歯科医院でむし歯の治療を終えたにも関わらず、歯がしみるように痛むケースがあります。
歯がしみる原因はいくつか考えられます。
原因によっては、しみる症状を放置すると、歯の神経が傷つくリスクも否定できません。
今回は歯がしみる原因を中心に、どのタイミングで受診したらよいか、放置するとどのようなリスクがあるのかなどについて解説します。
治療後に生じた歯の違和感に悩んでいる患者さんはぜひ参考にしてください。
むし歯治療後に歯がしみる原因
むし歯治療後に、歯がしみる原因を3つ紹介します。
そもそも歯がしみる場合、歯はどのような状態にあるのでしょうか。
歯科医療では、液体が歯の内部に浸透するような痛みのことを、歯がしみると表現します。
以下のようなタイミングで、一時的な痛みが出やすいといいます。
- 冷たい食べ物や飲み物を飲んだとき
- 熱い食べ物や飲み物を飲んだとき
- 甘いものを食べたとき
- 酸っぱいものを食べたとき
- 歯ブラシの毛先が当たったとき
- 冷たい風に当たったとき
痛みは10秒以内に感じられなくなる点が特徴です。
健康な歯が痛まないのは、歯の表面をエナメル質が覆っているためです。
歯が痛んだり、しみたりするときは、歯の内部にある象牙質にダメージが生じていると予想されます。
では具体的にはどのような原因が、象牙質にダメージを与えるのか、以下で解説していきます。
治療後の一時的な痛み
むし歯治療の刺激で、歯に一時的な痛みが生じるケースがあります。
むし歯治療で歯にどの程度の負担がかかるかは、むし歯の進行度と治療内容によって異なります。
むし歯に感染した部分を削り取る治療をした場合は、神経が過敏になるため歯がしみやすくなるでしょう。
また歯を削ったことで、神経を覆う壁が薄くなり、歯がしみるケースもあります。
むし歯治療が原因で生じる痛みは、時間の経過に伴って感じられなくなるケースがほとんどです。
知覚過敏による刺激
知覚過敏とは、むし歯や神経の炎症がないにもかかわらず、刺激を受けた歯に痛みが走る状態を指します。
何らかの原因で象牙質が露出して、象牙質が痛みを感じ取れる状態になると、知覚過敏を発症します。
知覚過敏の原因には、加齢・歯の破損・歯ぎしり・歯に負担のかかる食生活など複数の原因が挙げられますが、むし歯治療もそのひとつです。
むし歯治療後しばらく経過を見ても症状が治まらない場合は、歯科医院での再治療が必要になります。
治療では、露出している象牙質を材料で覆ったり、神経を取り除いたりするのが一般的です。
ただし軽度の知覚過敏であれば、唾液や歯磨き剤による再石灰化で、治療することなく自然に痛みが消失していくケースがほとんどです。
詰め物や被せ物が歯に合っていない
むし歯治療で歯に入れた、詰め物や被せ物が歯に合っていない場合、歯がしみるようになるケースもあります。
特に詰め物や被せ物を入れたばかりの時期は、歯の神経がすぐ近くに挿入された人工物に過敏に反応して、痛みが出やすいタイミングです。
ほかにも詰め物が金属であった場合は熱の伝導率がよいため、神経に刺激が伝わりやすくなることがあります。
また、詰め物や被せ物を入れた後の、噛み合わせの調整不足も痛みの原因となります。
噛み合わせがうまくいっていないと、歯に過度の負担がかかってしまうためです。過度の負担は歯が痛んだり、しみたりする原因となります。
治療後に歯がしみる期間
むし歯治療後に歯がしみる期間を解説します。
歯がしみる症状が一般的にはどの程度続くのか確認して、受診の目安にしましょう。
ただし歯がしみる原因によって、症状が続く期間は異なります。以下で詳しく解説します。
一般的な治療後のしみる期間
むし歯治療後に歯がしみる原因が治療の刺激だった場合は、約2〜3日で症状がなくなるのが一般的です。
治療用の麻酔は約2〜3時間、長いと半日間は効果を発揮します。麻酔が切れると、歯がしみることがあります。
詰め物や被せ物が原因で歯がしみる場合、約1週間~3ヵ月は症状が続くことがありますが、心配ありません。
この期間で、歯の神経が萎縮し、第二象牙質と呼ばれる新しい組織ができます。
詰め物や被せ物と神経の間に、第二象牙質がしっかり形成できることで、痛みがやわらいでいきます。
また治療後に歯がしみる原因が、知覚過敏であった場合は、軽度であれば口腔内ケアに力を入れれば数週間で改善するのが一般的です。
ただし重度まで進行している場合は、歯科医院で治療を受けるまで症状は改善しません。
歯がしみる期間が長引く原因
歯がしみる期間が長引いている場合、以下のような原因が考えられます。
- 歯の神経に炎症が起きている
- 生活習慣によって歯に負担がかかっている
- むし歯・歯周病などほかの歯科疾患が起きている
症状が長引いている場合は、むし歯治療を受けた歯科医院に相談しましょう。
歯科医師に相談すべきタイミング
歯科医師に相談するタイミングは、治療前の説明を参考にするとわかりやすいでしょう。
説明された期間より長く歯がしみている場合は、すぐに受診しましょう。また説明より強い痛みがある場合も、すぐに相談することをおすすめします。
歯科医師は歯科治療を行う前に、治療について以下のような内容を説明します。
- 医療行為の必要性
- 内容
- 期間
- 危険性
- 副作用
- 予測される結果
- 代替可能な医療行為の有無と内容
- これらを実施しなかった場合に予測される結果
このように歯科医師が患者さんに対して治療内容の説明をして、患者さんがよく理解して納得したうえで治療を始めることをインフォームド・コンセントと呼びます。
インフォームド・コンセントは医療法で定められており、医療提供する有資格者は患者さんに適切な説明を行い、理解を得られるよう努める義務があります。
むし歯治療を受けた歯科医院がインフォームド・コンセントを徹底している歯科医院であれば、治療前の説明で治療後に痛みが出るリスクも説明されているでしょう。
歯がしみると、不快感でいっぱいになってしまいがちですが、歯科医師の説明を思い出して冷静に対処しましょう。
歯がしみるときの対処法
歯がしみるときに、患者さんができる対処法を解説します。
ただし、早めに歯科医院で治療を受けることが重要であることも理解しておきましょう。
歯がしみる段階では、軽度かつ一時的な痛みが出ているケースが多いです。そのために痛みを軽視して、治療を後回しにしてしまっていないでしょうか。
早期に治療を開始できれば、治療期間も通院回数も少なくてすむメリットがあります。
口腔内に違和感がある場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
以下で解説する対処法は、治療と並行して、患者さん自身でもできる対処法です。治療期間中の参考にしましょう。
冷たい食べ物・飲み物を避ける
むし歯治療後は、歯の神経が過敏になっています。刺激になりやすい飲食物を避け、歯がしみないよう心がけましょう。
以下のような飲食物には注意が必要です。
- 冷たい食べ物・飲み物
- 熱い食べ物・飲み物
- 甘い食べ物・飲み物
熱い物や冷たい物などは、口腔内に温度変化を引き起こしやすいため痛みの原因になります。
また、甘い飲食物を口にした際に生じる痛みを、甘味痛(かんみつう)と呼ぶことを知っていますか。
甘いものを口にしたときに特に歯がしみる原因は、浸透圧が関係しています。
口腔内に甘い飲食物が入ると、唾液と混ざり合い、濃度の高い砂糖水のような溶液になります。
対して、歯の内部、つまり象牙質の濃度はあまり高くありません。
糖分で濃くなった溶液が、濃度の薄い象牙質内に向かって浸透していくため、歯が痛むといわれています。
むし歯の治療期間中は、食生活に気を遣って歯を労りましょう。
知覚過敏用の歯磨き粉を使用する
むし歯治療後に歯がしみる原因が知覚過敏であった場合は、知覚過敏用の歯磨き粉を使用するとよいでしょう。
軽度の知覚過敏であれば、知覚過敏用の歯磨き粉を正しく使用して約1〜2週間で効果が現れると期待できます。
知覚過敏用の歯磨き粉の主な目的は、神経の興奮を抑えることです。そのため、痛みの伝達を抑制する硝酸カリウムや乳酸アルミニウムが含まれていることがほとんどです。
乳酸アルミニウムと硝酸カリウムでは、痛みへのアプローチ方法が異なります。
乳酸アルミニウムは神経を遮断し、硝酸カリウムは神経の反応を鈍らせることで痛みを感じ取りにくくします。
鎮痛剤を服用する
むし歯治療後の一時的な痛みであれば、鎮痛剤で対処してもよいでしょう。歯がしみる症状には、以下のような解熱消炎鎮痛剤が有効です。
- ボルタレン
- ロキソニン
- バファリン
- カロナール
- ノーシン
- フロベン
- セデスハイ
- ポンタール
ただし、鎮痛剤は痛みを抑える薬であり、原因を治すものではありません。
歯がしみる、歯が痛む症状が続く場合は、早めに歯科医院を受診して正しい治療を受けましょう。
噛み合わせをチェックする
一度治療を受けると、「もう通院は必要ないだろう」と自己判断で歯科医院でのアフターケアや定期検診を受けなくなる患者さんも少なくありません。
しかし治療後の噛み合わせを定期的にチェックしてもらうことは重要です。
噛み合わせに問題があるまま放置すると、歯がしみる以外に、以下のように全身に不具合が生じるケースがあります。
- 頭痛がする
- 耳鳴りがする
- 鼻が詰まる
- 首がこりやすい
- 口元がゆがむ
- 顎の骨が鳴る
歯科医院で定期検診を受ければ、噛み合わせの検査を受けられます。
ほかにもむし歯の有無や磨き残しのチェック・クリーニング・歯みがき指導なども受けられるため、お口の健康を保ちやすくなります。
治療後も歯科医院のアフターケアや定期検診を受けて、噛み合わせを含んだお口全体の状態を整えることが望ましいです。
歯がしみるのを放置するとどうなる?
むし歯治療の刺激による痛みのほとんどは一時的なもので、詰め物や被せ物の痛みはきちんとアフターケアを受ければ改善します。
注意したいのは知覚過敏による痛みです。
知覚過敏は加齢に伴って歯茎が下がった場合にも発症する身近な病気です。
しかし「誰もがいつかはかかるものだから」「むし歯や歯周病ではないから」と知覚過敏を甘く見て放置するべきではありません。
知覚過敏を放置すると、悪化して歯に大きな負担をかけるリスクがあるためです。具体的にはどのようなリスクが心配されるのか、以下で解説します。
神経が損傷する可能性
知覚過敏の痛みは一時的なもので、長くても約10秒以内に落ち着くことがほとんどです。
約10秒以上痛みが続く、痛みの程度が激しいなどの症状がある場合、知覚過敏が重症化していることが疑われます。
知覚過敏が重症化すると、神経へのダメージが大きくなり炎症を起こす可能性が高まります。
激しい歯の痛みで生活に支障が出ている場合は、歯の神経を取り除く治療が必要となる可能性も否定できません。
しみる感覚や痛みが慢性化する可能性
知覚過敏が重症化しているとき、象牙質は口腔内で露出している状態にあります。
エナメル質で保護されていない象牙質に、直接汚れや細菌が触れるためむし歯リスクが高まります。
知覚過敏をきっかけにむし歯になると、歯にしみる感覚や痛みは慢性的なものになるため注意しましょう。
歯がしみないための予防法
歯がしみる原因に応じた予防法を紹介します。まず、治療に伴う痛みの予防法をみてみましょう。
治療の刺激による痛みや詰め物の調整不足による痛みを予防したいのであれば、歯科医院選びにこだわりましょう。以下は歯科医院選びでこだわりたいポイントです。
- 治療前の説明が丁寧であるか
- 治療の選択肢を複数提案してくれるか
- 衛生管理の意識が高いか
- スタッフの意識が高いか
どれだけ優れた歯科医院を選んでも、歯がしみる症状を完全に防ぐことはできません。
しかし、痛みがあっても納得感のある治療は追求できるでしょう。
次に、治療による知覚過敏の予防法を解説したいところですが、知覚過敏の明確な予防法は確立されていません。
ただし、むし歯や歯周病の予防が、知覚過敏の予防につながるとも考えられています。むし歯や歯周病は、以下の方法で予防できます。
- 歯みがきの方法を見直す
- よく噛む習慣を身につける
- キシリトールを取り入れる
- 禁煙する
- 栄養バランスのよい食事を取る
- ストレスを溜めない
生活習慣を見直して、お口の健康を保つよう心がけましょう。
まとめ
むし歯の治療後に、歯がしみるように痛む原因を3つ解説しました。
治療時の刺激と知覚過敏、そして詰め物や被せ物が合っていないことの3つです。
治療の刺激が、歯がしみる原因だった場合は、痛みは約2〜3日で感じなくなります。
詰め物や被せ物が合っていなかった場合は、約1週間~3ヵ月で歯の内部が適応し始めるため、痛みが和らぎはじめるでしょう。
軽度の知覚過敏になっている場合は、口腔内ケアなどを改善すれば、数ヵ月で痛みがなくなることが一般的です。
ただし重度の知覚過敏になっている場合は、歯科医院で治療を受けなければ改善は難しいとされます。
上記の期間より長く歯がしみている場合は、早めに歯科医院に相談しましょう。
むし歯治療などではむし歯の取り残しを防ぐため、一部健康な歯質も取り除くことがあります。また、歯科治療に用いる材料や機材は歯の神経を一時的に興奮状態にしてしまいます。
これらの状況は治療時にある程度予想することが可能です。事前によく説明を聞き、症状に備えておくことで不安を軽減して治療に挑むことができるでしょう。
参考文献