対応
- 口腔外科|徳島大学病院
- 歯科治療中の偶発症とその予防
- 麻酔に関連する合併症|公益社団法人 日本麻酔科学会
- 歯科麻酔Q&A|一般社団法人 日本歯科麻酔学会
- 歯科麻酔・全身管理科|日本歯科大学附属病院
- 歯科麻酔疼痛管理科|東北大学病院