道端で転んだり、交通事故で口元を強打したりした際に、歯が欠けることがあります。歯は、再生することがない組織なので、ひざを擦りむいて出血するのとは深刻度が大きく異なるものの、痛みがなければ放置しておいてもよいように感じます。実際、歯が欠けて痛みや出血がない場合は、様子を見てとりあえず放置する方も少なくありません。ここではそんな歯が欠けたけれど痛くない場合の対処法や放置するリスク、適切な治療法などを解説します。
歯が欠けたけれど痛くない場合は放置してもよい?
結論からいうと、歯が欠けた場合は、痛みの有無に関わらず放置するのはNGです。冒頭でも述べたように、歯は再生することがない組織で構成されており、そのままの状態で放置するとさまざまなリスクが生じます。放置しておくと歯そのものを失うこともあるため、歯が欠けた場合は、痛くなかったとしても歯科を受診するようにしましょう。同時に、後段で解説する応急処置も適切に施す必要があります。
歯が欠けた状態で放置するリスク
欠けた歯を何もせずに放置すると、次に挙げる3つのリスクが生じます。
むし歯や歯周病のリスクが高まる
欠けた歯を放置するリスクに、むし歯になりやすくなる点が挙げられます。歯は健全なエナメル質で全体が覆われていることで、正常な機能を果たすことができています。そこに、一部でも正常な機能を果たさないエナメル質が含まれていたり、外傷によって亀裂が入っていたりすると、外からの刺激を受けやすくなってしまいます。傷口がむき出しとなっているような状態でもあり、細菌に感染するリスクが高くなっている状態です。
歯が欠けた部分が深いと、象牙質や歯の神経が露出していることもあります。象牙質が露出していると、冷たいものがキーンとしみる知覚過敏になりやすいです。もし、歯の神経が露出している場合は、歯髄の感染が起こりやすく、ズキズキと痛む歯髄炎のリスクも高まります。
ちなみに、外傷を負った際に歯茎や歯槽骨がダメージを受けると、歯周病のリスクも高まります。歯が欠けた後、歯周病を発症しやすくなるのは、口腔内の衛生状態が悪いことも考えられます。
噛み合わせが悪くなる
歯が欠けたまま放置をしていると、噛み合わせが悪くなってしまいます。欠損した歯が、前から1番目の中切歯であれば、食べ物を噛み切る機能が低下します。もし、その状態を放置し続けると奥歯に大きな負担がかかり、歯の摩耗や破折につながるかもしれません。
その結果、全体の噛み合わせにまで影響することは少なくありません。歯並びや噛み合わせは、すべての歯が支え合うことで正しいものとなっているので、1本でも欠けたり、抜けたりすると、全体に深刻なトラブルを引き起こしかねないのです。
口腔内を傷つける可能性がある
歯が欠けた部分が鋭利だと、舌や頬の内側の粘膜などを傷つけることがあります。粘膜が慢性的に傷つけられると、口内炎の発症にもつながります。歯が欠けた部分は正常な歯質より脆くなっていることから、外からの刺激が加わると、さらに欠けてしまうリスクもあります。
歯が欠けたときの応急処置
何かの拍子に歯が欠けた場合は、まず以下の方法で応急的に処置しましょう。
欠けた歯を保存する
歯が欠けた場合、早急に歯科医院を受診すると戻せる場合があります。そのため、欠けてしまった歯を清潔に保存することが大切です。保存するときの注意点は、歯を過剰に洗浄したりアルコールで殺菌消毒したりするのは避けましょう。
欠けた歯をもとに戻すためには、可能な限りもともとの状態を維持することが大切です。もし汚れていたとしても、水道水で軽く洗い流す程度にして強い力をかけないようにしましょう。その後は、口腔内と同じpHを保てる牛乳や生理食塩水に浸けてください。
患部に触れない
歯が欠けた部分は、歯質が脆くなっているため、触ると欠損が広がるおそれがあります。また欠損部は、消毒薬や熱い飲み物、辛い食べ物などに触れると、強い痛みが生じることもあるため、できる限り刺激しないようにしてください。
歯はとても硬く、普段は外からの刺激も受けにくい器官であることから、皮膚にできる傷口とは別のものとして考えがちですが、欠けた部分はとてもデリケートな状態にあることを忘れないようにしましょう。
患部を冷やす
欠けた歯やその周囲の歯茎などに痛みが生じている場合は、患部を冷やすことで症状を緩和させられます。患部を氷で直接冷やすようなことは避けてください。氷の刺激によって歯に強い痛みが生じるだけでなく、血流が悪くなることでかえって症状が悪化してしまうことがあります。
患部は口腔外から冷やす方法がおすすめです。冷却剤や氷を包んだタオルを顎にあてるように冷やしましょう。1回あたり15分程度を目途に冷却することが望ましいです。
鎮痛剤を服用する
歯が欠けたことによる痛みが、冷却しても緩和されないときは鎮痛剤を服用してもよいでしょう。ドラッグストアで市販されている鎮痛剤でも問題ありません。鎮痛剤は一時的な応急処置であり、痛みの原因を根本から取り除く方法ではないです。可能な限り早く歯科を受診しましょう。
歯が欠けた程度別の治療法
次に、歯が欠けた場合の治療法を解説します。欠けた歯の治療法は、重症度によって大きく変わります。ここではその目安と症状と治療法を紹介します。
欠けた箇所が小さい場合
歯が欠けた箇所がとても小さく、範囲が狭い場合は治療も容易に行えます。基本的には、欠けた部分の形を整えて、コンポジットレジンと呼ばれる歯科用プラスチックを盛り付けます。コンポジットレジンは、10秒程度の光照射で固めることができるため、歯型を取る必要はありません。欠けた歯の治療を即日終わらせることができる治療法です。
コンポジットレジンは、患者さんの歯の色に近い材料を選ぶことで、自然な仕上がりが期待できます。ただし、経年的な摩耗や変色が起こりやすい材料なので、2~3年で再治療が必要になることも少なくありません。その点も理解したうえでコンポジットレジンによる修復治療を受ける必要があります。
欠けた箇所が中くらいの場合
歯が欠けた箇所が中くらいで、コンポジットレジン修復では対応できない症例では、詰め物や被せ物などによる治療が必要となります。どちらも歯型取りが必要になることから、2回以上は通院しなければなりません。また、詰め物や被せ物を装着するためには、ある程度の歯質を削る必要があります。被せ物で治療する場合は、歯を削る量も自ずと多くなってしまいます。
欠けた箇所が大きい場合
歯が欠けた箇所が大きく、歯の神経が露出している場合は、根管治療が必要となります。根管治療とは、細菌に感染した神経や血管を取り除いたうえで、根管を清掃する処置です。神経が分布する部分から出血が認められる場合は、ほとんどのケースで根管治療が必須となります。
根管治療にかかる期間は長く、治療の難易度も高くなります。歯が欠けてしばらく放置したケースでは、根管の状態も悪くなっているため、治療も難航することでしょう。
大きく破折した場合
歯が大きく破折した場合は、上述した根管治療と被せ物治療で対応できる場合もありますが、抜歯となることも少なくありません。
抜歯の適応は、破折した部分が歯茎の中であったり、歯根が縦に割れていたりする場合が該当します。そうしたケースでは、根管治療を適切に行うことが困難であるため、抜歯が第一選択となりやすいのです。根管治療を行っても、感染した部位をきれいに取り除けない場合は抜歯となります。抜歯をした後は、入れ歯・ブリッジ・インプラントといった補綴治療を行います。
歯が欠けた程度別の治療費の目安
欠けた歯の治療の費用について、重症度別に解説します。また、診療形態によっても費用は大きく変わることから、ここでは保険診療と自費診療に分けて、治療費の目安を紹介します。
欠けた箇所が小さい場合
【保険診療】1500~2500円程度
欠けた箇所が小さい場合は、コンポジットレジン充填で治療できます。保険適用のコンポジットレジン充填は、1500〜2000円程度で受けられます。この費用には、初診料などは含まれていません。
【自費診療】10000~30000円程度
自費診療では、ダイレクトボンディングという治療法を選択できます。ダイレクトボンディングは、コンポジットレジン充填と変わりはありませんが、選択できる材料や使用できる機材が異なるため、よりよい仕上がりが期待できます。 小さく欠けた箇所をより美しく、より自然に治療したいという方には、ダイレクトボンディングの方がおすすめです。ダイレクトボンディングの費用は、一ヵ所あたり10000〜30000円程度です。
欠けた箇所が中くらいの場合
【保険診療】3,000~6,000円程度
欠けた箇所が中くらいの場合は、詰め物や被せ物で治療することになります。保険診療の詰め物や被せ物では、金銀パラジウム合金(銀歯)やレジン、CAD/CAM冠(きゃどきゃむかん)などを使用できます。これらの費用の目安は、1箇所あたり3,000〜6,000円程度です。製作する装置が詰め物なのか被せ物なのかによっても費用は変わります。
【自費診療】30,000~200,000円程度
自費診療の詰め物・被せ物治療では、セラミック、ジルコニア、メタルボンド、ゴールドなどを選択することができ、審美性や機能性、耐久性を追求できます。費用も選択した材料や装置の種類に応じて大きく異なるため、目安としては30,000〜200,000円程度と値段の幅が広くなります。
欠けた箇所が大きい場合
【保険診療】15,000~20,000円程度
欠けた箇所が大きい場合は、被せ物治療に加えて、根管治療の必要がでてきます。保険診療の根管治療は、費用が全体で数千円程度にとどまることから、被せ物の費用も含めたとしても総額15,000〜20,000円程度におさまるのが一般的です。難しい症例の根管治療では、費用がさらに高くなります。
【自費診療】150,000~350,000円程度
根管治療と被せ物治療の両方を自費診療で行う場合は、費用もかなり高額となります。まず、自費の根管治療の費用に加えて、被せ物治療では、50,000〜200,000円程度が費用の目安となります。欠けた箇所が大きい症例における自費診療の治療費は、150,000〜350,000円程度となり、保険診療の10倍以上のコストがかかることがわかります。
大きく破折した場合
【保険診療】5,000~10,000円程度
歯が大きく破折して抜歯を余儀なくされたケースでは、歯を抜く費用として1,000円前後、失った歯の治療費は入れ歯で5,000〜10,000円程度、ブリッジで10,000円前後となります。
【自費診療】100,000~500,000円程度 歯が大きく破折した場合、抜歯は保険診療で行うことが可能です。その後の補綴治療を自費診療で行う場合は、入れ歯、ブリッジ、インプラントで費用相場が大きく変わります。
入れ歯は100,000〜200,000円程度、ブリッジは150,000〜200,000円程度の費用がかかります。インプラントの場合は、1本あたり300,000〜500,000円程度の費用がかかるため、治療法を選択する際には慎重に検討する必要があります。
まとめ
今回は、歯が欠けたけれど痛みがない場合の対処法や放置するリスク、治療する方法などを解説しました。受傷後に痛みがなかったとしても、歯がかけた場合に放置するのはNGです。そのまま治療を受けずにいると、むし歯のリスクが高くなったり、噛み合わせが悪くなったりする可能性も十分に考えられます。欠けた歯の治療法は、重症度によって変わるため、まずは歯科を受診してカウンセリングを受けましょう。欠けた歯の治療にかかる費用も重症度や選択した治療法によって大きく変わります。
参考文献