むし歯治療では、細菌に感染した歯質を削るという処置が必要となります。歯を削った後は穴があくため、そこを何らかの装置で補わなければなりません。その際、使われる装置のひとつに詰め物というものがあります。ひと言で詰め物といっても、使用する素材にもいくつかの種類があり、それぞれに異なる特徴とメリット・デメリットを持っています。ここではジルコニアの特徴やメリット・デメリットに焦点を当てて、詰め物を解説します。
詰め物の役割について
はじめに、詰め物の基本事項を確認しておきましょう。
- 詰め物が必要な理由を教えてください
- むし歯で歯が溶けたり、外傷で歯が欠けたりした場合は、歯面に欠損が生じた状態となります。見た目が悪くなるだけでなく、歯の機能性や耐久性にまで悪影響がおよぶことから、欠損部の詰め物が必要となるのです。
歯質が欠損している部分は脆くなり、ちょっとした力が加わるだけでも欠けたり割れたりする恐れがあります。欠損部は傷口がむき出しとなっているのと同じような状態ともいえるため、そのまま放置していると細菌に侵されてしまいます。もし歯に穴があいている場合は、咀嚼能率が低下することがあるため、適切な詰め物で補強しなければならないのです。
- 詰め物が適しているのはどのようなケースですか?
- 詰め物による修復が適しているのは、軽度から中等度の歯質の欠損です。むし歯の進行度では、C1~C2が詰め物による修復の対象となります。
C3になると歯の神経まで感染が広がっており、歯を削る量も増えるため、詰め物ではなく被せ物の方が適するようになります。C1で感染の範囲が狭い場合は、詰め物ではなくコンポジットレジンで充填した方が歯質を保存できます。
詰め物の種類に関する疑問
次に、詰め物の種類に関わる疑問にお答えします。
- 詰め物の種類を教えてください
- 詰め物はインレーとも呼ばれています。インレーの種類には、メタルインレー、レジンインレー、セラミックインレー、ジルコニアインレー、ゴールドインレーの5つの種類があります。それぞれ使われている素材が異なり、特徴やメリット・デメリットにも違いがあるため、自分に合ったものを選ぶ必要があります。
- 保険適用の詰め物の種類を教えてください
- 保険診療では、メタルインレーとレジンインレーを選択することができます。メタルインレーはいわゆる銀歯で、金銀パラジウム合金で作られています。金属色がむき出しであることから審美性が低く、金属アレルギーやメタルタトゥーのリスクを伴い、むし歯が再発しやすいという特徴があります。メタルインレーのメリットとしては、丈夫で壊れにくいという点が挙げられるでしょう。
レジンインレーは、歯科用プラスチックであるレジンで作られた詰め物で、見た目は白くて自然に近いです。金属アレルギーやメタルタトゥーのリスクはありませんが、強度が低くて壊れやすい、経年的な変色や摩耗が起こりやすい、むし歯が再発しやすいなどのデメリットがあります。
- 保険適用外の詰め物はどのようなものがありますか?
- セラミックインレー、ジルコニアインレー、ゴールドインレーなどの詰め物が自費診療で選択できます。セラミックインレーは、天然歯の色調や光沢、透明感などを忠実に再現できる歯科用陶材で作られた詰め物で、審美性が極めて高い素材です。ただし、極端に強い力が加わると割れてしまうというデメリットもあります。
ゴールドインレーは、貴金属であるゴールドで作られた詰め物で、強度や耐久性が高く、金属アレルギーやメタルタトゥーのリスクも低いです。また、歯質への適合性が高いことから、細菌が入り込むすき間ができにくいため、むし歯の再発リスクも低くなっています。ジルコニアインレーに関しては、後段で詳しく解説します。
ジルコニアの詰め物(インレー)について
ここからはジルコニアの詰め物に焦点を当てて、その特徴やメリット・デメリットを解説します。
- ジルコニアインレーのメリットを教えてください
- ジルコニアインレーのメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
【メリット1】強度が高くて壊れにくい
ジルコニアは、セラミックの一種ではあるものの、金属に匹敵する強度を備えています。そのため、強い力がかかりやすい奥歯の詰め物に適した素材といえます。歯ぎしりや食いしばりの習慣があって、セラミックインレーやレジンインレーは入れられないというケースでもジルコニアインレーなら問題なく適していることがあります。
【メリット2】適合性が高くてむし歯の再発リスクが低い
ジルコニアを始めとしたセラミック製のインレーは、高い精度で作ることができるため、歯質にぴったりと適合します。むし歯菌が入り込むすき間が生じないことから、再発リスクを低く抑えられるのです。特にメタルインレーやレジンインレーと比較した場合のメリットになります。
【メリット3】金属アレルギーのリスクがない
二酸化ジルコニウムで作られるジルコニアインレーは金属アレルギーを発症することはありません。金属イオンが溶出して起こるメタルタトゥーのリスクもゼロにできます。
- ジルコニアインレーのデメリットはありますか?
- ジルコニアインレーのデメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
【デメリット1】天然歯よりも硬い
ジルコニアは、金属に近い硬さを備えており天然歯よりも硬い素材です。天然歯の硬さは400Mpa程度であるのに対し、ジルコニアはその3倍の1,300Mpa程度の硬さがあります。900Mpa程度の軟らかいジルコニアも開発されていますが、それでも天然歯の倍以上の硬さがあります。そのため、噛み合う歯を傷つけるリスクを伴うことがデメリットのひとつです。
【デメリット2】費用が高い
ジルコニアは高価な素材であり、保険も適用されないことから、詰め物の治療費が高くなります。
【デメリット3】治療期間がやや長い
ジルコニアは、研磨や調整が難しい材料なので、治療が完了するまでに長い期間を必要になります。保険診療のメタルインレーやレジンインレーよりは通院回数が増えてしまいます。
- ジルコニアの費用の相場を教えてください
- ジルコニアインレーの費用相場は、100,000〜150,000円程度です。ジルコニアインレーは、原則として自費診療となることから、歯科医院によって費用も変わります。
ジルコニアの詰め物を選ぶときの注意点
ジルコニアの詰め物を選ぶ際の注意点を解説します。
- ジルコニアとほかの白い詰め物との違いを教えてください
- レジンインレーとは、強度に大きな違いが見られます。レジンはプラスチックなので容易に割れたり欠けたりしますが、金属に匹敵する強度を誇るジルコニアで、そのようなトラブルが起こることはまずありません。経年的な摩耗や変色が起こることもないです。
セラミックインレーより審美面においては劣ってしまいます。白いきれいな詰め物ではあるものの、ジルコニアは透明感に乏しくセラミックと同じ美しさは実現できません。一方で、ジルコニアの強みは、強度と耐久性の高さで、強い力がかかっても割れるようなことは少ないです。
- ジルコニアが向いているのはどのような人ですか?
- 次のような人には、ジルコニアの詰め物が向いているといえます。
- 天然歯に近い色の詰め物を入れたい
- 劣化しにくい素材を使いたい
- 歯ぎしりや食いしばりの習慣がある
- むし歯の再発リスクを抑えたい
- 金属アレルギーがある
- メタルタトゥーを回避したい
これらを総合すると、ジルコニアインレーは奥歯の治療で、審美性・機能性・耐久性・生体適合性の高い装置を希望している人に向いているといえます。
編集部まとめ
今回は、白い詰め物のジルコニアの特徴やメリット・デメリットについて解説しました。ジルコニアはセラミックの一種で、天然歯に近い色調を備えているだけでなく、金属に匹敵する硬さを誇る素材なので、審美性や機能性、耐久性の高い奥歯の詰め物を希望している人に向いています。その一方で噛み合う天然歯を傷つけるリスクがある、費用が高い、治療期間が長いなどのデメリットを伴う点に注意が必要です。ジルコニアインレーに関心のある人は、メリットだけでなくデメリットまで正しく理解した上で検討を進めていくことが大切です。
参考文献