むし歯や外傷などで失った歯質をきれいな素材で治療したい。そんなときに有用なのがセラミックとジルコニアです。どちらも天然歯に近い色をしており、強度が高く、アレルギーの原因にもなりにくいことから、審美材料として広く選ばれています。ここではそんなセラミックとジルコニアの特徴やメリット・デメリットを比較しつつ、自分に合った素材の選び方をわかりやすく解説します。歯の治療の材料でセラミックとジルコニアのどちらにしようか迷っている方は参考にしてみてください。
セラミックとジルコニアの違い
はじめに、セラミックとジルコニアの大まかな違いを確認しておきましょう。
- セラミックとジルコニアは何が違うのですか?
- セラミックとジルコニアは、どちらもセラミックに分類される素材ですが、構成する成分には違いが見られます。一般的なセラミックは酸化ケイ素(シリカ)が主成分であるのに対し、ジルコニアは二酸化ジルコニウムが主な成分となっています。また、セラミックはエナメル質が持つ独特な透過性を再現しやすいのに対し、ジルコニアは均質な白色を呈していることから、詰め物・被せ物の仕上がりとしては前者が優れています。その一方で、ジルコニアは金属に匹敵する強度を備え、極端に強い力がかかっても割れにくいですが、セラミックは割れやすいという違いが見られます。
- セラミックとジルコニアの治療工程の違いを教えてください
- セラミックとジルコニアの治療工程は、基本的に同じです。歯質を形成し、歯型取りを行って、詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)などを製作します。ただし、セラミックの種類によっては、盛り付けて焼き固めるという工程を踏むことができるため、修復物の色や形を調整する自由度はジルコニアより高いといえるでしょう。ジルコニアの場合は、原則としてブロック状の材料を削り出して焼き上げることになるので、ケースによってはセラミックと治療工程に違いが見られる場合があります。
セラミックのメリット・デメリット
次に、セラミックで詰め物や被せ物を作った場合のメリット・デメリットについて解説します。
- セラミックを選ぶメリットを教えてください
- ジルコニアと比較した場合、セラミックには以下のようなメリットが期待できます。
◎天然歯に近い色調や透明感を再現しやすい
天然歯は、表面が半透明なエナメル質、その下を黄色味がかった象牙質で構成されています。この独特の色調、透明感は、セラミックでなければ忠実な再現が難しいです。
◎前歯の治療に向いている
前歯は、高い審美性が求められる部位なので、ジルコニアでは得られにくい仕上がり、満足感が期待できます。
- セラミックにはどのようなデメリットがありますか?
- ジルコニアと比較した場合、セラミックには以下のようなデメリットを伴います。
◎強度がやや低い
セラミックは劣化しにくく、長持ちしやすい素材ですが、強度の面においてはジルコニアに劣ります。セラミックはいわゆる陶器なので、極端に強い力が加わると割れてしまうのです。セラミック製のお皿を床に落とした瞬間、大きく割れる現象と同じです。とはいえ近年のセラミック素材は改良が進み、割れやすいという弱点も克服しつつあります。
◎噛む力が強い人は注意が必要
噛む力がもともと強かったり、歯ぎしり・食いしばりの習慣があったりする方には、セラミックが向いていません。この点は治療前の慎重な判断が求められます。
◎歯科医師や歯科技工士の技術が反映されやすい
セラミックはジルコニアよりも色調や形態を調整しやすいのがメリットですが、その反面、歯科医師や歯科技工士の技術によって仕上がりが大きく左右されやすいというデメリットも伴います。
ジルコニアのメリット・デメリット
続いては、ジルコニアで詰め物や被せ物を作った場合のメリット・デメリットについて解説します。
- ジルコニアを選ぶメリットを教えてください
- セラミックと比較した場合、ジルコニアには以下に挙げるメリットが期待できます。
◎強度が高い
ジルコニアのメリットは強度の高さです。金属に近い強度を備えていることから、詰め物・被せ物を装着した後に辺縁が欠けたり、大きく割れたりすることはほとんどありません。
◎適応範囲が広い
強度が高いということは、噛む力が強い人、歯ぎしり・食いしばりの習慣がある人でもジルコニアを適応できます。
◎寿命が長い
壊れにくいジルコニアは、詰め物・被せ物の寿命もセラミックより長くなるケースが少なくありません。
◎費用が安い
セラミックは技工士によるワックスアップからの焼成で煩雑であるのに対し、ジルコニアは基本的にCADCAMによるブロック体の削り出しによる場合が多いため、費用が安い傾向にあります。
- ジルコニアにはどのようなデメリットがありますか?
- セラミックと比較した場合、ジルコニアには以下に挙げるデメリットを伴います。
◎審美性にやや劣る
ジルコニアは、天然歯が持つ独特な透明感を再現するのが難しいです。色の調整もセラミックほど柔軟には行えないことから、審美面においてはやや劣ります。
◎噛み合う歯を傷めることがある
ジルコニアは強度がたかく、それ自体が欠けたり割れたりする可能性は低いのですが、噛み合う天然歯を傷めるおそれはあります。そのためジルコニアの被せ物は、噛み合わせの調整をきちんと行わないと、噛み合う天然歯の摩耗や欠け、悪化したケースでは歯根を破折させてしまうこともあります。
セラミックとジルコニアのどっちを選ぶべきか
ここまでの解説で、セラミックとジルコニアそれぞれの特徴とメリット・デメリットは理解できたかと思います。最後は、セラミックとジルコニアで迷ったときの選び方のポイントを説明します。
- スポーツをする人や食いしばりがある人には、どっちが適していますか?
- セラミックよりもジルコニアが適しています。プレイ中にほかの選手と接触するリスクがあるコンタクトスポーツをしている人や食いしばりの習慣がある人は、強度が高いジルコニアであれば、人工歯に強い圧力がかかっても割れる可能性は低いです。とりわけ食いしばりというのは、ここぞというときの集中力を高める際、意識的にも無意識的にも行ってしまうものなので、スポーツをする人はそのリスクを踏まえたうえで詰め物・被せ物の素材を決めた方がよいといえます。
- 噛み合わせが強い人や歯ぎしりがある人には、どっちが適していますか?
- セラミックよりもジルコニアが適しています。噛み合わせが強かったり、歯ぎしりする習慣があったりするということは、歯に対して強い圧力がかかることが想定されます。特に歯ぎしりや食いしばりは、成人男性の場合で100kg程度の力が歯にかかるといわれているため、金属に匹敵する強度を備えたジルコニアで治療するのが望ましいです。
ただし、強い噛み合わせや歯ぎしりによってジルコニア自体が壊れなかったとしても、その下の歯質や顎の骨、噛み合う歯には過剰な負担がかかることから、強い噛み合わせや歯ぎしりは早期に改善するのが望ましいです。これらによる悪影響は、ジルコニア製の被せ物を入れたら解消されると考えるのは間違っています。
- 前歯や奥歯など、歯の部位による選び方の違いを教えてください。
- 前歯と奥歯の審美面に着目した場合は、前者にセラミック、後者にジルコニアが推奨されます。前歯はもっとも目立つ歯なので、残った天然歯と調和させやすいセラミックの方が適しています。一方、奥歯は前歯ほど目立つことはなく、噛んだときの力をしっかりと受け止める必要があることから、審美性にはやや劣るものの強度に優れたジルコニアが適しています。
編集部まとめ
今回は、歯科用のセラミックとジルコニアの違いについて、それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら解説しました。セラミックは審美面に優れた素材なので、前歯を治療する際に推奨されます。ジルコニアは強度面に優れた素材であることから、強い力がかかりやすい奥歯に適しているといえるでしょう。ケースによっては重きを置く点が変わってくることから、セラミックとジルコニアで迷った場合はまず歯科医師に相談してみましょう。セラミックやジルコニアによる詰め物・被せ物は、原則として自費診療となるので、カウンセリングにも十分な時間を割いてくれることでしょう。
参考文献