入れ歯は、たくさんの歯を失った場合に適応されるイメージを持っている方も少なくありません。そこで疑問に思うのが、入れ歯は1本だけでも作れるのかということです。失った歯が1本だけであればブリッジやインプラントの方が向いているのではと、入れ歯は選択肢から除外すべきか迷うところです。
この記事では、入れ歯を1本だけで作ることの可否や入れ歯の種類、費用相場などを詳しく解説します。入れ歯1本だけの歯科治療に関心のある方は参考にしてみてください。
入れ歯は1本だけでも作成できる
入れ歯は1本だけでも作ることができます。部分入れ歯に分類されるもので、人工歯とプレート部分である義歯床、金属製のクラスプから構成される点に変わりはありません。
1本だけの部分入れ歯は、装置の構造がシンプルになりますが、患者さんのお口の状態や失った歯の部位によっては、適応できないこともあるため歯科医師の判断となります。
1本だけの入れ歯の種類と特徴
1本だけの入れ歯を作る場合は、以下にあげる4種類の選択肢があります。それぞれの特徴について見ていきましょう。
レジン床義歯
レジン床義歯とは、スタンダードな入れ歯の種類です。人工歯と義歯床が歯科用プラスチックであるレジンで作られた入れ歯です。
残った歯に引っかけるための金属製クラスプが付属されています。1本だけの入れ歯の種類のなかでは健康保険が適用されるため、治療費を安く抑えることが可能です。その一方で、レジンは摩耗や変色が起こりやすく、強度も低いという欠点があります。使っていくなかで素材が劣化していくことから、装置としての寿命は短いです。レジンはシリコーンや金属よりも修理がしやすく、不具合が生じた際の調整はこまめに行えます。
シリコーン義歯
やわらかい素材のシリコーンを使った入れ歯です。歯茎に当たる部分がやわらかいシリコーンで作られていると、入れ歯で噛んだときの痛みや違和感が軽減されます。柔軟性のないプラスチックで作られたレジン床義歯よりシリコーン義歯が優れた点です。シリコーンは不具合が生じた際の修理がしにくく、汚れも吸着しやすいという欠点もあります。
ノンクラスプデンチャー
1本だけの入れ歯には、原則としてクラスプという金属製の留め具が付属されます。部分入れ歯は、総入れ歯やブリッジ、インプラントのような方法で口腔内に固定することができないからです。具体的には、総入れ歯における粘膜への吸着、残った歯を支台歯としてブリッジを被せる、顎骨に埋め込んだ人工歯根を土台とするといった固定様式がとれないため、残った歯にクラスプを引っかけなければならないのです。
クラスプは金属色がむき出しで、ギラギラと光りを反射する特徴があります。残った歯にも負担をかけるデメリットもあります。そのようなクラスプを設置する必要がない特殊な入れ歯をノンクラスプデンチャーといわれています。
ノンクラスプデンチャーでは、クラスプの部分が歯茎と同じ色をした樹脂で作られており、1本だけの入れ歯でも自然な見た目に仕上げられます。残った歯にかかる圧力も金属製のクラスプよりは緩和されるため、残存歯の健康にもよいといえるでしょう。こうした特徴を持つノンクラスプデンチャーでは、前歯1本だけを失った入れ歯治療に適しています。
金属床義歯
義歯床が金属で作られた入れ歯を金属床義歯といいます。金属床義歯は、複数の歯を失った場合に用いられることが多く、1本だけの歯の欠損に適応されることはまれです。ただし、噛み合わせや審美性、装着感を重視する症例では、選択肢となる場合もあります。義歯床が金属だと、食べ物の温度を感じやすい、強度が高いため義歯床を薄く作れる、壊れにくいなどの利点がある反面、金属アレルギーのリスクが生じるという欠点も伴います。
1本だけの入れ歯のメリット
1本だけ歯を失った場合に、入れ歯を選択するメリットを解説します。ここではその他の選択肢であるブリッジと入れ歯も紹介します。
保険が適用される
1本だけの入れ歯でレジン床義歯を選択した場合は、健康保険が適応されます。3割負担で5千〜1万円程度の支払いとなるため、患者さんは入れ歯治療にかかる費用を抑えられます。
1本だけの入れ歯でシリコーン義歯やノンクラスプデンチャー、金属床義歯などを選択した場合は、数万円から十数万円の費用がかかることから、経済的な負担は大きくなります。
健康な歯への負担が少ない
1本だけ歯を失った場合は、ブリッジを選択するケースが一般的です。ブリッジであれば、残った歯にしっかりと固定できますし、保険診療も選べます。しかし、ブリッジには残った歯を複数本、大きく削らなければならないというデメリットを伴います。
残った歯の削る量は、一般的な被せ物治療と同等です。前から6番目の第一大臼歯を失ったケースでブリッジを選ぶと、5番目と7番目の歯を大きく削らなければならないです。こうしたケースで1本だけの入れ歯を選択すれば、残った歯の寿命を短縮せずに済みます。健康な歯への負担を減らせるという点は、お口の健康を長いスパンで考えた場合にメリットとなるでしょう。
短期間で作れて手術が必要ない
1本だけの入れ歯の作製期間は短いです。早ければ3〜4週間、遅くても1〜2ヵ月以内には治療が完了します。1本だけの入れ歯では、残った歯を削ったり、顎の骨に人工歯根を埋め込んだりするような外科処置が必要ありません。
1本だけの入れ歯が合わなかった場合でも、不可逆的な処置が不要な治療法なので、その後にブリッジやインプラントへと切り替えることも可能です。
取り外しができる
失った歯の治療法のなかで、入れ歯は唯一、取り外しができます。口腔ケアを行うときは、装置を取り外した状態で歯磨きなどを行えるため、口腔衛生状態を良好に保ちやすいです。装置による不快症状が出たときには気軽に取り外せる点も入れ歯のメリットのひとつです。
1本だけの入れ歯のデメリット
歯を1本だけ失った場合に入れ歯を選択するデメリットを解説します。1本だけの入れ歯には、魅力的なメリットがありますが、デメリットも意外に多く見られることから注意が必要です。
噛む力が弱い
1本だけの入れ歯は、歯の欠損部に人工歯と義歯床を乗せる形の装置となります。そのため、残った歯を支えとするブリッジや顎骨に埋入した人工歯根を土台するインプラントよりも噛む力が弱いです。
違和感や異物感がある
1本だけの入れ歯には、金属製のクラスプやプラスチック製の義歯床が付いています。これは天然歯とはまったく異なる構造であることから、装着時の違和感や異物感は大きくなります。入れ歯による違和感や異物感は、時間の経過とともに気にならなくなりますが、ブリッジやインプラントにはないデメリットといえます。
審美性に問題がある
1本だけの入れ歯にはいろいろな種類があるため、審美性について一概に語ることは難しいです。金属製のクラスプがないノンクラスプデンチャーやシリコーン義歯は、部分入れ歯のなかでも自然な見た目に仕上げられます。
口腔に露出した部分が人工歯のみのインプラントやブリッジより、審美性に問題があると言わざるをえません。金属製のクラスプとプラスチック製の義歯床で構成されたレジン床義歯ともなると、審美障害はさらに大きくなります。
耐久性に限界がある
どのようなものでも構造が複雑になると、耐久性が低くなります。保険診療のレジン床義歯は、プラスチック製の人工歯と義歯床、金属製のクラスプを組み合わせた構造となっており、各パーツは不適切な圧力がかかることで容易に破損や脱落します。
人工歯が複数連結されたブリッジは、入れ歯よりも構造がシンプルで、耐久性も高いです。インプラントにいたっては、天然歯に限りなく近い構造をしていることから、耐久性も相対的に高くなっています。この点も1本だけの入れ歯を選択する前に、正しく理解しておく必要があります。
メンテナンスの手間がかかる
患者さんが自由に取り外せるという入れ歯の特徴は、お口と装置のケアがしやすい反面、メンテナンスに手間がかかるというデメリットを伴います。ブリッジやインプラントなら残った歯と一緒に歯磨きできるのですが、入れ歯の場合はお口と入れ歯を別々にケアしなければならなくなるからです。
入れ歯には、歯を磨く際の歯ブラシと歯磨き粉は、基本的に使えません。義歯ブラシという入れ歯専用の歯ブラシを使って、優しく丁寧に歯磨きしなければならないのです。さらに入れ歯は、1日1回の化学的な洗浄も必要となります。
入れ歯を1本だけ入れるときの費用相場
入れ歯を1本だけ入れる場合の費用も気になるところです。ここでは入れ歯の費用相場を保険適用と自費診療、素材の違いに分けて解説します。
保険適用と自費診療の違い
保険診療で1本だけの入れ歯を作る場合の費用は、3割負担で5千〜1万円程度です。インプラントの費用相場が1本あたり30〜50万円であることを考えると、保険診療の入れ歯がいかに安いかがわかります。1本だけの入れ歯であっても自費診療になると費用が高額になります。その値段は使用する素材によって大きく変わりますが、8〜20万円程度が全国的な費用相場です。
入れ歯の素材による違い
1本だけの入れ歯の費用相場は、使用する素材で大きく変わります。例えば、金属製の留め具がないノンクラスプデンチャーは、8〜15万円程度で作ることができます。
シリコーン義歯は、10〜20万円程度の費用相場となります。金属床義歯も同じくらいの費用相場ですが、チタンやゴールド、プラチナなどを使った場合は、20〜30円程度かかることも珍しくないため、インプラントと大差がなくなります。
入れ歯以外で1本の歯を補う方法
1本の歯の欠損に入れ歯を使うことの特徴やメリットやデメリットについては理解できたかと思います。おそらく、1本だけの入れ歯は決して万能ではないという印象を持った方が多いことでしょう。そこで別の選択肢として挙げられるのがインプラントとブリッジです。これらも入れ歯と同じ補綴治療の一種ですが、それぞれ異なる特徴とメリット・デメリットを持っています。
インプラント
インプラントとは、歯を失った部分にチタン製の人工歯根を埋め込む治療法です。噛んだときの力を人工歯根と顎の骨で受けとめることができるため、1本だけの入れ歯はもちろんのこと、ブリッジよりも噛む力が強いです。
これは顎の骨が痩せにくいというメリットにもつながります。また、インプラントは見た目が美しく、残った歯と自然に調和するため、審美性を追求したい方に推奨できる治療法といえます。しかしながらインプラントには健康保険が適用されない、外科手術が必須となる、治療期間が長いなど、たくさんのデメリットを伴うのも事実であり、1本だけの入れ歯と同様、万能な治療法ではありません。
ブリッジ
ブリッジとは、歯の欠損部にポンティックと呼ばれる歯冠だけの人工歯を配置し、その両隣に被せ物を連結した補綴装置です。両隣の被せ物は、残った歯を大きく削って被せるため、ブリッジは残存歯へのダメージが大きい補綴治療といえるでしょう。
その一方でブリッジは固定式の装置であることから安定性が高い、噛む力が強い、入れ歯よりもケアがしやすい、入れ歯よりも耐久性が高い、見た目が自然などのメリットを伴います。入れ歯と同じく保険が適用されるので、歯を1本失った症例では選択する人が少なくない治療法です。
まとめ
入れ歯を1本だけ入れる方法の可否や入れ歯の種類、費用相場について解説しました。歯を1本だけ失った症例に入れ歯を適応するのは可能で、保険が適用される、健康な歯への負担が少ない、外科手術が必要ない、治療期間が短い、装置を取り外せるなどのメリットがあると同時に、噛む力が弱い、審美性が低い、耐久性に限界があるなどのデメリットも伴うため、治療法の選択は慎重に行う必要があります。歯を1本だけ失った場合の治療法には、入れ歯・ブリッジ・インプラントの3種類があり、それぞれに異なる特徴とメリット・デメリットがあることから、まずは歯科医院を受診して、専門家の意見を聞くことをおすすめします。
参考文献