むし歯治療や審美治療で被せ物や詰め物、差し歯を行う際は、従来の素材だけでなく、セラミックやジルコニアという新素材を選ぶこともできます。
ただ、セラミックやジルコニアがどのような素材なのかを理解している方は少ないかもしれません。
治療を検討する際には、セラミックやジルコニアのメリットやデメリット、強度、費用を把握し、自身にとって適切な素材かどうかを判断することが重要です。
セラミックとジルコニアの特徴
セラミックとジルコニアに共通する特徴は下記のとおりです。
- 身体に優しい
- 強度が高い
- 審美性がある
そもそもセラミックとは、鉄や銅などの金属やプラスチックなどの有機物を除くすべての素材を表します。ジルコニアはセラミックという素材における1つの種類です。
セラミックは有機物ではないため、身体に優しい素材となっています。強度が高く、耐久性があることも特徴の一つです。
見た目の点では、銀歯は他人に気付かれやすい素材です。しかし、セラミックやジルコニアはほかの歯と比べて遜色ない歯の見た目を実現することができます。
これからセラミックとジルコニアの特徴を個別に解説していきます。
セラミック
歯科治療で使用されるセラミックの素材には、次の3種類があります。
- ハイブリッドセラミック
- メタルボンド
- オールセラミック
ハイブリッドセラミックは、レジンと呼ばれるプラスチック素材にセラミックを混ぜたものです。頑丈さはありますが、審美的にはオールセラミックには劣ります。
メタルボンドは表面はセラミックで内側には金属が使われている複合素材です。耐久性はありますが、審美性を重視する方や金属アレルギーのある方には不向きです。
オールセラミックは、名前のとおりセラミックのみでできた差し歯や被せ物です。耐久性はジルコニアやメタルボンドに劣りますが、自然な色合いを求める場合には、オールセラミックが適しています。
セラミックは金属ではないため、金属アレルギーを持っている方でも使用することができます。また、身体との親和性が高く、拒否反応を示す可能性は低いようです。
ジルコニア
ジルコニアはセラミック素材の一種です。耐久性においては、丈夫なセラミック素材のなかでも上位に位置します。
長年使用しても割れたり欠けたりすることが少ないため、噛む力が強くかかる奥歯に使用されることが多いようです。
ほかのセラミック素材と同様に、金属ではないため、金属アレルギーの方でも口腔内で使用できます。
セラミックとジルコニアはどっちがいい?
セラミックとジルコニアを比較する際には、以下の5点を検討しましょう。
- 見た目
- 強度と寿命
- 適応する部位
- 費用
- 治療範囲
セラミックもジルコニアも審美的にも強度的にも、金属や樹脂と比べて優れた部分が多くなっています。ただし、こうした優れた特性を持つため、費用はほかの素材と比べると高くなる傾向があります。
素材を前歯と奥歯のどちらに使用するのかによっても、セラミックとジルコニアでは違いがあることを留意しておくとよいでしょう。
また見た目や強度、費用のうちどのポイントを重視するかによって選ぶ素材が異なるため、ご自身にとって適切な素材を慎重に検討しましょう。
見た目
セラミックもジルコニアも審美的にはもとの歯に近い色にすることができます。
金属やプレスチックを含む素材はオールセラミックやジルコニアと比較すると、見た目の自然さがやや劣ります。
ジルコニアは、自然な色だけでなく歯の艶や透明感を作り出すことができるため、審美性を重要視される方はジルコニアを選ぶとよいでしょう。
強度と寿命
ジルコニアはセラミックよりも強度がとても高く長持ちする傾向があります。
一般的に歯に被せたものをした状態で、咀嚼をしたり歯ぎしりしたりすると被せ物の強度は弱まり、寿命は短くなります。
しかし、ジルコニアはダイアモンドのような硬さと表現されることもあるくらい、頑丈な素材です。セラミックに金属を組み合わせた素材(メタルボンド)を使用することで、耐久性を高めることができます。
適応する部位
ジルコニアは審美性や耐久性の両方に優れているため、歯列の部位に関係なく幅広い部位で使用できます。上下の歯が噛み合うことが多い奥歯でも、長期間にわたって使用することが可能です。
オールセラミックの場合、ジルコニアやメタルボンドと比べて強度が落ちるため奥歯よりも前歯で使用されることが少なくありません。
費用
ジルコニアとセラミックともに保険が適用されない自由診療となり、歯科医院によって値段は異なりますが、高額になる傾向があります。
ジルコニアやセラミックは、金属やプラスチックと比べて素材自体の価格が高いためです。
ジルコニアの被せ物の費用相場は、約88,000~176,000円(税込)となります。セラミックを被せ物として使用する場合は、約80,000~200,000円(税込)です。
治療範囲
ジルコニアやセラミックは、差し歯や被せ物、詰め物として、すきっ歯やむし歯の治療に多く用いられています。ただし、メタルボンドの場合は被せ物にしか適用できません。
セラミックと他素材の混合物は、一部の治療には適さない場合があるため、選択時には注意が必要です。
セラミックのメリットとデメリット
セラミックには、オールセラミックやメタルボンド、ハイブリッドセラミックの3種類があります。
ジルコニアではなくセラミックを選ぶ際には、種類ごとの特徴を理解することが重要です。そのため、一つひとつのメリットとデメリットを解説していきます。
メリット
オールセラミックのメリットは以下のとおりです。
- 審美性が高い
- 経年劣化に耐えうる変形や着色が少ない
- むし歯や歯周病のリスクが低い
- 金属アレルギーの心配が少ない
オールセラミックを選ぶ方には、審美性の高さから人の目に触れる機会が多い前歯に使用される方が多いようです。
銀歯やほかのセラミック素材と比較しても、特に審美性に優れています。また素材にある程度強度があり艶があることから、長年使用しても形状や色の変化が少ない点もメリットです。
金属は経年劣化により変形することがありますが、オールセラミックはそのリスクが低いとされています。
変形が起こると隙間に細菌が侵入し、むし歯や歯周病の再発につながる可能性があります。メタルボンドのメリットは以下のとおりです。
- 耐久性が高い
- 歯ぎしりや噛む力が強い方でも使用できる
セラミックの審美性をある程度保ちつつ、金属の頑丈さを手に入れることができるのがメリットです。また、オールセラミックやジルコニアと比べると費用面で安く抑えることができる可能性があります。
ハイブリッドセラミックのメリットは以下のとおりです。
- 費用を抑えることができる
- 噛み合わせの歯に優しい
ハイブリッドセラミックは、セラミックとプラスチックの混合物です。混合物のため、メタルボンドと同様にオールセラミックとジルコニアと比べて安価な傾向にあります。
金属製の素材は、咀嚼や歯ぎしりの際に対合歯を傷つける恐れがありますが、ハイブリッドセラミックは柔軟性があり、そのリスクが抑えられます。
デメリット
オールセラミックのデメリットは以下のとおりです。
- 強度に劣る
- 歯ぎしりや咀嚼が強い方には適さない
噛み合わせが強い方がオールセラミックを使用すると、破損や欠けが生じやすく、被せ物や差し歯の寿命が短くなる恐れがあります。
メタルボンドのデメリットは以下のとおりです。
- 金属アレルギーの方にはあわない
- 審美性に欠ける
メタルボンドは審美性がやや劣るため、見た目を重視する方には適さない場合があります。
セラミックが使用されているため、銀歯よりは審美性が高いものの、透明感や自然さではオールセラミックやジルコニアは劣ります。
また金属アレルギーの有無に関わらず、金属製の素材に抵抗がある方には適しません。ハイブリッドセラミックのデメリットは以下のとおりです。
- 耐久性に劣る
- 審美性が相対的に低い
ハイブリッドセラミックに含まれるプラスチックは、金属やセラミックと比べて耐久性が劣ります。そのため、変形や欠けが生じやすいです。
色素が変化して黄ばむ可能性があるため、目立ちにくい奥歯に使用するのが適しています。
ジルコニアのメリットとデメリット
ジルコニアには多くの利点がありますが、すべての方に適しているわけではありません。
素材として優れているからこそのデメリットもあるため、かかりつけの歯科医師と相談し、自身に合った素材を選びましょう
メリット
ジルコニアのメリットは以下のとおりです。
- 強度が高い
- 審美性が高い
- 身体に優しい
- 経年劣化しにくい
ジルコニアは、ほかのセラミック素材と比べて特に高い硬度を持っていることが特徴の一つです。
そのため、オールセラミックよりも耐久性に優れているため、歯ぎしりや食いしばりのある方にも適しています。
被せ物が欠けたり削れたりすることが少ないので、口腔内の衛生環境を保つことにつながります。
オールセラミックの方が審美性が優れているという意見もありますが、ジルコニアも同じくらい自然な色調で、天然の歯の色と比べても遜色はありません。
身体親和性が高く、口腔内で拒絶反応を示すことは少ないでしょう。また金属ではないため、金属アレルギーの方でも使用できるのも大きなメリットの一つでしょう。ジルコニアの表面は滑らかなため、汚れや歯垢が付きにくいようです。
デメリット
ジルコニアのデメリットは以下のとおりです。
- 製作や調整の難易度が高い
- 天然の歯へのダメージ
- 費用が高額
ジルコニアの加工や調整は難しく、歯科医師や技工士には高度な精密技術が必要です。近年ではコンピューターを用いて、被せ物の設計を行うことが一般的になり正確性は増してきました。
しかし、患者さんの歯列や口腔状況に合った被せ物や差し歯が作れるかどうかは、歯科医師や技工士の技術に拠るところが大きいようです。
また強度の高さゆえに、咀嚼や歯ぎしりを繰りかえすと、天然の歯を傷つけてしまう可能性もあります。
強度の高さにより、従来の被せ物が外れたり破損したりする可能性がある点も考慮が必要です。ほかのセラミック素材と比べても、ジルコニアは費用が高い傾向にあります。
素材として審美的にも強度的にもさまざまな面で優れており、歯科医師や技工士の高い技術力が必要なことが高額になる要因の一つです。
セラミックとジルコニアの選び方
患者さんが差し歯や被せ物を製作してもらう際にどのポイントを重視するかによって、セラミックかジルコニアかを選択するとよいでしょう。
見た目や強度、価格のうちどの項目を重要視するかは個人によって異なります。見た目と強度の両方を重視する場合は、価格が高額になる傾向があります。
低価格を重視すると、見た目や耐久性の面で劣る素材となります。患者さん自身のライフスタイルや価値観を踏まえて、慎重に選択することが大切です。
セラミックが適している方
金属とセラミックの混合物であるメタルボンドは、金属アレルギーがなく、審美性よりも強度を優先する方に適しています。
プラスチックとセラミックの混合物であるハイブリッドセラミックは、メタルボンドより強度は劣りますが、審美性は相対的に高い傾向です。
オールセラミックやジルコニアよりも費用を抑えて、審美性を保ちたい方には適しているでしょう。
オールセラミックは、審美性の面でメタルボンドやハイブリッドセラミックを上回ります。頑丈さではメタルボンドに多少劣る部分はあります。
そのため、前歯への差し歯や被せ物には特に適した素材といえるでしょう。
ジルコニアが適している方
審美性と強度の両方を重視する方に適しています。
ただし、保険適用にならず、素材費および技術料が高額になる傾向があるため選択する場合は注意が必要です。
また、歯科医院によって費用は異なるため、かかりつけの歯科医師に相談することをおすすめします。
セラミック治療で後悔しないための歯科医院選びのポイント
歯科医院選びのポイントは以下のとおりです。
- インフォームドコンセント
- メリットとデメリットの説明
- 豊富な症例数
歯科医師から治療の流れやリスクについて丁寧な説明があるかを確認しましょう。治療を受けるかどうかを、自身で納得のうえ慎重に判断することが重要です。
治療を選択する場合、各素材のメリットやデメリットを理解し、納得したうえで選択することが望ましいです。
症例数を公開している歯科医院もあるため、実績を確認することが大切です。セラミック治療は歯科医師の熟練の技術力と長年の経験を必要とします。
まとめ
セラミックとジルコニア、それぞれにメリットとデメリットが存在します。また、セラミックにはさまざまな素材があり、ジルコニアはセラミックの素材の一種であることも理解しておきましょう。
そのうえで、各素材の強度や審美性、値段、身体への親和性を考慮し、適切な素材を選ぶことが重要です。
かかりつけの歯科医師と治療方針や治療の流れ、素材について十分に話し合い、納得のうえで選択することが大切です。
参考文献