冷たいものを食べると歯がしみる、歯のツヤがなくなり黄色っぽいなど、歯の悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
歯科医院でむし歯と診断されなかった場合、酸蝕症かもしれません。むし歯の症状と似ていますが、実際には明確な違いがあり、治療法や予防法は異なります。
この記事では、酸蝕症の概要や治療法、予防法について詳しく解説します。この記事を読むことで、酸蝕症の症状に悩んでいる方や歯のケアを知りたい方の参考になれば幸いです。
酸蝕症(さんしょくしょう)の基礎知識
酸蝕症はむし歯や歯周病に次ぐ第三の歯科疾患であり、日本人のうち4人に1人が酸蝕症だといわれています。
ここでは、酸蝕症の原因や症状、なりやすい方の特徴について紹介していきます。
酸蝕症とは
酸蝕症とは、歯が酸によって溶けることで引き起こされる病気です。お口のなかが食事などの影響で酸性域になることで、表面のエナメル質が溶けだします。
エナメル質の役割は歯を外部からの刺激だけでなく、咀嚼時の咬合圧から守ることです。エナメル質が溶けだすことにより、内側の象牙質が剝き出しになります。
象牙質はやわらかい組織であり、エナメル質が溶けた後に酸に触れ続けると、歯はしだいに溶けていきます。
また、歯の神経が一部含まれているため、外部刺激による影響を受けやすい組織です。
酸蝕症が進行することで、むし歯や知覚過敏の発症リスクが高まります。
酸蝕症の原因
酸蝕症の原因は主に2つあります。
- 内因性要因
- 外因性要因
内因性要因に多く関連しているのは、塩酸からなる胃液の影響です。
拒食症や過食症などの摂食障害に悩んでいる方は、頻繁に嘔吐をすることがあります。嘔吐によって、強酸性の胃液が逆流し、お口のなかが酸性域に傾きます。
お口のなかが酸性域になることで、エナメル質は化学反応によって溶けだすので要注意です。
また、逆流性食道炎も酸蝕症のリスクにつながります。病気によって胃酸の影響を受けやすい方は、原因となっている病気の治療や対策を検討しましょう。
外因性要因は生活習慣や環境と密接な関係があり、酸性飲食物による影響です。酸性飲食物は炭酸飲料やアルコール飲料、柑橘系の果物などが挙げられます。
少量であれば問題ありませんが、日常的に摂取することで、長時間お口のなかが酸性域に傾きます。お口のなかの酸性域は、内因性要因と同様、エナメル質が溶けだす要因です。
酸蝕症の症状
酸蝕症の症状は主に3つあります。
- 歯の形状が変わる
- 歯全体が黄色っぽくなる
- 知覚過敏になる
酸蝕症が進行するにつれて、歯の表面のエナメル質が溶けだし、歯の形状が変わります。歯の表面全体が均一に溶けだすこともあり、丸みを帯びることもあるのが特徴です。
エナメル質の溶出が進行することで、象牙質が剝き出しになります。象牙質は黄色味を帯びており、エナメル質が溶けだすことで、歯全体が黄色っぽく見えるようになります。
また、象牙質は外部からの刺激に敏感です。そのため、冷たい飲み物や風に触れた際に鋭い痛みを感じる、知覚過敏のような症状が現れます。
酸蝕症になりやすい方
酸蝕症になりやすい方の特徴は2つあります。
- 酸性飲食物の摂取頻度が高い
- 病気でお口のなかへ胃酸が上がりやすい
酸性飲食物を頻繁に摂取していると、歯のエナメル質が弱くなります。エナメル質は胃酸の影響も受けやすいため、お口に胃酸が上がりやすい方も注意が必要です。
酸蝕症を防ぐうえで、お口のなかを酸性域にしないことが重要だといえます。
酸蝕症の診断方法
症状が似ている酸蝕症とむし歯において、完治を目指すうえで、治療方針を確立することが重要です。酸蝕症の治療方針を確立するために、歯医者の診断方法は3つとなります。
ここでは、歯科医院による酸蝕症の診断方法について詳しく紹介します。
問診
酸蝕症は、酸が歯に長時間接触することで発生する症状であり、労務環境で取り扱う塩酸や硝酸などの酸性物質が原因でもあります。
問診によって、患者さんの労務環境や生活環境に基づいて、酸蝕症の原因を特定します。原因を特定することで、必要な対応策を提案することが可能です。
問診では、仕事内容や健康状態、お口のなかを確認します。酸蝕症の原因が労務環境の場合、治療を進めるために、労務環境の改善を図ることが必要です。
生活環境が原因であれば、普段の食生活やお口のなかの状態を確認します。酸蝕症の原因究明のために、問診は不可欠な診断方法だといえるでしょう。
視診
酸蝕症は視診で確認することが可能です。酸蝕症とむし歯の症状は似ていますが、エナメル質の溶けだし方が異なります。酸蝕症は歯の表面全体が均一に溶けだすこともありますが、むし歯は部分的に溶けだします。
エナメル質の溶け方の違いから、歯医者は視診によって明確に見極めることが可能です。酸蝕症初期であれば、歯の表面の凸凹や黄変を確認します。
視診は歯の状態を確認するうえで、重要な診断方法だといえます。
レントゲン
酸蝕症の診断方法の一つに、レントゲンが挙げられます。酸蝕症の治療法は、症状の進行度や原因によって異なるため、歯の状態を確認することが必要です。
レントゲンはX線の透過率の違いにより、X線が通過した部分は黒く、通過しない部分は白く映ります。歯や骨はX線を通過しないので白く、皮膚や筋肉が黒く映ります。
レントゲンによって、酸蝕症の進行具合を判別することが可能です。歯の表面のエナメル質はX線を通しにくいため、やや濃い白色に写ります。
内側の象牙質は、エナメル質よりも少し薄い白色として確認できます。レントゲン画像の濃淡の違いにより、酸蝕症の進行具合を診断可能です。
酸蝕症初期の治療法
酸蝕症の初期症状として、歯の表面が白く濁ることがあります。エナメル質がわずかに溶けることで生じる現象で、適切なケアによって回復可能です。
酸蝕症初期の治療法は主に2つとなります。
- 食生活と歯のケアの見直し
- セルフケアでエナメル質の強化
日常生活において、酸性飲食物の摂食機会を減らすだけでも一定の効果があるので、まずは食生活の見直しをする必要があります。
お口のなかが酸性域に晒される時間を減らすことで、エナメル質の溶けだし抑制が可能です。酸性飲食物摂取後は、すぐに水で口をゆすぐことで、酸を中和できます。
歯磨きをする際はゴシゴシと強い力をかけずに、やさしく磨くことを心がけましょう。適切な食生活と歯のケアによって、酸蝕症の抑制が可能です。
セルフケアにおいて、フッ素やリカルデントなど、エナメル質強化作用のある歯磨き粉の使用もおすすめです。
フッ素は歯の再石灰化の促進により、酸に溶けにくい状態に変化させる効果があります。リカルデントの効果は酸を中和し、溶けだしたエナメル質の成分を補う作用です。
セルフケアでエナメル質の強化を図ることで、酸蝕症初期に対応することができます。酸蝕症初期であれば、歯医者による治療でなくても、自分自身の行動によって改善可能です。
酸蝕症中期以降の治療法
酸蝕症の進行によって、象牙質が露出し、歯の根元や歯肉部分までダメージが及ぶことがあります。進行具合によっては、歯が割れやすくなり、歯の形が変わることもあります。
酸蝕症は放置すると、歯の喪失リスクが高まるため、適切な治療を施すことが重要です。治療法は主に2つあります。
- 樹脂の充填
- セラミックを被せる
部分的に欠ける、薄くなるなどのために歯を治療する必要がある際は、樹脂由来のコンポジットレジンを充填することがあります。
樹脂を充填することで、酸蝕症によって割れた歯を修復できます。コンポジットレジンは健康保険適用の治療法なので、費用を抑えたい方におすすめです。
症状の進行によって、象牙質が剝き出しになり、歯に悪影響を及ぼします。歯への悪影響を防ぐために、早期治療の必要があります。
有効な治療法として、セラミックを被せるのが効果的です。セラミックを被せることで、細菌などの侵入を防ぎ、エナメル質強化に効果があります。
酸蝕症の進行によって、知覚過敏の症状も進行するため、必要に応じて神経の治療を行うこともあります。
酸蝕症の治療にかかる費用
酸蝕症の治療にかかる費用は、保険適用か自費診療かによって大きく異なります。症状の進行具合に合わせた治療内容によって、費用は変動するため、歯の状態を把握しておくことが重要です。
ここでは、酸蝕症の治療にかかる費用について紹介します。
酸蝕症初期の治療にかかる費用
酸蝕症初期の治療にかかる費用は、数百円〜数千円ほどです。エナメル質強化作用のある市販の歯磨き粉は、数百円〜数千円で購入できます。
歯科医院での治療は、フッ素を塗布することになり、保険適用か自費診療になる場合があります。歯科医院によって価格は異なりますが、約500円〜3000円が相場です。
酸蝕症中期以降の治療にかかる費用
酸蝕症中期の治療にかかる費用において、保険適用の場合は1歯につき3,000〜5,000円ほどで、自費診療の場合は1歯につき25,000円(税込)以上が相場です。
コンポジットレジンなどの保険適用素材での欠損部の充填や被せものは、3,000円〜5,000円ほどが目安です。審美機能や強度を優先する場合、セラミックなどの自費診療素材となります。
カラーリングが天然歯に近いような素材であれば、100,000円(税込)程度かかることもあります。
酸蝕症中期以降の治療は、保険適用か自費診療かで価格が大きく変動するため、事前に歯科医院に確認しておくようにしましょう。
酸蝕症の予防方法
酸蝕症を予防するうえで、お口のなかが酸性域に傾かないようにするのが重要です。
日常生活の行動を少し変えることで、酸蝕症の予防につながるので、日頃から意識しましょう。
ここでは、日常生活でできる酸蝕症の予防法を4つ紹介します。
お口のなかを清潔に保つ
酸蝕症にならないためには、日頃からお口のなかを清潔に保っておくことが重要です。お口のなかが長時間酸性にならないようにする必要があり、酸性飲食物の喫食後は水でうがいして、洗い流すようにしましょう。
酸性に晒された歯はやわらかくなっており、歯磨きによって摩耗しやすい状態です。歯磨きは、約30分後に行うようにしましょう。
酸蝕症予防をするうえで、お口のなかを清潔に保つことを意識して行動する必要があります。
よく噛んで食べる
酸性域に傾いたお口の環境を戻すために、唾液の分泌を促すのも効果的です。よく噛んで食べることで唾液の分泌量が増えるため、酸蝕症予防に有効です。
唾液は酸性域に傾いたお口の環境を中性域に戻す働きがあり、エナメル質を修復する効果があります。唾液による修復作用は自然現象であり、特に意識する必要はありません。
効率的な予防を行うのであれば、市販のガムを活用するのもおすすめです。ガムを噛むことで唾液の分泌量を増やし、エナメル質の修復作用を向上させることができます。
市販のガムを購入する際は、シュガーレスタイプを選ぶようにしましょう。
間食を控え規則的な食事を心がける
酸蝕症を予防するうえで、お口のなかが酸性になるリスクを軽減することが重要です。
食べる頻度が増えるほど、歯が酸の影響を受けるリスクが増えるため、間食を控えて規則的な食事を心がけましょう。特に、就寝前の間食は要注意です。
就寝前は唾液の分泌量が減少するため、就寝前の間食では、お口のなかが中性に戻るのに時間がかかります。
中性に戻るのに時間がかかることで、エナメル質の修復作用が弱くなってしまいます。間食を控え規則的な食事を心がけることは、お口のなかの環境を適切な状態に保ちやすい行動です。
フッ素を塗る
酸蝕症の予防において、効果的な方法はフッ素を塗ることです。フッ素は下記の3つの効果で酸蝕症を予防できます。
- プラークによる酸の産生を抑えてエナメル質の溶けだしを抑える
- 溶け出した歯を修復する
市販の歯磨き粉には、フッ素が含まれている製品が販売されているので、裏面表示でフッ素含有量を確認する必要があります。
酸蝕症を予防するうえで、フッ素で酸の影響を受けにくくしましょう。
まとめ
酸蝕症は、歯が酸の影響を受けることで、歯に悪影響を及ぼす病気です。
歯の健康状態だけではなく、審美機能も損なわれることがあるため、早期対応が不可欠です。
進行し過ぎると、セルフケアでは対応できなくなるので、早めに歯科医院を受診しましょう。
お口のなかの健康は、身体全体の健康にもつながります。
日常生活でのケアを心がけ、定期的な受診でお口の清潔と健康を保ちましょう。
参考文献