肩こりは、多くの方が経験する症状の1つです。一般的に、姿勢の悪さや運動不足が原因と考えられがちですが、実は歯の健康状態も肩こりに影響を与えることがあります。特に、むし歯が進行すると、噛み合わせの変化や炎症が神経を刺激し、肩こりを引き起こす可能性があります。
本記事では、肩こりの基本的な知識を整理し、むし歯との関係性を詳しく解説します。また、肩こりの原因を見分ける方法や、むし歯と肩こりの両方に悩んでいる場合に取るべき対策を紹介します。
肩こりの基礎知識

肩こりは、日本人に多く見られる症状の1つです。特に現代では、スマートフォンやパソコンの使用時間が増えたことで、慢性的な肩こりに悩む方が年齢や性別を問わず増加しています。厚生労働省の報告によると、男女ともに肩こりの症状を感じている方が少なくないことがわかっています。
肩こりは単なる筋肉の疲れだと思って放置すると、首や背中の痛み、頭痛、自律神経の乱れなど、身体全体に悪影響を及ぼすことがあります。まずは、肩こりがどのような状態なのか、そしてなぜ起こるのかを理解することが重要です。
肩こりの症状
肩こりとは、首から肩、背中にかけて筋肉が緊張し、重だるさや痛み、不快感を感じる状態を指します。場合によっては、筋肉が張っているような感覚や、押されると痛みを感じることもあります。
さらに症状が進行すると、以下のような影響が現れることがあります。
- 頭痛
- 吐き気
- 集中力の低下
- 手のしびれ
これらの症状が続く場合は、肩こりの原因を評価し、適切な治療を開始することが重要です。
肩こりの原因
肩こりの原因には、さまざまな要素が関係しています。主な原因として、以下のようなものがあります。
- 姿勢の悪さ(猫背や前かがみ)
- 運動不足
- 精神的ストレス
これらの要因が重なることで、慢性的な肩こりを引き起こしやすくなります。特に長時間同じ姿勢を続けることは、筋肉の緊張を招き、肩こりの悪化につながるため注意が必要です。
むし歯と肩こりの関係

肩こりとむし歯は、一見関係がないように思えます。しかし、実際には、むし歯は口腔内の健康だけでなく、全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。特に、むし歯が進行すると、炎症や噛み合わせの乱れが筋肉や神経に影響を与え、肩こりの原因となることがあります。
むし歯による炎症が筋肉や神経に与える影響
むし歯が進行すると、歯の周囲の組織に炎症が生じ、歯の内部の神経(歯髄)まで広がることがあります。炎症が顔や顎の神経に影響を及ぼすと、関連する筋肉が緊張し、肩こりの症状が現れることがあります。
特に、三叉神経が炎症を起こすと、首や肩の筋肉が過度に緊張し、慢性的な肩こりにつながることがあります。また、炎症による痛みが長引くことで、自律神経のバランスが崩れ、筋肉が常に緊張した状態になることもあります。
噛み合わせの乱れが首や肩の筋肉に与える負担
むし歯によって歯が欠けたり、痛みを避けるために片側の歯で噛むことが増えると、顎の筋肉の使い方が偏り、噛み合わせが乱れることがあります。
噛み合わせが乱れると、顎の位置が微妙に変化し、首や肩の筋肉のバランスが崩れることがあります。このような状態が続くと、首や肩の筋肉に過度な負担がかかり、血流が悪くなることで肩こりや痛みを引き起こす可能性があります。
肩こりの症状からむし歯が原因かどうかを見極めるには

肩こりの原因が歯にある場合、一般的な肩こりとは異なる特徴や関連症状が現れることがあります。ただの筋肉疲労だと思って見逃しがちですが、以下のような症状がある場合は、むし歯など口内トラブルが関係している可能性があります。
同時に歯の痛み・違和感があるかどうか
肩こりの症状がある場合、まずは歯の痛みや違和感を確認しましょう。肩こりと同時に、以下のような歯の症状がある場合は注意が必要です。
- 特定の歯が痛む
- 噛むと違和感がある
- 歯茎が腫れている、出血しやすい
- 以前より歯の高さが変わった
これらの症状がみられる場合、進行したむし歯や炎症が肩こりの原因になっている可能性があります。特に、一方の首や肩だけが凝る、痛みが左右非対称である場合は、お口の中に原因があるかもしれません。
噛むと肩がこる、顎が疲れるといった関連症状の有無
噛んでいると肩が重くなる、食事の後に首や肩がだるく感じるなどの症状も、むし歯や噛み合わせの不調が関係している可能性があります。さらに、以下のような症状がある場合も注意が必要です。
- 大きくお口を開けたときに違和感がある
- 頭痛や耳の痛みが生じる
- 顎関節に負担を感じる
これらの症状が続く場合は、歯科医師による噛み合わせの調整やむし歯の治療を行うことで、肩こりの改善につながる可能性があります。
歯のトラブルが肩こりにつながるその他の原因

むし歯以外にも、口腔内の異常や噛む動作に関わる問題が肩こりを引き起こすことがあります。特に、歯の位置関係や顎の使い方に異常があると、首や肩の筋肉に影響を及ぼしやすくなります。
そのなかでも、噛み合わせの不良、歯ぎしりや食いしばり、顎関節症は、肩こりに関連する重要な要素です。本章ではそれぞれの原因を解説します。
噛み合わせの不良(不正咬合)
上下の歯がうまくかみ合っていない状態を不正咬合(ふせいこうごう)といいます。不正咬合があると、歯並びの乱れや顎の位置のずれが生じ、片側の歯でしか噛めない状態が続くことがあります。
このような状態が続くと、噛むたびに左右の筋肉へ偏った力がかかり、顔まわりの筋肉だけでなく、首から肩にかけての筋肉まで緊張しやすくなります。その結果、肩こりの原因となることがあります。噛み合わせが悪いと食事の後に顎や肩がだるくなることが多く、自覚がないまま疲労が蓄積してしまうことがあるため注意が必要です。
歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)
ブラキシズムとは、無意識に歯ぎしりや食いしばりを行う習慣のことを指します。これにより、顎の筋肉に大きな負担がかかり、首や肩の筋肉にも影響を与えることがあります。
歯ぎしりは歯をすり減らすだけでなく、顎関節や筋肉に強いストレスを与えるため、放置すると全身の不調につながる可能性があります。特に、肩こりや頭痛の原因となることがあるため、マウスピースの使用などの対策を行うことが重要です。
顎関節症
顎関節症は、顎の関節が正常に動かなくなり、お口を開ける際にカクッという音が鳴ったり、痛みを感じたりする症状が現れる病気です。顎関節症の状態が続くと、噛む動作が不自然になり、顎の周囲だけでなく首や肩の筋肉にも影響を及ぼし、肩こりを引き起こす要因となります。
顎関節症はむし歯と違い、急激な痛みを伴うことが少ないため、見逃されがちです。しかし、慢性的な肩こりや首のこわばりが気になる場合は、歯科医師に一度評価してもらうことをおすすめします。
むし歯を放置すると発症リスクのある症状や疾患

むし歯は単なる歯の痛みだけではなく、放置すると炎症が広がり、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。特に、進行したむし歯は口腔内だけでなく全身の健康にも影響を及ぼす場合があるため注意が必要です。本章では、むし歯を放置することで発症リスクのある症状や疾患を解説します。
副鼻腔炎
むし歯が原因で副鼻腔に炎症が起こる病気を歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)と呼びます。副鼻腔炎とは、鼻腔の周囲にある副鼻腔が炎症を起こす病気で、副鼻腔は顔の左右にそれぞれ4個ずつ、合計8個存在し、鼻腔と小さな穴でつながっています。
特に上の歯がむし歯になった場合、副鼻腔炎を発症するリスクが高くなるため注意が必要です。むし歯菌が歯の根まで到達すると、出口を探して歯の根の先に膿の袋を作ります。下の歯の場合は歯茎に穴を開けて膿を排出しますが、上の歯のむし歯では副鼻腔まで感染が広がることがあり、炎症が慢性化すると鼻づまりや頭痛などの症状を引き起こすことがあります。
歯性感染症
むし歯が進行すると、歯の内部に感染が広がり、歯性感染症を引き起こすことがあります。症状が悪化すると、顔や顎がひどく腫れたり、お口が開かなくなったり、首や肩の筋肉が強く緊張することがあります。
さらに、感染が全身に広がると敗血症に至る可能性があります。敗血症は全身の炎症反応を引き起こし、命に関わることもある重篤な感染症です。特に免疫力が低下している場合、感染が急速に進行することがあるため、むし歯を放置せず早めに治療を受けることが重要です。
慢性的な炎症による自律神経の乱れ
むし歯による慢性的な炎症が長期間続くと、交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、自律神経の不調を引き起こすことがあります。自律神経が乱れると、以下のような症状が現れることがあります。
- 筋肉の緊張が続く
- 頭痛
- 倦怠感
- 疲労感
- 不眠
むし歯は口腔内の問題にとどまらず、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。早期にむし歯を発見し、適切な治療を受けることで、これらの症状を予防できます。
むし歯治療によって肩こりが改善することもある?

むし歯を治療することで肩こりの改善につながることがあります。ただし、すべての肩こりに当てはまるわけではなく、むし歯が肩こりの一因となっている場合に限られます。むし歯が肩こりに影響を与える理由として、以下のような要因が考えられます。
噛み合わせの改善
むし歯が進行すると、歯の位置や噛み合わせが悪化する場合があります。痛む歯をかばって食事をすることで、顎の筋肉が不均等に緊張し、肩や首の筋肉にも負担がかかります。
そのため、むし歯を治療して噛み合わせが改善されれば、顎の筋肉の緊張が緩和されることがあります。その結果として、肩こりの症状が軽減される可能性があります。
炎症の軽減
むし歯が進行すると、周囲の組織に炎症が広がることがあります。この炎症が神経や筋肉に影響を与え、肩こりや頭痛を引き起こすことがあります。
むし歯を適切に治療することで炎症が軽減され、肩こりの症状も改善されることが期待できます。特に、炎症が神経に影響を及ぼしている場合は、治療によって痛みが和らぎ、筋肉の緊張が緩和されることがあります。
ストレスの軽減
むし歯による痛みや不快感は、ストレスを引き起こす要因となります。ストレスが高い状態が続くと筋肉の緊張を招き、肩こりを悪化させることがあります。
むし歯を治療することで痛みが軽減され、ストレスも減少するため、肩こりの症状が改善される可能性があります。特に、慢性的な歯の痛みがある場合、治療によって精神的な負担が軽減され、全身の緊張が和らぐことが期待できます。
むし歯と肩こりに悩んでいるときにすべきこと

肩こりの症状が強いものの、原因がわからないと悩んでいる場合は、以下の3つの手順を意識すると、むし歯と肩こりの両方の改善が期待できます。
まずは歯科医院で口内環境を診てもらう
むし歯が原因で肩こりが発生している可能性があるため、まずは歯科医院で口内環境を診てもらいましょう。歯科医師は、むし歯の進行状況や噛み合わせなどを評価し、適切な治療を提案してくれます。口腔内の状況が全身の健康に与える影響は大きいため、早期に治療を開始することが重要です。
改善が見られない場合は整形外科や内科の受診も視野に入れる
歯科治療を受けても肩こりが改善しない場合は、むし歯以外の原因が影響している可能性があります。その際は、整形外科や内科の受診を検討することが重要です。肩こりの要因には、筋肉の緊張や姿勢の乱れ、神経の圧迫、さらには内科疾患が関係している場合もあり、口腔内の問題だけに限定されるわけではありません。
整形外科では、肩や首の筋肉の状態を詳しく評価し、必要に応じて物理療法や薬物療法が実施されます。一方で、内科では全身の健康状態を確認し、肩こりの原因としてほかの疾患が関与していないかを調べることができます。
むし歯の治療を行っても肩こりの症状が続く場合は、口腔内以外の要因が影響している可能性があるため、専門医による総合的な評価を受けることが重要です。
複数の要因が絡むケースもあるので自己判断しない
肩こりは、むし歯だけが原因ではなく、ストレス、運動不足、睡眠の質など、複数の要因が絡み合っていることがあります。そのため、自己判断で治療を進めるのではなく、それぞれの専門家の意見を取り入れて対応することが重要です。
特に、慢性的な痛みや不快感が続く場合は、早めに医療機関を受診することで、適切な治療法を見つけることができ、症状の改善が期待できます。
まとめ

肩こりの原因として、姿勢の悪さや運動不足が一般的に挙げられますが、実はむし歯などの歯のトラブルが関係している場合も少なくありません。
歯の痛みや炎症が神経を刺激し、首や肩の筋肉に影響を与えることがあります。また、噛み合わせの乱れが筋肉に負担をかけたり、無意識の食いしばりや歯ぎしりが肩の緊張につながることもあります。このように、むし歯が肩こりの原因となる場合があるため、口腔内の健康を見直すことが重要です。
ただし、歯科で問題がない場合は、整形外科や内科を受診し、肩こりの原因を総合的に評価することが重要です。肩こりは単なる疲れではなく、身体の異常を知らせるサインである可能性もあります。
早めに気付き、適切な治療を行うことで、肩こりの改善につながるかもしれません。本記事が歯の健康を見つめ直すきっかけとなれば幸いです。
参考文献