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酸蝕症と歯磨きの関係|歯磨き方法や日常生活で気を付けるべきことを解説!

酸蝕症と歯磨きの関係|歯磨き方法や日常生活で気を付けるべきことを解説!

「歯科で酸蝕症(さんしょくしょう)と診断されたら、どうすればよい?」と不安に感じるのは当然です。
歯が溶ける病気と聞くと、とても怖いものに感じますよね。しかし、酸蝕症は正しい知識を持って適切に対処すれば、進行を抑えられます。
本記事では、酸蝕症の原因から症状、歯磨きとの関係をわかりやすく解説します。

酸蝕症の概要

酸蝕症の概要

まずは、酸蝕症がどのような病気なのか、基本的なところから理解を深めていきましょう。
原因や症状を知れば、ご自身の状況と照らし合わせて、適切なセルフケアを実行できます。

酸蝕症とは

酸蝕症は、むし歯菌が原因ではなく、飲食物に含まれる酸や胃酸など、外部からの酸によって歯が化学的に溶かされてしまう病気です。
かつては酸を扱う工場などで見られる特殊な職業病と考えられていましたが、現代の食生活の変化に伴い、誰にでも起こりうる第三の歯科疾患として近年注目されています。

歯の表面を覆うエナメル質は、お口の中が酸性になってpHが5.5〜5.7を下回ると溶け始めるのが特徴です。
市販されている炭酸飲料やエナジードリンク、フルーツなどに含まれているクエン酸は酸性度が高く、酸蝕症を引き起こす一因になりえます。
一般的に流通している飲料のpHは以下のとおりです。

カテゴリ具体的な品目例pH値の目安酸蝕リスク
炭酸飲料コーラ2.2とても高い
スポーツドリンク一般的なスポーツドリンク3.3高い
果汁飲料オレンジジュース3.7高い
乳酸菌飲料ヨーグルトドリンク3.9高い
酢・酢飲料黒酢飲料、リンゴ酢2.5 – 3.5高い
ワイン白ワイン、赤ワイン3.0 – 4.0高い
栄養ドリンクビタミン配合ドリンク2.5 – 3.5高い
柑橘系果物レモン、グレープフルーツ2.0 – 3.0高い
そのほか梅干し、ドレッシング類3.0前後高い
中性・弱酸性麦茶6.1少ない
中性・弱アルカリ性牛乳、水6.7 – 7.0少ない

エナメル質のpHが下がった状態に頻繁にさらされることが、酸蝕症の直接的な原因です。

酸蝕症の症状

酸蝕症が進行すると、歯の見た目や感覚にさまざまな変化が現れます。初期段階では自覚しにくい場合も多いですが、注意深く観察すると気付ける以下のようなサインが特徴です。

  • 歯が全体的に溶け、象牙質が露出して色が濃く見える
  • 歯の先端にクレーター状のへこみができる
  • 前歯の先端部分の透明感が増して、透き通ったように見える
  • エナメル質が白く濁る、または光沢が失われる
  • 過去の歯科治療の詰め物が浮き上がっているように見える
  • 冷たいものや風が歯にしみる(知覚過敏)
  • 歯の角が取れて丸みを帯びた形になる
  • 歯が欠けやすくなる
  • 歯の色が黄色っぽく見える
  • 歯同士が当たったときに痛みや響きを感じる

特にわかりやすい自覚症状は知覚過敏です。
エナメル質がすり減り、食べ物や飲み物など外部からの刺激が神経に伝わりやすくなっているため、冷たい飲食物や甘いもの、歯磨きの際の接触、冷たい風などで歯にしみるようになります。

また、重症化すると熱いものがしみたり、噛んだときに痛み(咬合痛)を感じたりする場合もあります。
これらの症状は単なる知覚過敏やほかの歯科疾患と似ているため、自分で酸蝕症かどうかを判断するのは難しいです。

酸蝕症の原因

酸蝕症の原因となる酸は、身体の外から取り入れる外因性と、身体の中からくる内因性の2つに大きく分けられます。
外因性の原因は、酸性の飲食物の頻繁な摂取が主な原因です。
ある研究では、健康意識が高い方が黒酢を数年間にわたり飲み続けたところ、酸蝕症の症状が起きていたことがわかりました。
健康や美容のために良かれと思って摂取しているものが、歯にとってはリスクになっているケースも少なくありません。
レモンやグレープフルーツ、みかんなどもpHが4.0以下のため、過度な摂取は控え、摂取後はうがいをしましょう。
ビタミンCなどの酸性のサプリメントも原因となりえます。

一方、内因性の原因は、胃酸(pH1.0〜2.0)がお口の中に逆流することが原因です。
逆流性食道炎による胃酸の込み上げや、摂食障害、過度のアルコール摂取に伴う嘔吐などが、内因性の酸蝕症を引き起こす代表的な要因として挙げられます。
また、妊娠中のつわりによる嘔吐も酸蝕症の一因です。
内因性の酸蝕症は、上顎前歯の裏側(口蓋側)や、下顎臼歯の噛み合わせ面に症状が現れる傾向にあります。

酸蝕症と歯磨きの関係

酸蝕症と歯磨きの関係

「酸で歯が溶けるなら、歯磨きでさらに削れてしまうのでは?」と心配になるかもしれません。
実際は、歯磨きが悪者なのではなく、タイミングと方法が重要です。
むしろ、酸蝕症の進行を防ぐためには、日々の歯磨きは欠かせません。
以下では、酸蝕症と歯磨きの正しい関係性を解説します。

歯磨きは酸蝕症の原因になる?

結論からいうと、歯磨き自体が酸蝕症の直接的な原因になるわけではありません
酸蝕症を引き起こす根本的な原因は、あくまで酸による歯質の化学的な溶解です。
歯磨きはお口の中の清潔を保ち、むし歯や歯周病を予防するためには欠かせません。
酸蝕症を恐れて歯磨きをやめてしまうのは、かえって別の口腔トラブルを招く可能性があります。

ただし、酸にさらされたすぐ後にブラッシングをすると、象牙質がすり減りやすくなるおそれがあります。
酸蝕症の疑いがある場合は、歯磨きをどのタイミングでどのように行うかを意識しましょう。

酸蝕症と歯磨きの関係

酸蝕症と歯磨きの関係で特に注意すべきなのは、酸に触れて軟化した歯を、歯ブラシで削り取ってしまう摩耗との相乗効果です。
酸性の飲食物を摂取すると、歯の表面のエナメル質は一時的にやわらかくなります。
デリケートな状態で歯磨きを行うと、歯ブラシの物理的な力で歯の表面が削り取られ、酸蝕が著しく進行してしまいます。
歯磨きは酸蝕症の引き金ではありませんが、酸によって無防備になった歯に対して、追い打ちをかける形でダメージを増大させてしまうことを覚えておきましょう。

酸蝕症を悪化させない歯磨き方法

酸蝕症を悪化させない歯磨き方法

以下では、歯磨きのタイミングや力加減、使う道具の選び方など、今日から実践できるポイントを紹介します。

歯磨きのタイミング

酸蝕症のケアで特に重要なのが歯磨きのタイミングです。
酸性の飲食物を摂った直後は、お口の中が酸性に傾き、歯の表面が軟らかくなっています。

歯の表面がやわらかいタイミングで歯を磨くと、歯を削ってしまう可能性が高いです。
そのため、食事をした後すぐに歯磨きをするのではなく、30分程度経過してから歯磨きをするのが望ましいといわれています。

むし歯予防の観点からは食後すぐの歯磨きが推奨されていますが、酸蝕症の対策としての歯磨きはタイミングをずらしましょう
また、歯磨き前に酸性の飲食物を摂った後や嘔吐や逆流があったときは、まず水やフッ化物洗口液でよくお口をすすいでうがいをしてください
うがいをすればお口の中の酸を洗い流し、唾液の力でお口の中が中性に戻りやすくなります。
特に嘔吐した後は、お口をすすいでから1時間以上は経過してから優しく磨きましょう。

歯磨きの方法

酸で軟化した歯を傷つけないためには、力を入れすぎず、優しく磨くことが大切です。
歯ブラシを強く握りしめてゴシゴシ磨くのではなく、鉛筆を持つように軽く持ち、毛先が歯の面にソフトに触れる程度の力で小刻みに動かしましょう。
特に歯と歯茎の境目は、力が入りやすい部分なので意識して優しく磨くのがポイントです。

丁寧な歯磨き方法は、プラークを効率的に除去しつつ、歯への負担を少なく抑えることにつながります。

歯ブラシの選び方

歯ブラシの選び方も、歯を摩耗から守るために大切です。
硬い毛の歯ブラシは、プラークを落とす力は強いものの、歯や歯茎を傷つけるリスクが高くなります。
酸蝕症が気になる場合は、やわらかめまたはふつうの硬さの歯ブラシを選びましょう。
知覚過敏の症状が強い場合は、やわらかめの歯ブラシがおすすめです。
やわらかめの毛先は、デリケートな歯の表面に対してもあたりが優しく、物理的な刺激を減らせます。
かための歯ブラシは歯質をすり減らす可能性があるため、酸蝕症の疑いがある場合は避けてください。
自分に合った歯ブラシがわからない場合は、歯科医師や歯科衛生士に相談してみるのもよいでしょう。

歯磨き粉の選び方

歯磨き粉は、歯質を強化する成分が含まれているものを選ぶのが効果的です。
特にフッ素は、溶け出したミネラルが歯に戻る歯の再石灰化を促進し、歯を酸に溶けにくい丈夫な性質に変える働きがあります。
フッ素入りの歯磨き粉を毎日のケアに取り入れると、酸蝕症の進行を抑制する効果が期待できます。
また、研磨剤が多く含まれている歯磨き粉は歯を削るリスクを高める可能性があるため、研磨剤無配合や低研磨性のジェルタイプの歯磨き粉を選ぶのも一つの方法です。

酸蝕症の検査と治療

酸蝕症の検査と治療

酸蝕症は初期症状がわかりにくいため、もし心あたりがあれば、まずは歯科医院で専門的な受診が大切です。
以下では、歯科医院で行われる検査と治療法を解説します。

酸蝕症の検査方法

酸蝕症の診断では、まず丁寧な問診が行われます。
普段の食生活、特に酸性飲食物の摂取頻度や、逆流性食道炎などの全身疾患の有無を詳しく確認します。
特に嘔吐歴はデリケートな情報のため、歯科医師は患者さんが話しやすいように配慮しながら、複数回に分けて慎重に聞き取りを進める場合が多いです。

問診後は視診で歯の形や色、表面の光沢などをチェックし、酸蝕症特有の丸みを帯びた摩耗や、歯頚部に健全な歯質が残る所見などがないかを確認します。
そのほか、拡大鏡やデジタルカメラを使って口腔内の状態も確認し、検査が完了します。
歯科医院によっては唾液検査を行い、唾液の分泌量が少なかったり、酸を中和する力(緩衝能)が低かったりする場合は、酸蝕症のリスクが高いと判断する場合もあります。

酸蝕症の治療方法

酸蝕症の治療は、進行度合いや症状に応じて選択されます。
初期段階で審美的な問題や痛みがなければ、原因の除去と予防処置、そして定期的な経過観察(モニタリング)が基本です。
冷たいものがしみるような知覚過敏がある場合は、症状を抑える薬剤の塗布や知覚過敏用の歯磨き粉が推奨されます。

酸蝕症の場合に日常生活で気を付けるべきこと

酸蝕症の場合に日常生活で気を付けるべきこと

だらだらと時間をかけて飲食すると、お口の中が酸性に傾く時間が長くなり、酸蝕症のリスクを高めます。
飲食は時間を決めて行い、特に就寝前の摂取は控えるようにしましょう。
また、飲食後は水やお茶でうがいをしたり、pHの高い牛乳を飲んだりして、お口の中を中性に戻す習慣が効果的です。

日々のセルフケアによる歯質の強化も大切です。
フッ素入りの歯磨き粉やジェルなどを積極的に活用しましょう。
フッ素には歯の再石灰化を促進し、酸への抵抗力を高める効果があります。
カルシウムやリンを豊富に含む製品の使用も、歯の健康維持に役立ちます。
カルシウムやフッ化物を配合したシュガーレスガムも有効といわれているため、手軽なセルフケアとして取り入れてみてください。

酸蝕症は自分では気付かないうちに進行している場合が珍しくありません。
歯ぎしりや食いしばりなどによる咬耗や摩耗などほかの疾患と混在し、症状を悪化させることも多いです。
そのため、歯科医院での定期的な検診を受け、専門家によるチェックと指導を受けて、ご自身の歯を守っていきましょう。

まとめ

まとめ

本記事では、酸蝕症の原因や症状、歯磨きとの正しい関係性や対処法を解説しました。
酸蝕症は、酸性の飲食物や胃酸によって歯が溶ける病気ですが、歯磨き自体が直接の原因ではありません
酸に触れて歯が軟らかくなった直後に強く磨くのを避け、正しいタイミングと方法によるケアが大切です。
酸蝕症と診断されて不安に感じるかもしれませんが、正しい知識を身につけ、今日からできる対策から始めていきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松浦 京之介歯科医師(歯科医)

松浦 京之介歯科医師(歯科医)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:2019年 福岡歯科大学卒業、2020年 広島大学病院研修修了、2020年 静岡県、神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務、2023年 医療法人高輪会にて勤務、2024年 合同会社House Call Agencyを起業 / 資格:歯科医師免許 / 所属学会:日本歯科保存学会、日本口腔外科学会、日本口腔インプラント学会

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