昔は歯の治療といえば銀歯が一般的でしたが、近年は、セラミックへの関心が高まっています。セラミックへの変更を検討している方も少なくないのではないでしょうか。
本記事では、まず銀歯とセラミックの特徴を紹介します。内容は銀歯とセラミックそれぞれの適性や、セラミックの種類ごとの解説などです。
続いて銀歯をセラミックに変える際の治療手順を解説し、そのうえでセラミックに変えるメリットとデメリット、費用も併せて紹介しています。
ご自身の銀歯が気になる方は、この記事を参考に、セラミックへの変更を検討してみませんか?
銀歯とセラミックはどちらがよい?
銀歯とセラミックは、どちらも古くから使われてきた歴史があります。一方で、材質の特性や外観など、新しくなった材料もあります。
銀歯は正確には金銀パラジウム合金のことで、耐久性があり安価な材料です。セラミックは陶器のことで、高価ですが見た目に美しく、親和性があります。
銀歯やセラミックの紹介とともに、それぞれどのような方におすすめなのかを見ていきます。
銀歯がおすすめな方
銀歯は金銀パラジウム合金で作られており、セラミックより耐久性にすぐれた材料です。
こうした銀歯がおすすめなのは、以下のような方になります。
- 食いしばりなどによるかぶせ物の破損を避けたい方
- 歯が欠ける方
- できるだけ歯を削りたくない方
- 安い費用で治療したい方
硬度はあってももろい材質のセラミックでは、強い力が加わると割れたり欠けたりします。
食いしばりなど無意識に力を入れて噛む癖がある場合、破損の恐れが避けられません。
金属製の銀歯なら耐久性に優れ破損の恐れは小さくなるため、この点は銀歯がおすすめです。
また、銀歯は強度があり、歯を削る量が少なくて済みます。自分の歯をできるだけ削りたくない方にも銀歯はおすすめです。
さらに銀歯は健康保険が適用され、費用が大変安いのも大きな魅力です。
セラミックがおすすめな方
現在のセラミックは、ジルコニアやガラスセラミックなど多様な材料が使われています。こうしたセラミックによる治療がおすすめなのは、以下のような方です。
- 白くて天然歯に近い歯にしたい方
- 金属アレルギーの方
- 歯が目立つのが嫌な方
- 歯茎の色にこだわる方
- むし歯になりたくない方
近年はより天然歯に近いセラミック材料が使えます。自分の歯と同じ色調や芸能人のような輝く白など、好みに応じて材料の選択が可能です。違和感がない自然な歯にしたい方には、セラミックをおすすめします。
また金属アレルギーで銀歯が使えない方や、笑ったり会話したりするとき、奥に光る銀歯が気になる方にもセラミックがおすすめです。
銀歯は金属の性質により、周囲の歯茎が黒ずみやすい傾向があります。こうした点が気になる方にもセラミックをおすすめします。
銀歯をセラミックに変えるときに選べる素材と特徴
セラミックの種類は増加傾向にあり、現在主に使用されているのは以下のとおりです。
- オールセラミック
- ジルコニア
- メタルボンド
- ハイブリッドセラミック
銀歯をセラミックに変える際の選択肢として、それぞれの素材の特徴を紹介します。
オールセラミック
オールセラミックは、セラミックのみで作られたかぶせ物や詰め物です。金属の支台などは一切使わないため、金属アレルギーの方も使えて歯茎の変色もありません。
色調の細かい調整も可能で、天然歯に近い質感や色調、またはそれ以上に仕上げることができます。天然歯に被せることで、審美性を向上させる目的でも使用されます。
もろい性質があるため、前歯部分か小臼歯部分に使われる材料です。材質的に汚れが付きにくいため、歯肉の健康を維持する面でも優れています。
オールセラミックの寿命は7~10年程度とされ、ほかのセラミック材料と比べるとやや短めです。ただ、汚れが付きにくいうえ経年劣化もおきにくく、装着当初と変わらない使用感で使えます。
ジルコニア
ジルコニアは近年普及が進んでいるセラミックです。強度があり、ジルコニアで作ったオールセラミックは強い力がかかる大臼歯にも使われます。
この素材で作った人工骨は、股関節に接続する大腿骨の骨頭に使われるほどの強度を持ちます。併せて生体への親和性も高く、歯科材料としての機能も優れた素材です。
ジルコニアは人工ダイヤと呼ばれるほど硬度が高く、加工にはCAD/CAMと呼ばれるコンピュータ制御技術が使われ、専用のブロックから削り出します。
強度が高いため、かぶせ物や詰め物として使える歯が多いのも特徴です。そのほか義歯や入れ歯、インプラント、ブリッジにも応用できます。
ジルコニアは審美性にも優れ、天然歯のような色調や質感が出せる材料です。加工精度が高くすき間ができにくいため、むし歯のリスクも小さくなります。
メタルボンド
メタルボンドは歯の全周を削り、帽子状の金属製のフレームにセラミックを焼き付け、それを被せて接着したものです。主に前歯部分や小臼歯部分に使われます。
金属が下地にあるため強度があり、耐久性が高いかぶせ物です。表面の見える部分はセラミックなので、天然歯に近い見た目が確保されます。
金属の強靭さとセラミックの審美性を併せ持った歯科材料で、耐久性と見た目を重視する方にはおすすめできる材料です。
ただ、金属を使っているため、金属アレルギーがある方には不向きです。また、金属が基底部にあるため透明感が幾分損なわれ、光が弱い場所では色調が暗くなります。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックはハイブリッドレジンともよばれ、セラミックとレジン(プラスチック)を混ぜた材料です。
一定の条件を満たせば健康保険が適用され、安い費用で治療が受けられます。外観は白い歯なので、銀歯のような違和感はありません。
ハイブリッドセラミックはセラミックの超微粒子をレジンに混ぜた材料で、セラミックとレジンの両方の性質を併せ持ちます。
セラミックによる天然歯のような審美性(色調)と硬さがあり、レジンの耐破断性を持ち合わせた性質です。
レジンよりも審美性に優れ硬さもありますが、色調が劣化しやすく審美性が低下します。また、セラミックより摩耗しやすく汚れやすいなど、耐久性も劣ります。
銀歯をセラミックに変える場合の治療法
銀歯をセラミックに変える際の、歯科医院での治療法について解説します。銀歯にはインレー(詰め物)やクラウン(かぶせ物)、ブリッジがありますが、一般的なかぶせ物を例に手順を紹介します。
- 麻酔して仮歯用の型取り
- 銀歯を除去
- 仮歯を装着して1日目終了
- 仮歯の状態チェックと調整
- 最終の型取りで2日目終了
- セラミックを仮装着
- 噛み合わせ調整
- 問題なければセットして終了
順調に進めば、3回の通院で治療が完了します。詰め物の場合は、仮歯がない分1日短縮される工程になります。ブリッジの場合は本数が多くなるだけで、手順はクラウンと同じです。銀歯が大きく深い場合や痛みがある場合は、神経の治療になることがあり期間は長引きます。
銀歯をセラミックに変えるメリット
銀歯をセラミックに変えようと考えた場合、メリットとデメリットを比べて検討し、メリットが大きい方を選択するのが通例でしょう。
ただ、何をおいても尊重したいメリットや、どうしても受け入れ難いデメリットがあるかもしれません。まずは選択の動機付けとなるメリットから見ていきます。
審美性が高くなる
銀歯をセラミックに変えると、周囲の方から変えたことにすぐ気付かれるはずです。
それほどまでに、銀歯の見た目に対する評価は厳しい傾向があります。笑ったり話したりする都度、銀の詰め物やかぶせ物が見える状態からは、あまりよい印象は受けません。
きれいな歯が並んだ健康的な口元は、全体に漂う清潔感や明るい笑顔と同様に、人間の第一印象をよくする大切な要素です。
数本の歯をセラミックに変えることで印象がよくなるのであれば、大きなメリットといえるでしょう。
むし歯のリスクが低下する
銀歯は削った歯と金属をセメントで接着しますが、時間とともにセメントが溶けて細菌が入り込み繁殖します。さらに金属面は汚れを吸着しやすく、プラークを作る性質も持つ物質です。
細菌はお口の中の高温多湿な好環境で繁殖し、やがてはむし歯や歯周病の発生を招くリスクがあります。
セラミックに変えることで、むし歯や歯周病のリスクを抑えることができます。削った歯とセラミックは密着性がよく、すき間ができにくい構造です。
セラミックの表面も汚れが付きにくいため、細菌が繁殖しにくい環境に変わります。見た目の改善だけでなく、お口の健康維持にもつながる点がメリットです。
歯茎の黒ずみを防げる
銀歯を長年使ううちに、少しずつ金属がイオン化して溶けだします。その金属が歯茎に付着するのを繰り返すうち、沈着して歯茎の色が黒っぽく変色します。
これがメタルタトゥーと呼ばれる現象で、一度黒ずんでしまうと元のピンク色に戻すのは容易ではありません。銀歯によく使われる金銀パラジウムは特に黒くなりやすいとされます。
黒くなるまでには時間がかかるため、現在黒ずんでいない場合は、早目にセラミックに変えることで予防できます。
セラミックに変えればそれ以上に黒くなるのは止まりますが、もとに戻ることは期待できません。またセラミックでもメタルボンドのように金属を使うものにすれば、さらに黒くなる可能性があります。
金属アレルギーの心配がない
銀歯にすると誰でも金属アレルギーになるわけではありません。ただ永年銀歯を使い続けるうちに金属がイオン化して溶けだし、それでアレルギーを発症する場合はあります。
銀歯の金属アレルギー症状では、お口の中がただれたり腫れたりする症状が特徴的です。また、ほかのアレルギーのように全身症状が出る可能性も否定できません。
セラミックに変えることで、こうした症状が改善される可能性があります。アレルギーが心配な方は、金属材料を使わないオールセラミックなら、より安全性が高まります。
銀歯をセラミックに変えるデメリット
銀歯をセラミックに変えようとする場合、メリットばかりで決断すると失敗するリスクが大きくなります。変えるデメリットも十分検討したいものです。
セラミックにすることで失われる点は、銀歯のメリットと表裏一体ともいえます。それを捨てるべきか、慎重に検討しましょう。
費用が高額である
銀歯にかかる費用は、健康保険が適用になるので低額で済みます。ところがセラミックは保険診療ではなく自由診療のため、セラミック治療の費用は高額になるのが一般的です。
もともとセラミックを使った治療の目的は、病気ではなく審美性の向上なので健康保険は適用されません。審美性といわれるプラスαの価値に対する対価なので、実用性重視の銀歯と比べて高いのはやむをえないところです。
歯の審美的治療にお金をかけたくない方には、積極的にセラミックはおすすめできません。変えるかどうかは、ご自身の価値観と経済状況を考えあわせ、歯科医師とも十分話し合って決断しましょう。
歯を削る量が多い
銀歯をセラミックに変える場合、まず銀歯を外すために歯を削る必要があります。そして、弱いセラミックに耐久性を持たせるため分厚く作る必要があり、その分歯を削る量が多くなる傾向です。
また、歯を削る量が多くなると、どうしても神経につながる象牙質の近くまで削りがちです。そうすると、知覚過敏のように冷水などが滲みる場合があります。
さらに、滲みる程度にとどまらず、痛みを感じてしまう場合があるかもしれません。削ってしまった歯はもとには戻せないため、慎重に考えて決める必要があります。
強い衝撃で割れる場合がある
金属製の銀歯は耐久性に優れた素材で、少々強い力がかかっても簡単に壊れる事態にはなりません。ところがセラミックは陶器のため、衝撃や強い力には弱く割れる場合もあります。
普段から噛む力が強い方、食いしばりや歯ぎしりの癖がある方は要注意です。強い力によってセラミックが壊れる恐れがあります。
このような、噛む力が強すぎる方はセラミックの方が耐えられず、銀歯からセラミックへの変更は難しいかもしれません。
銀歯をセラミックに変える場合の費用相場
銀歯からセラミックに変える場合、実際にどれほどの出費になるのか見ておきましょう。
比較するのは各種セラミックのかぶせ物と詰め物です。先にかぶせ物(クラウン)の価格から紹介します。
- ジルコニアセラミック:143,000~165,000円(税込)
- オールセラミック(e-max):121,000~143,000円(税込)
- フルジルコニア:99,000~121,000円(税込)
ジルコニアセラミックはジルコニアのフレームにセラミックを被せたものです。オールセラミックのe-maxは二ケイ酸リチウムが主体で、審美面で注目されています。フルジルコニアは機械で削りだすため割安です。
次は詰め物を見ていきます。
- セラミックインレー:66,000円(税込)
- ジルコニアインレー:55,000円(税込)
セラミックインレーはセラミックのみで作られ、経年による変色の可能性はありません。ジルコニアは硬い素材でセラミックより割れにくく、経年変色が起こりにくい材料です。
まとめ
銀歯とセラミックを比べた場合、銀歯は経済性と耐久性に優れた治療法で、セラミックは審美的な面で圧倒的優位でした。
美しさに優れたセラミックが続々と登場し、治療も3回程度の通院で完了するため、身体的な負担も少ないといえます。
セラミックではむし歯やアレルギーなど、お口の健康改善が望めるのも魅力的です。ただ、素材の特性である壊れやすさはどこまでも付いて回るなど、すべてにおいて優れているわけではありません。
メンテナンスも含めた経済性は銀歯よりもはるかに高額になることも含め、この記事を参考に、十分に検討して判断することが大切です。
参考文献