銀歯を白くしたい。むし歯を削った跡を見た目がきれいな素材で補いたい。そのような希望に応えてくれるのがセラミックです。セラミックは、天然歯の色調や光沢、透明感などを忠実に再現できることから、審美治療で用いられています。そのなかで、セレックという治療法を耳にして気になっている方もいるでしょう。このコラムでは、セレックの特徴やメリットデメリット、セラミック治療の違いについて詳しく解説します。セレックとセラミックにはどのような違いがあるのか疑問に思っている方は参考にしてみてください。
セレックの概要
セレック(CEREC)の基本事項を確認しておきましょう。
セレックの仕組み
セレックとは、Ceramic Reconstruction(セラミック修復)の略称で、セラミックを使った詰め物や被せ物治療を指します。歯型取りには専用の口腔内スキャナーを用いて行われ、はAD/CAM(Computer-Aided Design/Computer-Aided Manufacturing)というデジタル技術が活用されています。
修復物の設計をコンピューターで行って、ミリングマシンと呼ばれる専用の機械でセラミックブロックを削り出すことで、セラミックインレーやセラミッククラウンを製作をします。
修復物製作の大半がデジタル化されているため、従来のセラミック治療よりも手間がかからず、患者さんの心身にかかる負担を抑えられる方法です。
セレックの特徴
セレックは、先進のデジタル技術を用いて行うセラミック治療です。従来は手作業で行っていた詰め物や被せ物の診療や装置の製作をデジタル機器で精密に行える点がセレックの特徴です。
近年は、セラミック治療以外にも歯列矯正、インプラント治療、画像診断の分野にもデジタル技術が広く使われています。
セラミックとの違い
従来のセラミック治療との違いは以下があります。
◎セレック治療では型取りが不要
セレックと従来のセラミック治療の違いは歯型の取り方です。従来は臭いの強いシリコーンゴムの印象材を口腔内に詰め込まなければならなかったのですが、セレックの場合は小型の口腔内スキャナーを歯にかざすだけで必要な情報が得られます。スキャニングによって得られる情報は、従来の歯型取りよりも正確といわれています。これまでは、歯型取りをする人の技術によって、印象がきれいに取れず、正確な歯型にならないこともありました。口腔内スキャナーでは、正しい方法で取り扱っている限り、得られる情報に差はありません。
◎詰め物や被せ物の作り手の違い
通常のセラミック治療で詰め物や被せ物を製作するのは歯科技工士が行います。歯科技工士は、修復物や補綴物を手作業で製作する職人なので、技工士によって技術さが生じます。
同じセラミッククラウンを作るにしても、経験が浅くて、技術力が低い歯科技工士が製作を担当した場合は、精度が荒くなる可能性があります。
セレックでは詰め物や被せ物の製作をミリングマシンという機械が行います。コンピューターで調整した設計図をもとに、ミリングマシンがセラミックブロックを削り出すため、均一な仕上がりが期待できます。設計図の微調整は技工士が行うので、すべて工程で人の手から離れるわけではありませんが、削り出す工程はミリングマシンが精密に実行してくれます。
セレックのメリット・デメリット
セレック治療に伴うメリットとデメリットを解説します。
セレックのメリット
セレックで行う治療には、以下の5つのメリットがあります。
【メリット1】短時間で治療が完了する
セレックでは、歯型取りから装置の設計、製作に至るまでがデジタル化されていることから、詰め物や被せ物の治療時間が短いです。患者さんは口を開けている時間やチェアに座っている時間も短くなることから、セレックなら心身にかかる負担も抑えられます
【メリット2】通院回数が少ない
セレックは、通院回数が少ないメリットがあります。歯型を取って模型を作り技工所に送ってから、詰め物や被せ物の製作を発注するというプロセスを省けます。
【メリット3】適合性の高い詰め物や被せ物が作りやすい
セレックでのスキャニングや装置の設計、削り出しなどはデジタル技術を用いるため、アナログな方法よりも精度を高めやすいというメリットがあります。歯質にぴったり適合する詰め物や被せ物は、細菌が侵入するすき間が生じないため、むし歯の再発リスクも低くなります。
【メリット4】耐久性が高い
セレックで用いるセラミックブロックは、素材全体が均質なので耐久性が高いです。壊れにくく、劣化もしにくいというメリットがあります。
【メリット5】仮歯の期間がない
セレックなら仮歯の期間がなく、日常生活に支障をきたすこともありません。治療したその日から食事も歯磨きも普段どおりに行えます。
セレックのデメリット
セレック治療は、以下の3つのデメリットがあげられます。
【デメリット1】適用範囲がやや狭い
セレックは適応できる範囲がやや狭いです。複数の歯の欠損を補うためのブリッジは、セレックのシステムで製作することができません。ほかにも患者さんの歯やお口の状態によってはセレックが使えない場合があります。
【デメリット2】対応している歯科医院が限定される
セレックのシステムを導入している歯科医院は一部に限られています。ホームページでセラミック治療が紹介されているからといって、セレックに対応しているとは限りません。
【デメリット3】保険診療より費用が高い
セレックには健康保険が適用されないため、治療費が高くなります。
セラミックのメリット・デメリット
続いては、セレックと比較した従来のセラミック治療のメリットとデメリットについて解説します。
セラミックのメリット
【メリット1】審美性を追求できる
セラミック治療では、見た目の美しさを追求できる治療です。経験が豊富な歯科技工士が、歯のデコボコや陰影まで忠実に再現してくれます。セラミックブロックから削り出すセレックでは不可能な調整です。
【メリット2】対応している歯科医院が豊富
セラミック治療は、ほとんどの歯科医院で対応しているため、歯医者選びに苦労をしません。
セラミックのデメリット
【デメリット1】診療時間が長い
セラミック治療では、診療プロセスの大半が手作業となるため、セレックと比較すると長い時間がかかります。
【デメリット2】通院回数が増える
従来の方法でセラミックの詰め物や被せ物を製作する場合は、少なくとも2回の通院が必要となります。セレックのように即日治療が終わることはまずありません。
【デメリット3】費用が高くなりやすい
治療プロセスの大半がデジタル化されているセレックよりも、従来のセラミック治療は費用が高くなりやすいです。
セレック治療の流れと費用
セレック治療の流れと期間や費用の目安について解説します。
セレックの治療の流れ
標準的なセレック治療は、次の流れで進行します。
【STEP1】歯の形成
セレック治療の手順のはじめは歯の形を整えることからです。事前に局所麻酔を施すため、痛みを感じることはありません。むし歯治療でセレックを活用する場合は、むし歯に感染している歯質を削ったうえで、歯の形を整えることになります。
【STEP2】歯型取り
詰め物や被せ物を作るためには、歯型が必要となります。セレックでは、口腔内3Dスキャナーを使って治療する歯だけでなく、周りの歯や噛み合わせの状態などをスキャニングによって取得します。歯型のスキャンにかかる時間は数分程度です。
【STEP3】詰め物・被せ物の設計
スキャニングによって得られた情報をデータに変換します。患者さんの歯型のデータをコンピューターに取り込み、専用のソフトを使って詰め物や被せ物の設計をします。このときに歯の形や噛み合わせなどに微調整を加えることで、理想に近いセラミックインレーやセラミッククラウンを作ることが可能となります。
【STEP4】詰め物・被せ物の作製
コンピューターで調整した設計図をもとに、ミリングマシンという専用の機械を使って、詰め物や被せ物を作製します。セラミックブロックを削り出すことで、セラミックインレーやセラミッククラウンが完成します。セラミックブロックの削り出しにかかる時間も数分程度です。
【STEP5】詰め物・被せ物の装着
完成した詰め物や被せ物を口腔内にセットしたら治療は完了です。セレックで作製したセラミックインレーやセラミッククラウンでも、噛み合わせなどの調整は行うことができます。
治療期間の目安
口腔内スキャンから詰め物や被せ物の装着までに要する期間は、基本的に1日で済みます。むし歯治療から始める場合は、もう少し長い期間がかかります。また、セレック治療でもミリングマシンが歯科医院に導入されておらず、修復物の作製を技工所に発注する場合は、通常のセラミック治療と期間に大きな差は見られません。歯型取りを行ってから1~2週間程度の期間が必要です。
治療費用の目安
セレック治療の費用は、詰め物と被せ物で異なります。セラミックインレーを作製する場合は、1本あたり4〜6万円程度かかります。セラミッククラウンを作製する場合は、1本あたり5~8万円程度かかります。健康保険が適用されないため、費用は全額自己負担です。
治療後のケアと注意点
◎セレック治療後のケア
セレックで作製した修復物は、通常のセラミックインレーやセラミッククラウンと違いはありません。汚れがつきにくく、変色や摩耗も起こりにくいことから、銀歯やレジン歯よりもケアしやすいです。また、歯と歯茎の境目をしっかり歯みがきすることで、歯周病の発症リスクを抑えられます。歯と歯の間の汚れは、デンタルフロスを使って取り除くようにしましょう。
◎セレック治療後の注意点
セラミックインレーやセラミッククラウンは、強度が高く、壊れにくい材料を使用しているものの、硬い食べ物を噛むと割れるおそれがあります。また、歯ぎしりや食いしばりといった悪習慣がある方は、セラミックの破損リスクが高まることから、できるだけ早期に改善するよう努めることが大切です。
セレック治療後に定期的なメンテナンスを受けていれば、セラミックインレーやセラミッククラウンの異常を早期に発見できますし、トラブルを予防することにも寄与します。
もしセラミックインレーやセラミッククラウンが割れたり、外れたりした場合でも、セレック治療後のメンテナンスを定期的に受診することで、3年保証や5年保証などが適応されて、再治療を無償で受けられるケースも少なくありません。
セレックとセラミック治療どちらを選べばいいのか
セレック治療とセラミック治療はそれぞれどのような方におすすめなのかを解説します。
セレック治療がおすすめの方
セレック治療が推奨されるのは、セラミックによる治療の期間を短くしたい、不快な歯型取りをしたくない、仮歯の期間を作りたくない、費用を抑えたい方です。
セラミック治療がおすすめの方
セラミック治療が推奨されるのは、セラミックインレーやセラミッククラウンの審美性を追求したい、セレック治療が適応できない症例、セレック治療に対応している歯科医院が近くにない方です。
セレック治療と比較すると、治療費がやや高く、治療期間も長くなるセラミック治療ですが、見た目の美しさを追求できる点をメリットに感じる方は少なくありません。
まとめ
今回は、セレックとセラミック治療の違いやそれぞれのメリットとデメリット、費用の目安などについて解説しました。セレックは、口腔内スキャナーで歯型を取り、詰め物や被せ物の設計から製作までデジタル技術を駆使して行うセラミック治療です。従来のセラミック治療と比べると、治療期間が短い、通院回数が少ない、装置の適合性が高い、治療費が安いなどのメリットが得られる反面、審美性を追求することは難しい、適応できない症例がある、対応している歯科医院が少ないなどのデメリットも伴います。そのためセレック治療を検討中の方は、メリットとデメリットの両方を正しく理解したうえで自分に合った治療法を選択することが大切といえます。
参考文献