歯医者では、患者さんへの問診の後にさまざまな検査が行われます。それは、歯の痛みや不具合の原因を確認するためや患者さんのお口の状態を正確に把握するためです。
迅速に適切な治療を行うために省くことのできない治療前の検査とは、どのようなものがあるのでしょうか。
今回は、歯医者で受ける治療前検査の内容や費用について詳しく解説します。
歯医者で行われる検査は?
歯医者で行われている主な検査は次のとおりです。
- レントゲン検査
- 口腔内写真検査
- プロ-ビング検査
- プラークの付着状況検査
- CT検査
- 出血検査
- 細菌検査
- 定期検診
これらの検査は、患者さんの症状や治療目的に合わせて選択されますので、必ずしもここに述べたすべての検査が実施されるわけではありません。
しかし定期検診は、歯の健康を保つために重要な日常的な検査です。治療が不要な場合でも定期的にチェックをすることで、不具合があれば迅速に対応できます。
次に治療別に行われる検査について解説しましょう。
歯医者で治療前に行われる検査
歯の病気には、大きく分けるとむし歯・歯周病・歯の欠損や喪失・歯並びなどがあります。それぞれの症状を治療する前の検査は、適切な治療のためにも大変重要です。
むし歯治療前の検査
むし歯を簡単に説明すると、お口の中や歯の細菌が歯を溶かすことで生じる病気です。しっかり歯磨きをしていても、奥歯や歯の隙間から発生することもあり、世界的にも大変よく見られるお口の病気といえます。
むし歯を治療する前に行われるのが問診・カウンセリングです。痛みや不具合を感じたのがいつ頃からか、またどの程度の痛みがあるかなどを確認したうえで、お口の中の検査となります。
治療前に行われる検査は、歯医者によりある程度違いはありますが、主な検査としては次のとおりです。
- 口腔内の歯の状態やむし歯のチェック
- 歯茎の検査
- 口腔内の写真撮影
- エックス線検査
- 唾液検査
まずは、患者さんが痛みや不具合を訴えている歯の状態を確認します。同時にほかのむし歯や被せものの種類や状態のチェック・噛み合わせの状態などを検査します。
歯茎の検査とは、いわゆる歯周病の検査のことです。歯周病は自覚症状のないまま知らず知らずのうちに進行するため、歯医者ではむし歯の検査に加えて行うことが少なくありません。
歯周病の検査については後程詳しく解説しますが、主な検査としては歯茎の溝の深さを計る・歯茎の腫れや色を確認するなどです。
口腔内の写真撮影には、患者さんが直接見ることのできないご自分のお口の中を、しっかりと確認していただきながら説明をするという目的があります。
エックス線による撮影は、歯の本数・親知らずの状態・むし歯の状態・歯の神経の状態・歯の周辺にある骨の状態などを確認するために行われる検査です。
唾液検査では、唾液の分泌量やむし歯菌の数などのほか、むし歯のなりやすさなどを確認することができます。
これらの検査は、必ずしもすべて実施されるとは限りません。ただ患者さんのお口の状態をできるだけ正確に把握することは、迅速で適切な治療を行ううえで大変重要です。
歯周病治療前の検査
歯周病とは、歯を支えている歯茎や骨が壊れていく病気です。歯を守る組織が壊れて、最後には歯が抜けてしまう怖い病気でありながら、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
そのためもあり日本では、40歳以上の約80%が歯周病にかかっているともいわれています。また生活習慣が大きな要因となっていることから、歯周病は生活習慣病の1つであるといっても過言ではありません。
歯周病は歯医者での検査を受けないと正確な診断ができません。歯茎や歯に違和感があった場合は、できるだけ早く歯医者を受診しましょう。
歯周病を治療する前の主な検査には、次のようなものがあります。
- プロ-ビング検査
- エックス線検査
- プラーク付着率検査
- 出血検査
- 動揺度検査
- 細菌検査
- 口腔内写真撮影
- 歯周精密検査
プロ-ビング検査とは、歯と歯肉との隙間(歯周ポケット)がどの程度深くなっているかを計る検査です。
目盛りの付いたプローブという針状の細い器材を歯と歯茎の間に差し込み、溝の深さを計ります。溝の深さと歯周病の進行度については、およそ次のとおりです。
- 歯周病の進行度:歯周ポケットの深さ
- 軽度:3~4mm程度
- 中等度:5~7mm程度
- 重度:8mm以上
エックス線撮影では、歯を支えている骨の状態が確認できます。歯周病が進むと歯茎だけでなくその奥の骨までが溶けてくるため、歯周病の進行度を知るためには重要な検査です。
プラーク付着率とは、歯周病の原因である歯やプラーク(歯垢)がどの程度付着しているかを確認する検査です。検査は専用の染色液を使用して行われます。
その他、歯肉からの出血程度を調べたり(出血検査)歯がどの程度揺れるかを検査したり(動揺度検査)歯周病の原因と考えられる細菌の検査をしたりする場合もあります。
歯周病が相当進行していると判断された場合には、もっと精密な検査が行われることも少なくありません。
歯列矯正治療前の検査
歯並びや噛み合わせが悪いと食べ物がうまく噛めないだけでなく、歯磨きの際にも磨き残しが多くなりがちです。
そのためむし歯になりやすかったり、口臭が強くなったりする場合もあります。また見た目も悪いと感じる方が少なくありません。
近年では透明の歯列矯正器具や取り外しができる器具などが増え、以前よりも痛みが少ない治療となってきています。ただ2024年10月現在歯列矯正治療のほとんどが保険適用外となっています。
治療前の検査についても保険適用されない部分が少なくありません。適切な歯列矯正の治療を受けるためには、複数の精密な検査が必須です。主な検査には以下のようなものがあります。
- 口腔内写真撮影
- 顔貌写真撮影
- パノラマエックス線撮影
- セファログラム撮影
- 頭部CT
- 歯ぎしり検査
- 石こう模型診査
歯列矯正治療では、歯の見え方や歯並び・バランスの取れた噛み合わせなどを作るために、お口の中の写真を撮影します。
顔貌写真は、横顔の鼻の先端と顎の先端を結んだラインや笑ったときの歯の見え方を確認したり、バランスのよい前歯の位置を設定したりするために行います。
パノラマエックス写真とは、お口の中全体を1枚の写真に撮影するものです。これによりむし歯・親知らず・歯の健康状態などがわかります。
セファログラムは頭部エックス線規格写真と呼ばれるもので、こちらもエックス線撮影の1つです。一般的な歯科治療では使用されませんが、歯列矯正歯科治療では大切な検査です。
頭部CTでは、関節や歯根の形態・顎の骨の幅などより詳細な情報を得ることができます。歯列矯正を行うにあたり、歯ぎしりの有無を確認することも大切です。
また、立体的にお口の中と歯並びなどを再現するために行われるのが、石こう模型の製作です。石こう模型により歯並び・歯茎の幅・噛み合わせ・前歯の出方・奥歯の位置などを確認できます。
インプラント治療前の検査
歯を失った場合の治療方法の1つとして、近年注目されているのがインプラント治療です。
インプラントとは身体になじみやすい生体材料で作った歯根のことで、これを顎の骨に埋め込み人工の歯を取り付けます。
インプラント治療では、顎の骨がどのような状態であるかを正確に把握しなければなりません。また治療には手術を伴うため、患者さんの身体の状態によっては治療を受けられない場合もあります。
治療前の主な検査は次のとおりです。
- CT検査
- 口腔内写真撮影
- 歯周病検査
- 臨床検査
CT検査は、インプラントを埋め込む顎の骨の状態を三次元的に診断する検査です。この検査により骨の厚みや硬さ・神経・血管の位置なども正確に把握できるため、安全性の高い治療が行えます。
インプラント治療後にかかりやすい病気とされているのが、歯周病とよく似た症状のインプラント周囲炎です。
もともと歯周病にかかっている患者さんが歯周病の治療をしないままインプラント治療を行うとインプラント周囲炎になりやすいとされています。
治療後の歯が健康であり続けるためにも、歯周病はしっかりと治療しておくことが大切です。
臨床検査とは、血液検査や心電図検査などのことです。インプラント治療を受ける患者さんは、40歳代から60歳代の方が少なくありません。この年代はさまざまな病気にかかっている可能性が高くなっています。
歯周病以外にも患者さんに既往症がある場合は、高い安全性を保ちながらインプラント治療を行うことが難しい場合があります。治療の安全性を担保するためには、臨床検査によって患者さんの身体の状態を正確に把握しなければなりません。
歯医者の検査にかかる費用
前述のとおり、歯の治療を行う前にはさまざまな検査が行われます。そこで気になるのが検査費用です。
例外はありますが、むし歯・歯周病治療前の検査はほとんどが保険適用内となっています。しかし、歯列矯正・インプラント治療前の検査には、保険適用外のものも含まれています。
また、実際の費用は地域や医療機関により異なる場合が少なくありません。検査を受ける際には、担当の歯科医師に直接確認をすることをおすすめします。
むし歯治療前の検査費用
治療前検査や診察費用は内容によって異なります。初診料は保険控除前で約2,610円で3割負担なら783円程度です。
その他、基本的なエックス線検査は3割負担で1,200円程となっています。むし歯治療前の検査では歯周病の検査も行うこともあり、その費用としては3割負担で600円程度です。それらを合計して、初診費用としては3,000円程度が一般的です。
歯周病治療前の検査費用
歯周病の検査も基本的には保険診療で行われます。初診料と歯周病の一般的な検査、歯垢など歯の汚れを落とすスケーリングも合わせて5,000円程度と考えてください。
ただ歯周病の状態によっては保険適用外となる精密な検査を行う場合があります。
歯列矯正治療前の検査費用
一般的な歯列矯正治療は保険適用外となる自由診療で、検査・治療にかかる費用は医療機関によりことなります。
初診料は3,000〜5,000円(税込)程度、検査・診断費用は40,000〜70,000円(税込)程度です。
インプラント治療前の検査費用
インプラント治療の場合も自由診療となることがほとんどで大変高額な費用がかかるため、初診料・相談料を無料と設定している医療機関もあります。
インプラント治療1本あたりの検査・診断料は50,000〜100,000円(税込)程度が一般的です。
歯医者の定期検診の内容
むし歯や歯周病などがなくても、歯の健康を保つためには定期的な歯の検診を受けることが大切です。もし検診でむし歯や歯周病が発見された場合も早期の治療が可能となるため、治療費の節約にもつながります。
歯の定期検診の内容としては、口腔内全体のチェック・歯のクリーニング・歯磨き方法の指導などが一般的です。
歯と歯茎の状態の確認
定期検診では、お口の状態・歯と歯茎の状態をチェックします。むし歯は直接見えないところにもできますので、お口の隅々までしっかりと診てもらいましょう。
また、歯茎の硬さや色、歯周ポケットの深さをチェックすることで歯周病になっていないかどうかもわかります。
歯磨き指導
毎日の歯磨きは、歯の健康にとって大切な習慣です。しかし人それぞれに歯磨きの癖があるため、磨き残しができやすい場合もあります。
そのため定期検診では、患者さんに合った歯ブラシ・歯間ブラシなどの正しい使い方を指導します。
歯垢の染め出し
日常の歯磨きでは、歯垢を完全に除去するのは難しいです。そこで、どの場所に歯垢が付きやすいかを確認するために行うのが、専用の染色液による歯垢の染め出しです。
歯垢・歯石の除去
染め出された歯垢や歯石を除去しながら、歯の状態や出血があるかどうかなども確認します。歯医者によってはフッ素塗布を行うところもあります。フッ素塗布の目的は歯質の強化です。
口腔粘膜の病気の確認
お口の中や周辺の状態も確認します。お口の周辺にできやすい炎症である口内炎は、単にお口周りに原因があるものと全身状態によるものがあります。また口腔粘膜の異常は口腔がんなどの病気である可能性も考えられるため、定期的な検診が大切です。
歯医者の定期検診の費用
歯の定期検診の費用は検診内容によって異なりますが、3,000〜5,000円程度と考えてください。
歯医者の定期検診を受ける頻度はどのくらい?
歯の健康を保つためには、3ヵ月に1度は定期検診を受けることをおすすめします。
その理由の1つは、3ヵ月以上の間隔をあけてしまうと歯垢が硬くなって、より除去しにくい歯石になってしまうからです。お口の中がいつも健康な状態でいられるように、3ヵ月に1度は定期検診を受けましょう。
まとめ
今回解説したように、歯医者では歯の治療前にはさまざまな検査を行います。それは患者さんに適切な治療を行うためには欠かせないからです。
お口の中は人によって異なり、治療方法もお口の状態によって変わります。そのため基本的な歯周病検査やエックス線検査などはもちろん、場合によっては精密検査も行われます。
歯列矯正治療やインプラント治療の場合には、保険適用外の検査も少なくありません。しかしそれらの検査も、患者さんの希望に沿った治療のためには大切なことです。
またお口の中はご自分で直接チェックをするのが難しい部分で、気付かない間にむし歯や歯周病にかかっている可能性もあります。この先ずっと歯の健康を保つために、そして健康寿命を延ばすため、少なくとも3ヵ月に1度は歯科検診を受けるようにしましょう。
参考文献