セラミックは、金属材料やプラスチック・木材などの有機化合物ではなく、無機化合物の固体材料です。粉状にしたさまざまな物質を混ぜ、固めて作ります。
歯科治療で使われるセラミックは陶器の一種であり、詰め物・かぶせ物・差し歯などに使われる銀歯や金歯といった金属歯に次ぐ素材として普及しています。
また、技術の進歩により、より強度のあるジルコニアとよばれるセラミック素材が使われることも増えてきました。
金属歯はどうしても見た目の印象に違和感が出てしまいますが、セラミックは天然歯に近い白さの物を作り出せるため見た目の印象を損なわないという審美性に優れています。
そのため、セラミック治療は金属歯にしたくない方や歯の見た目を白く美しく保ちたい方に選ばれている治療です。
素材の特性上、摩耗しにくいセラミックですが、実は寿命があるのをご存知ですか。本記事ではセラミックの寿命・セラミックにすることのメリットとデメリットについて解説します。セラミックを検討する際、参考のひとつにしてください。
セラミックの寿命はどのくらい?
セラミックを検討する際に、「セラミックにすればずっと状態を維持できるのか」という疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。もしくは、セラミックにしたことに満足して寿命のことを考えていなかった方もいるかもしれません。
一般的にセラミックの耐用年数は10〜15年程度といわれています。ただ、お口の環境によっては、耐用年数はさらに短くなってしまいます。逆にいえば、お口の環境を良好に維持できていれば、15年以上使うことも可能です。
お口の環境を良好に維持するためには、日頃の適切なセルフケアと定期的なメンテナンスが欠かせません。
セラミックの寿命に影響を与える要因
セラミックは硬さはあるものの、衝撃や強い力が加わると割れたり欠けたりしてしまう材質です。
前述でお口の環境によってはセラミックの寿命を縮めてしまうとお伝えしました。セラミックの寿命に影響を与える要因を以下にまとめました。
- セラミック歯の不適合
- 歯ぎしり・食いしばり
- 噛み合わせの悪さ
- 外部からの衝撃
- 口腔ケア不足
セラミックを良好に維持するためには、これらの要因について考えることは重要です。以下、それぞれについてもう少し詳しく解説します。
セラミック歯の不適合
セラミックをつける際、治療部位の自分の歯にぴったりとフィットしているかが重要なポイントのひとつです。
セラミックの形状が治療部位の歯と合っていない・土台となる部分の歯が適切に処置されていない・ずれて接着されている場合には、むし歯の再燃・違和感・痛み・歯茎の腫れ・歯茎の出血などの口腔トラブルを引き起こす可能性があります。
セラミック治療は、施術を行う歯科医師と歯科技工士の知識・技術・経験が大いに関係します。歯科医院を選ぶときは豊富な経験や症例件数があるか、セラミック治療用の設備・機器が充実しているかなどしっかりと下調べをすることが重要です。
歯ぎしり・食いしばり
無意識下で起こる歯ぎしりや食いしばりは、物を噛む通常の力の何倍もの力がかかります。正常な歯でも欠けたり削れたりするので、セラミックも例外なく割れたり欠けたりする可能性があります。
歯ぎしりや食いしばりの対策として、ストレスの軽減や噛み合わせの改善などがあります。
また、歯へのダメージを軽減するために就寝時にマウスピースを装着する方法もあります。
噛み合わせの悪さ
噛み合わせが悪いと一部の歯とその周辺の歯に偏った大きな負担がかかります。
その歯がもしセラミックだった場合、常に強い力が加わってしまうため、セラミックの寿命に影響を与える要因になりかねません。セラミック治療を始めるときは、噛み合わせも一緒に確認してもらいましょう。
外部からの衝撃
セラミックは強い衝撃に弱いです。陶器の食器を上から落としたら割れるのと同じように、セラミックも強い衝撃が加わると割れたり欠けたりすることがあります。
何かの拍子にぐっと歯を食いしばったり口元を強打したりすると、衝撃でセラミックが割れたり欠けたりする可能性があるため注意が必要です。
口腔ケア不足
セルフケアも、セラミックの寿命に影響します。セラミックにすると治療した場所でのむし歯は再発しにくくなりますが、セルフケアを怠ってしまうとむし歯や歯周病のリスクは高まります。
また、歯ブラシで強く磨きすぎるのもよくありません。強く磨くことによりセラミックやほかの歯を傷つけてしまう恐れがあります。力は入れず小刻みかつ丁寧に磨くことが歯と歯茎を傷つけない磨き方です。磨き方に不安がある方は、歯科医院で歯磨き方法の指導を受けることをおすすめします。
セラミックの寿命を延ばすためのポイント
ここまでセラミックの寿命に影響を与える要因について解説しました。ここではそれらの要因を踏まえてセラミックの寿命を延ばすためのポイントについて解説します。
ポイントは以下のとおりです。
- セラミック治療の症例件数が豊富な歯科医院の選定
- 正しいセルフケア
- 定期的なメンテナンス
- 歯ぎしり・食いしばりへの対策
セラミック治療で重要になってくるのは、歯科医院の選定です。セラミック治療を行ったものの治療後に痛みや違和感などが現れ、その他の口腔内トラブルが起こってしまう場合、その原因はセラミックの不適合によるものです。
治療後の不具合が心配な方は豊富な経験や症例件数のある歯科医院を選ぶのはもちろん、相談・カウンセリングはしっかりしてくれるか、自分に合ったセラミックを選んでくれるのかなども選ぶ基準になるでしょう。
セラミック治療後の口腔内を良好に維持するにはセルフケアが欠かせません。セルフケアとは日頃の歯磨きのことです。歯磨きを怠ると、セラミックをしていてもむし歯や歯周病のリスクは高まってしまいます。
日頃から正しい歯磨きを実施し、むし歯予防・歯周病予防に取り組みましょう。正しい歯磨き方法は歯科医院で指導してもらえるので、相談してみてください。
定期的な歯科医院でのメンテナンスもセラミック治療後の口腔内を維持するためには重要です。メンテナンスでは、自分ではなかなか確認できないむし歯や歯周病の進行チェックやセラミック部位の確認ができます。
また、普段のセルフケアでは取り切れない汚れをクリーニングで取り除くことができ、さらに口腔内を清潔に保てるため、セラミックの寿命を延ばすことにつながります。
歯ぎしり・食いしばりはセラミックが割れたり欠けたりする要因になるので、治療前に歯ぎしり・食いしばりの症状があるかをしっかりと確認してもらいましょう。歯ぎしり・食いしばりの症状があるにも関わらず治療を進めて、寿命より早くに割れてしまうケースもあります。
歯ぎしり・食いしばりがある方は就寝時にマウスピースを装着することで、歯へのダメージを軽減することが可能です。
セラミックの歯を飲み込んだ場合の影響
ここでは、セラミックの歯を飲み込んでしまった場合の影響と対処法を解説します。
セラミックの詰め物・被せ物・歯を誤って飲み込んでしまった場合でも、小さな物で特に症状がなければ数日後に便と一緒に排出されます。飲み込んでしまった後の数日間は、便に混入していないか確認が必要です。
セラミックは体内に入ることでの身体への悪影響はないため、経過観察となることがよくあります。ただし、胃のむかつきや腹痛など腹部の違和感が生じる場合には、内科や消化器科などの医療機関で受診しましょう。
万が一気管に入った場合は激しく咳き込むことがあります。その場合は、頭を下にして吐き出してください。吐き出せなかったり症状が改善されなかったりする場合は、早急に医療機関で受診する必要があります。
セラミックのメリット
ここまでセラミック歯の寿命について解説してきました。ここではセラミック治療のメリットについて紹介していきます。セラミック治療で得られるメリットは以下が挙げられます。
- 見た目が美しくなる
- 汚れが付きにくい
- 金属アレルギー・歯茎が黒ずむ心配がない
- むし歯の再発リスクを軽減できる
上記のメリットをもう少し詳しく解説します。
見た目が美しくなる
セラミックは天然歯に近い白さや透明感を再現して加工できます。そのため、ほかの天然歯に溶け込む程自然で美しく、見た目では気付かれにくいという点がメリットのひとつです。
また、セラミックの白さはほかのプラスチック素材と比べて長持ちするので、適切な管理を行えば白く美しい状態を維持できます。
見た目を白く美しく保ちたい方にはセラミック治療がおすすめです。
汚れが付きにくい
お口の中の汚れは小さな傷や隙間に入り込みやすいですが、セラミックの表面はなめらかになるように加工されているため汚れがつきにくくなっています。この汚れの付きにくさも、セラミックがむし歯になりにくいとされる理由のひとつです。
ただ、セラミックは汚れが付きにくいからといってセルフケアを怠ってしまうと、むし歯や歯周病のリスクが高まってしまいます。セルフケアをしっかり行うことを心がけましょう。
金属アレルギー・歯茎が黒ずむ心配がない
銀歯は、お口のなかで金属成分が溶け出してしまうことで、金属アレルギーの方がアレルギー反応を起こすことがあります。
その点、セラミックは金属を含んでいない素材なので、金属アレルギーの人でも使用できます。
また、銀歯を接着した後に、お口のなかで金属成分が溶け出し歯茎が黒ずむという問題もありました。しかし、セラミックは金属を含まないうえに安定した素材でできているため、歯茎が黒ずむことはありません。
むし歯の再発リスクを軽減できる
むし歯は、詰め物・被せ物の隙間から汚れが入り込むことで再発することがあります。
セラミック治療では土台となる歯とセラミックとの間に隙間を作らないようにぴったりと接着させ、隙間から汚れが入り込むのを防ぐため、むし歯の再発リスクを減らすことが可能です。
むし歯を再発させないためにも、日頃からお口の環境を整えておく必要があります。
セラミックのデメリット
いくつものメリットがあるセラミック治療ですが、材質の特性上デメリットもあります。セラミック治療のデメリットは以下が挙げられます。
- 割れることがある
- 費用が高い
- 歯を削る量が多い
- ホワイトニングが難しい
上記のデメリットをもう少し詳しく解説します。
割れることがある
セラミックは素材の特性上、柔軟性がないため、強い衝撃がかかると割れてしまうことがあります。
また、奥歯にセラミックを施す際、歯ぎしり・食いしばりがある方は注意が必要です。歯科医師と相談し、就寝用のマウスピースをつけ、セラミックが割れるリスクを軽減させる対策が必要です。
費用が高い
セラミックは銀歯と違い、保険が適用されません。セラミック治療は全額自己負担の自由診療のため、費用は高額です。
1か所セラミックの詰め物をすると50,000円(税込)程度の費用がかかります。
費用は歯科医院によって異なるうえ、セラミックの種類によっても変わるため、費用のことは担当の歯科医師としっかり相談することをおすすめします。
歯を削る量が多い
セラミックが割れるリスクを低くするためには、ある程度の厚みをもたせて作る必要があります。その分ほかの素材に比べて歯を削る量が多くなってしまいます。
そのため、天然歯をあまり削りたくない方にとっては懸念点かもしれません。
ホワイトニングが難しい
ホワイトニングができるのは天然歯だけです。ホワイトニングとセラミック治療どちらも希望するのであればホワイトニングを先にするようにしてください。
セラミックは天然歯の色に寄せて作られるため、治療時点の見た目は美しく仕上がります。ただ、時間が経つと天然歯の方が着色汚れで色が変わることもあるため、注意しなければなりません。
ホワイトニングをしてセラミックに近い色に戻ったとしても、その後も定期的にホワイトニングする必要があります。
まとめ
今回はセラミックの寿命に影響する要因と寿命を延ばすポイント、セラミックにすることのメリット・デメリットについて解説しました。
セラミックについての理解は深まりましたか?セラミックが実はさまざま物質を混ぜ合わせてできていること、セラミックに寿命があることなど初耳だった方もいるかもしれません。
セラミックのメリット・デメリット、セラミックを維持するために必要な対策を知ったうえでセラミック治療を検討してください。
セラミック治療を検討される方は、セラミック治療の豊富な経験や症例件数がある歯科医院でよく相談することをおすすめします。
現在、セラミック治療中の方は歯科医師や歯科衛生士からセラミック治療後どのように管理していくかを指導してもらってください。
また、過去にセラミック治療をしてそのままの方は、セラミックの状態をはじめお口全体のチェックをしてもらいに歯科医院を受診しましょう。
参考文献