むし歯はレーザー治療ができるとご存じですか?むし歯治療は一般的にドリルを使用して削る方法で行われますが、ドリルによる治療が怖い、大きく削る治療はなるべく受けたくないという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、レーザーを使用した治療のメリットや、治療の具体的な方法、レーザー治療で対応できるむし歯以外の口腔トラブルなどについてご紹介します。
むし歯のレーザー治療とは?
むし歯は、その症状の程度などによってはレーザー治療が可能です。
レーザー治療の具体的な内容や、対応可能なむし歯の状態について解説します。
レーザー治療の効果
歯科医院で使用されるレーザーにもいくつかの種類がありますが、むし歯のレーザー治療では、主にエルビウムヤグレーザーというものが使用されます。
このレーザーは水に吸収されやすい性質があり、照射した部位の表面に熱を作り出し、組織を蒸散させることができます。
つまり、むし歯に感染している部分をレーザーの熱で溶かして削ることで、ドリルでむし歯を削るのと同じように、むし歯の治療を行うことができます。
効果としてはドリルで行うむし歯の治療と同様ですが、ドリルのような振動や音がないことなどからストレスの少ない治療が可能であることや、痛みが少なく麻酔不要のケースが多いといったメリットがあります。
また、エルビウムヤグレーザーによる治療は水をかけながら行われ、余計な部位に熱が加わりにくく、安全性の高い治療が可能です。
使用されるレーザーについて
歯科医院の治療で使用されるレーザーには複数の種類がありますが、保険適用でのむし歯治療で利用可能なレーザーはエルビウムヤグ(Er:YAG)レーザーと呼ばれるもののみです。
エルビウムヤグレーザーは2940nmの波長を持つレーザーで、水分にとても吸収されやすく、ピンポイントで組織を蒸散させることができるというメリットがあります。
水分と反応するレーザーでは炭酸ガスレーザーなども医療機関でよく使用されますが、エルビウムヤグレーザーは炭酸ガスレーザーの10倍という高い水分への吸収作用があることから、より繊細な治療が可能となります。 また、エルビウムヤグレーザーはむし歯治療だけではなく、歯肉炎などの軟組織の治療にも利用されます。
例えば歯周病の治療では、細菌によって腫れあがった部位を切開する治療が行われますが、この際にメスではなくレーザーを使用することで、血液を凝固させながら治療が行えるため、出血を抑えながらの治療が可能となります。 なお、エルビウムヤグレーザー以外にも、歯科医院では炭酸ガスレーザーやネオジウムヤグレーザー、半導体レーザーといったレーザーが治療に用いられることがあります。
むし歯に対する治療で保険適用となるのはエルビウムヤグレーザーのみですが、クリニックによっては自費診療となるものの、ネオジウムヤグレーザーなどでのむし歯治療が提供されている場合があります。
レーザー治療の流れ
レーザーによるむし歯治療も、基本的にはドリル(タービン)を使用して行う治療と同じ流れで行われます。
まずはむし歯の状態を検査して感染範囲を詳しく調べ、むし歯に感染している部位をレーザーで削っていきます。
なお、ドリルで削る場合はその振動などにより痛みなどを感じやすいため、歯を削る治療を行う前に局所麻酔が実施されることが多いですが、レーザー治療では麻酔不要で治療を行える可能性があります。
むし歯治療では、特に麻酔注射で痛みを感じるケースが多いため、麻酔不要で行えるレーザー治療であれば、むし歯治療の痛みの心配が大幅に抑えられるといえます。
レーザー治療で対応できるむし歯
レーザー治療は、むし歯が小さい初期の状態や、乳歯のむし歯を治療する場合に適応となりやすい治療です。
定期的な歯科検診などを受けているなどで、むし歯が深くまで進行する前に見つかった場合は、レーザーによって削る量を少なく抑えた治療が可能となります。
レーザー治療では対応が難しいむし歯
レーザーでの治療は、普通に歯を削るよりも時間がかかってしまうため、むし歯が進行して感染範囲が広がっているような場合には適応とならない可能性があります。
また、奥歯の裏側にできたむし歯など、レーザー機器が届きにくい場所にむし歯ができてしまった場合にも、やはりレーザーで治療することが難しくなります。
レーザー治療でむし歯を治療するメリット
むし歯をレーザーで治療する場合のメリットは、主に下記のような点にあるといえます。
歯を削る量が少ない
エルビウムヤグレーザーを使用して行う治療では、むし歯がある部分をピンポイントで治療しやすく、歯を削る量が少なくすみます。
歯は一度削ってしまうと自然と元通りの状態に戻るということはありませんので、なるべく削る量を抑えて治療ができるという点は大きなメリットといえます。
痛みが少ない
レーザー治療では、ドリルによって歯を削るのとことなり、振動などがありません。そのため、例えば歯茎の近くにできたむし歯などを治療する際でも、治療中の刺激を避けながら治療を行うことが可能となります。
治療に痛みが生じにくいため、麻酔注射をする必要がない場合も多く、歯科治療で痛みを感じやすい麻酔をしなくてよいので、治療での痛みが心配しなくてよいという点も、痛み軽減のポイントです。
治療自体の痛み、そして麻酔注射の痛みが抑えられるため、痛みに対する恐怖心が強い子どもでもストレスの少ない治療を受けやすいといえます。
回復が早い
レーザー治療は削る量の少なさや、麻酔注射をしないでも治療が行えることから、身体への負担が少なく、治療後の回復も早い点が特徴です。
また、むし歯ではなく、歯茎などの軟組織の治療を行った場合には切開と同時に組織を焼いて止血したり、口腔内の細菌を熱によって消毒することができるため、出血を抑え、早い回復を促す効果が期待できます。
レーザー治療のデメリット
レーザー治療には上述のようなメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
レーザー治療のもつデメリットについて紹介します。
保険適用外の可能性がある
レーザー治療は、エルビウムヤグレーザーを使用して行うむし歯治療のほか、再発性アフタ性口内炎に対するレーザー処置や、口腔軟組織手術など、いくつかの治療で保険適用となっています。
その一方で、エルビウムヤグレーザー以外を使用したむし歯治療では保険適用外となるなど、まだまだ自費診療での取り扱いとなる可能性も多い治療法です。
保険適用の範囲であれば、治療費用の自己負担を抑えることが可能であり、多くの歯科医院で同じ費用での治療を受けることができます。しかし、保険適用外となると歯科医院それぞれで治療費用が異なるため、思いがけず高額の費用になるという点は一つのデメリットといえるでしょう。
そもそも対応できない場合がある
レーザー治療はむし歯をピンポイントで削ることが可能である一方で、広い範囲を削る治療には不向きであり、進行して広がってしまったむし歯の治療には適しません。
範囲が広い場合は、まずはドリルで削り、細かい部分をレーザーで対応するというようなことは可能となりますが、その場合は当然麻酔なども必要となってくるため、レーザー治療のメリットを感じにくいといえるでしょう。
また、奥歯の裏側など、そもそもレーザー照射が難しいような場所については治療が困難なため、むし歯ができている場所によってはレーザー治療がそもそも対応できない可能性もあります。
その他のリスク
正しい方法でレーザー治療を行っている場合において、特に大きなリスクはないといえますが、一方でレーザーはとても強いエネルギーであるため、治療を行う部位以外にあたってしまうとトラブルになる可能性もあります。
例えば、レーザーがもし直接目に当たってしまうと、目の角膜や水晶体といった部分にダメージが及んで失明などのリスクも考えられます。
レーザー治療を行う際は、防護メガネなどでの保護が行われますが、歯科医師の指示にきちんとしたがって、安全に配慮された治療を受けるようにしましょう。
レーザー治療で対応可能な口腔トラブル
歯科医院ではレーザー治療がさまざまな治療に用いられ、むし歯以外にもいろいろなお悩みをレーザーで治療することができます。
レーザー治療で対応が可能な口腔トラブルの一例を紹介します。
むし歯
上述のとおり、レーザーを使用したむし歯治療は保険適用も一部認められていて、削る量や痛みが少ない治療法として多くの歯科医院で導入されています。
進行した重度のむし歯をレーザー治療のみで改善させることは難しいですが、むし歯に感染している部分をピンポイントで治療しやすいことから、軽度のむし歯をなるべく削らずに治療する方法として適しています。
治療の際の痛みが少ないことから麻酔も不要なケースが多く、麻酔を行えない妊婦さんなどでも安心感のある治療が可能です。
また、治療の痛みが少ないため、痛みを怖がって治療を受けたがらないお子さんの治療に利用しやすく、歯医者嫌いにさせないような治療を目指しやすいといえます。
歯周病
レーザーは熱による殺菌効果が得られるため、歯周病の治療にも有効です。
特に、過酸化水素水と青い光のレーザーを用いて行うブルーラジカルと呼ばれる治療では、通常のケアでは届かないような歯茎の深い部分まで殺菌を行うことができるため、重度に進行している歯周病でも効率よくケアすることが可能です。
従来の方法では、届きにくい歯肉の深い部分をケアするためには一度歯茎を切開するなどの方法が必要となってしまったり、深い部分の菌を取りきれずに再発してしまったりといった難点がありましたが、レーザーを使用することで外科手術を用いなくても、重度歯周病が改善できる可能性があります。
治療法によっては保険適用外の場合もあるため、レーザー治療を検討する方は、対応する歯科医院でまずは相談してみるとよいでしょう。
口内炎
口内炎は、レーザー治療が効果的な症状の一つです。
口内炎にはさまざまな種類がありますが、そのなかでも特に多くの方が悩まされやすいアフタ性口内炎は、免疫力の低下などによって生じる口腔内の炎症です。
基本的には2週間程度も経過すれば自然と治癒していきますが、その間は強い痛みに悩まされることも多く、また同じ場所に繰り返し口内炎ができてしまうケースもあります。
口内炎にレーザーを照射すると、その熱で炎症部位の殺菌を行いつつ、組織を熱で変性させることができるため、治療直後から痛みを軽減することが可能で、治療後は一定期間が経過したらカサブタが剥がれ、口内炎を治すことができます。
治療自体も強い痛みが生じるというようなものではないため、すぐに症状を軽減したいという方に適した治療法ということができるでしょう。
知覚過敏
知覚過敏とは、歯に対する刺激が歯髄という神経が集まっている場所に伝わりやすくなってしまうことで、冷たいものなどをお口に含んだ際にしみるような痛みを感じる症状です。
知覚過敏は、歯茎が下がったり、むし歯が進行したりして、象牙質が露出してしまうことなどで生じます。
こういった状態の治療法の一つがレーザー治療で、露出した象牙質にレーザーを照射すると、象牙質への刺激が神経にまで伝わらないように変化させ、知覚過敏を軽減していく効果が期待できます。
歯の治療後のケア
歯は、悪くなってから治療を行うだけではなく、治療後の良好な状態をしっかりと維持し続けていくことが大切です。
レーザー治療では、歯に付着したむし歯菌の除去や、歯石除去を不快感を抑えながら行えるほか、フッ素などと合わせて利用することで、歯をより丈夫なものにする効果なども期待できます。
歯肉切除術などの小手術
歯茎が腫れてしまった場合などで、歯肉切除を行う際、従来の方法ではメスによる切除が行われます。これをレーザーを用いて行うと、熱による止血が同時に行えることから出血が少なく、治療後の回復も素早い治療を期待することができます。
審美治療
レーザーの種類や照射方法によっては、メラニンを除去して歯茎の色をピンク色に近づけるといった治療も行うことができます。
ホワイトニングなどで歯の色を白くするだけではなく、レーザーで歯茎の色まで改善させることで、より美しい口元が目指せます。
編集部まとめ
むし歯は、症状の程度にもよりますがレーザー治療で改善させることが可能であり、治療の痛みを抑えながら、削る量の少ない治療を期待することができます。
ただし、レーザー治療は進行したむし歯の治療には不向きですので、レーザーを使用した負担の少ない治療を希望する方は、定期的な歯科検診や、早めの歯科医院の受診をするようにしましょう。
参考文献